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さよならの代わりに

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 広間に悠々と入ってくる王の姿を見て、人々は踊りをやめて頭を垂れる。
 私もロイド様の横で頭を下げながら、内心でアランの魂胆に呆れていた。

 夜会に王をお招きすることはそう多くはない。
 なのにわざわざお招きしたということは、きっと王の前でロイド様と私に恥をかかせようと企んでいたのだわ。
 残念ながら、アランの思惑どおりにはならなかったけれど。

「みな、楽しんでいるところだろう。頭を上げておくれ」

 その言葉に皆が姿勢を正す。

「国王陛下」

 アランが媚びるように陛下にすり寄ろうとしたその時、

「おお、ロイドではないか!」

 陛下は、笑みを浮かべてロイド様の方にやってきた。

「そなたの素顔は久しぶりに見たぞ。相変わらずの男ぶりだな」
「は……、もったいないお言葉でございます」

 ロイド様が恥ずかしそうにはにかむ。
 陛下とロイド様の親密な様子に、人々がどよめく。
 かくいう私も驚いている。

 陛下が、にこにこしながらお話を続けられた。

「昔はよく王宮に遊びに来てくれたのにのう。そなたの父の死後は、なかなか領地から出てこなくなってしまったゆえ、ひそかに心配していたのだ。だが、杞憂だったようだな。こんなにも美しい妻を迎えるとは。あらためて、結婚おめでとう。ロイド、クララ」
「ありがとうございます、陛下」
「ありがとうございます……!」

 陛下からの言祝ぎに、私たちも心から感謝の言葉を述べる。

「そうだ、そなたが献上してくれたロヴァリア豆だが、成長が早く、味もよく、大変素晴らしい。知ってのとおり、今年は小麦が不作の地域が多い。ロヴァリア豆が救世主となるやもしれん。よくやってくれた」

「私一人の力ではありません。我が領民たちの協力と、そしてクララがロヴァリア語の文献をあたってくれたおかげで、生育に成功したのです」

「そうであったか。よき民と妻を持ったな、ロイド。クララ、そなたもまた我が国の救い主だ」

「そのような過分なお言葉をいただけて……、これほど光栄なことはございません」

 感激で目を潤ませた私の肩を、ロイド様が優しく抱いた。

「ええ、自慢の妻です」
「仲睦まじくて何よりだ。明日、二人で王宮に来てくれ。ロヴァリア豆について詳しく聞きたい」


 和やかに歓談する私たちをアランが赤くなったり青くなったりしながら見ているのが、視界の端にちらっと映った。

 何もかも裏目に出てしまったわね。
 かわいそうな人。

 私の胸に憐れみがよぎり、同時に自嘲が込み上げて来た。

 この人に恋をしていた私は、幼く、人として未熟だったのだわ。

 私はもう目が覚めた。

 願わくは、アラン、あなたもいつか目を覚ましてくれますように—— 


 さよならの代わりに、胸の奥でそう祈った。


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