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天のお導きかもしれない

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「ドラヴァレン辺境伯って、ドラヴァレン辺境伯様でしょうか?」
「ん?ああ、この手紙のことか。そうだ、あのドラヴァレン卿だ」
「あの方が私を妻にと?」
「そのようだな。つい先ほど届いてな。驚いていたところだったのだよ」

 とわざわざ付けたのは、ドラヴァレン辺境伯ロイド様は、いわゆる変人としてとても有名な方だからだ。
 西の果てのドラヴァレン州をおさめるドラヴァレン家の当主なのだけれど、先代とその奥方が流行病で相次いで亡くなられた後、十代で当主となり、たしかまだ二十代半ばとかなりお若い。
 にも関わらず、普通の貴族は領地は部下に任せて自分たちは王都に住んでいるのに対して、この方はほとんど領地にこもりきり。
 なにやら得体の知れない研究に没頭しているともっぱらの噂だ。

 たまに王都に出てきても、他の貴族と交流することもない。
 一月ほど前、王の四十歳の祝いの宴に珍しくいらしていたのをお見かけしたけれど、伸び放題のぼさぼさの金髪に隠されていて、どんなお顔かもわからなかった。

 そういえば、あの日も、アランがモラトビア男爵令嬢ユミラと抜け出すところを目撃してしまい、悲しくて早めに帰ったのだったわ……

 私は、大きく息を吐いた。
 婚約破棄されたタイミングで求婚を受けるなんて、天のお導きなのかもしれない。

「お父様。私、この求婚お受けいたします」
「なんだって!?」
「ドラヴァレン辺境伯様と結婚いたします」
「クララ、何を言って——」
「ドラヴァレン家でしたら、ノランサス家より家格は上ですわよね。セヴィニエ家としてもいい縁談なのではありませんか」
「それはそうだが、ロイドだぞ!?あの変わり者の!わけのわからん研究にしか興味のない男だぞ」
「いいのです」

 私はきっぱりと言った。
 どうしてロイド様が私に白羽の矢を立てたのかはよくわからない。
 貴族の結婚は単に家格と適齢期の息子・娘がいるかで選ぶことも多いから、それだけかもしれない。
 いずれにしろ、女にうつつを抜かす浮気者より、研究に夢中な方がずっといい。

 そのあと、お母様もやってきて二人で説得されたけれど、私の気は変わらなかった。
 セヴィニエ家のことを思えば、いい縁談なのは間違いない。
 そんなに私が乗り気なのならばと、ついに二人も折れた。

 こうして私はドラヴァレン辺境伯に嫁ぐことになった。
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