ダレカノセカイ

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episode.58

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「もう大丈夫だから、安心していいからな」
 その言葉を俺たちに向けて言った白髪の眼帯をした男性。
 あの時、映画館に最後の1人になるまで残っていた彼だ。
 白髪。
 ピンク色の眼帯。
 真っ黒な服装。
 特徴的だったから、よく覚えてる。
「あ、ありがとう」
 俺は彼にお礼を伝え、
「助けてくれて、ありがとうなの」
 薫も彼にお礼を伝えた。
「どういたしまして。あんたらは怖い思いをしたと思うけど、時間は刻一刻と進んでる。ハッキリ言って、時間が惜しい。このまま俺についてきてくれるなら絶対にあんたらを守り抜くと約束する。だから俺についてきてくれるか?」
 時間が惜しい?
 あんたらを守り抜く?
 絶対に?
 約束する?
 彼は予想してなかった言葉を連続で呟き、俺と薫の目を真剣な眼で見つめる。
「こ、腰が抜けて……動けないんだ」
 俺は同年代に近い彼の勇ましい姿を目の当たりにして、自分の情けなさを痛感する。
 彼に知ってほしくなかった。
 男としての大きな恥。
 だけど、今この場で恥じらいを捨てなくては生きていけない。
 俺は勇者ではない。
 俺は戦士でもない。
 勇気を持ってすらいない。
 戦う以前に守られる側の俺は恥を捨て、自分が今動けないことを赤裸々に告白した。
「ついていくよね?しんちゃん」
「行く。もう二度と何か分からない相手に襲われるのは御免被る」
 彼は俺の言葉を待っていたかのように言う。
「だったら、2人とも俺が背負うな」
「「え?」」
 クエスチョンマークが頭に浮かぶ俺と薫の2人を赤子のように軽々と担ぎ、
「他の人達も助ける以上、最速で行くな」
 彼はそう言い、草原の大地を蹴った。
 その刹那、景色が一変する。
 まるで、ジェットコースターの如く景色が変わったと思えば、また別の景色に変わる。
 俺と薫を担いだまま、彼はディケイウォーカーを難なく撃破しては逃げ惑う人を助け、撃破しては逃げ惑う人達を助けるを繰り返して行く。

 これが俺、物部真と新道千との初めての出会いであり、二度と交わることのない2人の出会いだった。


 ♦︎


 土砂降りの中、生き残った人々を助ける為に端から端まで足を運んだ。
 途中、グリムと合流し、グリムの助けた人達も加わり、大世帯となる。
 グリムと俺が見た情報を頭の中で照らし合わせるように視覚化で、共有する。
 そのおかげで、今俺がいる世界?は街一つ分の大きさしかない。
 小さな世界だと知った。
 俺は思い出す。
 クマが言った言葉を。
『冒険先の何処かに外に出られる扉が1つだけあるクマ。それを見つけたら、終わりクマ』
 その言葉が正真正銘の本当の言葉なら、この世界でまだ確認してない上空の何処かに出口があるはずだ。
 俺は復讐者の籠手を触媒にスキル《闇の闘気》を発動し、さらに《闇翼》を発動させる。
 背中に闇で生み出された翼が生え、
「きゃぁあああ!」
「翼⁉︎」
「なななななにぃいいいいいい!」
「人間に翼⁉︎」
「ばばばばけけけもももののののの!」
「あんた、化け物だったのかー⁉︎」
「たたたたすけけけててて!」
「助けるフリして……俺らを騙してたのかー⁉︎」
「おおおおおおまいいがぁああああ!」
「本当になんて日だー⁉︎」
 周りにいた人々から悲鳴と動揺の声が飛び交う。
「もう地上には一体もディケイウォーカーはいないから安心していいからな……って言っても、聞く耳持ってる奴は1人2人3人……少ないな」
 最初に助けた男女2人と銀髪の女がしっかり自分の意思を持ち、俺の会話を聞いていたから視線を向けて言う。
「俺は今から出口があると思う上空に行ってくる。だから、ここにいる人全員は無闇矢鱈と動かないでくれよな」
 そう言葉を残し、
「兄貴、わいも行くでー」
 グリムは俺の左肩に飛び乗り、
「グリム、行くぞ」
 俺とグリムは上空へ飛んだ。
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