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本編

《閑話》会長のひみつ【千秋視点】✣

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「いいかい?千秋君」

「や、ヤダ!」



僕がヤダって言ってるのに僕に馬乗りになる。
透き通る緑の目は凄く綺麗だなって、キラキラ光るはちみつ色の髪だってこんな容姿だったら律花も僕のことをもっと好きになってくれたかもって羨ましかったのに。
でも──!








かいちょ──会長が何を言っているのか最初は分からなかった。











律花が昨日五家会議とかで先輩と燈夜さんと一緒に厳島の領地へ行くのに楼透も連れていったと聞いてちょっとほっとしてた。···だって、あんなことしたんだもん。きっと律花は僕の顔なんて見たくないだろうし楼透も僕のこと、律花に近づけないようにするかもって。

だけど、ほっとするのは早かったみたい。
放課後に会長から生徒会室へ来るように呼び出された。···会長を利用しようとしたんだもん······退学にはしないって、僕が会長の従者になれば考えてくれるって言ってたからきっとその話かなとは思うけど。
生徒会室に着いたら入れ替わりに二年と三年の姫当番の先輩達が出てきた。···泣いてる?すれ違う時に二年の先輩と肩がぶつかっちゃって、痛かったのかな···睨まれちゃった。


ごめんなさい、って謝ったけどもう行っちゃった。
···あとでちゃんと謝ろう。

律花が言ってくれたみたいに、僕も律花と白虎祭に参加したい。
だからここで退学になる訳にはいかないんだ!何でもやってやる!
そう決心して席に座る会長の前に立った。


「······ちゃんと、来ました!」
「うむ、偉いぞ」


そこまではいつもと変わらない会長。
僕の姿を確認して机の引き出しから何かを取り出す···。


「これが仕事内容だ。成る可く簡潔にと纏めたのだが···どうだ?」


一枚の紙、何故かほっとしてる自分がいる。
だって何が出てくるのかどきどきしたんだもん···。
手渡された紙を見ると本当に僕にも分かりやすくお仕事の一覧が書いてあった。えっと······お仕事は今日の帰り道から···って、え!?

「これ!」
「あぁ、今日はこのまま私と帰ろう。小山内男爵に、ご両親に伝えるよう頼んでおいた。千秋君の荷物は近々我が家に届く。その間に必要なものはこちらで用意するから教えてくれ」

空いた口が塞がらないってこんなこと?
僕、会長を利用したんだよ?それなのに何でここまでしてくれるの?
頭の中がどうして?でいっぱい。
もう一度紙に目を通すと、僕がやる仕事は送迎時の付き添い、姫当番の継続、それと週一回会長のおつかい。そして僕が送迎時の護衛はしないでいい···だから理由があれば一緒に帰らなくてもいいってこと、それに姫当番は二日に一度で、会長のおつかいには研究の手伝いも含めると追記して書いてあった。


「千秋君には言っておこう、登下校を共にするのは私が君を監視する為でもある。だが生徒会長と言う役職上、一般生徒の下校時刻よりも帰るのが遅くなることもある。その際などは一人で下校して貰うことになるだろう。つまり当面の間······最低でも一年間は登下校時律花君への接近を禁ずる事となる、しかしそれは律花君の様子を見る限り望んでいないように見えた······授業や休み時間は行動に気をつければ律花君と共にいても構わない。勿論律花君が拒否したならば素直に従い、問題を起こさぬよう善処してくれ」


こんなに会長に迷惑かけて大丈夫なのかな···。今更ながらに会長を操って律花をどうしようとか考えてた僕は狂ってたと思う。会長は座っていた椅子から立ち上がると僕の横まで来て肩に手を置いた。ポンポンて、気にするなって言ってるみたい······そんな優しいポンポン。
···律花もよく僕がしょげてると頭ポンポンしてくれるから。

いつの間にか会長は僕を通り過ぎて生徒会室のドアを開けて何かしてた。今日はもう帰るのかな?多分『役員不在』ってボードを出してるんだと思う。本当は僕がやらないとなのに···どうしよ、僕ちゃんとお手伝い出来るのかな·····。



がちゃん。


「?」

「さて、これで良いか」

「···かいちょ?まだ僕たち中にいるよ?」


会長はまだ室内にいるのに内側から鍵を掛けちゃった。
帰る準備してたから間違えちゃったのかな?


「ん、何か問題があるか?」


会長きょとん。僕はぽかーん。
完璧な会長にも天然な所があったんだなぁと僕は思った。

······けど、それは違ったんだ。






「うむ······早速だが、私に“種”をくれないか?」


タネ······?
制服のネクタイを緩めながらドアから離れて、僕に近づき会長はそう言った。言葉を理解しないうちにまだブカブカな高等科制服のブレザーの裾を引かれて生徒会室のソファに座らせられる。
種って、アサガオとかヒマワリとかの??僕今は持ってないんだけどな···。


「ごめんなさい···僕今持ってないよ?アサガオは前枯らしちゃったから残りの種は部長にあげちゃった···ヒマワリの種は昨日おやつに食べちゃってないよ──です!もしかしたら部室にあるかも!霧ヶ谷部長は植物育てるのじょーずだからです!」


また敬語間違えた。
ずっと同じように話していたからくせになっちゃってるんだ。
それでも僕にしては頑張った方だと思う。ダメかな?


「あはは、千秋君は面白いことを言う」


会長はそう言って僕をソファに押し倒した。
上から僕を見下ろして、僕の太ももの上──に触れた。


「っ、かいちょ!?な、何して、ますですか!?」

「私が欲しいのは君の“種”。精子が欲しい」


せ、せいし······って。


「流石に精通はしてるだろう?」


そう言って会長、俺のズボンのベルトに触る。
ぱにっくになってる僕には会長を止める余裕は無い。
スーッとお腹に外気が触れた。 


「いいかい?千秋君」

「や、ヤダ!!」










思わず目を瞑ったけど会長の手は動かない。
怖いけど···恐る恐る目を開けた。

会長はさっきまでの会長は別人なのかもって思うくらいいつもの優しい表情で僕の顔を見て笑ってた。外れたズボンのベルトとチャックが開いて入れてたシャツの裾が出されてパンツが見えてた。やったのは会長なのに、会長は僕の上から退いてブランケットを取ると手渡す。


「嫌だったか」

「······え」

「私の自惚れで無ければ千秋君は私に好意を持っている。勿論それは君が律花君を想う好意の意味とは違うだろう、しかし別の好意の意味であっても私は君に嫌われていないと思う。···それで嫌だったか?」

「うん······」


俺は直ぐに頷いていた。確かに会長のことは好きだけど、尊敬してるって意味で好き。
僕が律花に恋してる気持ちとは全く別物の好きだ。


「それが分かれば今は良いだろう、誰にでも失敗はある」


そう言って会長は緩めたネクタイをきっちりいつものように戻す。
······嫌だった。
もしかして律花もこんな気持ちだったんだよって会長は僕に感じて欲しかったのかな···。鈍い僕でも分かる、凄く嫌だった。
悪いことをしたって分かった筈なのに···。

どうしよう。。
僕ほんとうに嫌なやつだ。




「千秋君、帰ろうか」


どれくらいの間俯いてたんだろう。
まだズボンも直してない、ソファに座った僕の足元に跪いて会長は見上げる。いつの間にかぎゅっと握ってたブランケットはくしゃくしゃになってた······手を出す会長に渡すとブランケットを畳んでくれる。僕は慌てて立ち上がるとベルトを締めた。


「はい、鞄も忘れないように。御者が待っている、行こう」


促されるまま鞄を持ち、馬車乗り場まで会長の後をついて行く。馬車乗り場には聖柄家の紋が入った馬車が一台だけ止まってた、もう学園に馬車で登校している人は残っていないらしい。

さすがは聖柄家···馬車も凄く高そうだなぁと見てたら会長が扉を開けてくれた。そう言えば低学生の時に律花の家の馬車に乗せてもらってから馬車って乗ったことないや···。そう思いながらだったからきょろきょろしちゃって会長に笑われた。むぅ。





聖柄家は馬車で三十分くらいみたい。
驚くくらいガタゴトしなくて座り心地もいい。
···でも逆にそれが落ち着かないかも。


「ああ、そうだ。千秋君に言い忘れていた」

「なんですか?」

「うむ。先程の話だが定期的に採取させてくれ」

「?何を?」

「種を」


僕は思わず扉に手をかけた。でも鍵がかかってたから開かないし、開けたら危ないと思って扉側に寄るだけにした。···さっきの話って僕に律花の気持ちを分かって貰う為にやった事じゃないの!?またぱにっくになりそうだったけど、律花への罪悪感がより深まった今さっきよりも落ち着いてる。


「ん?もしかして千秋君は聖柄家について知らないのかい?」

「聖柄家は遺伝子について研究しているんだ、かなり遠い親戚に五家の満星がいるからその関連でな。私も幼い頃から研究が趣味で魔物を捕まえては交配させたり、遺伝子操作で怪物を生み出しては怒られていた。学園卒業後は本格的に遺伝子について研究したいのだがサンプルが足りない。···それに君のその体質についてとても興味がある。遺伝子的なものなのか、それとも特異的なものなのか、知りたいと思わないかい?」

「······千秋君、だから君の遺伝子が欲しい」


会長はきらきらした目で僕を見る。
僕の精子が欲しいって意味がようやく分かってびっくりしたけど納得した。さっき生徒会室で話をしたのはやっぱり忠告のついでだったみたい。僕の反応で研究を手伝って貰うか決めたんだって。もし会長の意図に気づかないようなら要監視で他の仕事を回そうとしてたみたい。

正直なんで?って思うけど、僕のこの体質の事も分かるなら知りたい。昔はずっと嫌だったこの体質、でもこの体質のおかげで律花を守れたこともあるけれど、結局律花と会長を傷つけてしまった。


「······分かる、んですか?僕の、この体質のこと」


知れることなら知りたい。
···もう誰も傷つけないためにも。


「百%とは言えない。だが、私も何故なのか知りたくて堪らない···!······生徒会長だと言うのにこのような恥ずかしい姿を見せてすまない。だが、知らないことがあると知りたいと思ってしまう···血が騒ぐと言うのか、つくづく私もおかしな性格をしていると思う」




結局僕は会長の研究を手伝うことになった。
恥ずかしいけど、尿検査と同じって思うことにする!
だってずっと律花と一緒にいたいし嫌われたくないから。

もし病気みたいな何かだったら治せるかもしれないから。





そう前向きに考えようと思ってた次の日の朝、ごはん中に会長が教えてくれた。
──律花が厳島領地で魔人からの襲撃にあったって···。
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