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第7章 大魔王誕生
Ver.3/第73話
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『何が……起こったのでしょうか?』
戦いが終わり、実況の困惑の言葉が宙に溶ける。
確かに、不落魔王は倒されたはずだった。
実際、チョコットの〈アイスブレス〉の直撃によって、HPはゼロになったのを、この場の、いや、画面の向こうでも確認したのだ。
視線は、自然と隣で解説を務めるチーフプランナーに向けられる。
『えーと……。困りましたね』
この大会に出てくるようなプレイヤーの情報は、定期的にスタッフ間で共有され、今後の開発運営の参考材料にしている。ただ、この辺の情報はディレクターには全て上げられることはなく、多くがチーフプランナーの彼女のところでストップしている。膨大な情報量だからということもあるが、単純に、安藤には向かない仕事だからである。
だが、例外的に安藤にまで届けられるのが、ハルマの動向だった。最新の情報にアップデートして安藤に届けるのが、彼女の日課になっている。
そのため、彼女は何が起こったのか理解している。
あの時、〈アイスブレス〉によって倒されたのが、ハルマではなく、不落魔王の恰好をしていただけのNPCであることを。そして、そのNPCには、〈不死の術〉というパッシブスキルがあることを。
本物のハルマは、いつもの不落魔王の格好ではなく、ただフードをかぶり、お面を付けていただけである。相手が、いや、自分を含めて、見ていたほとんど全ての者が倒れたNPCを勝手にハルマだと勘違いしていただけなのだ。
この魔王は、多くの者がイメージしているよりも姑息な手段を使うことを厭わない性格なのだが、生じる結果が斜め上であるため気づかれていない。一方、そういった奇妙な部分が魅力的でもあることを、彼女も知っている。
故に、そのまま説明するわけにはいかない。何とも解説者泣かせのことをしてくれたものだ。
思考が脳内でぐるぐると駆け回り、先輩プランナーに泣きつきたい感情を何とか押し殺すも、リアルの体の方では泣き顔になってしまっている。見られているのがアバター姿であることに、心から感謝していた。
『そう……ですね。全てを説明することは可能ですが、それをしてしまうのはフェアではないと判断しましたので、私から言えるのは、不正はない。ということくらいですかね』
『ということは、何かしら不落魔王ハルマの特殊スキルのようなもの、ということですか?』
『うーん。その辺も、具体的なことは明言しない方がいいですかね』
簡単に引き下がらない実況に対し、苦悶の表情で答えるしかない。
本当に、何とも解説者泣かせのことをしてくれたものだ。
解説の説明に対して「ハルマ、異次元の戦い過ぎて運営も理解不能」という間違った情報まで拡散されてしまっているのだが、どうしようもない。
これによって、その後に始まる戦いの注目度は、グッと下がってしまった。どんな熱戦を見せられたとしても、ハルマの異常な行動を越えられる気配がないからだ。観客のほとんどが、試合そっちのけでハルマの試合で何が起こったかの考察に没頭してしまっているのである。
第4試合のナイショVSマカリナの戦いも、一風変わったスキルを使う者同士の興味深い戦いだったにもかかわらず、どちらが勝ったのかほとんどの者が把握しない内に終了していた。
ちなみに、マカリナ軍の勝利である。
これによって動画配信者の全滅が確定し、〈魔王イベント〉無敗の実績は伊達ではないことが示されたのだが、そのことに気づいている者は少数派である。
ただ、マカリナ達はまだマシだったかもしれない。次に戦う相手がハルマであるため、否応もなく注目されることになるからだ。
この日、もっとも不運だったのは、準決勝第1試合だった。特に、テスタプラスと戦うことになったネマキである。
準々決勝第2試合も、モカVSテスタプラスの激戦の余波を受けて印象を薄められた上に、長い休憩時間を挟んだにも関わらず、準決勝が始まってもハルマの話題で持ち切りとなってしまっていたのだ。
実際は、モカVSテスタプラスと同等、それ以上の熱戦であったにもかかわらず、どうやって負けたのかすら記憶に残らないまま、いつ間にか敗退となっていた。
戦いが終わり、実況の困惑の言葉が宙に溶ける。
確かに、不落魔王は倒されたはずだった。
実際、チョコットの〈アイスブレス〉の直撃によって、HPはゼロになったのを、この場の、いや、画面の向こうでも確認したのだ。
視線は、自然と隣で解説を務めるチーフプランナーに向けられる。
『えーと……。困りましたね』
この大会に出てくるようなプレイヤーの情報は、定期的にスタッフ間で共有され、今後の開発運営の参考材料にしている。ただ、この辺の情報はディレクターには全て上げられることはなく、多くがチーフプランナーの彼女のところでストップしている。膨大な情報量だからということもあるが、単純に、安藤には向かない仕事だからである。
だが、例外的に安藤にまで届けられるのが、ハルマの動向だった。最新の情報にアップデートして安藤に届けるのが、彼女の日課になっている。
そのため、彼女は何が起こったのか理解している。
あの時、〈アイスブレス〉によって倒されたのが、ハルマではなく、不落魔王の恰好をしていただけのNPCであることを。そして、そのNPCには、〈不死の術〉というパッシブスキルがあることを。
本物のハルマは、いつもの不落魔王の格好ではなく、ただフードをかぶり、お面を付けていただけである。相手が、いや、自分を含めて、見ていたほとんど全ての者が倒れたNPCを勝手にハルマだと勘違いしていただけなのだ。
この魔王は、多くの者がイメージしているよりも姑息な手段を使うことを厭わない性格なのだが、生じる結果が斜め上であるため気づかれていない。一方、そういった奇妙な部分が魅力的でもあることを、彼女も知っている。
故に、そのまま説明するわけにはいかない。何とも解説者泣かせのことをしてくれたものだ。
思考が脳内でぐるぐると駆け回り、先輩プランナーに泣きつきたい感情を何とか押し殺すも、リアルの体の方では泣き顔になってしまっている。見られているのがアバター姿であることに、心から感謝していた。
『そう……ですね。全てを説明することは可能ですが、それをしてしまうのはフェアではないと判断しましたので、私から言えるのは、不正はない。ということくらいですかね』
『ということは、何かしら不落魔王ハルマの特殊スキルのようなもの、ということですか?』
『うーん。その辺も、具体的なことは明言しない方がいいですかね』
簡単に引き下がらない実況に対し、苦悶の表情で答えるしかない。
本当に、何とも解説者泣かせのことをしてくれたものだ。
解説の説明に対して「ハルマ、異次元の戦い過ぎて運営も理解不能」という間違った情報まで拡散されてしまっているのだが、どうしようもない。
これによって、その後に始まる戦いの注目度は、グッと下がってしまった。どんな熱戦を見せられたとしても、ハルマの異常な行動を越えられる気配がないからだ。観客のほとんどが、試合そっちのけでハルマの試合で何が起こったかの考察に没頭してしまっているのである。
第4試合のナイショVSマカリナの戦いも、一風変わったスキルを使う者同士の興味深い戦いだったにもかかわらず、どちらが勝ったのかほとんどの者が把握しない内に終了していた。
ちなみに、マカリナ軍の勝利である。
これによって動画配信者の全滅が確定し、〈魔王イベント〉無敗の実績は伊達ではないことが示されたのだが、そのことに気づいている者は少数派である。
ただ、マカリナ達はまだマシだったかもしれない。次に戦う相手がハルマであるため、否応もなく注目されることになるからだ。
この日、もっとも不運だったのは、準決勝第1試合だった。特に、テスタプラスと戦うことになったネマキである。
準々決勝第2試合も、モカVSテスタプラスの激戦の余波を受けて印象を薄められた上に、長い休憩時間を挟んだにも関わらず、準決勝が始まってもハルマの話題で持ち切りとなってしまっていたのだ。
実際は、モカVSテスタプラスと同等、それ以上の熱戦であったにもかかわらず、どうやって負けたのかすら記憶に残らないまま、いつ間にか敗退となっていた。
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