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第7章 大魔王誕生

Ver.3/第71話

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『モカさんの攻撃を防いだスキルは、具体的な効果については控えさせていただきますが、大楯使いの多くの方が取得している〈堅陣の盾〉の上位スキルで、〈魔王イベント〉のエンブレムで交換可能なものです。ただ、いわゆる魔王スキルと呼ばれる種類のものではなく、勇者、魔王、共通で交換可能なスキルですね。キナコさんとレッドスタさん両者ともこのスキルを交換していたのは、けっこう意外でしたね』
 最後の決着シーンを振り返りながら、解説のチーフプランナーが興味深そうに説明する。
〈大魔王決定戦〉の初戦から予想以上の激戦となり、会場に詰め掛けたプレイヤーだけでなく、外部の動画配信サイトで視聴していた者も興奮が収まらない様子だ。
 全ては、実況のこの言葉に集約されるだろう。
『それにしましても、正直、1対8、テイムモンスターも含めると1対16という戦いで勝負になるのかな? 一方的な展開であっさり終わっちゃうんじゃないかな? と、心配していましたが、ふたを開けてみれば意外や意外。全く互角の戦いでしたね。負けてしまいましたが、恐るべき力を見せてくれた魔王モカにも、盛大な拍手をお願いします!』
 実際、テスタプラス達からしてみれば、紙一重の勝利だった。
 開始直後のモカの攻撃で、テイムモンスターではなくキナコの方が落とされていたら、最後の〈聖陣の盾〉が1枚足らないことになり、耐え切れたか怪しいからだ。
 しかし、この激戦のせいで割を食ったのは、第2試合だった。
 あまりにモカVSテスタプラスの戦いが見応えがあったせいで、どことなくあっさりとした印象になってしまったからだ。
 ニコランダVSネマキという、人気動画配信者VS最強魔法使いの見所豊富な戦いであったのだが、モカの単騎による奮戦と、それを受け切る絶妙なパーティプレーの後では、どうしても霞んで見えてしまったのである。
 最終的にネマキの最大魔法で決着がついたのだが、圧倒的な魔王の力を見せつけられるまで、どこか上の空な雰囲気だったのだ。
 ここで闘技場に注目が戻れば良かったのだが、この後に控えている戦いも悪かった。第2試合が終わる前から、会場の雰囲気はチョコットVSハルマに意識は移り始めてしまっていたのだ。
 というか、モカの戦いぶりを見て、ハルマは、不落魔王はどんな戦いを見せてくれるのかに興味が移っていたのである。
 そして、その期待値の高さのまま、第3試合が始まろうとしていた。

 実況の紹介に合わせて先に登場したのは、得票数で上の順位であるチョコットだった。
 常日頃、動画配信で自分を見せることに慣れているため、堂々としたものだ。
 5人組のパーティにテイムモンスターもしっかりそろっている。
 チョコットは隣に並ぶ仲間達に視線を向けると、小さく頷いた。
 ついに来た。というのが、素直な心情だった。
 ここで不落魔王ハルマを倒せれば、動画配信者としての地位を確立できる。
 この場に出ることを辞退することで、かえって人気を上げているテゲテゲを追い抜くためには、勝利するしか方法がない。
 そして、勝利できる手段もある。と、自負している。
 少しの間をおいて紹介された対戦相手が、正面に現れた。
 ソロプレイヤーであるはずなのに、数によるアドバンテージを得ることができないとか、相変わらず、ふざけた存在だ。しかし、そうでないと困る。
「お、おい。何か、変じゃないか?」
 仲間のひとりが、怪訝そうな声を出した。
「本当だ。〈魔王イベント〉の時にはいなかったNPCが増えてる。でも、スライムとドラゴンの数は減ってるな」
 別の仲間も気づいたようだ。
 魔術師のローブをまとい、フードで隠れて顔は見えにくいが、フードの中はスカルヘルムで覆われていることだろう。頭からは山羊を思わせる歪な形状のツノが生えている、いつものスタイルの不落魔王の回りには、大小様々なNPCが並ぶ。
 スライムは事前に動画で確認した時よりもサイズが大きいが1匹しかおらず、もっとも厄介だと思っていたドラゴンも1匹しか視認できなかった。
 しかし、不落魔王の近くに立つ、フード姿にお面をかぶった人型のNPCと、ウサギ型のNPCは見たことがなかったはずだ。
「どういうことだ? この前の〈魔王イベント〉も、全力じゃなかったってことか? それとも、この短期間で増えたのか? いや、そんなはずはないから、あれが減ってるスライムとドラゴンの正体なのか?」
 ただでさえ謎だらけのプレイヤーだというのに、この段階でも新たな謎が追加されるとは考えてもいなかった。
 どう対策を取るべきか判断がつかないまま、視界の中に始まりを知らせるカウントダウンが表示されてしまうのだった。
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