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第4章 不落魔王ここにあり

Ver.3/第48話

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 枯れ木に活力を戻す方法は、すでに知っている。
 問題は、アウィスリッド地方の長老樹と同じ方法でいいのか? だけである。
 ハルマは足早に古老樹の根元まで向かったのだが、そこで手が止まってしまった。
「しまった……。肥料の手持ちがない」
 インベントリを調べてから、肝心なものが入っていないことに気づいたのだ。前回余った分は、スタンプの村のNPCであるベンジャミンに全て渡してしまったことを思い出す。
「何やってるの? ハル君」
 イースターエッグを集め終わったユキチが、ハルマを見つけて寄ってきた。
「いやー。この古老樹に花を咲かせられないかな? って、思ったんだけど、肝心の肥料がなくて……」
「まーた、妙なことを考えたもんだねえ。それにしても、肥料? そんなのあるの?」
 ハルマの言葉に、枯れた古老樹を見上げながら問いかける。
「これとは別のクエストで実証済なんだよ。まあ、同じことができるかはわからないんだけど」
「ふーん。肥料ねえ? それって、どこかで採取できるの?」
「いや。魚と魔物の骨と動物の糞で錬金するんだ」
「うへぇ、VRゲームで動物の糞って……。でも、糞があれば作れそうじゃない? 釣り堀あるし、骨はさっきの蟻からドロップしたのがあるよ?」
「ああ! なるほど! いや、そうなると、蟻のドロップも釣り堀も、むしろ肥料を作るために準備してあるんじゃ?」
「ありえる! だったら、このエリアのどこかに、動物の糞も準備してあるって考えた方がいいかも⁉」
「探してみるか!」
 ふたりは手分けして捜索を開始した。
 とはいえ、ハルマと違い、ユキチは〈発見〉のスキルは育っていない。そのため、出店エリアを担当してもらうことにした。
 そうしてふたりが動き回っていると、モカだけでなくグダとサエラ達も話しに加わってきた。
「肥料……ですか」
 サエラは、聞いたこともないアイテムに首を傾げる。
「探してるのは、肥料そのものじゃなくて、動物の糞なんですけどね。それがあれば、何とか錬金できそうなんですよ」
「不落魔王の職人説って、初期の頃からありましたけど、本当に生産職だったんですね」
「あれ? 言いませんでしたっけ? 俺、生産職だって」
「言ってましたね。そういえば……。わかりました。わたし達も探してみます」
「あ! それだったら、イースターエッグ探してた時に、それっぽい場所あったよ?」
 グダとサエラに説明し終えたところで、サエラのパーティメンバーのひとりが手を挙げた。
「え!? ホントですか!?」
「うん。古老樹の根元、裏側に洞穴があったよ。蟻の巣っぽかったから、怖くて入ってないけど……。逆に、あそこ以外には気になる所はなかったと思う」
「ありがとう! 行ってみる!」
 言うが早いか、ハルマは走り出していた。
 しかし、AGIはこの中で最低のため、結局最後に到着することになった。

「ありそう?」
 先に洞穴の場所を見つけていたユキチが手招きしながら尋ねる。
「ちょっと待ってくれ……」
 古老樹の根元に空いた洞穴を覗き込むと、すぐに〈発見〉のスキルに反応があった。さほど深くない場所が、採取ポイントになっている証拠だ。
「採取ポイントがある。ちょっと行ってみるよ」
 エリア全体を一通り見て回ったが、他に採取ポイントはなかったので、少し興奮していた。ただ、探しているものが糞であるため、どうなんだ? と、自分でもおかしく思ってしまう。
「あった……。しかも蟻の糞かよ。これで肥料作れるのか?」
 蟻の糞が動物の糞に含まれるのかという疑問は、すぐに解決した。
 釣り堀で釣っていた魚と、ドロップで入手していた魔物の骨と一緒に錬金することで、肥料がちゃんと作れたからだ。
「できた」
 ハルマのつぶやきに、見守っていた面々から歓声が上がる。
「しかも、普通の肥料じゃないや。どうやら、古老樹専用の肥料っぽい。やっぱり、肥料用に準備してあったんだね」
 出来上がった肥料は〈不思議な肥料〉となっており、説明テキストには「蟻の魔物化によって傷つけられた桜を癒す効果がある肥料」とある。
 どのくらいの量の肥料が必要になるか不明だったため、出来上がったひとつを早速古老樹に使うことにした。
「どう?」
 隣で見守るモカも、興味津々で訊いてきた。
「5つでいけるっぽいです。素材はそろってるので、すぐ作ってきますね」
 職人設備が置かれている職人ギルドの出張所との往復合わせ、15分ほどで戻ってくると、その時がやってくるのだった。
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