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第11章 不死者の砦

Ver.2/第85話

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「さーて、行こうか」
 モカはニッシッシと笑みを浮かべると、新たなパートナー、プチドラゴンから進化したティラノビーストのコナに声をかける。
 ティラノビーストという、ドラゴンなのか獣なのかよくわからない存在だが、見た目は馬と同じような大きさのティラノサウルスである。
 スズコのファングのように物理攻撃主体のテイムモンスターであるが、ファイアーブレスを吐ける分、攻撃力は若干低い。
 始まりのSEが鳴り響き、境界線を作っていた透明な結界も消え、視界の端に表示されていた時計も動き出す。
 モカが向かうのは最も近くにあるA門だが、まず最初の行動はコナに跨ることだった。
「ハイヨー!」
 コナは騎乗できるタイプなのだ。そのため、ハルマに騎乗しやすいテイムモンスター用装備を見つけてもらったほどである。
 ユッサユッサと揺られながら、真っ直ぐに突き進む。
 そうやって1分もかからずにA門にたどり着いたが、そこでは止まらない。
 モカの狙いは迂回せずにC門を目指すことだからだ。
 普通であれば、この段階でスケルトンの集団に囲まれ移動を阻害されるのだが、そこはモカの火力の高さで問答無用に駆け抜ける。
 コナも主人の行動を理解してか、ただ真っ直ぐに駆け抜けるだけだ。
 そうやってA門前を抜け、ショートカットに成功してC門にたどり着いたのは、B門に到着するのと大差ない時間であった。
「よーし。この門めっちゃ堅いらしいけど、一気にやっちゃうよ!」
 コナから下りると、一目散に城門へと駆け寄る。
 周囲にモンスターはほとんどいないため、やりたい放題だ。
 とりわけ、火力には自信のあるモカである。コナの協力もあったとはいえ、門を突破するまでに10分とかからないのだった。

 砦の中に侵入してからも、モカの無双っぷりは止まることを知らなかった。
 それは、ひとつのスキルが影響していた。〈デュラハン〉ではない。
 モカが最近取得した新スキル〈チャリオット〉である。
 鎧を着こんだ2頭の馬に引かれる戦車に騎乗し走り抜けるスキルで、長槍による攻撃で正面にいる敵を次々と串刺し吹き飛ばすという、なんとも豪快なものだった。しかも、この馬にコナも歩調を合わせて駆け抜けるため、ただ走り回るだけでどんどん討伐数を稼いでいくのである。
「よっしゃ! さすがにひとりだと、早いね」
 そう感じるのはあなただけだと、多くの者が愚痴るだろうスピードで、ヴァンパイアが出現したアナウンスが表示されていた。
 ただ、砦内の入り組んだ構造に手間取り、ボスの部屋にたどり着くまでに手こずってしまう。
 そうしてヴァンパイア戦に突入してからは、今度こそ〈デュラハン〉の出番である。
 実はこのスキル、使用時に残っているMPを全部使い切る。
 その代わりにスキル使用から3分間、15秒間隔でMPの8%を回復し続けるという効果があるのだ。
 そのため、終盤のMPが不足しがちなタイミングで使うことで、アイテムを使うことなく回復することもできるのだった。
 とにかく、どんどん攻撃する。
 回復のことを考えていないのか、ひたすら高威力のスキルを使い続け、あっという間にスケルトン招集のタイミングなっていたが、それでもなおモカの視線はヴァンパイアに集中していた。
 かと、思った矢先だった。
 モカは野性的な勘でもってヴァンパイアから距離を取ると、スケルトンの群れに向かって走り出していた。
 走り出し、脇に挟んで固定した長槍が加速しながら次から次に串刺しにしては弾き飛ばし、消滅させていく。
 周囲のスケルトンの数が減っても、モカの疾走は止まらない。
 それどころか、そのままの勢いでヴァンパイアに向かって行ったのである。
「〈疾走神風〉!」
 加速した勢いをATKに上乗せする最大火力の大技が決まり、モカの挑戦は結界装置を止めるだけとなっていた。
 終わってみれば、彼女にとっての最大の強敵は、ボス部屋までの入り組んだ侵入ルートであった。

 直後。ランキングボードに信じられないタイムが更新されていた。
 それまで50分を切れば最上位であったというのに、30分ちょっとの記録が出ていたのだ。
 これにはさすがに、今回のランキング1位は決まったかなという雰囲気が蔓延するのも仕方のないことだった。
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