上 下
184 / 276
第11章 不死者の砦

Ver.2/第85話

しおりを挟む
「さーて、行こうか」
 モカはニッシッシと笑みを浮かべると、新たなパートナー、プチドラゴンから進化したティラノビーストのコナに声をかける。
 ティラノビーストという、ドラゴンなのか獣なのかよくわからない存在だが、見た目は馬と同じような大きさのティラノサウルスである。
 スズコのファングのように物理攻撃主体のテイムモンスターであるが、ファイアーブレスを吐ける分、攻撃力は若干低い。
 始まりのSEが鳴り響き、境界線を作っていた透明な結界も消え、視界の端に表示されていた時計も動き出す。
 モカが向かうのは最も近くにあるA門だが、まず最初の行動はコナに跨ることだった。
「ハイヨー!」
 コナは騎乗できるタイプなのだ。そのため、ハルマに騎乗しやすいテイムモンスター用装備を見つけてもらったほどである。
 ユッサユッサと揺られながら、真っ直ぐに突き進む。
 そうやって1分もかからずにA門にたどり着いたが、そこでは止まらない。
 モカの狙いは迂回せずにC門を目指すことだからだ。
 普通であれば、この段階でスケルトンの集団に囲まれ移動を阻害されるのだが、そこはモカの火力の高さで問答無用に駆け抜ける。
 コナも主人の行動を理解してか、ただ真っ直ぐに駆け抜けるだけだ。
 そうやってA門前を抜け、ショートカットに成功してC門にたどり着いたのは、B門に到着するのと大差ない時間であった。
「よーし。この門めっちゃ堅いらしいけど、一気にやっちゃうよ!」
 コナから下りると、一目散に城門へと駆け寄る。
 周囲にモンスターはほとんどいないため、やりたい放題だ。
 とりわけ、火力には自信のあるモカである。コナの協力もあったとはいえ、門を突破するまでに10分とかからないのだった。

 砦の中に侵入してからも、モカの無双っぷりは止まることを知らなかった。
 それは、ひとつのスキルが影響していた。〈デュラハン〉ではない。
 モカが最近取得した新スキル〈チャリオット〉である。
 鎧を着こんだ2頭の馬に引かれる戦車に騎乗し走り抜けるスキルで、長槍による攻撃で正面にいる敵を次々と串刺し吹き飛ばすという、なんとも豪快なものだった。しかも、この馬にコナも歩調を合わせて駆け抜けるため、ただ走り回るだけでどんどん討伐数を稼いでいくのである。
「よっしゃ! さすがにひとりだと、早いね」
 そう感じるのはあなただけだと、多くの者が愚痴るだろうスピードで、ヴァンパイアが出現したアナウンスが表示されていた。
 ただ、砦内の入り組んだ構造に手間取り、ボスの部屋にたどり着くまでに手こずってしまう。
 そうしてヴァンパイア戦に突入してからは、今度こそ〈デュラハン〉の出番である。
 実はこのスキル、使用時に残っているMPを全部使い切る。
 その代わりにスキル使用から3分間、15秒間隔でMPの8%を回復し続けるという効果があるのだ。
 そのため、終盤のMPが不足しがちなタイミングで使うことで、アイテムを使うことなく回復することもできるのだった。
 とにかく、どんどん攻撃する。
 回復のことを考えていないのか、ひたすら高威力のスキルを使い続け、あっという間にスケルトン招集のタイミングなっていたが、それでもなおモカの視線はヴァンパイアに集中していた。
 かと、思った矢先だった。
 モカは野性的な勘でもってヴァンパイアから距離を取ると、スケルトンの群れに向かって走り出していた。
 走り出し、脇に挟んで固定した長槍が加速しながら次から次に串刺しにしては弾き飛ばし、消滅させていく。
 周囲のスケルトンの数が減っても、モカの疾走は止まらない。
 それどころか、そのままの勢いでヴァンパイアに向かって行ったのである。
「〈疾走神風〉!」
 加速した勢いをATKに上乗せする最大火力の大技が決まり、モカの挑戦は結界装置を止めるだけとなっていた。
 終わってみれば、彼女にとっての最大の強敵は、ボス部屋までの入り組んだ侵入ルートであった。

 直後。ランキングボードに信じられないタイムが更新されていた。
 それまで50分を切れば最上位であったというのに、30分ちょっとの記録が出ていたのだ。
 これにはさすがに、今回のランキング1位は決まったかなという雰囲気が蔓延するのも仕方のないことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜

ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!? 主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。 転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く… ※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。 ※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

処理中です...