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第9章 魔除けのペンダント

Ver.2/第69話

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「それ、温泉卵になってるんじゃね?」
 チップの何気ない言葉に、ギョッとする。
「え? いやいや……。いやいやいや……。アツアツの源泉じゃないんだから、さすがに茹でられないだろ?」
「わからないよお? ハル君〈料理〉のスキル持ってるからねえ」
 チップの脅しに、アヤネも乗っかりおちょくってくる。
「おいー。そんなこと言われるとマジで不安になるだろ?」
 インベントリに仕舞われていた卵を取り出し耳を当ててみるが、何もわからない。
「アイテムの名称が変わってないなら、大丈夫でしょ?」
 耳を当てたりコツコツ叩いてみたりして、中身の状態を確認しようと四苦八苦するハルマを、シュンが笑いながら落ち着かせる。
「ああ、それもそうか。まったく〈料理〉スキル持ってるは、マジで説得力あるから勘弁してくれよ」
 一気にグッタリした姿に、その場の全員が笑い声を上げた。
「にしても、ハルちゃんの卵、見たことない模様だね」
 この日はイベント〈聖獣の門〉最終日であり、クリスマスイブということで住人で集まってパーティを開催することになっていた。
 クリスマスだというのに、全員参加というところが何とも寂しい気もするが、モカ以外は冬休みに突入した開放感の方が勝っているようである。そもそも、こうやってゲームの中で集まることも、特別な思い出のひとつになれば良いものだ。
 加えて、この日は運営からのお知らせもあることが事前に告知されていたということも大きい。
「あー、ははは。そう、ですか?」
「そういえば、そうね。ちょっとシュン君のに似てるけど、そんなに複雑な模様は初めてかも」
 モカの言葉を皮切りに、それぞれが卵を取り出していた。
「あ! モカさんも〈力〉のタロットだったんですか?」
「そうだよー。選んだカード同じだと、やっぱり模様も同じになるんだね」
 アヤネとモカが自分の卵を並べて興味深そうに見比べている。見た目は全く同じだが、所有者は固定されているので、他人の卵と混ざってしまってもどれが誰のものかわからなくなることはない。
「俺は吊るされた男で、ねーちゃん達は何だったっけ?」
「あたしが星でミコトが愚者、ゴリは運命の輪だっけ?」
「そうっす。先輩の歯車として、こき使われる運命の子ですわ」
「そういう暗示じゃないわよ!」
 ゲシゲシと蹴り飛ばされているが、実際には動きだけなのでゴリも悲鳴を上げるだけで痛みはない。
「で、ボクが隠者。ハルマ君は?」
「あー。やっぱり、普通は1種類だよねー」
 ポリポリポリと頬を掻く。心のどこかで、実は皆、2種類選べていたのではないかと思っていたのである。
「ん? どういうこと?」
 ハルマの言葉に、シュンも首を傾げる。
「タロットカード選ぶ時にマリーが割り込んできて、隠者と世界の2種類が混ざっちゃったんだよ」
 自分で話しながら、気まずくなってくる。
 しかし、ポカンとそろって口を開けられたが、すぐに爆笑で包まれていた。
「あはははははははははははははははははははっ! さすがハルマ! こんな時でも期待を裏切らないな!」
「もう、うん。そうじゃないと、ハル君じゃない感じも出てきたもんね」
 チップ姉弟の呆れたような愉快なような表情に偽りはなく、次はどんなイレギュラーを見せてくれるのかとワクワクしているのだ。まさか、こんなところで、という想いもなくはなかったが、それも含めてハルマらしいなと誰もが心底思うのだった。
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