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第12章 魔王城への挑戦 後編
Ver.1/第94話
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イベントが始まり、この部屋が最初に映った時、ファンシーな魔王だな、くらいにしか思われていなかった。しかし、よくよく考えてみると、おかしいということに気づき始める。
魔王城にあるものは、魔王城内で作られたものでなければならないからだ。
通常サーバーから持ち込めるのは、自身の装備品と限られたアイテム類だけである。
しかし、この魔王城に陣取っているのは、魔王ただひとり。
幹部もいなければ配下もいない。
では、誰がこれらの装飾品を作ったというのか?
そして、観客の誰かが気づいたのである。
「このハルマって人、生産職なんじゃないか?」と。
しかし、いや、バカな、となる。そもそも、〈ゴブリン軍の進撃〉で城門をたったふたりで守り抜いたプレイヤーの内のひとりなのだ。
だからこそ注目度が高かったし、挑戦権獲得の倍率もモカ以上に高かった。
謎のプレイヤーの片鱗が見られると、誰もが期待していたのだ。
「でも。よくよく考えてみたら、城門を〈修復〉できるのって、生産職じゃないと難しいんじゃないか?」
観客の混乱は大きくなっていく。
更に観戦が続く内に、ハルマの手の内も情報が出回り始めるのだが、そこでも観客は首を傾げる結果になっていた。
「MP吸われるのってトラップのせいなんだよな? あのスキル、そんなにポンポン発動しないだろ? 他の魔王城では聞かないから、運営が用意したものじゃないよな?」
「そういえば、そうだな。試してみたことあるけど、10回に1回成功すれば良い方だったぞ? そうか! それで情報と違う所にトラップがあったりなかったりしたのか!?」
「ん? でも、トラップの発動成功率って、確かDEX依存だよな? え? やっぱり生産職なんじゃね?」
「いや。それだとMPが吸われ過ぎだろ。魔法職のMPまで枯渇させるくらいだから、INTも相当上げてるんじゃないのか?
「じゃあ何か? 本当は魔法職がメイン? DEXって、魔法のクリティカル率にも影響あるから、上げてる人いるよな?」
「待て待て待て。あの人が使ってる武器、片手剣だぞ? 魔法職メインで、それはないだろ? せいぜい補助的に魔法を使う程度のはずだ。もしかしたら、普通のトラップとは別のスキルも使っているのかもしれないぞ?」
「確かに……。暗黒騎士とか暗黒剣士みたいなスキルだったら、トラップに近いスキルがあってもおかしくないかも」
「なるほど! 暗黒系のスキルで、ネクロマンサー的なものもあるかもしれない。そうなったら、後ろのぬいぐるみや人形も頷ける!」
「「「「おお!」」」」
しかし、混乱に拍車をかけることになるのがハルマの戦いぶりだった。
MPが枯渇しているとはいえ、3人を一度に相手にしなければならないのだ。スキルや魔法がないからと油断できる状況ではないはずなのだが、1度として相手の攻撃が当たらないのである。
しかも、雰囲気作りの飾りであると思われた2本の剣も機能しているのである。
「あの人、ガード率100%あるとしか思えないのだが?」
「いやいや。さすがに100%は無理だろ。いくらバランス気にしてないって公言していても、ゲームバランスが崩壊する。だいたい、スキル使ってなさそうだぜ? 100%にできるとして、パッシブスキルだけで届くとかチートじゃあるまし」
「じゃあ、めちゃめちゃ反射神経が良いってこと!? 反応できるのなら、二刀流も意味があるってことなのか?」
「しかも、自分からは全然攻めてこない! やれるものならやってみろって余裕が感じられて、かっこ良くない!? あれぞ魔王って感じで、好きだなー」
三人組の激しい攻撃を不動の位置で全て弾き返してしまうのだ。しかも、毎回である。
どんな死角からの攻撃でも、そこに攻撃がくることを知っているような動きでガードしてしまうのである。
「いや。もしかしたら予知のスキルとかあるのかもしれないぞ?」
「いやいや、相手の動きが超スローに見える魔眼的なスキルかも?」
「いやいやいや、時間を操るスキルかもしれないぜ?」
ハルマの説明できない戦い方に、正解が出ても受け入れらずに、別の視点からの考察が繰り返される。
彼が本当の魔王ではなく、ラスボスではないという安心感があればこそ傍観者でいられた。
わけがわからないからこそ、面白いのだ。
意味不明だからこそ、楽しめるのだ。
人間の想像力を駆り立てる。
それが、ハルマという魔王の魅力になっていた。そこに畏怖の念が加わり、不落魔王の二つ名がいつの間にか定着していた。
激しい戦い。一方的に攻め続けているはずの挑戦者の方が、先に絶望を感じ始めた頃、全ての攻撃を受け止め、相手が為す術もなく手を緩めた瞬間、魔王に相応しい嘲笑とともに一撃で切り伏せてしまう。しかも、過去の戦い全てにおいて、初歩の片手剣スキルしか使っていない。
その圧倒的な破壊力に、やはり生産職はあり得ないんじゃないか? と、堂々巡りになってしまうのだ。
何も知らない観客からしたら、毎回神技を見ることができるのだから、もともと高かった人気は、最終日ともなると、3つのコロシアムを満席にしても足らないほどとなっていた。
魔王城にあるものは、魔王城内で作られたものでなければならないからだ。
通常サーバーから持ち込めるのは、自身の装備品と限られたアイテム類だけである。
しかし、この魔王城に陣取っているのは、魔王ただひとり。
幹部もいなければ配下もいない。
では、誰がこれらの装飾品を作ったというのか?
そして、観客の誰かが気づいたのである。
「このハルマって人、生産職なんじゃないか?」と。
しかし、いや、バカな、となる。そもそも、〈ゴブリン軍の進撃〉で城門をたったふたりで守り抜いたプレイヤーの内のひとりなのだ。
だからこそ注目度が高かったし、挑戦権獲得の倍率もモカ以上に高かった。
謎のプレイヤーの片鱗が見られると、誰もが期待していたのだ。
「でも。よくよく考えてみたら、城門を〈修復〉できるのって、生産職じゃないと難しいんじゃないか?」
観客の混乱は大きくなっていく。
更に観戦が続く内に、ハルマの手の内も情報が出回り始めるのだが、そこでも観客は首を傾げる結果になっていた。
「MP吸われるのってトラップのせいなんだよな? あのスキル、そんなにポンポン発動しないだろ? 他の魔王城では聞かないから、運営が用意したものじゃないよな?」
「そういえば、そうだな。試してみたことあるけど、10回に1回成功すれば良い方だったぞ? そうか! それで情報と違う所にトラップがあったりなかったりしたのか!?」
「ん? でも、トラップの発動成功率って、確かDEX依存だよな? え? やっぱり生産職なんじゃね?」
「いや。それだとMPが吸われ過ぎだろ。魔法職のMPまで枯渇させるくらいだから、INTも相当上げてるんじゃないのか?
「じゃあ何か? 本当は魔法職がメイン? DEXって、魔法のクリティカル率にも影響あるから、上げてる人いるよな?」
「待て待て待て。あの人が使ってる武器、片手剣だぞ? 魔法職メインで、それはないだろ? せいぜい補助的に魔法を使う程度のはずだ。もしかしたら、普通のトラップとは別のスキルも使っているのかもしれないぞ?」
「確かに……。暗黒騎士とか暗黒剣士みたいなスキルだったら、トラップに近いスキルがあってもおかしくないかも」
「なるほど! 暗黒系のスキルで、ネクロマンサー的なものもあるかもしれない。そうなったら、後ろのぬいぐるみや人形も頷ける!」
「「「「おお!」」」」
しかし、混乱に拍車をかけることになるのがハルマの戦いぶりだった。
MPが枯渇しているとはいえ、3人を一度に相手にしなければならないのだ。スキルや魔法がないからと油断できる状況ではないはずなのだが、1度として相手の攻撃が当たらないのである。
しかも、雰囲気作りの飾りであると思われた2本の剣も機能しているのである。
「あの人、ガード率100%あるとしか思えないのだが?」
「いやいや。さすがに100%は無理だろ。いくらバランス気にしてないって公言していても、ゲームバランスが崩壊する。だいたい、スキル使ってなさそうだぜ? 100%にできるとして、パッシブスキルだけで届くとかチートじゃあるまし」
「じゃあ、めちゃめちゃ反射神経が良いってこと!? 反応できるのなら、二刀流も意味があるってことなのか?」
「しかも、自分からは全然攻めてこない! やれるものならやってみろって余裕が感じられて、かっこ良くない!? あれぞ魔王って感じで、好きだなー」
三人組の激しい攻撃を不動の位置で全て弾き返してしまうのだ。しかも、毎回である。
どんな死角からの攻撃でも、そこに攻撃がくることを知っているような動きでガードしてしまうのである。
「いや。もしかしたら予知のスキルとかあるのかもしれないぞ?」
「いやいや、相手の動きが超スローに見える魔眼的なスキルかも?」
「いやいやいや、時間を操るスキルかもしれないぜ?」
ハルマの説明できない戦い方に、正解が出ても受け入れらずに、別の視点からの考察が繰り返される。
彼が本当の魔王ではなく、ラスボスではないという安心感があればこそ傍観者でいられた。
わけがわからないからこそ、面白いのだ。
意味不明だからこそ、楽しめるのだ。
人間の想像力を駆り立てる。
それが、ハルマという魔王の魅力になっていた。そこに畏怖の念が加わり、不落魔王の二つ名がいつの間にか定着していた。
激しい戦い。一方的に攻め続けているはずの挑戦者の方が、先に絶望を感じ始めた頃、全ての攻撃を受け止め、相手が為す術もなく手を緩めた瞬間、魔王に相応しい嘲笑とともに一撃で切り伏せてしまう。しかも、過去の戦い全てにおいて、初歩の片手剣スキルしか使っていない。
その圧倒的な破壊力に、やはり生産職はあり得ないんじゃないか? と、堂々巡りになってしまうのだ。
何も知らない観客からしたら、毎回神技を見ることができるのだから、もともと高かった人気は、最終日ともなると、3つのコロシアムを満席にしても足らないほどとなっていた。
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