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第11章 魔王城への挑戦 前編

Ver.1/第87話

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「ここが知恵と力が封じられし遺跡か。……ん?」
 遺跡の中に入ってすぐの広間には、モンスターはいなかった。代わりに、古びているが立派な石碑が置かれている。
 そこには〈知恵と力で封じられし遺跡〉とだけ記されている。
「マップの表記は知恵と力が封じられし遺跡だから、こっちが正しいんだよな? なんだ? 運営の入力ミスか?」
「が」と「で」ではニュアンスがだいぶ変わってしまう。
 文字が読めるプレイヤーは、ハルマが知る限り他にいない。何時間も図書館にこもって、読めるようになるのかもわからない作業を続けるプレイヤーは、そうはいないからだ。
 そのため、この差に気づく者も今までいなかったのだろう。
 ハルマも最初は気にせず進もうとしたのだが、この運営である。何か意図的な違いがあるのではないかと思い始めていた。
 そうでなかったら、こんなに目立つところにわざわざ石碑を置くだろうか? と。
「うーん。この石碑には何もなさそうか……」
 文面以外に気になるものは何もない。〈発見〉のスキルにも何の反応もないところを見ると、思い過ごしだったのかと奥へ進むことにした。
 何しろ、今回、ここに来たのには、ちゃんとした目的があってのことなのだ。
「ソロで待ち構えるとなると、トラップが活きるはず」
〈発見Ⅰ〉のスキルを取得している者は増えたが、未だレベル2のトラップも仕掛けられている雨降りの迷宮は難易度は高いままだと聞く。
 おそらく、この路線がハルマが唯一活路を見いだせる方法だと思えた。
「たぶん、トラップを発動させた回数が、成長のトリガーだと思うんだよな」
 ハルマは遺跡の奥へと進むと、準備してきたトラップを仕掛けていく。〈離れ技〉のおかげで安全な所から仕掛けることができるため、作業はいたって順調だ。
「いちおう、奥にある宝箱も取っておこうかな?」
 ダンジョンに設置されている宝箱は、プレイヤーごとに必ず取れるものと、一定時間でモンスターのようにポップする宝箱の2種類がある。だいたい固定のものからは、レアなアイテムは入手できないものである。
 それでも、そこでしか手に入らないものも含まれていることもあるから、記念品的なコレクションとしての価値が生まれる。
 また、これとは別に、特定の条件を満たした者だけに見つけることのできる宝箱もあり、こちらはレア度の高いものが期待できた。
 途中のモンスターは二刀流で防ぐまでもなく、ズキンとラフが簡単にあしらってくれる。ハルマは時々立ち止まってはトラップを仕掛け、また先に進むということを繰り返す。
 こうして大きな変化も起こらないまま、最奥の部屋にたどり着いていた。
「これがモカさんが言ってたやつかな?」
 宝箱を開けてみると、確かに1冊の本が入っているだけだった。
「魔法書か。そういえば図書館のおばばから1冊もらったことあったなー。紙作れるようになったし、〈紙細工〉のスキルも取れたから、あれの修復もできるかな? でも、確か取引禁止マーク付いてたよな?」
 基本的にアイテム類はプレイヤー同士で交換が可能である。しかし、イベント等で手に入れたものにかんしては、取引不可であることが多い。
 魔法職が好んで使う杖と魔法書は、どちらもINTアップの効果が付いていることが多い。では、何が違うかというと、杖の方には魔法詠唱時間の短縮効果が、魔法書の方には属性ダメージアップの効果が付くことが多いのだ。そのため、回復がメインの魔法職は杖を、攻撃がメインの魔法職は魔法書を使うことが多かった。
 ただ、ミコトのように回復メインでありながら、魔法書を使う者もいるので、一概には判断できない。
 一先ずの目標は達成したことで、ハルマは遺跡の中をふらつくことにした。肝心の〈トラップ〉がまだ成長していないからだ。
 あっちに移動してはトラップを仕掛け、こっちに移動してはトラップを仕掛ける。通っていないルートを選んで、探索を兼ねてどんどんトラップを仕掛けて回っていると、ついにマッピングが終了してしまった。
 マッピングは自分が通ったところは自動で行ってくれるため、実に楽である。
「こうやってみると、変なダンジョンだな」
 モカの話していた通り、入り組んだ複雑な造りであるにもかかわらず、何もないところが非常に多かった。
 ハルマは袋小路の安全な所に位置取ると、マップを眺めながら向かって来るモンスターの手前にトラップを仕掛けていく。トラップに引っかかったモンスターは弱ったままズキンかラフに討ち取られていく。
 実に手抜きなレベリングであるが、効率は気にしない性格のため、その場でのんびりすることにしていた。
 そうやってマップをしばらく眺めていると、どこかで見たことがある気がしてきた。
「なんだっけなー? ここら辺一体の造り、何かに似てるんだよな?」
 もどかしい感覚のままマップを眺めては周囲に目を配り、トラップを仕掛けるということを繰り返していると、今度は周囲の壁に違和感を覚え始める。
「ん? こっちの壁だけ上下に隙間あるんだな」
 既視感のあるマップの方の壁にだけ、上下にほんのわずかだが隙間があることに気づいたのだ。
「何だ? この気持ち悪い感覚」
 知っているのにわからない。そんなもどかしさがノドに小骨が刺さった時のような気持ち悪さになっていた。
 そして、こういう時は、往々にして何のキッカケもなく解決するものである。

「はっ! 落ち物パズルのアレだ!」
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