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第9章 ゴブリン軍の進撃
Ver.1/第66話
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「いきますよ!」
城門の〈修復〉にどれくらいの時間が必要になるのかわからなかったため、ギリギリまで待つということも出来ず、それ以前に単純に時間がなかった。
城門に到着すると〈修復〉のスキルを発動させ、準備してきた材料が消費されていく。幸い、何か作業を行う必要はなく、30秒ほどで城門の耐久値は50%まで復活したのだった。
「やった! ホントに復活した!」
これを合図に、ポップの増えていたゴブリン軍の行動パターンが変化し、更に多くのゴブリン達が出現し始める。〈修復〉のスキルを取得した時には遠くに見えていた大軍勢も、すでに目と鼻の先と呼べるほどの距離に到達している。
「さあ、くるよ! こっから17分、死ぬ気で防衛だ!」
モカは長槍を構えると、近寄ってくるゴブリンの集団に突っ込んでいく。その槍さばきは見事なもので、一振りでどんどん消滅させていく。
「Eポーションは残っていますけど、数は多くありません! 無茶はしないでください!」
もう少し時間に余裕があれば、Eポーションの補充もしたいところだったのだが、居残り組に渡すぶんを作った後は、余った素材を消化しただけで素材の回収もしていなかった。
MPの回復はそもそもできないので、ダメージを極力受けないように戦いながら、MPも節約しなければならないという困った状況である。
手近にいたゴブリン達はほとんどがホブゴブリン以下だったため、モカもスキルを使うことなく戦えているが、いかんせん数がどんどん増えていく。
ハルマも戦力を温存する気はなく、指示を出す。
「マリー、ズキン、頼む。でも、MPは温存だぞ!」
ラフを取り出しマリーに預け、ズキンをカラス天狗の姿に戻すと、自身は弓を使って援護に回る。
「え!? どちらさま!? って、羽!? え? 本当にカラス使いだったの!?」
「細かい話はまた今度で。ケット・シーのラフとカラス天狗のズキンです。ふたりとも頼れる仲間なので、安心してください」
「なるほど。それがハルちゃんの切り札なのね。それなら、おねーさんも本気出さなくちゃね」
じゅうぶん一騎当千の働きを見せているモカだったが、ズキンとラフが戦線に加わることでできた空白地帯に走り込むと、何やらスキルを使い始めた。
「いくよ! 〈デュラハン〉」
スキルを発動させたかと思ったら、モカの体を黒い影が包み込む。影は球状に膨らんでいくと、風船が割れるように弾け、中から黒馬に乗った甲冑姿のモカと思われる人物が現れた。スキルの名前の通り、馬にもモカにも頭がないため、持っている長槍で判断するしかなかったのだ。
「モカ、さん?」
「カッコいいでしょ!? このスキル使ってると機動力上がるだけじゃなくて、3人称視点に切り替わって上から見下ろせるの! 首から上がなくなって不気味なこと以外、超便利だよ!」
これが彼女を最強と言われるプレイヤーとして知らしめたスキルであった。
視界が正面だけなのと360度では、別のゲームになるほどの違いである上に、槍のスキルも充実している。彼女は1対1も強いが、多勢に無勢をものともしない強さがあるのだ。
「スズねえが、耐え切れたかもしれないって言ってた意味がわかったよ」
自分のことは棚に上げ、規格外の強さを見せるモカに感心しながらも弓をドンドン射っていく。
こうして残り10分を切ったところで、最初の山場が訪れた。
ゴブリンとホブゴブリンだけだった集団に、ゴブリンハットとゴブリンソードも混ざり始めたのだ。まだ小隊規模という雰囲気ではないため、個の戦力が上がっただけだが、それでも1体に使う時間がじりじりと増えていく。
ゴブリンハットは、ハットという名前ながらかぶっているのはベレー帽だった。ゴブリンやホブゴブリンと違い、手にしている武器は棍棒ではなく短剣で、AGIも少し高めの盗賊系のスタイルである。
ゴブリンソードは、ホブゴブリンが剣と鎧を装備しているだけなのだが、装備が変わると強さが段違いとなるのはRPG的にわかりやすい。
ゴブリンソードになると、ラフでは少し手に余る相手となったが、モカとズキンはものともしなかった。そのため、戦況に大きな変化はないまま最初の山場を乗り越えることができたのだった。
「さすがにこの数だと、キツイねえ」
モカは休むことなく長槍を振り回している。生身の体と違い有酸素運動による息切れは起こらないものの、集中力を維持するのは大変なことだ。
「まだ温存しておきたかったんですけど、少しペースを落としましょう。トワネ、頼む」
攻撃面では戦力にならないからと仕舞ったままだったトワネを呼び出すと、デバフ魔法と状態異常魔法を頼む。
VITやAGIにデバフが入ると、敵の進撃速度が落ちる上に、こちらの殲滅スピードは上がっていく。基本はゴブリンを主体にした集団だったため、状態異常も上手いこと機能して混乱や眠りに落とすことで、一気に進行速度を落とすことに成功したのだった。
「へぇ……。まだ隠してる能力あったんだ」
モカの見えない頭についている目が見開いた気がした。
「別に隠してたわけじゃないですよ。この子は今のところ、これしかできないんで、あの大軍勢が来るまでは温存したかっただけです。このペースだと耐え切れなさそうじゃないですか?」
「んんん!? 気合で踏ん張るしかない!」
「ですよねー」
ラフを中央に、モカとズキンが両翼を伸ばすように陣形は固まっていた。ハルマは援護射撃をしつつ、戦況を見極め随時ラフとズキンの位置を調整しながら戦い続ける。
そうやってひたすら戦い続けていると、レベルもどんどん上がるだけでなく、いくつかスキルが成長したり取得したりしていたのだが、確認している余裕もなかった。
なにせ、ついにゴブリンロードの率いる大軍勢が到達してしまったのだ。
城門の〈修復〉にどれくらいの時間が必要になるのかわからなかったため、ギリギリまで待つということも出来ず、それ以前に単純に時間がなかった。
城門に到着すると〈修復〉のスキルを発動させ、準備してきた材料が消費されていく。幸い、何か作業を行う必要はなく、30秒ほどで城門の耐久値は50%まで復活したのだった。
「やった! ホントに復活した!」
これを合図に、ポップの増えていたゴブリン軍の行動パターンが変化し、更に多くのゴブリン達が出現し始める。〈修復〉のスキルを取得した時には遠くに見えていた大軍勢も、すでに目と鼻の先と呼べるほどの距離に到達している。
「さあ、くるよ! こっから17分、死ぬ気で防衛だ!」
モカは長槍を構えると、近寄ってくるゴブリンの集団に突っ込んでいく。その槍さばきは見事なもので、一振りでどんどん消滅させていく。
「Eポーションは残っていますけど、数は多くありません! 無茶はしないでください!」
もう少し時間に余裕があれば、Eポーションの補充もしたいところだったのだが、居残り組に渡すぶんを作った後は、余った素材を消化しただけで素材の回収もしていなかった。
MPの回復はそもそもできないので、ダメージを極力受けないように戦いながら、MPも節約しなければならないという困った状況である。
手近にいたゴブリン達はほとんどがホブゴブリン以下だったため、モカもスキルを使うことなく戦えているが、いかんせん数がどんどん増えていく。
ハルマも戦力を温存する気はなく、指示を出す。
「マリー、ズキン、頼む。でも、MPは温存だぞ!」
ラフを取り出しマリーに預け、ズキンをカラス天狗の姿に戻すと、自身は弓を使って援護に回る。
「え!? どちらさま!? って、羽!? え? 本当にカラス使いだったの!?」
「細かい話はまた今度で。ケット・シーのラフとカラス天狗のズキンです。ふたりとも頼れる仲間なので、安心してください」
「なるほど。それがハルちゃんの切り札なのね。それなら、おねーさんも本気出さなくちゃね」
じゅうぶん一騎当千の働きを見せているモカだったが、ズキンとラフが戦線に加わることでできた空白地帯に走り込むと、何やらスキルを使い始めた。
「いくよ! 〈デュラハン〉」
スキルを発動させたかと思ったら、モカの体を黒い影が包み込む。影は球状に膨らんでいくと、風船が割れるように弾け、中から黒馬に乗った甲冑姿のモカと思われる人物が現れた。スキルの名前の通り、馬にもモカにも頭がないため、持っている長槍で判断するしかなかったのだ。
「モカ、さん?」
「カッコいいでしょ!? このスキル使ってると機動力上がるだけじゃなくて、3人称視点に切り替わって上から見下ろせるの! 首から上がなくなって不気味なこと以外、超便利だよ!」
これが彼女を最強と言われるプレイヤーとして知らしめたスキルであった。
視界が正面だけなのと360度では、別のゲームになるほどの違いである上に、槍のスキルも充実している。彼女は1対1も強いが、多勢に無勢をものともしない強さがあるのだ。
「スズねえが、耐え切れたかもしれないって言ってた意味がわかったよ」
自分のことは棚に上げ、規格外の強さを見せるモカに感心しながらも弓をドンドン射っていく。
こうして残り10分を切ったところで、最初の山場が訪れた。
ゴブリンとホブゴブリンだけだった集団に、ゴブリンハットとゴブリンソードも混ざり始めたのだ。まだ小隊規模という雰囲気ではないため、個の戦力が上がっただけだが、それでも1体に使う時間がじりじりと増えていく。
ゴブリンハットは、ハットという名前ながらかぶっているのはベレー帽だった。ゴブリンやホブゴブリンと違い、手にしている武器は棍棒ではなく短剣で、AGIも少し高めの盗賊系のスタイルである。
ゴブリンソードは、ホブゴブリンが剣と鎧を装備しているだけなのだが、装備が変わると強さが段違いとなるのはRPG的にわかりやすい。
ゴブリンソードになると、ラフでは少し手に余る相手となったが、モカとズキンはものともしなかった。そのため、戦況に大きな変化はないまま最初の山場を乗り越えることができたのだった。
「さすがにこの数だと、キツイねえ」
モカは休むことなく長槍を振り回している。生身の体と違い有酸素運動による息切れは起こらないものの、集中力を維持するのは大変なことだ。
「まだ温存しておきたかったんですけど、少しペースを落としましょう。トワネ、頼む」
攻撃面では戦力にならないからと仕舞ったままだったトワネを呼び出すと、デバフ魔法と状態異常魔法を頼む。
VITやAGIにデバフが入ると、敵の進撃速度が落ちる上に、こちらの殲滅スピードは上がっていく。基本はゴブリンを主体にした集団だったため、状態異常も上手いこと機能して混乱や眠りに落とすことで、一気に進行速度を落とすことに成功したのだった。
「へぇ……。まだ隠してる能力あったんだ」
モカの見えない頭についている目が見開いた気がした。
「別に隠してたわけじゃないですよ。この子は今のところ、これしかできないんで、あの大軍勢が来るまでは温存したかっただけです。このペースだと耐え切れなさそうじゃないですか?」
「んんん!? 気合で踏ん張るしかない!」
「ですよねー」
ラフを中央に、モカとズキンが両翼を伸ばすように陣形は固まっていた。ハルマは援護射撃をしつつ、戦況を見極め随時ラフとズキンの位置を調整しながら戦い続ける。
そうやってひたすら戦い続けていると、レベルもどんどん上がるだけでなく、いくつかスキルが成長したり取得したりしていたのだが、確認している余裕もなかった。
なにせ、ついにゴブリンロードの率いる大軍勢が到達してしまったのだ。
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