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第8章 陽炎の白糸

Ver.1/第55話

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 ズキンの発言は、AIのバグ的な発想なのかと思ったが違った。
 本当に、この世界の虫捕りといったら、〈釣り〉だったのである。
「いやさ。釣り具は〈木工〉の初期レシピにあるけども……」
 スキルとして存在する〈釣り〉は、どこでも誰でもできる。
 釣り場となる川や池も、いたるところで見ることができる。ただ、釣れた魚はNPCに売る以外に使い道はなく、大した稼ぎにもならない。釣り具は装備品と違って回数上限のついた消耗品扱いのため、自分で作れないプレイヤーにとっては赤字にすらなる。
 プレイヤーバザーで売れるなら、まだ将来性もあるのかもしれないが、釣れた魚の使い道がまるでないため、出品しても誰も買わないのだ。
 職人と同じようにスキルを取得すれば〈料理〉を作ることもできるのだが、味も匂いも歯ごたえも感じられないアバターの体では、雰囲気以外は楽しめず、手を出しているプレイヤーはとても少ない。そして、そういうプレイヤーは、だいたい自分で釣り具を作って出かけている。

 ズキンの話を真に受けた訳ではなく、ハルマはこの事実を図書館で知ることとなったのだ。
 以前、MPポーションの作り方を調べていた時、というよりも、文字を読めるようになるために片っ端から本を手に取っていた時、虫に関する本があったことを思い出したからだった。
 その時は、図書館としての体裁を繕うための、数あるオブジェクトのひとつとして置かれている本としか思っていなかったこともあり、さらっと斜め読みして終えていた。
 中に書かれている虫の中に、陽炎にかんするものはなかったが、虫の捕まえ方については簡単に説明が載っていたのである。

『〈木工〉スキルにレシピが追加されました』

 表示されたアナウンスを閉じ、メニューを開いて確認する。
「さすがに、普通の釣り針じゃ虫は釣れないのね」
 釣り針は、鍛冶の分野っぽい気もしていたが、釣り具として一括りにされており、全ての工程が〈木工〉で完結する。つまりは、木製のルアーがこの世界の〈釣り〉のスタンダードなわけである。
「えーと? 必要な素材は?」
 レシピを確認すると、どれもこれも難なく揃えらるものばかりで安堵する。基本的に普通の木製ルアーの作り方と同じで、釣り針の代わりに蜘蛛の糸でコーティングすることで作れるらしい。
「蜘蛛の糸はわりとどこでも拾えるけど、トワネに頼んだ方が早いか」
 蜘蛛の糸は、幅広い職人で使い道が用意されているため、在庫はあまりなかったが、際限なく作れるトワネがいるおかげで重宝していた。
 ハルマは、スタンプの村に一度戻ると、さっそく虫用釣り具の作製を始めるのだった。
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