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第7章 カラスの恩返し
Ver.1/第51話
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「ちょちょちょ……。な、何を言ってるのかしら? こんな白いカラスが、いる、いるはずないじゃありませんか」
そんなに動揺することなのかというくらい、不審な女性は、というか、カラスは動揺して見せた。NPCであろう女性の反応は、そうだということを忘れてしまうほどに見事な動揺っぷりである。
「白いって、服だけじゃん。やっぱりカラスか。俺にだけ報酬を渡し忘れたから、届けに来てくれたの? ってか、なんでそんな恰好で? とりあえず、ケガを治そうか? ポーションが効くのかわからんけど」
ハルマも、NPCに接することに慣れていなければ、こうも軽々にやり取りはできなかったことだろう。
「治していただけるんですか? それでしたら、ここでするのもなんですから、家に入れてくださいますでしょうか?」
「いや。別にポーション使うだけだから、ここで出来るよ?」
「いやいや、旦那様。ケガをしているか弱い女性をこんなところで、ねえ? そしたら、お礼も弾みますので!」
なぜだか必死に家の中に入りたがる。
そこで再び、頭の中に木魚を叩くような擬音が鳴り響く。
ポクポクポクポクポクポク……ちーん。
「俺が家持だから報酬もらえなかったのか……」
そして、なぜだか家に入れてはいけない予感がした。
「いやー。若い女性をこんな見苦しい家に上げるわけにはいかないので、ここで我慢してくださいよ」
「そんな、そんな。立派なお屋敷ですよ? 女性を連れ込める部屋くらい、余ってるでしょ?」
「おいおい。人聞き悪いこと言うんじゃないよ。ってか、なんでそんなに入り込みたいんだよ!」
白無垢姿のカラスは必死になって説得してくるものの、実力行使に出る気配はなく、玄関先で問答が続く。
……と。
「おう! ズキン、遅くなった。ここがお前の嫁ぎ先か?」
バサッと天から黒い影が降ってきたと思ったら、ふわりと近くに着地した。
「ちょっと、パパ! もう来ちゃったの!?」
ズキンと呼ばれたカラスがパパと呼ぶ人物は、見事なカラス天狗であった。
すると、思わぬところから声が上がる。
「これは、これは……。闇の大陸の森のヌシ様ではないですか。お久しぶりです」
肩に乗っていたトワネが急に大きくなると、現れたカラス天狗に頭を下げる。
「おお! これは風の大陸の! まだ呪いは解けんのか」
「恥ずかしながら、まだなのです」
「ふむ。しかし、この森にも力が戻ってきている気配がする。元の姿に戻れるのも、そう遠くあるまいて」
「本当ですか!? カルラ様がそうおっしゃるなら希望が持てます。ところで、そちらのお嬢様は、カルラ様の?」
「おお! そうじゃった! 何でも、森で罠にかかっていたところを助けてくださった御仁のもとに嫁にいくと知らせがきてな。慌てて駆けつけたところじゃ」
そういうとハルマに視線を向けてくる。
「なるほど、ね」
事態が飲み込め、改めてズキンに目を向ける。確かに飛び切りの美人であり、エロい体つきは、正直どストライクである。
「そういうわけなので、ね? 嫁にしてもらったら、たまには働くわよ?」
乱れた胸元も気にせず、ズキンは前かがみになりながら上目遣いで誘惑してきた。
強調される胸の谷間を、いちおう確認してから目を逸らすと、返事する。
「そうかあ、働いてくれるのかあ……。だが断る」
「そんな、殺生な」
「そうですぞ、ご主人! このズキン、怠惰なところはありますが、気立ては悪くない。カラス天狗のくせに三下モンスターの仕掛けた罠にかかるような、どうしようもない娘だが、もらってやってはくれまいか? 正直、嫁の貰い手が見つからず、困っておるのじゃ」
「おいおい。自分の娘をなんちゅう言い草だよ。だいたい、話を聞けば聞くほど断るのが正解じゃないか。ほら、今回は縁がなかったということで」
ハルマはカラス天狗の親子を見捨てて扉を閉めようとするも、ガシッと止められてしまう。
「ん……。うふふ。うふふふふ。ここまで言ってもダメなんて、気に入ったわ。本当はしばらく居座って、嫁いだ事実だけ作って、ちょっと働いたら出ていくつもりだったけど気が変わった。パパ! あちき、嫁に行くのは諦めるけど、この旦那様についていくわ! というわけで旦那様、これからよろしくね!」
白無垢姿だったズキンは、パッと姿を変え、カラス天狗本来の山伏っぽい服装になると、黒い羽を広げた。父親と違い、カラス天狗を思わせる要素は、その黒い羽だけである。胸元は相変わらず窮屈らしく、大きく開かれているのは目に毒である。 あと、どういうわけだか、下は何も履いていないように見える。
「は!?」
ズキンの宣言を拒否する間もなく、アナウンスが表示された。
『クエスト/カラスの恩返しをクリアしました』
『クリア報酬として、ズキンとの盟約が結ばれました。これにより、定期的に裁縫系素材がランダムにカラス天狗から届けられるようになります』
『詳細はなかまメニューから確認できますが、テイムモンスターと同じ扱いになります』
『特定の条件を満たすと、能力が解放されていきます』
「え!? 拒否権なし?」
妙な展開に驚いていると、カラス天狗の親分も感極まって涙を流しながら告げてくる。
「ご主人、感謝しますぞ! このぐうたらな娘が自立を宣言するとは! わしも陰ながら応援しますゆえ、娘をよろしく頼みますぞ」
「え? ええぇぇ……」
茫然とする中、追加でアナウンスが表示されていることに気を配る余裕はなかった。
『カラス天狗のズキンとの盟約が結ばれたことにより、闇の大陸の森の神との盟約も結ばれました』
そんなに動揺することなのかというくらい、不審な女性は、というか、カラスは動揺して見せた。NPCであろう女性の反応は、そうだということを忘れてしまうほどに見事な動揺っぷりである。
「白いって、服だけじゃん。やっぱりカラスか。俺にだけ報酬を渡し忘れたから、届けに来てくれたの? ってか、なんでそんな恰好で? とりあえず、ケガを治そうか? ポーションが効くのかわからんけど」
ハルマも、NPCに接することに慣れていなければ、こうも軽々にやり取りはできなかったことだろう。
「治していただけるんですか? それでしたら、ここでするのもなんですから、家に入れてくださいますでしょうか?」
「いや。別にポーション使うだけだから、ここで出来るよ?」
「いやいや、旦那様。ケガをしているか弱い女性をこんなところで、ねえ? そしたら、お礼も弾みますので!」
なぜだか必死に家の中に入りたがる。
そこで再び、頭の中に木魚を叩くような擬音が鳴り響く。
ポクポクポクポクポクポク……ちーん。
「俺が家持だから報酬もらえなかったのか……」
そして、なぜだか家に入れてはいけない予感がした。
「いやー。若い女性をこんな見苦しい家に上げるわけにはいかないので、ここで我慢してくださいよ」
「そんな、そんな。立派なお屋敷ですよ? 女性を連れ込める部屋くらい、余ってるでしょ?」
「おいおい。人聞き悪いこと言うんじゃないよ。ってか、なんでそんなに入り込みたいんだよ!」
白無垢姿のカラスは必死になって説得してくるものの、実力行使に出る気配はなく、玄関先で問答が続く。
……と。
「おう! ズキン、遅くなった。ここがお前の嫁ぎ先か?」
バサッと天から黒い影が降ってきたと思ったら、ふわりと近くに着地した。
「ちょっと、パパ! もう来ちゃったの!?」
ズキンと呼ばれたカラスがパパと呼ぶ人物は、見事なカラス天狗であった。
すると、思わぬところから声が上がる。
「これは、これは……。闇の大陸の森のヌシ様ではないですか。お久しぶりです」
肩に乗っていたトワネが急に大きくなると、現れたカラス天狗に頭を下げる。
「おお! これは風の大陸の! まだ呪いは解けんのか」
「恥ずかしながら、まだなのです」
「ふむ。しかし、この森にも力が戻ってきている気配がする。元の姿に戻れるのも、そう遠くあるまいて」
「本当ですか!? カルラ様がそうおっしゃるなら希望が持てます。ところで、そちらのお嬢様は、カルラ様の?」
「おお! そうじゃった! 何でも、森で罠にかかっていたところを助けてくださった御仁のもとに嫁にいくと知らせがきてな。慌てて駆けつけたところじゃ」
そういうとハルマに視線を向けてくる。
「なるほど、ね」
事態が飲み込め、改めてズキンに目を向ける。確かに飛び切りの美人であり、エロい体つきは、正直どストライクである。
「そういうわけなので、ね? 嫁にしてもらったら、たまには働くわよ?」
乱れた胸元も気にせず、ズキンは前かがみになりながら上目遣いで誘惑してきた。
強調される胸の谷間を、いちおう確認してから目を逸らすと、返事する。
「そうかあ、働いてくれるのかあ……。だが断る」
「そんな、殺生な」
「そうですぞ、ご主人! このズキン、怠惰なところはありますが、気立ては悪くない。カラス天狗のくせに三下モンスターの仕掛けた罠にかかるような、どうしようもない娘だが、もらってやってはくれまいか? 正直、嫁の貰い手が見つからず、困っておるのじゃ」
「おいおい。自分の娘をなんちゅう言い草だよ。だいたい、話を聞けば聞くほど断るのが正解じゃないか。ほら、今回は縁がなかったということで」
ハルマはカラス天狗の親子を見捨てて扉を閉めようとするも、ガシッと止められてしまう。
「ん……。うふふ。うふふふふ。ここまで言ってもダメなんて、気に入ったわ。本当はしばらく居座って、嫁いだ事実だけ作って、ちょっと働いたら出ていくつもりだったけど気が変わった。パパ! あちき、嫁に行くのは諦めるけど、この旦那様についていくわ! というわけで旦那様、これからよろしくね!」
白無垢姿だったズキンは、パッと姿を変え、カラス天狗本来の山伏っぽい服装になると、黒い羽を広げた。父親と違い、カラス天狗を思わせる要素は、その黒い羽だけである。胸元は相変わらず窮屈らしく、大きく開かれているのは目に毒である。 あと、どういうわけだか、下は何も履いていないように見える。
「は!?」
ズキンの宣言を拒否する間もなく、アナウンスが表示された。
『クエスト/カラスの恩返しをクリアしました』
『クリア報酬として、ズキンとの盟約が結ばれました。これにより、定期的に裁縫系素材がランダムにカラス天狗から届けられるようになります』
『詳細はなかまメニューから確認できますが、テイムモンスターと同じ扱いになります』
『特定の条件を満たすと、能力が解放されていきます』
「え!? 拒否権なし?」
妙な展開に驚いていると、カラス天狗の親分も感極まって涙を流しながら告げてくる。
「ご主人、感謝しますぞ! このぐうたらな娘が自立を宣言するとは! わしも陰ながら応援しますゆえ、娘をよろしく頼みますぞ」
「え? ええぇぇ……」
茫然とする中、追加でアナウンスが表示されていることに気を配る余裕はなかった。
『カラス天狗のズキンとの盟約が結ばれたことにより、闇の大陸の森の神との盟約も結ばれました』
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