上 下
33 / 276
第4章 救いを求める森の声

Ver.1/第32話

しおりを挟む
 ハルマは一度調合設備をインベントリに仕舞い、空いたスペースに木工設備を置く。今度はラフの修理をしなければならないからだ。
 木工作業台の上にラフを乗せると、破損の状況がすぐに表示された。
「これなら、〈木工〉だけで大丈夫そうだな」
 思ったよりも軽微なものだったらしく、ホッとする。修理できないレベルの破損だったら非常に困るからだ。
 今のプレースタイルに、ラフは欠かせない存在なのである。

「なあ、トワネ。トワネはどんなことができるんだ?」
 木材を削りながら、何の気なしに尋ねる。
「そうですねえ。基本的に蜘蛛ができることは一通り。あと、体のサイズは比較的自由に変えられますね。それに、戦闘はあまり得意ではありませんが、戦えることは戦えますよ? ですが、ジャアクビー相手でも逃げ出さなければならないほど力を失っていますので、期待しない方がいいです。補助的な魔法が使えるくらいでしょうか。あ、そうそう、元の大きさでしたら、4人くらいまでなら乗せて走れると思います」
 最後に、とってつけたように語られた内容に、思わず力加減が狂い手元の材料を消失させてしまった。
「乗れるの!?」
「はい。あまり早くは走れませんけど、ハルマ殿よりは早く走れると思いますよ?」
 どうぐメニューを開き、〈トワネ〉を選択する。
 確かに、ハルマよりもAGIは高かった。というか、DEX以外は全てにおいてトワネの方が上である。
「こいつ、俺が助ける必要なかったんじゃないのか?」
 先ほどは、名前を付けただけで内容を確認していなかったため、改めて目を通す。というか、確認できることを今知ったのであるが……。
「〈糸吐き〉〈壁移動〉は、蜘蛛本来の能力ってところか。戦闘系で使えるのは、本当にデバフ系と状態異常系の魔法だけだな。武器も防具も装備できない。あとは、〈小型化〉のスキルがあるくらいか。体のサイズを自由に変えられるって、部分的にもできるのか?」
「????」
「ああ。伝わらなかったか。足だけとか、胴体だけとかできるのか? って、訊いたんだ」
「そういうことでしたか。できると思いますよ」
 トワネの答えを聞いて、何かが閃いた。
「じゃあ、今の肩乗りサイズから、足だけ元のサイズになってみてくれよ」
「わかりました。やってみます」
 そういうと、トワネは足のサイズだけを元に戻していく。すると、極端に足長の蜘蛛へと変化した。
「足のサイズに合わせて、本体も少し大きくなるのは許容範囲だな。もう少し足を小さくできるか? 俺の腕と同じくらい」
「少し待ってくださいね」
 ハルマの要求に、素直に応えてくれる。
「よし! トワネ。その状態で俺の背中張り付いてみてくれ。できれば、手足はできるだけ自由に動かせると面白い」
「このまま、張り付くのですね」
 トワネはハルマの意図が理解できない様子だが、何をすればいいのかは明確なために実行する。
「ギャー!! なにそれ! なにそれ!? ハルマの手が増えたー! おっかしいのー」
 歪な形状のトワネを背負った状態になり、トワネの8本ある手足の内、2本の腕でハルマの胴体にしがみつき、残りの6本がハルマの背中から生えているようになったのだ。
 ハルマは鏡がない代わりに、スクリーンショットのカメラを自分に向けることでチェックする。
「おお! 良い感じ! トワネ、このまま手足を動かせるか?」
「大丈夫ですよ」
 トワネの言葉通り、わしゃわしゃと手足が自立して動き出す。
 その姿を見てハルマはマリーと一緒になって笑い出す。
「よし。これを阿修羅モード、いや、阿修羅は6本腕だから、8本だと何だっけ? えーと、あれだ! 弁財天か。あー、でも、なんかイメージと違うから、阿修羅モードでいいか。くそー。トワネが武器装備できないのが惜しいなあ。アイテムくらいは使えるのか?」
「そうですねえ。指示してもらえたら使えますよ」
「うん。じゃあ、そのうち面白いことができるかもな。それまでは戦闘中は補助に徹してくれ」
「わかりました」
 トワネの、というよりも、ハルマの新たな可能性が広がったところで、再びラフの修理作業に戻る。
 今度は脇目もふらずに、しっかりと終わらせるのだった。
 しかし、この時、ハルマは大事なことを見逃していることに気づいていなかった。

【風の大陸の森の神との盟約/常時風属性耐性+40% 常時土属性耐性+20%】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バランスブレイカー〜ガチャで手に入れたブッ壊れ装備には美少女が宿ってました〜

ふるっかわ
ファンタジー
ガチャで手に入れたアイテムには美少女達が宿っていた!? 主人公のユイトは大人気VRMMO「ナイト&アルケミー」に実装されたぶっ壊れ装備を手に入れた瞬間見た事も無い世界に突如転送される。 転送されたユイトは唯一手元に残った刀に宿った少女サクヤと無くした装備を探す旅に出るがやがて世界を巻き込んだ大事件に巻き込まれて行く… ※感想などいただけると励みになります、稚作ではありますが楽しんでいただければ嬉しいです。 ※こちらの作品は小説家になろう様にも掲載しております。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜【毎日更新】

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...