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第4章 救いを求める森の声
Ver.1/第28話
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たどり着いた先は、ちょうど戦闘エリアと同じくらいの広さがある空き地だった。奥には大きな木があり、根元にぽっかりと洞が開いている。問題の助けを求めている誰かが駆け込んでいるらしい。
洞の大きさはかなりのサイズだったが、中から何かでふさいでいるらしく、侵入を防げているようだ。
洞の外で「出てこい!」と、すごんでいるモンスターは合計3体。サイズ的には隙間からでも中に入っていけそうな、人の拳よりちょっと大きい程度なのだが、ブンブンうるさい音を立てる羽と、体と同じくらいあるサイズの針が邪魔らしく、上手く入れないようだ。
「蜂型モンスターかあ」
ハルマが広場に足を踏み入れると、一斉に蜂たちがふり返った。
「なんだ、お前? 邪魔するのか?」
ジャアクビーと表示されたモンスターの親玉らしい中央にいた蜂の言葉に合わせ、戦闘開始のスイッチとなるイエスとノーの選択が表示される。
「ここまで来て見捨てるわけにもいかないっしょ」
イエスを選択した途端、悪役に相応しい言葉を次々と吐き出しながらジャアクビーたちが襲いかかってきた。
「マリー、ラフ! 頼んだぞ」
数は多いが体が小さく、移動速度は早くなかった。ただ、素早さが低いというわけではなく、横への動きは瞬間移動なみの動きを見せた。
「ぎー! 回避率が高いタイプか……。相性最悪じゃん」
片手剣も弓も点攻撃に近い上に起動も読まれやすいため、避けられやすいのだ。ただでさえサイズが小さいために当てるのが難しいと思われた。
……が。
「あれ? ふつーに当たる」
接近して片手剣を突き出すラフの攻撃はスイスイ避けられ、逆にダメージを受けているのだが、ハルマの放つ矢は吸い込まれるように当たっていくのだ。どうやらDEXによる補正のおかげらしい。
それでも100%とはいかないらしく、時折外れる上に元々のダメージも大したことがない。1体に集中して攻撃しているが、なかなかHPを減らせずにいるうちにヘイトがハルマに移ってしまった。
「まずいな。マリー。ラフの状態異常魔法を片っ端から試してくれ! どれも効かなさそうなら、一旦逃げるぞ!」
「はいよー」
実のところ、全てを試している余裕はなさそうであり、すでに逃げる気でいた。
ところが、この時幸運が訪れる。
「〈ダークネスカーテン!〉」
マリーとラフのどちらが選択したのかわからないが、最初に使ったのが視界を奪う状態異常魔法だったのである。
これが効果てきめんだった。
ジャアクビーは闇に包まれ視界が奪われたことで動きが鈍り、攻撃行動もしなくなってしまったのだ。
しかし、ハルマに向かっていた1体だけは別で、ラフの魔法の範囲から外れてしまっている。
「ちょ、まずい!」
まだ戦闘エリアから離脱できる距離ではない。まして、ハルマのAGIは普通よりも低いのだ。
迫るジャアクビーの大きな針を前にして、初めての死に戻りを覚悟しながら一か八かで左手を体の前に振り上げた。
Greenhorn-onlineの盾は、一般的なゲームと異なり腕装備の上に固定させて使う。大楯になると手持ちとしてカウントされ両手装備が使えなくなるが、盾の場合はガントレットとバックラーを合わせたような扱いとなる。そのため防御力を上げるためではなく、ガードしたり身をかわす補助として使うのだ。
キンと、軽い金属音が上がったと思ったら、ハルマに向かっていたジャアクビーの攻撃はガードされ衝撃を受けたみたいに距離を空ける。
この時、ドレインのパッシブスキルである〈ダメージドレイン〉が発動していた。
ハルマの低いVITである。当たっていれば致死ダメージは免れなかっただろう。だが、そのダメージはハルマに吸収された。
「ぬうっ! 当たれ!」
ハルマは覚えたばかりの弓スキルを発動させながら、吸い取ったダメージを解放させる。
「〈ダメージリバース!〉〈パワーシュート!〉」
弓のダメージが1.3倍になる初級技にハルマでは出せない威力が加算され、目の前にいたジャアクビーに吸い込まれる。
「ラッキー! 当たった。マリー、ラフ、そっちは任せた。今のうちに倒すぞ!」
「まかせとけー」
「承知したにゃ」
倒すには至らなかったものの、一度に大ダメージを受けたジャアクビーは一時的に行動不能になる気絶のバッドステータスが入っていた。避けられないのであれば、この後の展開は一方的だった。
「〈パワーシュート!〉」
「〈連続斬り!〉」
ハルマもラフも、覚えたばかりのスキル技を使いダメージを上げていく。ハルマのMPはすぐに尽きたが、そこは自前のMPポーションの出番である。ただし、ハルマのMPが低すぎて、完全にオーバーヒールなのは仕方がない。
回避力が高いことで、ダメージを受けずチクチク反撃してくるというタイプのモンスターである。HPが高いはずもなかった。
ハルマの高くはないダメージ量でも、ドレインによるカウンターで瀕死にまで追い込めたこともあり、倒すことができ、ラフの攻撃でもほどなく1体を倒すことができたのだ。
しかし、そこで魔法の効果が切れてしまった。
「くそ! 俺の火力が低いせいで全部は倒し切らなかったか。でも、残りは1体だ。ラフ、俺に攻撃がこないように防御重視の位置取り頼む」
「わかったにゃ」
状態異常はふつう、繰り返し使っても効果は薄い。解けた直後はたいていの場合、耐性がついてしまうからだ。
繰り返し試す選択肢もなくはないのだが、そのせいでラフに隙が生じて、陣形が崩れる方が悪手に思えたのである。
最後に残った親玉ジャアクビーは、他の2体に比べて若干ステータスが高いらしく、こちらの与えるダメージよりもラフの受けるダメージの方が多くなっていた。かといって、回復魔法はハルマもラフも使えない。
そうなると、HP回復用のポーションしか手段がないのだが、クエストボスと戦うことになるとは思っていなかったため数を準備していなかったのである。しかも、一度でも攻撃されたらただではすまないハルマのステータスである。どちらに使いたいかというと、当然、自分――攻撃されてHPが残るとは思えないが――のために残しておきたかった。
「すまないラフ。回復は、もう少し我慢してくれ」
そうして、ジリ貧の状況が続いていたが、ある瞬間を境に激変するのだった。
洞の大きさはかなりのサイズだったが、中から何かでふさいでいるらしく、侵入を防げているようだ。
洞の外で「出てこい!」と、すごんでいるモンスターは合計3体。サイズ的には隙間からでも中に入っていけそうな、人の拳よりちょっと大きい程度なのだが、ブンブンうるさい音を立てる羽と、体と同じくらいあるサイズの針が邪魔らしく、上手く入れないようだ。
「蜂型モンスターかあ」
ハルマが広場に足を踏み入れると、一斉に蜂たちがふり返った。
「なんだ、お前? 邪魔するのか?」
ジャアクビーと表示されたモンスターの親玉らしい中央にいた蜂の言葉に合わせ、戦闘開始のスイッチとなるイエスとノーの選択が表示される。
「ここまで来て見捨てるわけにもいかないっしょ」
イエスを選択した途端、悪役に相応しい言葉を次々と吐き出しながらジャアクビーたちが襲いかかってきた。
「マリー、ラフ! 頼んだぞ」
数は多いが体が小さく、移動速度は早くなかった。ただ、素早さが低いというわけではなく、横への動きは瞬間移動なみの動きを見せた。
「ぎー! 回避率が高いタイプか……。相性最悪じゃん」
片手剣も弓も点攻撃に近い上に起動も読まれやすいため、避けられやすいのだ。ただでさえサイズが小さいために当てるのが難しいと思われた。
……が。
「あれ? ふつーに当たる」
接近して片手剣を突き出すラフの攻撃はスイスイ避けられ、逆にダメージを受けているのだが、ハルマの放つ矢は吸い込まれるように当たっていくのだ。どうやらDEXによる補正のおかげらしい。
それでも100%とはいかないらしく、時折外れる上に元々のダメージも大したことがない。1体に集中して攻撃しているが、なかなかHPを減らせずにいるうちにヘイトがハルマに移ってしまった。
「まずいな。マリー。ラフの状態異常魔法を片っ端から試してくれ! どれも効かなさそうなら、一旦逃げるぞ!」
「はいよー」
実のところ、全てを試している余裕はなさそうであり、すでに逃げる気でいた。
ところが、この時幸運が訪れる。
「〈ダークネスカーテン!〉」
マリーとラフのどちらが選択したのかわからないが、最初に使ったのが視界を奪う状態異常魔法だったのである。
これが効果てきめんだった。
ジャアクビーは闇に包まれ視界が奪われたことで動きが鈍り、攻撃行動もしなくなってしまったのだ。
しかし、ハルマに向かっていた1体だけは別で、ラフの魔法の範囲から外れてしまっている。
「ちょ、まずい!」
まだ戦闘エリアから離脱できる距離ではない。まして、ハルマのAGIは普通よりも低いのだ。
迫るジャアクビーの大きな針を前にして、初めての死に戻りを覚悟しながら一か八かで左手を体の前に振り上げた。
Greenhorn-onlineの盾は、一般的なゲームと異なり腕装備の上に固定させて使う。大楯になると手持ちとしてカウントされ両手装備が使えなくなるが、盾の場合はガントレットとバックラーを合わせたような扱いとなる。そのため防御力を上げるためではなく、ガードしたり身をかわす補助として使うのだ。
キンと、軽い金属音が上がったと思ったら、ハルマに向かっていたジャアクビーの攻撃はガードされ衝撃を受けたみたいに距離を空ける。
この時、ドレインのパッシブスキルである〈ダメージドレイン〉が発動していた。
ハルマの低いVITである。当たっていれば致死ダメージは免れなかっただろう。だが、そのダメージはハルマに吸収された。
「ぬうっ! 当たれ!」
ハルマは覚えたばかりの弓スキルを発動させながら、吸い取ったダメージを解放させる。
「〈ダメージリバース!〉〈パワーシュート!〉」
弓のダメージが1.3倍になる初級技にハルマでは出せない威力が加算され、目の前にいたジャアクビーに吸い込まれる。
「ラッキー! 当たった。マリー、ラフ、そっちは任せた。今のうちに倒すぞ!」
「まかせとけー」
「承知したにゃ」
倒すには至らなかったものの、一度に大ダメージを受けたジャアクビーは一時的に行動不能になる気絶のバッドステータスが入っていた。避けられないのであれば、この後の展開は一方的だった。
「〈パワーシュート!〉」
「〈連続斬り!〉」
ハルマもラフも、覚えたばかりのスキル技を使いダメージを上げていく。ハルマのMPはすぐに尽きたが、そこは自前のMPポーションの出番である。ただし、ハルマのMPが低すぎて、完全にオーバーヒールなのは仕方がない。
回避力が高いことで、ダメージを受けずチクチク反撃してくるというタイプのモンスターである。HPが高いはずもなかった。
ハルマの高くはないダメージ量でも、ドレインによるカウンターで瀕死にまで追い込めたこともあり、倒すことができ、ラフの攻撃でもほどなく1体を倒すことができたのだ。
しかし、そこで魔法の効果が切れてしまった。
「くそ! 俺の火力が低いせいで全部は倒し切らなかったか。でも、残りは1体だ。ラフ、俺に攻撃がこないように防御重視の位置取り頼む」
「わかったにゃ」
状態異常はふつう、繰り返し使っても効果は薄い。解けた直後はたいていの場合、耐性がついてしまうからだ。
繰り返し試す選択肢もなくはないのだが、そのせいでラフに隙が生じて、陣形が崩れる方が悪手に思えたのである。
最後に残った親玉ジャアクビーは、他の2体に比べて若干ステータスが高いらしく、こちらの与えるダメージよりもラフの受けるダメージの方が多くなっていた。かといって、回復魔法はハルマもラフも使えない。
そうなると、HP回復用のポーションしか手段がないのだが、クエストボスと戦うことになるとは思っていなかったため数を準備していなかったのである。しかも、一度でも攻撃されたらただではすまないハルマのステータスである。どちらに使いたいかというと、当然、自分――攻撃されてHPが残るとは思えないが――のために残しておきたかった。
「すまないラフ。回復は、もう少し我慢してくれ」
そうして、ジリ貧の状況が続いていたが、ある瞬間を境に激変するのだった。
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