上 下
29 / 276
第4章 救いを求める森の声

Ver.1/第28話

しおりを挟む
 たどり着いた先は、ちょうど戦闘エリアと同じくらいの広さがある空き地だった。奥には大きな木があり、根元にぽっかりと洞が開いている。問題の助けを求めている誰かが駆け込んでいるらしい。
 洞の大きさはかなりのサイズだったが、中から何かでふさいでいるらしく、侵入を防げているようだ。
 洞の外で「出てこい!」と、すごんでいるモンスターは合計3体。サイズ的には隙間からでも中に入っていけそうな、人の拳よりちょっと大きい程度なのだが、ブンブンうるさい音を立てる羽と、体と同じくらいあるサイズの針が邪魔らしく、上手く入れないようだ。
「蜂型モンスターかあ」
 ハルマが広場に足を踏み入れると、一斉に蜂たちがふり返った。
「なんだ、お前? 邪魔するのか?」
 ジャアクビーと表示されたモンスターの親玉らしい中央にいた蜂の言葉に合わせ、戦闘開始のスイッチとなるイエスとノーの選択が表示される。
「ここまで来て見捨てるわけにもいかないっしょ」
 イエスを選択した途端、悪役に相応しい言葉を次々と吐き出しながらジャアクビーたちが襲いかかってきた。
「マリー、ラフ! 頼んだぞ」
 数は多いが体が小さく、移動速度は早くなかった。ただ、素早さが低いというわけではなく、横への動きは瞬間移動なみの動きを見せた。
「ぎー! 回避率が高いタイプか……。相性最悪じゃん」
 片手剣も弓も点攻撃に近い上に起動も読まれやすいため、避けられやすいのだ。ただでさえサイズが小さいために当てるのが難しいと思われた。

 ……が。

「あれ? ふつーに当たる」
 接近して片手剣を突き出すラフの攻撃はスイスイ避けられ、逆にダメージを受けているのだが、ハルマの放つ矢は吸い込まれるように当たっていくのだ。どうやらDEXによる補正のおかげらしい。
 それでも100%とはいかないらしく、時折外れる上に元々のダメージも大したことがない。1体に集中して攻撃しているが、なかなかHPを減らせずにいるうちにヘイトがハルマに移ってしまった。
「まずいな。マリー。ラフの状態異常魔法を片っ端から試してくれ! どれも効かなさそうなら、一旦逃げるぞ!」
「はいよー」
 実のところ、全てを試している余裕はなさそうであり、すでに逃げる気でいた。
 ところが、この時幸運が訪れる。
「〈ダークネスカーテン!〉」
 マリーとラフのどちらが選択したのかわからないが、最初に使ったのが視界を奪う状態異常魔法だったのである。
 これが効果てきめんだった。
 ジャアクビーは闇に包まれ視界が奪われたことで動きが鈍り、攻撃行動もしなくなってしまったのだ。
 しかし、ハルマに向かっていた1体だけは別で、ラフの魔法の範囲から外れてしまっている。
「ちょ、まずい!」
 まだ戦闘エリアから離脱できる距離ではない。まして、ハルマのAGIは普通よりも低いのだ。
 迫るジャアクビーの大きな針を前にして、初めての死に戻りを覚悟しながら一か八かで左手を体の前に振り上げた。
 Greenhorn-onlineの盾は、一般的なゲームと異なり腕装備の上に固定させて使う。大楯になると手持ちとしてカウントされ両手装備が使えなくなるが、盾の場合はガントレットとバックラーを合わせたような扱いとなる。そのため防御力を上げるためではなく、ガードしたり身をかわす補助として使うのだ。
 キンと、軽い金属音が上がったと思ったら、ハルマに向かっていたジャアクビーの攻撃はガードされ衝撃を受けたみたいに距離を空ける。
 この時、ドレインのパッシブスキルである〈ダメージドレイン〉が発動していた。
 ハルマの低いVITである。当たっていれば致死ダメージは免れなかっただろう。だが、そのダメージはハルマに吸収された。
「ぬうっ! 当たれ!」
 ハルマは覚えたばかりの弓スキルを発動させながら、吸い取ったダメージを解放させる。
「〈ダメージリバース!〉〈パワーシュート!〉」
 弓のダメージが1.3倍になる初級技にハルマでは出せない威力が加算され、目の前にいたジャアクビーに吸い込まれる。
「ラッキー! 当たった。マリー、ラフ、そっちは任せた。今のうちに倒すぞ!」
「まかせとけー」
「承知したにゃ」
 倒すには至らなかったものの、一度に大ダメージを受けたジャアクビーは一時的に行動不能になる気絶のバッドステータスが入っていた。避けられないのであれば、この後の展開は一方的だった。
「〈パワーシュート!〉」
〈連続斬り!〉ダブルスラッシュ
 ハルマもラフも、覚えたばかりのスキル技を使いダメージを上げていく。ハルマのMPはすぐに尽きたが、そこは自前のMPポーションの出番である。ただし、ハルマのMPが低すぎて、完全にオーバーヒールなのは仕方がない。
 回避力が高いことで、ダメージを受けずチクチク反撃してくるというタイプのモンスターである。HPが高いはずもなかった。
 ハルマの高くはないダメージ量でも、ドレインによるカウンターで瀕死にまで追い込めたこともあり、倒すことができ、ラフの攻撃でもほどなく1体を倒すことができたのだ。

 しかし、そこで魔法の効果が切れてしまった。

「くそ! 俺の火力が低いせいで全部は倒し切らなかったか。でも、残りは1体だ。ラフ、俺に攻撃がこないように防御重視の位置取り頼む」
「わかったにゃ」
 状態異常はふつう、繰り返し使っても効果は薄い。解けた直後はたいていの場合、耐性がついてしまうからだ。
 繰り返し試す選択肢もなくはないのだが、そのせいでラフに隙が生じて、陣形が崩れる方が悪手に思えたのである。
 最後に残った親玉ジャアクビーは、他の2体に比べて若干ステータスが高いらしく、こちらの与えるダメージよりもラフの受けるダメージの方が多くなっていた。かといって、回復魔法はハルマもラフも使えない。
 そうなると、HP回復用のポーションしか手段がないのだが、クエストボスと戦うことになるとは思っていなかったため数を準備していなかったのである。しかも、一度でも攻撃されたらただではすまないハルマのステータスである。どちらに使いたいかというと、当然、自分――攻撃されてHPが残るとは思えないが――のために残しておきたかった。
「すまないラフ。回復は、もう少し我慢してくれ」
 そうして、ジリ貧の状況が続いていたが、ある瞬間を境に激変するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

生産職から始まる初めてのVRMMO

結城楓
ファンタジー
最近流行りのVRMMO、興味がないわけではないが自分から手を出そうと思ってはいなかったふう。 そんな時、新しく発売された《アイディアル・オンライン》。 そしてその発売日、なぜかゲームに必要なハードとソフトを2つ抱えた高校の友達、彩華が家にいた。 そんなふうが彩華と半ば強制的にやることになったふうにとっては初めてのVRMMO。 最初のプレイヤー設定では『モンスターと戦うのが怖い』という理由から生産職などの能力を選択したところから物語は始まる。 最初はやらざるを得ない状況だったフウが、いつしか面白いと思うようになり自ら率先してゲームをするようになる。 そんなフウが贈るのんびりほのぼのと周りを巻き込み成長していく生産職から始まる初めてのVRMMOの物語。

男子中学生から女子校生になった僕

大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。 普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。 強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

【完結】彼女以外、みんな思い出す。

❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。 幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。

処理中です...