妖怪クラスの放課後怪奇譚

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Beauty or dead

○○○がやってくる!?

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 突然ではあるが、皆は妖怪と言われる存在を信じているだろうか。子供達の大好きなウォッチするような感じの存在である。普通であれば信じるはずもないだろう。いい年齢の大人が大真面目に信じてるなんて言おうものなら、後ろ指を差されてしまうことだってあるだろう。
 そんな世間の常識が覆ってしまったのが、今から20年前の2000年だ。その年、その月、その日、その時間、その瞬間――人々の平凡な日常というのは音を立てて崩れ去った。

 後に『混沌災カオスパンデミック』と呼ばれるそれは、世界の非常識を常識に塗り替えた。人にとっての常識も、妖怪にとっての常識も――ありとあらゆる物を一緒くたにし、かき混ぜてぶちまける。そんな誰の想像もできなかった事態が起きたのだ。

 混乱をしたのは人ばかりではなく、妖怪も一緒。何せそれまで見ることもできなかった人間が目の前に現れたのだ。当然、悪さをしようとする妖怪も大量に現れたが、人間も抵抗を続けた。科学の力で妖怪達優勢の流れをあっという間にひっくり返し、両者泥沼の泥々試合にもつれ込んだまま人妖大戦争は僅か2月足らずで両者の人口がちょうど半分ずつになったところでどちらかが言うでもなく停戦と平和条約を結ぶ流れへと持ち込まれた。
 最早互いに戦い続ける気力はなく、引くに引けないと意気込んでいた者達でさえ、戦後のことを考えると素直に頷く以外の選択肢を与えられず、渋々承諾。それでも最後まで反対をしていた者達は見せしめにされるかのように次々に処分をされてしまう羽目になった。

 こうして、世界とそこに住まう者達の軋轢は臭いものに蓋をするかのように無理やり成り立たらせているのである。

 さて、世界がこうして人妖ごちゃまぜになったところで少々問題が起きた。最初から浮き彫りになっていたのだが、互いの文化があまりにも違いすぎた。なまじお互いに知識を持ってしまっており、各々の文化が形成されてしまっているので、異文化交流をしようにもその変化に互いについていけなくなってしまったのだ。

 そこで、考えついたのが『今は無理でも、この後の世代であればもしかしたら理想的な異文化交流ができるかもしれない』という丸投げ案である。

 そうやって『人と妖が互いの異文化を学ぶことができる場』として設立されたのが『界立神妖学園』である。
 そして、世界に6つしかない界立学校の中で、日本に設立された『神妖学園』に僕たちは通っている。



 伽藍ガラン、#伽藍ガランと昼休みを告げる鐘の音が校舎内に響き渡る。この音を合図に廊下や窓の外に飛び出す生徒が続出し、購買は宛ら戦場の様相へと様変わりするのだ。
 普段なら僕も皆に負けじと飛び出すのだが、今日はいつもとわけが違う。今僕の机の上には学校に来る途中のコンビニで買ってきたコンビニ弁当と紙パックの牛乳という僕用のお昼ご飯と、可愛らしいラッピングの施された女の子向けのお弁当箱が2つ――これは僕が食べるようではない、が置かれている。そして、普段は男子生徒の溜まり場になっている机は明らかに1つの机のキャパを超えている人数でしようをしている。何故か今日だけ僕と女子生徒が2名という夢のような状況《シチュエーション》になっているのだ。

 「あら、露峯つゆみねは今日は唐揚げじゃないのね?珍しいこともあるものだわ。」
 「え、露峯さんって唐揚げが好きなんですか?奇遇ですね!私唐揚げが料理の中で1番得意なんですよ!」
 「唐揚げなんて誰でも簡単に作れる料理じゃない?そんなことよりそんなコンビニ弁当だけじゃ栄養が偏りそうだし、この煮物をちょっと分けてあげる。」
 「唐揚げじゃなくて油淋鶏とかザンギだって作れますよ?それより鍛冶町さん、少し露峯さんに近寄りすぎじゃないですか?」

 夢のような状況――のはずなんだが、なんでだろう、ちょっと空気がギスギスしている気がする。ここで鈍感系の主人公とかだと「へぇー今度食べさせてよ」とか空気を読まずに言うんだろうけど、生憎そこまで僕の肝っ玉は太くない。気の利いた洒落た一言で場を和ませる器用さもなければ、敢えて地雷を踏みに行く度胸もない。チキンだと笑わば笑うがいいさ。
 なんでこんなことになったんだ。僕は今日の朝の出来事を振り返り、1人頭を悩ませる事になった。


 僕は露峯つゆみね 弘直ひろすぐ。この春から『界立神妖学園』の高等部1年に所属することになった高校1年の16歳である。黒髪で黒い瞳、中肉中背と見るものが見たら唯の人間にしか見えない身体的特徴を持ち合わせている。別段イケメンではないが、太っているわけでもないし普通だと思いたい。

 
 事の始まりは僕が学校に登校するや否や、職員室へと連れて行かれたことによる。当初、僕の脳裏をよぎったのはつい先日に起きたトンカラトン事件である。それまで交流のなかった生徒と腹を割って話し合うことが出来る様になった出来事であったと同時に、僕らの大事な仲間を危うく公然猥褻罪で失いそうになるという危険な出来事であった。あの時、全裸でコンビニに乗り込んだクラスメイトを止め、代わりにTシャツブリーフ白靴下を買い与えたのだ。うん、僕に落ち度はないはずだ。

 僕を呼び出したのは担任のおさない 美伊那びぃだ先生である。回転椅子に腰掛け、事務机に向いて仕事を黙々とこなしている先生の姿はどう見ても小学生と言われても仕方がないものだろう。彼女はれっきとした大人である。小人ホビット淫魔サキュバスのハーフという絶対にかけ合わせてはいけない両親の下に生まれており、成人をしてもなお小人以上の身長にはならず、かと言ってその雰囲気は子供らしいかと言われたらそんなわけでもない大人の色気を兼ね揃えた要するに『ちょっとませ気味の小学校最上級生』な雰囲気の先生が幼先生である。

 朝の職員室というのはその日1日の授業の準備があることから、割と皆忙しそうにしている。そんな先生方の合間を縫うように歩き、僕は先生の机へとたどり着く。僕が隣に立ったことで先生も僕の存在に気付き、椅子に座ったままこちらへと体を向け、「おはようございます」と互いに挨拶を済ませる。
 内心ドキドキしながら要件を尋ねたところ、それは思ってもいなかった内容であった。
 
 「転校生…ですか?」
 「そうなんですよ。何でもちょっと訳ありの子らしくて」

 転校生――それ自体は別に珍しくはない。この学園では平均よりも多いぐらいだろう。人と魔が入り乱れた世界を更に縮小したような場所がここである。適応できずに抜けていくものは後を立たず、抜けた部分を埋めるように次の転校生が入ってくる。だが、訳ありという言葉と僕が呼ばれた理由でいくつかの可能性があるのだが――

 「もしかして……ですか?」
 「露峯君は話が早くて助かりますね。」

 やっぱりか、と頭を抱えそうになる。これが妖怪の転入生であれば率先してクラス委員である鍛冶町かじまち媚呂みろが呼ばれるのだろうが、事人間が相手になると高確率で僕が呼び出される。なんせうちのクラスの中では数少ない完全な人間型である。狼男の銀羽ぎんはねや野干の夜湖やこも人型に関しては僕と遜色がないぐらいに人間に近いのだが、銀羽はふとした拍子で激情して変身をするし、夜湖はあることないこと吹き込もうとするので結果として僕に回ってきたということだろう。

 「せめて鍛冶町かじまちにフォローをしてもらいたいんですけど…」
 「そのつもりですよ。なんせ、ですからね。」
 「……それは…また…偉い厄介な奴ですね。」

 唯でさえ初対面の生徒との会話なんかあまりしないのに、よりにもよって『初対面』の『人間』の『陰陽師』という3つが奇跡的にかけ合わさってしまっている。もしも1人でやらなければならなかったら、酷いことになっていたに違いない。
 生徒の紹介は朝のSHRでするということなので、まずは鍛冶町にも説明をしておいて欲しいと頼まれ、会議があるからと抗議をする前に追い出されてしまい、気を重くしながら教室に戻るのであった。

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