4 / 11
Beauty or dead
○○○がやってくる!?
しおりを挟む
突然ではあるが、皆は妖怪と言われる存在を信じているだろうか。子供達の大好きなウォッチするような感じの存在である。普通であれば信じるはずもないだろう。いい年齢の大人が大真面目に信じてるなんて言おうものなら、後ろ指を差されてしまうことだってあるだろう。
そんな世間の常識が覆ってしまったのが、今から20年前の2000年だ。その年、その月、その日、その時間、その瞬間――人々の平凡な日常というのは音を立てて崩れ去った。
後に『混沌災』と呼ばれるそれは、世界の非常識を常識に塗り替えた。人にとっての常識も、妖怪にとっての常識も――ありとあらゆる物を一緒くたにし、かき混ぜてぶちまける。そんな誰の想像もできなかった事態が起きたのだ。
混乱をしたのは人ばかりではなく、妖怪も一緒。何せそれまで見ることもできなかった人間が目の前に現れたのだ。当然、悪さをしようとする妖怪も大量に現れたが、人間も抵抗を続けた。科学の力で妖怪達優勢の流れをあっという間にひっくり返し、両者泥沼の泥々試合にもつれ込んだまま人妖大戦争は僅か2月足らずで両者の人口がちょうど半分ずつになったところでどちらかが言うでもなく停戦と平和条約を結ぶ流れへと持ち込まれた。
最早互いに戦い続ける気力はなく、引くに引けないと意気込んでいた者達でさえ、戦後のことを考えると素直に頷く以外の選択肢を与えられず、渋々承諾。それでも最後まで反対をしていた者達は見せしめにされるかのように次々に処分をされてしまう羽目になった。
こうして、世界とそこに住まう者達の軋轢は臭いものに蓋をするかのように無理やり成り立たらせているのである。
さて、世界がこうして人妖ごちゃまぜになったところで少々問題が起きた。最初から浮き彫りになっていたのだが、互いの文化があまりにも違いすぎた。なまじお互いに知識を持ってしまっており、各々の文化が形成されてしまっているので、異文化交流をしようにもその変化に互いについていけなくなってしまったのだ。
そこで、考えついたのが『今は無理でも、この後の世代であればもしかしたら理想的な異文化交流ができるかもしれない』という丸投げ案である。
そうやって『人と妖が互いの異文化を学ぶことができる場』として設立されたのが『界立神妖学園』である。
そして、世界に6つしかない界立学校の中で、日本に設立された『神妖学園』に僕たちは通っている。
◇
伽藍、#伽藍と昼休みを告げる鐘の音が校舎内に響き渡る。この音を合図に廊下や窓の外に飛び出す生徒が続出し、購買は宛ら戦場の様相へと様変わりするのだ。
普段なら僕も皆に負けじと飛び出すのだが、今日はいつもとわけが違う。今僕の机の上には学校に来る途中のコンビニで買ってきたコンビニ弁当と紙パックの牛乳という僕用のお昼ご飯と、可愛らしいラッピングの施された女の子向けのお弁当箱が2つ――これは僕が食べるようではない、が置かれている。そして、普段は男子生徒の溜まり場になっている机は明らかに1つの机のキャパを超えている人数でしようをしている。何故か今日だけ僕と女子生徒が2名という夢のような状況《シチュエーション》になっているのだ。
「あら、露峯は今日は唐揚げじゃないのね?珍しいこともあるものだわ。」
「え、露峯さんって唐揚げが好きなんですか?奇遇ですね!私唐揚げが料理の中で1番得意なんですよ!」
「唐揚げなんて誰でも簡単に作れる料理じゃない?そんなことよりそんなコンビニ弁当だけじゃ栄養が偏りそうだし、この煮物をちょっと分けてあげる。」
「唐揚げじゃなくて油淋鶏とかザンギだって作れますよ?それより鍛冶町さん、少し露峯さんに近寄りすぎじゃないですか?」
夢のような状況――のはずなんだが、なんでだろう、ちょっと空気がギスギスしている気がする。ここで鈍感系の主人公とかだと「へぇー今度食べさせてよ」とか空気を読まずに言うんだろうけど、生憎そこまで僕の肝っ玉は太くない。気の利いた洒落た一言で場を和ませる器用さもなければ、敢えて地雷を踏みに行く度胸もない。チキンだと笑わば笑うがいいさ。
なんでこんなことになったんだ。僕は今日の朝の出来事を振り返り、1人頭を悩ませる事になった。
僕は露峯 弘直。この春から『界立神妖学園』の高等部1年に所属することになった高校1年の16歳である。黒髪で黒い瞳、中肉中背と見るものが見たら唯の人間にしか見えない身体的特徴を持ち合わせている。別段イケメンではないが、太っているわけでもないし普通だと思いたい。
事の始まりは僕が学校に登校するや否や、職員室へと連れて行かれたことによる。当初、僕の脳裏をよぎったのはつい先日に起きたトンカラトン事件である。それまで交流のなかった生徒と腹を割って話し合うことが出来る様になった出来事であったと同時に、僕らの大事な仲間を危うく公然猥褻罪で失いそうになるという危険な出来事であった。あの時、全裸でコンビニに乗り込んだクラスメイトを止め、代わりに着替えを買い与えたのだ。うん、僕に落ち度はないはずだ。
僕を呼び出したのは担任の幼 美伊那先生である。回転椅子に腰掛け、事務机に向いて仕事を黙々とこなしている先生の姿はどう見ても小学生と言われても仕方がないものだろう。彼女はれっきとした大人である。小人と淫魔のハーフという絶対にかけ合わせてはいけない両親の下に生まれており、成人をしてもなお小人以上の身長にはならず、かと言ってその雰囲気は子供らしいかと言われたらそんなわけでもない大人の色気を兼ね揃えた要するに『ちょっとませ気味の小学校最上級生』な雰囲気の先生が幼先生である。
朝の職員室というのはその日1日の授業の準備があることから、割と皆忙しそうにしている。そんな先生方の合間を縫うように歩き、僕は先生の机へとたどり着く。僕が隣に立ったことで先生も僕の存在に気付き、椅子に座ったままこちらへと体を向け、「おはようございます」と互いに挨拶を済ませる。
内心ドキドキしながら要件を尋ねたところ、それは思ってもいなかった内容であった。
「転校生…ですか?」
「そうなんですよ。何でもちょっと訳ありの子らしくて」
転校生――それ自体は別に珍しくはない。この学園では平均よりも多いぐらいだろう。人と魔が入り乱れた世界を更に縮小したような場所がここである。適応できずに抜けていくものは後を立たず、抜けた部分を埋めるように次の転校生が入ってくる。だが、訳ありという言葉と僕が呼ばれた理由でいくつかの可能性があるのだが――
「もしかして……人間ですか?」
「露峯君は話が早くて助かりますね。」
やっぱりか、と頭を抱えそうになる。これが妖怪の転入生であれば率先してクラス委員である鍛冶町媚呂が呼ばれるのだろうが、事人間が相手になると高確率で僕が呼び出される。なんせうちのクラスの中では数少ない完全な人間型である。狼男の銀羽や野干の夜湖も人型に関しては僕と遜色がないぐらいに人間に近いのだが、銀羽はふとした拍子で激情して変身をするし、夜湖はあることないこと吹き込もうとするので結果として僕に回ってきたということだろう。
「せめて鍛冶町にフォローをしてもらいたいんですけど…」
「そのつもりですよ。なんせ、陰陽師ですからね。」
「……それは…また…偉い厄介な奴ですね。」
唯でさえ初対面の生徒との会話なんかあまりしないのに、よりにもよって『初対面』の『人間』の『陰陽師』という3つが奇跡的にかけ合わさってしまっている。もしも1人でやらなければならなかったら、酷いことになっていたに違いない。
生徒の紹介は朝のSHRでするということなので、まずは鍛冶町にも説明をしておいて欲しいと頼まれ、会議があるからと抗議をする前に追い出されてしまい、気を重くしながら教室に戻るのであった。
そんな世間の常識が覆ってしまったのが、今から20年前の2000年だ。その年、その月、その日、その時間、その瞬間――人々の平凡な日常というのは音を立てて崩れ去った。
後に『混沌災』と呼ばれるそれは、世界の非常識を常識に塗り替えた。人にとっての常識も、妖怪にとっての常識も――ありとあらゆる物を一緒くたにし、かき混ぜてぶちまける。そんな誰の想像もできなかった事態が起きたのだ。
混乱をしたのは人ばかりではなく、妖怪も一緒。何せそれまで見ることもできなかった人間が目の前に現れたのだ。当然、悪さをしようとする妖怪も大量に現れたが、人間も抵抗を続けた。科学の力で妖怪達優勢の流れをあっという間にひっくり返し、両者泥沼の泥々試合にもつれ込んだまま人妖大戦争は僅か2月足らずで両者の人口がちょうど半分ずつになったところでどちらかが言うでもなく停戦と平和条約を結ぶ流れへと持ち込まれた。
最早互いに戦い続ける気力はなく、引くに引けないと意気込んでいた者達でさえ、戦後のことを考えると素直に頷く以外の選択肢を与えられず、渋々承諾。それでも最後まで反対をしていた者達は見せしめにされるかのように次々に処分をされてしまう羽目になった。
こうして、世界とそこに住まう者達の軋轢は臭いものに蓋をするかのように無理やり成り立たらせているのである。
さて、世界がこうして人妖ごちゃまぜになったところで少々問題が起きた。最初から浮き彫りになっていたのだが、互いの文化があまりにも違いすぎた。なまじお互いに知識を持ってしまっており、各々の文化が形成されてしまっているので、異文化交流をしようにもその変化に互いについていけなくなってしまったのだ。
そこで、考えついたのが『今は無理でも、この後の世代であればもしかしたら理想的な異文化交流ができるかもしれない』という丸投げ案である。
そうやって『人と妖が互いの異文化を学ぶことができる場』として設立されたのが『界立神妖学園』である。
そして、世界に6つしかない界立学校の中で、日本に設立された『神妖学園』に僕たちは通っている。
◇
伽藍、#伽藍と昼休みを告げる鐘の音が校舎内に響き渡る。この音を合図に廊下や窓の外に飛び出す生徒が続出し、購買は宛ら戦場の様相へと様変わりするのだ。
普段なら僕も皆に負けじと飛び出すのだが、今日はいつもとわけが違う。今僕の机の上には学校に来る途中のコンビニで買ってきたコンビニ弁当と紙パックの牛乳という僕用のお昼ご飯と、可愛らしいラッピングの施された女の子向けのお弁当箱が2つ――これは僕が食べるようではない、が置かれている。そして、普段は男子生徒の溜まり場になっている机は明らかに1つの机のキャパを超えている人数でしようをしている。何故か今日だけ僕と女子生徒が2名という夢のような状況《シチュエーション》になっているのだ。
「あら、露峯は今日は唐揚げじゃないのね?珍しいこともあるものだわ。」
「え、露峯さんって唐揚げが好きなんですか?奇遇ですね!私唐揚げが料理の中で1番得意なんですよ!」
「唐揚げなんて誰でも簡単に作れる料理じゃない?そんなことよりそんなコンビニ弁当だけじゃ栄養が偏りそうだし、この煮物をちょっと分けてあげる。」
「唐揚げじゃなくて油淋鶏とかザンギだって作れますよ?それより鍛冶町さん、少し露峯さんに近寄りすぎじゃないですか?」
夢のような状況――のはずなんだが、なんでだろう、ちょっと空気がギスギスしている気がする。ここで鈍感系の主人公とかだと「へぇー今度食べさせてよ」とか空気を読まずに言うんだろうけど、生憎そこまで僕の肝っ玉は太くない。気の利いた洒落た一言で場を和ませる器用さもなければ、敢えて地雷を踏みに行く度胸もない。チキンだと笑わば笑うがいいさ。
なんでこんなことになったんだ。僕は今日の朝の出来事を振り返り、1人頭を悩ませる事になった。
僕は露峯 弘直。この春から『界立神妖学園』の高等部1年に所属することになった高校1年の16歳である。黒髪で黒い瞳、中肉中背と見るものが見たら唯の人間にしか見えない身体的特徴を持ち合わせている。別段イケメンではないが、太っているわけでもないし普通だと思いたい。
事の始まりは僕が学校に登校するや否や、職員室へと連れて行かれたことによる。当初、僕の脳裏をよぎったのはつい先日に起きたトンカラトン事件である。それまで交流のなかった生徒と腹を割って話し合うことが出来る様になった出来事であったと同時に、僕らの大事な仲間を危うく公然猥褻罪で失いそうになるという危険な出来事であった。あの時、全裸でコンビニに乗り込んだクラスメイトを止め、代わりに着替えを買い与えたのだ。うん、僕に落ち度はないはずだ。
僕を呼び出したのは担任の幼 美伊那先生である。回転椅子に腰掛け、事務机に向いて仕事を黙々とこなしている先生の姿はどう見ても小学生と言われても仕方がないものだろう。彼女はれっきとした大人である。小人と淫魔のハーフという絶対にかけ合わせてはいけない両親の下に生まれており、成人をしてもなお小人以上の身長にはならず、かと言ってその雰囲気は子供らしいかと言われたらそんなわけでもない大人の色気を兼ね揃えた要するに『ちょっとませ気味の小学校最上級生』な雰囲気の先生が幼先生である。
朝の職員室というのはその日1日の授業の準備があることから、割と皆忙しそうにしている。そんな先生方の合間を縫うように歩き、僕は先生の机へとたどり着く。僕が隣に立ったことで先生も僕の存在に気付き、椅子に座ったままこちらへと体を向け、「おはようございます」と互いに挨拶を済ませる。
内心ドキドキしながら要件を尋ねたところ、それは思ってもいなかった内容であった。
「転校生…ですか?」
「そうなんですよ。何でもちょっと訳ありの子らしくて」
転校生――それ自体は別に珍しくはない。この学園では平均よりも多いぐらいだろう。人と魔が入り乱れた世界を更に縮小したような場所がここである。適応できずに抜けていくものは後を立たず、抜けた部分を埋めるように次の転校生が入ってくる。だが、訳ありという言葉と僕が呼ばれた理由でいくつかの可能性があるのだが――
「もしかして……人間ですか?」
「露峯君は話が早くて助かりますね。」
やっぱりか、と頭を抱えそうになる。これが妖怪の転入生であれば率先してクラス委員である鍛冶町媚呂が呼ばれるのだろうが、事人間が相手になると高確率で僕が呼び出される。なんせうちのクラスの中では数少ない完全な人間型である。狼男の銀羽や野干の夜湖も人型に関しては僕と遜色がないぐらいに人間に近いのだが、銀羽はふとした拍子で激情して変身をするし、夜湖はあることないこと吹き込もうとするので結果として僕に回ってきたということだろう。
「せめて鍛冶町にフォローをしてもらいたいんですけど…」
「そのつもりですよ。なんせ、陰陽師ですからね。」
「……それは…また…偉い厄介な奴ですね。」
唯でさえ初対面の生徒との会話なんかあまりしないのに、よりにもよって『初対面』の『人間』の『陰陽師』という3つが奇跡的にかけ合わさってしまっている。もしも1人でやらなければならなかったら、酷いことになっていたに違いない。
生徒の紹介は朝のSHRでするということなので、まずは鍛冶町にも説明をしておいて欲しいと頼まれ、会議があるからと抗議をする前に追い出されてしまい、気を重くしながら教室に戻るのであった。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
異世界物怪録
止まり木
ファンタジー
現代日本のどこかに、数多の妖怪達が住む隠れ里があった。
幾重にも結界が張られ、人間が入り込むことの出来ない、正に妖怪達の桃源郷。
妖怪達はそこでのんびり暮らしていた。だが、ある日突然その里を地震が襲った。
慌てふためく妖怪達。
地震が止んだ時、空に見た事の無い星星が浮かんでいた。
妖怪達は自らの住んでいた里事、異世界へと飛ばされてしまったのだった。
これは、里事異世界のエルフの森に飛ばされた妖怪達が、生きる為に力を合わせて生活していく物語。
"小説家になろう"様でも重複掲載しております。
不定期更新
始まりは、全てが闇に包まれて
桜咲朔耶
ファンタジー
多くの人が知っている神話、天岩戸の物語。
その裏には知られざる事件が…!?
神の加護を受けし少年×赤ん坊の頃神社の前で捨てられた少女
神話を巡る学園現代ファンタジー
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる