上 下
14 / 31
江戸時代。彼らと共に歩む捜査道

河童2

しおりを挟む
「はぁ。」
もう、私はそうとしか声がでない。鬼火の次は河童と来たものだから。
「いや、わしも信じとる訳ではない。しかし、実際に被害が出ているんだ。」
げっそりとした表情で、よく見てみれば、いささかやつれている気もする。
「すまん、店主。ほかの客の迷惑になっては、と思い、開店時間より早く来たが、その、甘いものが欲しくなってな。すまぬが、あのばななぱふぇを一つ頼めるだろうか……?」
一郎さんが指さしたのは、いつの間にかポスターも出ている、オレオクッキーのついた新作のバナナパフェである。念のため玉藻前に視線を送ると、私が張ったのではない、いつの間にか張られていた、と小声で教えてくれた。
パフェを一郎さんの目の前に置き、スプーンを渡す。一口食べた後、一郎さんは気が抜けたようにはあ、と息を吐いた。
「冷えた水ではないが、この店の甘味は、暑い夏や疲れたときにはよく身に染みるな。生き返るようだ。」
「おい、食べるのはいいが、もっと詳しく言え。それで?昨日はどこでどのように何が起きたのか、この店主に教えてやれ。」
「……女人をあまり荒事に巻き込みたくはないのだが。」
「今さらだろう?そもそも、犬の周りに事件が寄ってくるのが悪い。わたしはこの女から何日も離れる気はないし、巻き込みたくないのなら、今の職場やら事件を頼む知人とやらから離れることだな。」
「こら!なんてこというの…あら、でも職場?」
「ち、知人!そうだ、同じ職場の人を知人ともいうだろう!?」
「え?前は新選組に知り合いがって……。」
「今回の知人とは、別のやつなんだ!」
「えぇ……なるほど。」
(大変なのね、何人もの知人から事件を言われるなんて。)
その時、私は気が付いた。一郎さんの職業がわかってしまったのだ。ふつう、そんなに事件に触れることなどないだろう。そう、仕事で以外は……。
「まさか、一郎さんって……新聞者でしょう!?記者?っていうのかしら!?」
「……ん?」
スプーンを落とし、こちらを驚いた表情で見る一郎さん。
「ま、まて。キシャやシンブンシャって……何のことだ?」
「考えたな。店主。つまり、犬は事件のなどを紙に書き、民に知らせていると言いたいのか。」
「瓦版(かわらばん)のことか……!」
一郎さんは、ふむ、だの、ううむ、だのうねったあと、よくわかったな、と言った。
「あまり気づかれたくはなかったが……たしかに、わしは瓦版を売っている。民に事を素早く知らせなくてはいけないからな。」
「やっぱり……!」
「知人というのも、噂を話に来る奴らのことだ。まあ、わしらは依頼人と言っているが。わしは、真相がわかってから瓦版を書くため、調査が必要なのだ。まあ、可笑しなこと……前にあった火事や鬼火については、書けないが。上に伝え、審議をし、世に出しても問題のないもののみ書いている。玉や店主殿と関わってからおかしなこと続きで、ろくに書けていないため、いままでわしの書いた瓦版を見てはいないのだろう。」
「なるほど……。」
それで。
「私たちは、その河童さんに月にかわってお仕置きをすればいいんですね?」
「月…?」
「まてまて、それは犬には通じんぞ。」
手のひらを見せストップと体で表現している玉藻前とは真反対に、一郎さんは何のことか、ときょとんとしている。
「なんでもないですよ、ごめんなさいね。」
「はあ……。」
「気にするな、犬。それよりも、だ。」
ちらり、と玉藻前が一郎さんに目をやると、首を傾げた後、思い出したように頷いた。
「そういえば、詳しいことはまだ何も話せていなかったな。河童のことなんだが。」
__________________________________________
要約すると、つまりはこういうことだ。
この近くの坂東太郎(ばんどうたろう)という川で洗濯をしてはいけない。
なぜなら、
河童が出るというからだ。河童らしき姿を見、それが川に潜ったのを見て気味が悪く
なり慌てて洗濯物を川から引き揚げ家に帰っても、数日後に一家揃って体調を崩す
のだという。そう、河童を見た瞬間から、呪われているのだ……。 
__________________________________________ 
 
「何ですかそれぇ……!私の知ってる河童は、相撲を申し込んだりするかわいいフォルムの生き物なんですけど……!」 
「ふぃ……?よくわからんが、どうしたらいいのかも考えつかんで、そしたらこういうことに詳しいだろう玉が、昔祓い屋をしていて、解決の仕方に心当たりがあるというんで、恥を承知で力を借りに来たのだ。これで解決できんかったら、いよいよ進退これ谷まるのだが……。」 
「……少々お待ちくださいませー。」 
一郎さんにそう断ってから、玉藻前を店の奥の畳の部屋に連れていく。 
「祓い屋って……あなたどっちかっていうと退治される側でしょ!?というか、そんな安請け合いをして大丈夫なの……?あなたがケガとかしたら……。」 
「愛いな。心配してくれているのか。だがまあ、嘘は言ってないぞ?よく祓い屋(と対決)をしていたからな。」 
「かっこの中があるのとないので結構意味が変わるけれど!?」 
「ふ。それに、わたしを誰だと思っている。天下のお狐様だぞ。」 
彼がそう言った瞬間、部屋中が熱気に包まれる。彼が、青白い炎を手のひらから出したからだ。
その炎は、見ているだけで引き込まれそうで、見惚れていれば、ふっと消された。気づけば、私の腕は先ほどまで炎のあった彼の手のひらへと伸びている。あと数センチ、近づけば……。 
腕が炎に包まれ焼け落ちるのを想像しぞっとした。 
「美しかっただろう?人も物の怪もまどわす、恐ろしい炎。狐の専売特許だ。」 
「……こわいわ。ケーキが溶けたらどうするの。」 
「いや思っていた感想と違うな?」 
わかっているの、確かにあの時恐怖したのよ、わが身が炎に包まれることを想像して。しかしすぐに思い直す。私、彼の命の恩人だし、家に住まわせてあげてるし、彼からある程度の信頼あるはずだもの。傷つけられるいわれがないわ……と。あと。 
「お前は強かだな?」 
「正直、アイドル顔のイケメンに言われてもあんまり怖さがないのよね。」 
本心である。 
「……。なんだろうな。お前に魅力的な顔だといわれてうれしいが、妖怪として虚しい気分だ。
まあ、それはいい。いや、よくもないが……そろそろ、犬のもとへ行かなくてよいのか?わたしとしては、まだお前がわたしとともに二人でいたいというのなら、犬を放っておくが。」 
「あ……!忘れてたわ、一郎さん!すぐにいかなくちゃ……!」 
「私の口説きをスルーするな……。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...