上 下
12 / 31
江戸時代。彼らと共に歩む捜査道

鬼火 終

しおりを挟む
「……はぁ。」
「いやはぁ、で済むものか!?わしを置いて、二人で宿に先に戻るならそう言え!店主、このてぃらみすとやらを一つ!!」
「えっ?だって玉藻前説明したって…あ、ティラミスですね。はーい。」
玉藻前の、人外なるジャンプで帰った私たちのもとへ、二日たった朝に、疲れたような顔の一郎さんが来た。
「こやつは、あとは任せたとだけ言って消えたぞ??せめて行き先だけでも告げろ!何刻探し回ったと…」
ぶつぶつと説教をする一郎さん。そして、玉藻前は知らんぷりだ。
「ねぇ、玉藻前、妖怪のことばれたら面倒になるって言ってたけど、一郎さん知っちゃったわよ?」
小声でそう伝える。すると、ああ…と呻き声をあげ、こちらを見た。
「あやつは、生の観察眼が妙に鋭いし、どうやら何度もあっているうちに、縁が出来てしまったようでな。これからも遭遇することが多くなるだろうから、隠すのはより面倒だと思った。それだけだ。」
「あなたさんっざんわたしに口止めしておいて…!!」
「まぁ、お前の正体も、私の正体もばれてはいないから、いいではないか。我々に害がないなら、勝手に察しようが調べようが、知ったことはない。我が身と身内が一番かわいいのが妖怪だからな。それに、ほっとしているようだが…」
小声をやめ、おい、一郎も聞け、と言う。
「まだ謎は残っている。神主はどこへ、槍を投げてきた黒服…忍者とでもいうか?奴らの正体、雇い主……何一つ解決していない。幸い、店主の風貌は図体の大きい男二人に守られて見られなかったようだが、わたしと犬は確実に見られただろう。犬は自分で身を守れる、犬の知り合いとやらも自力で身を守れるだろう。だが、店主はわたしがいることで被害に合うかもしれん。」
「……玉。」
一郎さんは、気遣うように玉藻前を見る。
「だから、わたしはこのスタイルでいくことにする!!」
「……玉?」
奥の部屋に入り、でてきたのは、髪を一つ結びにした男だ。顔も髪の長さもかわっていない。一つ結びにしただけだ。
「っ!?なんだ、その髪の長さは!?」
しかし、一郎さんにはそうは見えなかったようで。そういえば、玉藻前が爽やかイケメンに変身したときのちょんまげに他の人は普段は見えてるって言ってたわね?
「ふっ、どうだ?髪だけでだいぶ変わるだろう?」
「なっ、なっ!?店主殿、こやつのことを本当に変だとは思ったことはないのか?!」
「……。」
(いやどうしろっていうのよ!?)
苦悶の表情を察したのか、玉藻前は言う。
「わたしは手品の使い手だからな!それに、この髪型は元々だろう…?」
すると、一郎さんはすこし無言になった後、何を言っている?と言った。
「……ふむ。髪型をちがくみせたりなどの、周りへの幻術はかかるが、犬自身に妖術をかけるのはできない、ということか。」
納得したように小声で私に話す玉藻前。そして、一郎さんに向き直る。
「まぁ、これで敵方にもわたしの居場所はわからぬだろう?」
「それはそうだが…。」
解せぬ、そもそもどうやって、という懸念が伝わってくる。実際、う~ん…とうねっていた。
「まぁ、なにはともあれ、あれから鬼火の事件はなくなったらしい。噂も、じきに消えるだろう。」
「…なんだと?あの黒服どもが、林に隠していた輝安鉱はどうしたんだ?」
「輝安鉱はなくなっていた。おおかた、あの黒服たちが動かしたのだろう。女どももいなかったな。…黒服の仲間で間違いなさそうだな。神社もみたのだが、綺麗に建て直されていた。何者の仕業かは分からぬがな…」
そう一郎さんがため息をつきながらティラミスをたべる。その横で、ニヤリと不適に笑う玉藻前。
「そういえば、ティラミスの意味は、〈私を元気にして〉だったな?知らなかったのだろうが、無意識でそんな意味をもつ菓子を?選ぶとは。よほど疲れているようだ。」
「誰のせいだと思っている。どんな手を使ったかは知らんが、神社関してはおまえがやったのだろう。」
えっ、と玉藻前をみると、神主が帰ってきたときに、あんなのでは悲しいからな、と呟いた。
「生きていると?」
「死んでいるとは限らん。それに…秘密基地のようなものが壊されてるのは、憐れでならん。わたしなら怒り狂う。」
同情しているようだ。
そんな玉藻前に、心底呆れた目を向ける一郎さんは、かすかに、微笑んだ気がした。
この三人でいる時間が、とても楽しいく、愛おしい…心に、その言葉がストン、と落ちてきた気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです

かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。  これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。  全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

ラッキー以外取り柄のない僕と呪われたイケメン

星井もこ
BL
 ちょっとした幸運——例えば、一夜漬けで張ったテストのヤマが全部当たるだとか、遅刻しそうな時にバスが数分遅れて出発してくれるだとか。そういう小さなラッキーに恵まれている僕は、それ以外に取り立てて優れたものを持たない。  さて、運が良い人間がいれば悪い人間ももちろん存在する。僕が出会ったイケメンの彼もその一人だ。  これは、呪われているかのような不幸体質の美形と、ちょっと神に気にかけてもらっているレベルのラッキー平凡ボーイが恋に落ちる話だ。

存在証明を望む少年と過保護なセクサロイド

麟里(すずひ改め)
BL
《あらすじ》 AIロボットが普及し生活に難なく馴染み始めた20××年、ストーナ王国。 ロイ=ライラックは貧しい家庭でありながら、家族には秘密で自らの体を売り生計を立てていた。 だが、それもセクサロイドの誕生のせいで絶たれることとなってしまう。 ロイは為す術も無くなってしまい自殺をしようとするが棄てられる寸前のセクサロイド、ユーフィに助けられ──

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

妹ばかりを優先する無神経な婚約者にはもううんざりです。お別れしましょう、永久に。【完結】

小平ニコ
恋愛
主人公クリスタのストレスは限界だった。 婚約者であるエリックとのデートに、彼の妹であるキャロルが毎回ついて来るのだ。可愛げのある義妹ならともかく、キャロルの性格は最悪であり、クリスタはうんざりしていた。 最近では、エリック自身のデリカシーのなさを感じることも多くなり、ある決定的な事件をきっかけに、クリスタはとうとう婚約の破棄を決意する。 その後、美しく誠実な青年ブライスと出会い、互いに愛をはぐくんでいくのだが、エリックとキャロルは公然と婚約破棄を言い渡してきたクリスタを逆恨みし、彼女と彼女の家に対して嫌がらせを開始した。 エリックの家には力があり、クリスタの家は窮地に陥る。だが最後には、すべての悪事が明るみに出て、エリックとキャロルは断罪されるのだった……

処理中です...