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江戸時代。彼らと共に歩む捜査道
鬼火 終
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「……はぁ。」
「いやはぁ、で済むものか!?わしを置いて、二人で宿に先に戻るならそう言え!店主、このてぃらみすとやらを一つ!!」
「えっ?だって玉藻前説明したって…あ、ティラミスですね。はーい。」
玉藻前の、人外なるジャンプで帰った私たちのもとへ、二日たった朝に、疲れたような顔の一郎さんが来た。
「こやつは、あとは任せたとだけ言って消えたぞ??せめて行き先だけでも告げろ!何刻探し回ったと…」
ぶつぶつと説教をする一郎さん。そして、玉藻前は知らんぷりだ。
「ねぇ、玉藻前、妖怪のことばれたら面倒になるって言ってたけど、一郎さん知っちゃったわよ?」
小声でそう伝える。すると、ああ…と呻き声をあげ、こちらを見た。
「あやつは、生の観察眼が妙に鋭いし、どうやら何度もあっているうちに、縁が出来てしまったようでな。これからも遭遇することが多くなるだろうから、隠すのはより面倒だと思った。それだけだ。」
「あなたさんっざんわたしに口止めしておいて…!!」
「まぁ、お前の正体も、私の正体もばれてはいないから、いいではないか。我々に害がないなら、勝手に察しようが調べようが、知ったことはない。我が身と身内が一番かわいいのが妖怪だからな。それに、ほっとしているようだが…」
小声をやめ、おい、一郎も聞け、と言う。
「まだ謎は残っている。神主はどこへ、槍を投げてきた黒服…忍者とでもいうか?奴らの正体、雇い主……何一つ解決していない。幸い、店主の風貌は図体の大きい男二人に守られて見られなかったようだが、わたしと犬は確実に見られただろう。犬は自分で身を守れる、犬の知り合いとやらも自力で身を守れるだろう。だが、店主はわたしがいることで被害に合うかもしれん。」
「……玉。」
一郎さんは、気遣うように玉藻前を見る。
「だから、わたしはこのスタイルでいくことにする!!」
「……玉?」
奥の部屋に入り、でてきたのは、髪を一つ結びにした男だ。顔も髪の長さもかわっていない。一つ結びにしただけだ。
「っ!?なんだ、その髪の長さは!?」
しかし、一郎さんにはそうは見えなかったようで。そういえば、玉藻前が爽やかイケメンに変身したときのちょんまげに他の人は普段は見えてるって言ってたわね?
「ふっ、どうだ?髪だけでだいぶ変わるだろう?」
「なっ、なっ!?店主殿、こやつのことを本当に変だとは思ったことはないのか?!」
「……。」
(いやどうしろっていうのよ!?)
苦悶の表情を察したのか、玉藻前は言う。
「わたしは手品の使い手だからな!それに、この髪型は元々だろう…?」
すると、一郎さんはすこし無言になった後、何を言っている?と言った。
「……ふむ。髪型をちがくみせたりなどの、周りへの幻術はかかるが、犬自身に妖術をかけるのはできない、ということか。」
納得したように小声で私に話す玉藻前。そして、一郎さんに向き直る。
「まぁ、これで敵方にもわたしの居場所はわからぬだろう?」
「それはそうだが…。」
解せぬ、そもそもどうやって、という懸念が伝わってくる。実際、う~ん…とうねっていた。
「まぁ、なにはともあれ、あれから鬼火の事件はなくなったらしい。噂も、じきに消えるだろう。」
「…なんだと?あの黒服どもが、林に隠していた輝安鉱はどうしたんだ?」
「輝安鉱はなくなっていた。おおかた、あの黒服たちが動かしたのだろう。女どももいなかったな。…黒服の仲間で間違いなさそうだな。神社もみたのだが、綺麗に建て直されていた。何者の仕業かは分からぬがな…」
そう一郎さんがため息をつきながらティラミスをたべる。その横で、ニヤリと不適に笑う玉藻前。
「そういえば、ティラミスの意味は、〈私を元気にして〉だったな?知らなかったのだろうが、無意識でそんな意味をもつ菓子を?選ぶとは。よほど疲れているようだ。」
「誰のせいだと思っている。どんな手を使ったかは知らんが、神社関してはおまえがやったのだろう。」
えっ、と玉藻前をみると、神主が帰ってきたときに、あんなのでは悲しいからな、と呟いた。
「生きていると?」
「死んでいるとは限らん。それに…秘密基地のようなものが壊されてるのは、憐れでならん。わたしなら怒り狂う。」
同情しているようだ。
そんな玉藻前に、心底呆れた目を向ける一郎さんは、かすかに、微笑んだ気がした。
この三人でいる時間が、とても楽しいく、愛おしい…心に、その言葉がストン、と落ちてきた気がした。
「いやはぁ、で済むものか!?わしを置いて、二人で宿に先に戻るならそう言え!店主、このてぃらみすとやらを一つ!!」
「えっ?だって玉藻前説明したって…あ、ティラミスですね。はーい。」
玉藻前の、人外なるジャンプで帰った私たちのもとへ、二日たった朝に、疲れたような顔の一郎さんが来た。
「こやつは、あとは任せたとだけ言って消えたぞ??せめて行き先だけでも告げろ!何刻探し回ったと…」
ぶつぶつと説教をする一郎さん。そして、玉藻前は知らんぷりだ。
「ねぇ、玉藻前、妖怪のことばれたら面倒になるって言ってたけど、一郎さん知っちゃったわよ?」
小声でそう伝える。すると、ああ…と呻き声をあげ、こちらを見た。
「あやつは、生の観察眼が妙に鋭いし、どうやら何度もあっているうちに、縁が出来てしまったようでな。これからも遭遇することが多くなるだろうから、隠すのはより面倒だと思った。それだけだ。」
「あなたさんっざんわたしに口止めしておいて…!!」
「まぁ、お前の正体も、私の正体もばれてはいないから、いいではないか。我々に害がないなら、勝手に察しようが調べようが、知ったことはない。我が身と身内が一番かわいいのが妖怪だからな。それに、ほっとしているようだが…」
小声をやめ、おい、一郎も聞け、と言う。
「まだ謎は残っている。神主はどこへ、槍を投げてきた黒服…忍者とでもいうか?奴らの正体、雇い主……何一つ解決していない。幸い、店主の風貌は図体の大きい男二人に守られて見られなかったようだが、わたしと犬は確実に見られただろう。犬は自分で身を守れる、犬の知り合いとやらも自力で身を守れるだろう。だが、店主はわたしがいることで被害に合うかもしれん。」
「……玉。」
一郎さんは、気遣うように玉藻前を見る。
「だから、わたしはこのスタイルでいくことにする!!」
「……玉?」
奥の部屋に入り、でてきたのは、髪を一つ結びにした男だ。顔も髪の長さもかわっていない。一つ結びにしただけだ。
「っ!?なんだ、その髪の長さは!?」
しかし、一郎さんにはそうは見えなかったようで。そういえば、玉藻前が爽やかイケメンに変身したときのちょんまげに他の人は普段は見えてるって言ってたわね?
「ふっ、どうだ?髪だけでだいぶ変わるだろう?」
「なっ、なっ!?店主殿、こやつのことを本当に変だとは思ったことはないのか?!」
「……。」
(いやどうしろっていうのよ!?)
苦悶の表情を察したのか、玉藻前は言う。
「わたしは手品の使い手だからな!それに、この髪型は元々だろう…?」
すると、一郎さんはすこし無言になった後、何を言っている?と言った。
「……ふむ。髪型をちがくみせたりなどの、周りへの幻術はかかるが、犬自身に妖術をかけるのはできない、ということか。」
納得したように小声で私に話す玉藻前。そして、一郎さんに向き直る。
「まぁ、これで敵方にもわたしの居場所はわからぬだろう?」
「それはそうだが…。」
解せぬ、そもそもどうやって、という懸念が伝わってくる。実際、う~ん…とうねっていた。
「まぁ、なにはともあれ、あれから鬼火の事件はなくなったらしい。噂も、じきに消えるだろう。」
「…なんだと?あの黒服どもが、林に隠していた輝安鉱はどうしたんだ?」
「輝安鉱はなくなっていた。おおかた、あの黒服たちが動かしたのだろう。女どももいなかったな。…黒服の仲間で間違いなさそうだな。神社もみたのだが、綺麗に建て直されていた。何者の仕業かは分からぬがな…」
そう一郎さんがため息をつきながらティラミスをたべる。その横で、ニヤリと不適に笑う玉藻前。
「そういえば、ティラミスの意味は、〈私を元気にして〉だったな?知らなかったのだろうが、無意識でそんな意味をもつ菓子を?選ぶとは。よほど疲れているようだ。」
「誰のせいだと思っている。どんな手を使ったかは知らんが、神社関してはおまえがやったのだろう。」
えっ、と玉藻前をみると、神主が帰ってきたときに、あんなのでは悲しいからな、と呟いた。
「生きていると?」
「死んでいるとは限らん。それに…秘密基地のようなものが壊されてるのは、憐れでならん。わたしなら怒り狂う。」
同情しているようだ。
そんな玉藻前に、心底呆れた目を向ける一郎さんは、かすかに、微笑んだ気がした。
この三人でいる時間が、とても楽しいく、愛おしい…心に、その言葉がストン、と落ちてきた気がした。
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