上 下
3 / 31
平安時代、彼と最初の捜査

純白の花嫁と飴屋

しおりを挟む
「え?」
ヨウコさんと別れたあと、飴屋を見に行くと、とても繁盛していた。
「何かあったんですか?」
「ん?ああ、ここの飴屋、嫁さんが帰ってきたらしいよ。しかも、飴をくわえた赤ん坊を連れて。そんで、最近でてた女の霊は、もしかしたら飴をやることで赤ん坊と嫁さんを連れてきてくれた、女神様じゃあないかって話なんだよ。」
「そうそう、そんで、新婚の私たちが来たって訳さ。元気でかわいい赤ん坊を授けてほしいからねぇ。しかも、その飴を子供にやると、いいことが起こるそうじゃないか。」
「え、え??そうなんですか??」
イチャイチャしてる夫婦は、幸せそうに飴を買って帰っていった。
「あれは、霊じゃなくて女神様なの?」
なぜそんなことになっているかわからず、家へと帰り、パソコンを開く。
「京都の六道辻・・・飴屋、と。」

検索すると、歴史ある飴屋の記事がでてきた。
《みな◯や幽霊子育飴本舗

霊が、赤ん坊を育てるために飴を貰いに行くという伝説がある。女が飴屋に毎夜来るという。それが続いた飴屋の主人は、寝込んでしまった。それを聞き付けた近所の若者たちが飴屋で女を待ち、あとをつけると、女は墓場へと向かい、ふっと姿を消した。》

「え、これって・・・。」
間違いない、近所の若者とは、私とヨウコさんのことだ。ふっと姿を消したのも本当で、霊は墓に向かっていた。
「でも、どうしてその事が・・・。」
もしかして、と今朝のわたしの行動を思い出す。
「私が、広めたから?」
でも、広めろと言ったのはヨウコさんである。いや、そもそもなぜわざわざ広めろと言ったのか。そういえば、近所の人たちは六道辻のことをなにも知らなかった。毎夜飴屋に霊が来ていたら、騒ぎになるというのに。いや、ならば孝太さんは、なぜ知っていた?あまり焦りのないようにも見えた。
「・・・んー、もう!わからないわよ、なんにも!」
夜には聞けるだろうから、ベットにはいって寝た。

「それでは、行くぞ。」
店の前に、ヨウコさんは、夜の11時ごろに来た。彼は、六道辻を通りすぎ、飴屋へとはいる。
「え、ちょっと。幽霊を見に行くんじゃないんですか?」
「なぜわざわざだれも来ない六道辻を見ていなきゃならんのだ。もう霊はここにいる。」
「は?なにを・・・。」
「おい、ここの主人はいるか!」
声を張り上げたヨウコさんに、きれいな女の人が、主人は今は寝込んでいて、かわりにわたしが受け付けるという。
「やはりな。さて、答え合わせとしよう。女、だれかに似ていないか?」
「え」
じっと奥さんを見ると、たしかにだれかににている気がする。そう、つい昨日見かけたばかりの・・・。
「飴を貰いに来る幽霊!?」
「!!」
奥さんは、どうして、と呟いた。
「やはりな。この女はあの幽霊で間違いない。いや、生きているのだから幽霊ではないな。」
「ど、どどど、どうしてここに・・・!」
「それは、ここの主人の妻だからだ。聞くところによると、主人は寝込んでいるらしいな。それは、霊が妻だと気づき、昼に仕事をしていながら、夜も眠らず妻をまっていたからだ。」
「待ってください、でも、どうしてヨウコさんは妻だと思ったんですか!?」
「思い出せ。子供を望まない男がいた、女房に逃げられた、女房が子供を抱いて帰ってきた・・・そういう噂は聞いたな?すべて、この飴屋での出来事ということだ。まず、こんな噂は聞いたとお前が話したときから気づいていた。これはすべて、飴屋の主人の話ではないかと。お前に広めろと言ったのは、そのような情報を得るためだ。そして、妻は思うだろう。騒ぎになっては、帰るしかない。主人は寝込んでいるらしいから、商売ができず食べるものがなくなってしまう。私のせいで、と。」
「でも、どうしてお墓に・・・。」
「簡単だ。墓を通りすぎたところに嫁の実家があるからだ。墓を通った方が、近道なのだろう。」
「でも、消えたじゃないですか!?」
「それは、嫁は、墓で転んだからだ。それをちょうど、わたしたちは目撃した。まぁ、いい時だったな。転んだのだとわかっていたから、お前に話に集中させ、さも霊がでたかのように思わせ噂を広めたのだ。そうすれば、情報源が来ると思ったからな。」
「情報源・・・?いや、そもそも、生きてるなら、どうしてやつれて、顔色悪く、しかも白無垢着てたんですか!?」
知らないのか、とめんどくさそうな目を向けられる。
「やつれて顔色が悪かったのは、食べ物が少なかったからだ。女が働ける訳がない。しかも、嫁入りをした娘だ。どうにか両親の稼ぎで食べていたのだろうが、子供もいる。食事はすべて赤ん坊に流れたのだろう。飴は重要な栄養源だ。食事を少しでも多く確保したかったのだろう。子を孕んでしまった自分は会わせる顔はないが、白無垢を着て、貰いに行くときだけ嫁として貰いにいったのだろう。まあ、婚儀をあげた白無垢を、どうしても売ることができなかったこともあるだろうが。」
「どうして、白無垢が関係するんですか?」
「白とは、"死"を意味する。つまり、生家の娘としては死に、嫁入りをした家の女に生まれ変わるという意味があるんだ。だから、そのときだけは白無垢を来たことによって、嫁だと言いたかったのだろう。愚かだな。だが、主人はもっと愚かだ。身体を壊すとはな。」
「え!?そういうことなんですか!?え、じゃあ情報源って・・・?」
「老いぼれのことだ。孝太、と言ったか?そやつは、主人の父親だな。主人から、嫁が毎夜飴を貰いに来ることを聞いたのだ。どうにか嫁に戻ってきてほしかったから、悩んでいたのだろう。」
「でも、誰も幽霊のこと知りませんでしたよ?」
「言いたくなかったのだろうな。」
でも、ならばなぜ私には話したのかがわからない。孝太さんの知り合いというほどで、そこまで親しいほどではない。
「あの、しょこらけえきとやらは、どうやら酒が入っているようだな?」
「は、はい、たしかに・・・。チョコレートですし、入ってますけど。」
「孝太はきっと、酒に弱かったのだろう。だから、うっかり口が滑ってしまった。」
そういうこと!?と口をあんぐり空けると、阿呆めがと笑われた。
「さて、間違いはないな?幽霊の女。」
奥さんのほうをむき、確信に満ち溢れたかおで見つめる。奥さんは、少し目線をうろつかせたあと、頷いた。
「はい、そうです。彼は、子を望んでいませんでした。だから、子を孕んでしまった私は、この家にいられないと思ったんです。でも、家に帰っても、家計は苦しくて・・・。夜中にこっそりと飴を盗めば、子供も食べれて、彼も幻滅して、新しい人を見つけてくれる。ひどいことをしたとは思っています。」
「だが、主人は待っていたんだな。嫁が帰ってきてくれることを。子を抱いて戻ったときは、喜ばれたのだろう?」
「・・・はい。私は、馬鹿でした。彼は、私の身体を思い、子を急かさなかったそうです。私は、彼のことを勘違いしていました。政略、結婚でしたので・・・。」
泣きそうな顔で、ひたすら頷く奥さん。それを見て、帰るぞ、とヨウコさんは私に言った。

帰り道、私は、きづいた。
「そういうことなら、言ってくれればよかったのに。」
「お前は、演技が下手そうだからな。」
「騙したんですか!?」
「言っただろう?私は、騙すのが好きなんだ。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛くない女と婚約破棄を告げられた私は、国の守護神に溺愛されて今は幸せです

かのん
恋愛
「お前、可愛くないんだよ」そう婚約者から言われたエラは、人の大勢いる舞踏会にて婚約破棄を告げられる。そんな時、助けに入ってくれたのは、国の守護神と呼ばれるルイス・トーランドであった。  これは、可愛くないと呼ばれたエラが、溺愛される物語。  全12話 完結となります。毎日更新していきますので、お時間があれば読んでいただけると嬉しいです。

どうせ結末は変わらないのだと開き直ってみましたら

風見ゆうみ
恋愛
「もう、無理です!」 伯爵令嬢である私、アンナ・ディストリーは屋根裏部屋で叫びました。 男の子がほしかったのに生まれたのが私だったという理由で家族から嫌われていた私は、密かに好きな人だった伯爵令息であるエイン様の元に嫁いだその日に、エイン様と実の姉のミルーナに殺されてしまいます。 それからはなぜか、殺されては子どもの頃に巻き戻るを繰り返し、今回で11回目の人生です。 何をやっても同じ結末なら抗うことはやめて、開き直って生きていきましょう。 そう考えた私は、姉の機嫌を損ねないように目立たずに生きていくことをやめ、学園生活を楽しむことに。 学期末のテストで1位になったことで、姉の怒りを買ってしまい、なんと婚約を解消させられることに! これで死なずにすむのでは!? ウキウキしていた私の前に元婚約者のエイン様が現れ―― あなたへの愛情なんてとっくに消え去っているんですが?

前世の祖母に強い憧れを持ったまま生まれ変わったら、家族と婚約者に嫌われましたが、思いがけない面々から物凄く好かれているようです

珠宮さくら
ファンタジー
前世の祖母にように花に囲まれた生活を送りたかったが、その時は母にお金にもならないことはするなと言われながら成長したことで、母の言う通りにお金になる仕事に就くために大学で勉強していたが、彼女の側には常に花があった。 老後は、祖母のように暮らせたらと思っていたが、そんな日常が一変する。別の世界に子爵家の長女フィオレンティーナ・アルタヴィッラとして生まれ変わっても、前世の祖母のようになりたいという強い憧れがあったせいか、前世のことを忘れることなく転生した。前世をよく覚えている分、新しい人生を悔いなく過ごそうとする思いが、フィオレンティーナには強かった。 そのせいで、貴族らしくないことばかりをして、家族や婚約者に物凄く嫌われてしまうが、思わぬ方面には物凄く好かれていたようだ。

そちらがその気なら、こちらもそれなりに。

直野 紀伊路
恋愛
公爵令嬢アレクシアの婚約者・第一王子のヘイリーは、ある日、「子爵令嬢との真実の愛を見つけた!」としてアレクシアに婚約破棄を突き付ける。 それだけならまだ良かったのだが、よりにもよって二人はアレクシアに冤罪をふっかけてきた。 真摯に謝罪するなら潔く身を引こうと思っていたアレクシアだったが、「自分達の愛の為に人を貶めることを厭わないような人達に、遠慮することはないよね♪」と二人を返り討ちにすることにした。 ※小説家になろう様で掲載していたお話のリメイクになります。 リメイクですが土台だけ残したフルリメイクなので、もはや別のお話になっております。 ※カクヨム様、エブリスタ様でも掲載中。 …ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº… ☻2021.04.23 183,747pt/24h☻ ★HOTランキング2位 ★人気ランキング7位 たくさんの方にお読みいただけてほんと嬉しいです(*^^*) ありがとうございます!

ラッキー以外取り柄のない僕と呪われたイケメン

星井もこ
BL
 ちょっとした幸運——例えば、一夜漬けで張ったテストのヤマが全部当たるだとか、遅刻しそうな時にバスが数分遅れて出発してくれるだとか。そういう小さなラッキーに恵まれている僕は、それ以外に取り立てて優れたものを持たない。  さて、運が良い人間がいれば悪い人間ももちろん存在する。僕が出会ったイケメンの彼もその一人だ。  これは、呪われているかのような不幸体質の美形と、ちょっと神に気にかけてもらっているレベルのラッキー平凡ボーイが恋に落ちる話だ。

存在証明を望む少年と過保護なセクサロイド

麟里(すずひ改め)
BL
《あらすじ》 AIロボットが普及し生活に難なく馴染み始めた20××年、ストーナ王国。 ロイ=ライラックは貧しい家庭でありながら、家族には秘密で自らの体を売り生計を立てていた。 だが、それもセクサロイドの誕生のせいで絶たれることとなってしまう。 ロイは為す術も無くなってしまい自殺をしようとするが棄てられる寸前のセクサロイド、ユーフィに助けられ──

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

妹ばかりを優先する無神経な婚約者にはもううんざりです。お別れしましょう、永久に。【完結】

小平ニコ
恋愛
主人公クリスタのストレスは限界だった。 婚約者であるエリックとのデートに、彼の妹であるキャロルが毎回ついて来るのだ。可愛げのある義妹ならともかく、キャロルの性格は最悪であり、クリスタはうんざりしていた。 最近では、エリック自身のデリカシーのなさを感じることも多くなり、ある決定的な事件をきっかけに、クリスタはとうとう婚約の破棄を決意する。 その後、美しく誠実な青年ブライスと出会い、互いに愛をはぐくんでいくのだが、エリックとキャロルは公然と婚約破棄を言い渡してきたクリスタを逆恨みし、彼女と彼女の家に対して嫌がらせを開始した。 エリックの家には力があり、クリスタの家は窮地に陥る。だが最後には、すべての悪事が明るみに出て、エリックとキャロルは断罪されるのだった……

処理中です...