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鳥居の男
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騎士のいなくなった、がらんとした屋敷からでれば、そこはなぜか街中でした。
さきほどの森などは、鬼の奇術だったのでしょうか。あちこちに出店が開いており、もう辺りは暗いので、所々灯りをともし始めていました。
人びとが行き逢うそこは、まさに隣国にある夜市のようです。
「うわぁ…!すごいねここ!!でもどこの街だろ……。」
しかし、とても隣国に類似していると言うのに、そこにいる人びとの格好や物、文字さえもが見慣れず珍妙でした。
その光景に、佩芳は不思議そうに首をかしげてはいますが、私の心には、胸になにかがつっかえたような、もやもやとした気が広がっていきます。
「佩芳、すぐにここを離れ……っ⁉」
振り返れば嫌でも衝撃を受けさせられます。屋敷さえも幻覚だったのかと。
振り返ったそこには、夜市の道が広がっていたのです。
二人して息を飲んでいれば、酒の芳しい匂いが鼻につきました。
「よぉ~、兄さん方ー。この夜市に来んのは初めてかぁ?」
頭に布らしきものを巻き、よれたシャツに、不思議な形の、ずいぶん大きな湯呑みを手に持っておりました。中には、辺りに立ち込める匂いのもととなっている酒が入ってるようです。
「こっちでビール一緒に飲もうぜぇ~!」
「かぁー!このいっぱいがたまらねぇ!!女将、おでんも頼む!」
びぃる、とやらをと言われ、知らぬ酒の名に、好奇心にかられて屋台に素直につれていかれました。
「ああ、女将、こっちの二人も同席……。」
この女性が数少ない世界で、女性が店の店主をしているとは、と物珍しく思っていれば、ぱちり、と女将と呼ばれている女性と目が合います。
「っな……。」
彼女の美しい唇が、みるみるわななき、手から食器を落とさせました。
「……え、君の奥さん……。」
佩芳が呆然と彼女と私をみます。
彼女は踵を返して、屋台から抜け出し夜市へと紛れていきます。私たちは見逃さないよう走りましたが、彼女はとてつもなく足が早く、距離を縮めるのは難題でした。
いよいよ、彼女が夜市を抜け、街を抜け、観光名所のような、豪華な飾り付けされた場所を抜け、森の中へと消えてしまいました。
「ぜぇーーっ!!はぁーーー!!君たち体力バケモンじゃない!?お似合いだよっ!!」
少し遅れてきた佩芳が、苦しそうに呼吸を繰り返しながらそう叫びました。私は気にせず、森の中へと足を踏み入れます。
すでに、彼女が見間違いなどでなく本人で、何かの鍵を握っていると感じていたからです。はやく彼女を捕まえ、なにを知ってるのか聞き、家へと連れ帰らなければ。
「ちょ、冷酷無情ってこの事かな!!?まってよ…!!」
森のなかには整備された道があり、端には数多くの灯籠が設置されておりました。
「……こんな森、だれが。」
整備など、と呟こうとしたそのとき。真横の灯籠に火が灯ったのが見えました。
それを機とでもいうように、私たちが向かう道へと順に、しかし圧巻されるほど瞬間的に、灯籠に火が宿り始めます。
その風景は、信じがたく現実味のない迫力と美しさがあり、落ちる朱く染まった葉や、とうもろこしのような色の二手にわかれた葉、儚く透明な花びらさえもが私たちを驚かせます。
二人が言葉を失い、呆然とたっていれば、遥かさきの灯籠に灯りがついたことにより、大きな鳥居が照らされ、追い討ちをかけるように、その美しさが目に入りました。
「……。」
鳥居の真ん中に立つ男。雨も降っていないというのに和紙のようなもので作られた傘を肩にかけ、さしている男は、こちらをじっと見つめています。
その男が、ゆっくりと口を動かしました。声などひとつも聞こえません。しかしはっきりと見えました。
『鬼ごっこ』ーーーーと。
「……佩芳、今度の敵は、彼のようですよ。」
「あの騎士と同じような鬼かなぁ。だったら桃饅頭でいけるのに……。」
「すこしくらいは工夫してるでしょう。」
強く睨み付ける私に、彼は口角を上げたのだった。
さきほどの森などは、鬼の奇術だったのでしょうか。あちこちに出店が開いており、もう辺りは暗いので、所々灯りをともし始めていました。
人びとが行き逢うそこは、まさに隣国にある夜市のようです。
「うわぁ…!すごいねここ!!でもどこの街だろ……。」
しかし、とても隣国に類似していると言うのに、そこにいる人びとの格好や物、文字さえもが見慣れず珍妙でした。
その光景に、佩芳は不思議そうに首をかしげてはいますが、私の心には、胸になにかがつっかえたような、もやもやとした気が広がっていきます。
「佩芳、すぐにここを離れ……っ⁉」
振り返れば嫌でも衝撃を受けさせられます。屋敷さえも幻覚だったのかと。
振り返ったそこには、夜市の道が広がっていたのです。
二人して息を飲んでいれば、酒の芳しい匂いが鼻につきました。
「よぉ~、兄さん方ー。この夜市に来んのは初めてかぁ?」
頭に布らしきものを巻き、よれたシャツに、不思議な形の、ずいぶん大きな湯呑みを手に持っておりました。中には、辺りに立ち込める匂いのもととなっている酒が入ってるようです。
「こっちでビール一緒に飲もうぜぇ~!」
「かぁー!このいっぱいがたまらねぇ!!女将、おでんも頼む!」
びぃる、とやらをと言われ、知らぬ酒の名に、好奇心にかられて屋台に素直につれていかれました。
「ああ、女将、こっちの二人も同席……。」
この女性が数少ない世界で、女性が店の店主をしているとは、と物珍しく思っていれば、ぱちり、と女将と呼ばれている女性と目が合います。
「っな……。」
彼女の美しい唇が、みるみるわななき、手から食器を落とさせました。
「……え、君の奥さん……。」
佩芳が呆然と彼女と私をみます。
彼女は踵を返して、屋台から抜け出し夜市へと紛れていきます。私たちは見逃さないよう走りましたが、彼女はとてつもなく足が早く、距離を縮めるのは難題でした。
いよいよ、彼女が夜市を抜け、街を抜け、観光名所のような、豪華な飾り付けされた場所を抜け、森の中へと消えてしまいました。
「ぜぇーーっ!!はぁーーー!!君たち体力バケモンじゃない!?お似合いだよっ!!」
少し遅れてきた佩芳が、苦しそうに呼吸を繰り返しながらそう叫びました。私は気にせず、森の中へと足を踏み入れます。
すでに、彼女が見間違いなどでなく本人で、何かの鍵を握っていると感じていたからです。はやく彼女を捕まえ、なにを知ってるのか聞き、家へと連れ帰らなければ。
「ちょ、冷酷無情ってこの事かな!!?まってよ…!!」
森のなかには整備された道があり、端には数多くの灯籠が設置されておりました。
「……こんな森、だれが。」
整備など、と呟こうとしたそのとき。真横の灯籠に火が灯ったのが見えました。
それを機とでもいうように、私たちが向かう道へと順に、しかし圧巻されるほど瞬間的に、灯籠に火が宿り始めます。
その風景は、信じがたく現実味のない迫力と美しさがあり、落ちる朱く染まった葉や、とうもろこしのような色の二手にわかれた葉、儚く透明な花びらさえもが私たちを驚かせます。
二人が言葉を失い、呆然とたっていれば、遥かさきの灯籠に灯りがついたことにより、大きな鳥居が照らされ、追い討ちをかけるように、その美しさが目に入りました。
「……。」
鳥居の真ん中に立つ男。雨も降っていないというのに和紙のようなもので作られた傘を肩にかけ、さしている男は、こちらをじっと見つめています。
その男が、ゆっくりと口を動かしました。声などひとつも聞こえません。しかしはっきりと見えました。
『鬼ごっこ』ーーーーと。
「……佩芳、今度の敵は、彼のようですよ。」
「あの騎士と同じような鬼かなぁ。だったら桃饅頭でいけるのに……。」
「すこしくらいは工夫してるでしょう。」
強く睨み付ける私に、彼は口角を上げたのだった。
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