桃姫に捧げる帝の恋綴り

マカロン

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美男と野獣

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「……あのぉー、騎士さーん?なーんだかとても深いもりの奥へ進んでる気がするんだけど……。」

佩芳が不満げに声を漏らします。一時間ほど歩いている気がするのは気のせいでしょうか。
「ああ……家は少し遠いんだ。」
「でもかれこれ16キロは歩いてるよー!?人間の足の平均が一時間で二キロらしいのに、八倍の速度で移動してるのなんで!?」
「いまさらか?俺はなぜいままで値を上げずついてこられてるのか疑問だと思っていたところだ。二人とも、なかなかに骨があるじゃないか。その苦労を女神はみていたようだぞ。ほら、もう、すぐそこだ。」

騎士が手で指し示したのは、大きな城だった。中へ案内され、とても大きな食堂へ連れていかれます。

「さぁ、お食事をどうぞ。」

テーブルに出されたのは、皿とナイフ、そしてフォークのみでした。

「えぇー、そんな冗談いまはいいよ。もう俺、おなかぺっこぺこー!」

佩芳が椅子に座りながら足をバタつかせ抗議します。

「冗談?はて。」

しかし騎士は、冗談ではないとでも言うように、首をかしげました。そして、その口は、恐ろしいことを……申しました。

「ーーー新鮮なおかずがいるだろう?」

その目は私達を捉えています。その言葉を合図に、ナイフやフォークが、ひとりでに垂直にたち、刃先が私達のほうへ向かっているのに気がつきました。

「ーーっ!!は、なに、そ、れ……」
「佩芳!!呆然としている暇はありません!!」

青ざめ呆気に取られている佩芳を、すぐさま椅子から引き上げ、テーブルから距離を取ります。ビュンッ、と空気を切り裂く音がそのあと起き、先程まで佩芳と私がいた椅子の背もたれには、机に置かれてたナイフたちが突き刺さっておりました。

「避けられたか。残念だな。まぁ、たまには焦らされるのも悪くない。」

ペロリと覗いた舌は、獣のように長く歪でした。

「なんなんです、貴方!!」
「そんなことよりなんでナイフ飛んできたの!?えっ!?」

騎士は、私達に、答えます。その間、姿が、世にもおぞましい人ならざるものへと変形していきました。

「人々が恐れる鬼の一人だ。鬼には特殊な能力がひとつあってな。俺は【美男と野獣】。人々が美しいと評する姿を取り、誘い込むことができる。」
「そして誘い込んだ獲物を、野獣のように殺して食べる……悪趣味ですね。」
「弱肉強食、それが世界の理だろう?」

にたりと笑う口の中には尖った歯がびっしりと並んでおり、目はこれまで啜ってきた肉と血のように赤く染まっている。手先は鋭くなり、一振でもされれば、二つにわかれるほど強力だと本能で理解しました。

「ディナーの時間だ。」

狼の遠吠えが聞こえます。城の周りを彷徨いているのでしょうか。
……私達を、野獣の餌にするために。すぐさま部屋を出て、城を逃げ回ることにしました。
案の定、というか、この広い城の中を逃げていれば、ときたま狼に遭遇しました。
 佩芳と狼がともに驚き、飛び上がったのはいい思いでです。私は冷静に持っていた銃で打ちました。どうやら、残念なことにこの銃は麻酔銃だったようです。これでは、あの騎士を確実に仕留め、息の根を止めることができません。
 そういえば、狂喜的な凶器をもつ佩芳に、手に持っているチェーンソーで戦わないのかと聞けば、こんな残酷な殺し方、俺にはできないと弱音を吐きました。心優しいというべきか、状況を省みて、度胸がないと言うべきか。

そうして襲いかかる狼を、主に私が撃退していれば、妙に入りたくなる部屋がありました。男の勘、というやつでしょうか。佩芳も、なんだかんだいって入りたそうにみており、満場一致で部屋に侵入することにします。鍵がかかっておりましたが、佩芳が針金を使い解錠してくれました。もしかすると、彼は泥棒が職業なのかもしれません。妙に手慣れておりました。

そこは、壁に血痕が付いていることと、落ちている腕や人間の目玉などの一部を除けば、とても落ち着いた部屋でした。

「……え、ここあの騎士の部屋ジャーン……なんで入ったの俺たち……っ!!?俺言っとくけどこういうホラー展開苦手なんだよっ!!?ホラー小説手で目を覆いながらみるタイプ!」
「それでは読み進められないでしょう……。うじうじしてたら夜になって寝れなくなるタイプとみました。」
「正解だよっ!!というか、なんでそんな冷静でいられるわけっ!?」
「私はすぐにでも海の悪霊を倒して家に帰りたいんです!そのためにはここから脱出しなければなりません、男は度胸!」

恐ろしく震えている佩芳を置いて、私は部屋の中を調べます。幸い、追いかけてきているであろう騎士の足音はしません。うまく撒けたようです。

本棚を調べていれば、【力こそ全て】【よい男は筋肉から】【魔物の弱点100選】など、半分以上体を鍛えている本が置かれているなか、この状況に有効そうな本を見つけました。

「……これ、罠だと思います?正気の人があからさまにこんなわかりやすいところに弱点の本を置かないと思うのですが。」
「うーん……でも自室だからねぇ。こういう本、普通は自室に置くんじゃない?俺たちが勝手に侵入しちゃっただけで危機管理しっかりしてると思うよ。」

佩芳は、恐怖から立ち上がったのか、足を震えさせながら本棚から本をとりました。

「魔物の弱点100選、ねぇ……。あいつのことも載ってそうじゃない?えーっと、能力の目次目次……。」

たしか美男と野獣、と名乗っていたので、目次にて【美男と野獣、鬼】で探します。載っていました。

「アイツに聞くのはにんにくと~、玉ねぎと~、チョコレート……これ動物一般が毒になる食べ物だけど、あの騎士、犬猫と毒耐性一緒なの?」
「鬼って言ってましたし、人間とは違うのでしょうか。……生姜焼きやパフェなど食べれないのでしょうねぇ。しかし……佩芳、そう都合よくどれかしら持ってます?」
「……ないね。無事帰れたら持ち歩かないと……。」

雀の涙ほどの希望をかけ、彼は帰れたらと言います。彼は、本を読み進めていると、何かに気がついたように声を出しました。

「…………桃饅頭って、」
「あげませんっっ!!」

懐にある、大切な桃饅頭を敵に食べさせるなど言語道断、と言えば命のためだと思って、と言われました。どうやら、本には鬼にたいして、桃も有効だというのです。

「……渡すくらいなら、ここで死にますよ!」
「ねぇほんとに命大切にしよ??饅頭なんて、帰ったらできたて作って貰えばいいじゃんか。」
「……ですが……。」
「駄々捏ねないの!これ食べさせれば倒せるかもなんだから!」
「ああっ!!私の……っ!!」

懐から爽やかな手口で、するりと桃饅頭のはいった袋を抜き取られました。

そして、彼は爽やかな顔で笑い、こう言いました。

「鬼退治と行こうじゃないか!」

手に人質のように饅頭の袋をもつ、彼の笑みは、何よりも私の背筋を凍らせました。
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