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第三章 第七節 神の死
7 神殿の役割
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トーヤが言うところの「作戦」はうまくうまく進んでいた。
「シャンタルの死」とその後の「葬送の儀」についての触れは翌朝割と早くに神殿から発表された。
宮からの発表ではないのは「シャンタル宮」と「シャンタル神殿」は役割が違うからだ。
「シャンタル宮」は文字通りシャンタルのための宮殿、生き神シャンタルの養育と託宣のための宮殿である。生き神の生活の場、シャンタルの力を受け継いでいくための場である。
対して「シャンタル神殿」は「シャンタル神」にまつわるすべての祭事を執り行うための場である。「交代の儀」をはじめ、その他の儀式はすべて神殿の役割となる。そのために此度の「シャンタルの葬送」も神殿によって一切を執り行われることになっている。
だが、「シャンタルの死」など、「シャンタルの葬送」など、二千年で初めてのことである。本来なら前例のないことをどうすればいいのかを、神殿だけではなく王宮や宮、その他あらゆるこれはという場所、人にお伺いを立て、相談して決めなければいけないところであった。
それをその葬送で送られる本人が前もって託宣で「黒い棺に入れて聖なる湖に沈めよ」と言い残していたとのことで、それに従うのみとホッとしていた。
「通常の葬送の儀に従い、その後は奥宮より『聖なる森』の『聖なる湖』にお運びしてそこにお沈みいただく、それでよろしかろう」
やぎひげの神官長は、宮との話し合いでもそれで良いとの回答を受けられたことで胸を撫で下ろしていた。
その内容を詳しく書き記し、リュセルスの街の掲示板に張り出していく。
シャンタルの託宣があり、それに従い、シャンタルがお隠れになったと思われる時刻になったら託宣により作られた棺に入れて聖なる湖に沈める、そのことを告知する。
「そんな、そんなことが……」
「ご自分の亡くなることまで託宣でお知らせになっていたなんて」
「では運命なのか、なんという悲しい運命を……」
事の次第を知り、昨日は交代の儀で微笑むシャンタルの姿を見たばかりの人々が、今日は口々に嘆きの言葉を口にする。
そしてそれに伴い、マユリアは人に戻らずこれからも次代様、本日からは正式にシャンタルとなられるお方のそばにお付きになること、なども発表された。
「マユリアがおられるのなら安心だ、これからも変わることはない」
「でもマユリアは後宮にお入りになるという話では?」
「そりゃそれはなかったことになるだろうよ」
「王様にはお気の毒だが、これも運命だ」
そう言って、これからも変わらぬのだと安心する声も上がる。
そうしてその布告の通り、神殿では粛々とシャンタルの弔いのための儀式が進められていた。
神殿でこの世から去る魂の平穏を祈る声が流れ出る。その儀式が進められていることを、鐘を鳴らして街に知らせる。民たちが鐘に会わせて両手を合せ、シャンタルが静かにあるようにと祈る。
その鐘と祈りの声の中、シャンタルの寝室で寝台に寝かせられていたシャンタルの御身をいよいよ黒い棺に入れる。
本来なら、神殿に運んでそこでお祈りさしあげることになるのだろうが、自室からお送りしたいとのマユリアのご要望でそうすることにした。
どこからどう見ても微笑んで眠っているようにしか見えない、その小さな尊いお体を清め、昨日着ていたのと同じ造りの新しい衣装に包み、髪を梳かして絹の布団を敷いた棺の中にお寝かせした。
そしてその胸に、帯に挟んであの黒い小刀を握らせる。
「あの、この小刀は?」
「シャンタルの守り刀です」
黒い見事な小刀を見て不思議がる神官長にマユリアがそう答える。
「此度の旅路のためにと」
誰が言ったとは言わぬが、それを聞いて、それもまたシャンタルの希望なのだろうと神官長が納得をする。
きれいに整えられたお姿に、マユリアやシャンタル付きの侍女たち、日々の生活の折に関わりを持った侍女たち、それに今回は一時的にも役目を担っていたミーヤとリルも呼ばれ、次々とお別れの挨拶をする。
「シャンタル……」
どの侍女も目に涙を浮かべ、その美しい寝姿を見て頭を下げて挨拶を終えると下がっていく。
食事係のセレンが、あの時のことを思い出し、名前を呼ばれたこと、その後の食事の世話にお礼を言ってくださったあの姿を思い出し、ほたほたと涙を流しながら言葉を詰まらせる。
「シャン、タル……どうぞ、どうぞ……」
倒れそうになるのを一緒にお世話をしていたモナが共に涙を流しながら支え、やっとのように下がっていった。
ミーヤとリルも順番に棺の中のシャンタルを見て、頭を下げる。
どこからどう見ても亡くなっているとしか見えない。呼吸もなさっていらっしゃらない、心臓の鼓動も聞こえない。
(本当にこれで生きていらっしゃるのだろうか)
2人だけは他の侍女たちとは違い、その不安に胸をかきむしられそうになる。もしも、と考えるとそのことに涙が出てくる。
「どうぞ、シャンタルどうぞ……」
(ご無事で)
その言葉を飲み込み、次の侍女たちへと場を譲る。
最後にはシャンタル付きのネイ、タリア、ラーラ様、それから侍女頭のキリエへと順番は移り、最後にマユリアがじっとシャンタルの顔をご覧になり、静かに下がって挨拶は終了した。
「シャンタルの死」とその後の「葬送の儀」についての触れは翌朝割と早くに神殿から発表された。
宮からの発表ではないのは「シャンタル宮」と「シャンタル神殿」は役割が違うからだ。
「シャンタル宮」は文字通りシャンタルのための宮殿、生き神シャンタルの養育と託宣のための宮殿である。生き神の生活の場、シャンタルの力を受け継いでいくための場である。
対して「シャンタル神殿」は「シャンタル神」にまつわるすべての祭事を執り行うための場である。「交代の儀」をはじめ、その他の儀式はすべて神殿の役割となる。そのために此度の「シャンタルの葬送」も神殿によって一切を執り行われることになっている。
だが、「シャンタルの死」など、「シャンタルの葬送」など、二千年で初めてのことである。本来なら前例のないことをどうすればいいのかを、神殿だけではなく王宮や宮、その他あらゆるこれはという場所、人にお伺いを立て、相談して決めなければいけないところであった。
それをその葬送で送られる本人が前もって託宣で「黒い棺に入れて聖なる湖に沈めよ」と言い残していたとのことで、それに従うのみとホッとしていた。
「通常の葬送の儀に従い、その後は奥宮より『聖なる森』の『聖なる湖』にお運びしてそこにお沈みいただく、それでよろしかろう」
やぎひげの神官長は、宮との話し合いでもそれで良いとの回答を受けられたことで胸を撫で下ろしていた。
その内容を詳しく書き記し、リュセルスの街の掲示板に張り出していく。
シャンタルの託宣があり、それに従い、シャンタルがお隠れになったと思われる時刻になったら託宣により作られた棺に入れて聖なる湖に沈める、そのことを告知する。
「そんな、そんなことが……」
「ご自分の亡くなることまで託宣でお知らせになっていたなんて」
「では運命なのか、なんという悲しい運命を……」
事の次第を知り、昨日は交代の儀で微笑むシャンタルの姿を見たばかりの人々が、今日は口々に嘆きの言葉を口にする。
そしてそれに伴い、マユリアは人に戻らずこれからも次代様、本日からは正式にシャンタルとなられるお方のそばにお付きになること、なども発表された。
「マユリアがおられるのなら安心だ、これからも変わることはない」
「でもマユリアは後宮にお入りになるという話では?」
「そりゃそれはなかったことになるだろうよ」
「王様にはお気の毒だが、これも運命だ」
そう言って、これからも変わらぬのだと安心する声も上がる。
そうしてその布告の通り、神殿では粛々とシャンタルの弔いのための儀式が進められていた。
神殿でこの世から去る魂の平穏を祈る声が流れ出る。その儀式が進められていることを、鐘を鳴らして街に知らせる。民たちが鐘に会わせて両手を合せ、シャンタルが静かにあるようにと祈る。
その鐘と祈りの声の中、シャンタルの寝室で寝台に寝かせられていたシャンタルの御身をいよいよ黒い棺に入れる。
本来なら、神殿に運んでそこでお祈りさしあげることになるのだろうが、自室からお送りしたいとのマユリアのご要望でそうすることにした。
どこからどう見ても微笑んで眠っているようにしか見えない、その小さな尊いお体を清め、昨日着ていたのと同じ造りの新しい衣装に包み、髪を梳かして絹の布団を敷いた棺の中にお寝かせした。
そしてその胸に、帯に挟んであの黒い小刀を握らせる。
「あの、この小刀は?」
「シャンタルの守り刀です」
黒い見事な小刀を見て不思議がる神官長にマユリアがそう答える。
「此度の旅路のためにと」
誰が言ったとは言わぬが、それを聞いて、それもまたシャンタルの希望なのだろうと神官長が納得をする。
きれいに整えられたお姿に、マユリアやシャンタル付きの侍女たち、日々の生活の折に関わりを持った侍女たち、それに今回は一時的にも役目を担っていたミーヤとリルも呼ばれ、次々とお別れの挨拶をする。
「シャンタル……」
どの侍女も目に涙を浮かべ、その美しい寝姿を見て頭を下げて挨拶を終えると下がっていく。
食事係のセレンが、あの時のことを思い出し、名前を呼ばれたこと、その後の食事の世話にお礼を言ってくださったあの姿を思い出し、ほたほたと涙を流しながら言葉を詰まらせる。
「シャン、タル……どうぞ、どうぞ……」
倒れそうになるのを一緒にお世話をしていたモナが共に涙を流しながら支え、やっとのように下がっていった。
ミーヤとリルも順番に棺の中のシャンタルを見て、頭を下げる。
どこからどう見ても亡くなっているとしか見えない。呼吸もなさっていらっしゃらない、心臓の鼓動も聞こえない。
(本当にこれで生きていらっしゃるのだろうか)
2人だけは他の侍女たちとは違い、その不安に胸をかきむしられそうになる。もしも、と考えるとそのことに涙が出てくる。
「どうぞ、シャンタルどうぞ……」
(ご無事で)
その言葉を飲み込み、次の侍女たちへと場を譲る。
最後にはシャンタル付きのネイ、タリア、ラーラ様、それから侍女頭のキリエへと順番は移り、最後にマユリアがじっとシャンタルの顔をご覧になり、静かに下がって挨拶は終了した。
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