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第三章 第五節 神として
23 次の交代
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「あの、託宣か何かないんですか?たとえばこの先シャンタルにどうしろ、とか」
またマユリアが首を振る。
「『黒のシャンタル』に対する託宣はあれで全てです。この先のシャンタルがどうなるのかわたくしにも予想がつきません」
「そうですか……」
この先は他の人間と同じく自分で「場所」を探すしかないのだ。
シャンタルが進むべき道を自分で見つける。
「例えば、あちらでどこかの養子になる、ってのは、ありか?」
「『真名』の問題がございます」
「え?」
トーヤだけではなくミーヤもダルもリルも意味をはかりかねる。
「シャンタルは、マユリアは、生まれた時に親御様によって名付けられた『真名』を知ることで人の身に戻るのです」
「ああ、そういやなんかそんなこと聞いたっけかな」
親御様が宮に入られた日、ルギから色々と聞いていた。その中にそんな話もあった。
「それがなんで問題なんだ?」
「シャンタルの中には神たるシャンタルがおわします、シャンタルのまま、神がおられるまま、もしも『真名』で呼ばれて人に戻ってしまったら何が起こるか分かりません」
「え、そうなのかよ。でも適当に呼び名つけるってのは大丈夫なんじゃねえの?」
「もしもその呼び名が『真名』であったら?」
「いやあ、そんな偶然……」
そう言うものの、ここまで不思議なことの連続である。「ない」とは言い切れない。
「そりゃやべえなあ……」
「何がですか?」
「手形、偽名で作ってもらったんだが、まずかったかな、もしもってことがあったら」
「それは大丈夫でしょう。その名で名付けられたのではなく道具としてお持ちになるぐらいなら」
「そうか?なんか基準がよく分からねえな、めんどくせえ……」
うーんとトーヤが次の考えを口にする。
「そんじゃ名前はシャンタルのままどこかで養子になるってのは?」
「養父母がシャンタルのことをすべてご存知の上でシャンタルとして受け入れてくだされば、中に神がおわすまま神として扱ってくだされば可能かも知れません」
「そりゃちょいと難しそうな話だな……」
そんな危険な人間をそうですかと子どもにしてくれそうな夫婦を探し出せるとはとても思えない。第一話したとしても信じてもらえるかどうか。仮にいたとしても何が起こるか分からないのに無責任によろしくとはちょっと言いにくい。それに万が一その夫婦に悪意があった場合、この世界にどんな影響があるものか。
「そんじゃ、いっそ中にいる神様抜いちまうってのは。そうしたら『真名』にたまたまぶち当たっても問題ねえだろ?」
「その方法が分かりません……」
「いつもは神様抜く時はどうするんだっけ?」
「交代の時にマユリアを受け取り、その後で真名をお知りになることです」
「ああ、それか……それしかねえってことなのか?」
「はい、ですがこの度はそれが無理ですので」
「受け取ってから国出るってのは?」
「その場合はこの国にマユリアの存在がなくなってしまうので無理です」
「俺にどうしろってんだよ」
「そのままのシャンタルをお連れしてください」
「うーん……」
トーヤが頭を抱える。
「そんじゃ何か?俺はこの先、中に神様が入って下手に扱やどうなるか分からねえガキ連れて厳しい苦しい旅に出るってことなのか?」
「ええ」
「またあっさり言うなあ……」
どうすりゃいいんだよとトーヤが困り果てる。
「大丈夫です。トーヤは助け手として選ばれたのです、きっとシャンタルと一緒に無事に旅を続けていただけると思いますよ」
「思いますよってな、おい……」
マユリアは満面の美しい笑みでそう保証してくれるが、トーヤは本当に能天気は怖いと思うばかりだ。
「あのな」
トーヤがいたく真面目な顔で話を始める。
「俺は傭兵だって言ったよな?」
「はい、伺いました、海賊でもあったことも」
「いや、まあそれは置いとくとしてだな」
いきなり話の腰を折られたようで少しくじけるが、なんとか話を元に戻す。
「だからな、俺は傭兵なんだよ」
「はい」
「つまり、あっちに戻ったらまたできる仕事って言ったらそれしかねえかも知れねえんだぜ?分かってるか?」
「ああ、そういう」
マユリアは軽く返事をするがミーヤは心の中がドキリと大きく動くのを感じた。
トーヤがシャンタルを連れて「アルディナの神域へ戻る」、そのことは理解していたが傭兵に戻るということは考えたこともなかったのだ。
傭兵に戻る、それはまた戦場へと戻るということである。
「戦場へ、戻るのですか……」
そう聞いたのはミーヤであった。
「ああ、もしかしたら、な」
トーヤが少し顔を歪めて答える。
「あの、危険ではないのですか?」
「危険じゃねえ戦場があったら教えてもらいてえもんだな」
冗談めかしてそう言うがその目はふざけてはいない。
「トーヤ、戦場に戻るのかよ……」
今度はダルが言う。
「なんだなんだ、おまえら、そんなことも分かってなかったのかよ」
さらにふざけるようにそう言うが誰も笑う者はいなかった。
「まあ、あれだ、ガキ連れて戦場なんて俺も行ったことねえからどうなるか分かんねえけどよ、最悪、あいつも傭兵になる、手を汚すことになる、ってことになってもいいんだな?」
またマユリアが首を振る。
「『黒のシャンタル』に対する託宣はあれで全てです。この先のシャンタルがどうなるのかわたくしにも予想がつきません」
「そうですか……」
この先は他の人間と同じく自分で「場所」を探すしかないのだ。
シャンタルが進むべき道を自分で見つける。
「例えば、あちらでどこかの養子になる、ってのは、ありか?」
「『真名』の問題がございます」
「え?」
トーヤだけではなくミーヤもダルもリルも意味をはかりかねる。
「シャンタルは、マユリアは、生まれた時に親御様によって名付けられた『真名』を知ることで人の身に戻るのです」
「ああ、そういやなんかそんなこと聞いたっけかな」
親御様が宮に入られた日、ルギから色々と聞いていた。その中にそんな話もあった。
「それがなんで問題なんだ?」
「シャンタルの中には神たるシャンタルがおわします、シャンタルのまま、神がおられるまま、もしも『真名』で呼ばれて人に戻ってしまったら何が起こるか分かりません」
「え、そうなのかよ。でも適当に呼び名つけるってのは大丈夫なんじゃねえの?」
「もしもその呼び名が『真名』であったら?」
「いやあ、そんな偶然……」
そう言うものの、ここまで不思議なことの連続である。「ない」とは言い切れない。
「そりゃやべえなあ……」
「何がですか?」
「手形、偽名で作ってもらったんだが、まずかったかな、もしもってことがあったら」
「それは大丈夫でしょう。その名で名付けられたのではなく道具としてお持ちになるぐらいなら」
「そうか?なんか基準がよく分からねえな、めんどくせえ……」
うーんとトーヤが次の考えを口にする。
「そんじゃ名前はシャンタルのままどこかで養子になるってのは?」
「養父母がシャンタルのことをすべてご存知の上でシャンタルとして受け入れてくだされば、中に神がおわすまま神として扱ってくだされば可能かも知れません」
「そりゃちょいと難しそうな話だな……」
そんな危険な人間をそうですかと子どもにしてくれそうな夫婦を探し出せるとはとても思えない。第一話したとしても信じてもらえるかどうか。仮にいたとしても何が起こるか分からないのに無責任によろしくとはちょっと言いにくい。それに万が一その夫婦に悪意があった場合、この世界にどんな影響があるものか。
「そんじゃ、いっそ中にいる神様抜いちまうってのは。そうしたら『真名』にたまたまぶち当たっても問題ねえだろ?」
「その方法が分かりません……」
「いつもは神様抜く時はどうするんだっけ?」
「交代の時にマユリアを受け取り、その後で真名をお知りになることです」
「ああ、それか……それしかねえってことなのか?」
「はい、ですがこの度はそれが無理ですので」
「受け取ってから国出るってのは?」
「その場合はこの国にマユリアの存在がなくなってしまうので無理です」
「俺にどうしろってんだよ」
「そのままのシャンタルをお連れしてください」
「うーん……」
トーヤが頭を抱える。
「そんじゃ何か?俺はこの先、中に神様が入って下手に扱やどうなるか分からねえガキ連れて厳しい苦しい旅に出るってことなのか?」
「ええ」
「またあっさり言うなあ……」
どうすりゃいいんだよとトーヤが困り果てる。
「大丈夫です。トーヤは助け手として選ばれたのです、きっとシャンタルと一緒に無事に旅を続けていただけると思いますよ」
「思いますよってな、おい……」
マユリアは満面の美しい笑みでそう保証してくれるが、トーヤは本当に能天気は怖いと思うばかりだ。
「あのな」
トーヤがいたく真面目な顔で話を始める。
「俺は傭兵だって言ったよな?」
「はい、伺いました、海賊でもあったことも」
「いや、まあそれは置いとくとしてだな」
いきなり話の腰を折られたようで少しくじけるが、なんとか話を元に戻す。
「だからな、俺は傭兵なんだよ」
「はい」
「つまり、あっちに戻ったらまたできる仕事って言ったらそれしかねえかも知れねえんだぜ?分かってるか?」
「ああ、そういう」
マユリアは軽く返事をするがミーヤは心の中がドキリと大きく動くのを感じた。
トーヤがシャンタルを連れて「アルディナの神域へ戻る」、そのことは理解していたが傭兵に戻るということは考えたこともなかったのだ。
傭兵に戻る、それはまた戦場へと戻るということである。
「戦場へ、戻るのですか……」
そう聞いたのはミーヤであった。
「ああ、もしかしたら、な」
トーヤが少し顔を歪めて答える。
「あの、危険ではないのですか?」
「危険じゃねえ戦場があったら教えてもらいてえもんだな」
冗談めかしてそう言うがその目はふざけてはいない。
「トーヤ、戦場に戻るのかよ……」
今度はダルが言う。
「なんだなんだ、おまえら、そんなことも分かってなかったのかよ」
さらにふざけるようにそう言うが誰も笑う者はいなかった。
「まあ、あれだ、ガキ連れて戦場なんて俺も行ったことねえからどうなるか分かんねえけどよ、最悪、あいつも傭兵になる、手を汚すことになる、ってことになってもいいんだな?」
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