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第三章 第二節 目覚め
9 準備
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その日は結局トーヤはほとんど動ける状態ではなく、一日の大半をベッドの上で過ごした。
なぜシャンタルと共鳴を起こすとこうなるのかは分かっていないが、厄介なことだと思った。
もしも、何か大事な局面で共鳴を起こし、力を吸われるような状態になったとしたら、いざ本当にシャンタルがトーヤに助けを求め、助けてやろうとしても助けてやれない可能性もある。それ以外の時でも何がどうなっているか分からぬだけに不安ではあった。
「なんで共鳴ってのが起きるとこうなるのか、知りたいが分かる人間はいねえんだろうなあ」
「ん?」
ダルはリル1人が世話役になったこともあり、手間が省けるだろうということと、トーヤが心配なことからその日からトーヤの部屋で過ごすことにした。元々、宮に来た時にはこうしてこの部屋に泊っていたのだから、なんら不自由なことはない。
「いや、キリエさんは言わなかったけどな、多分シャンタルにも何か起きたんだよ。俺はそう思ってる」
実際にトーヤが弾き飛ばしたことでシャンタルが衝撃を受け、さらにマユリアやラーラ様にも影響があったのだが、トーヤがそのことまで知るよしはない。
ダルは時間的にもラーラ様のあの状態が関係があるのではないかとは思っていたが、キリエはそのことまでは話していないので推測の域を出ることはない。
「ってことは、やっぱりトーヤとシャンタルには特別のつながりがあるんだよな」
「認めたくはないが、俺もなんだかそう思う……」
チッと舌打ちしながらトーヤがそう言う。
「だからとりあえず黒い棺桶は見て準備はする。だが決めるのはあいつらだ。その結果次第だ」
「うん、分かってるよ。そんで俺は信じてる、トーヤが助けるってな」
また一つ舌打ちし、トーヤが黙った。
そんな話をしているとリルが呼びに来て2人でキリエの執務室へと向かう。トーヤが寝込んだ翌日のことである。
キリエは2人を前の宮の一室へ連れて行った。そこは家具などはなく、単に物が並べられた部屋であった。
「倉庫か?」
「倉庫ではありません。託宣に関連するものなどを入れてあります」
「まあ倉庫じゃねえか」
「大事なものばかりですので、そういう言い方はふさわしくないとは思いますけどね」
トーヤの言い方に苦笑する。
その部屋の中はさらにいくつかに区切るように簡単な壁が作られていた。そのうちの一つに入る。
「こちらは先代、今のマユリアの託宣に関連したものが入れてある部屋です」
「1人ずつ全部部屋があるのか」
トーヤが驚いて言うが、
「いえ、そういうわけではありません。近年の近しいシャンタルのものです。ここは先代だけ。ラーラ様、先々代やそれ以前の近しい年代の方のものはまた別の部屋になります」
「びっくりした……なんぼほどあるんだと思ったぜ……」
トーヤの言い方にキリエが軽く笑う。
「まさか二千年全員の部屋をそれぞれ置いておくわけにもいきませんでしょ」
「だよなあ」
キリエに案内された部屋の奥、壁際に布をかぶせた箱のような物がある。
「これか……」
「ええ……」
キリエが黙って黒い布をはずすと黒い棺が姿を現した。
それは黒い色をした小さな棺であった。言っていた通り表面に銀色の鳥が飛ぶ意匠が施されてある。
「確かにフェイのと似てるな……」
フェイの棺は白く、表面に青い鳥が飛んでいた。
「青い鳥は瑪瑙、こちらは銀で細工されています」
「模様が反対な気がするが」
「ええ、左右対称になるように造られています」
「やっぱりか……」
トーヤが手を伸ばして棺の表面に触れる。何かを思い出しているようだ。フェイの棺のフタを閉じた後、こうして触った気もしていた。
「造りはどうなってるんだ?フタと本体のつなぎ目とか」
何かを振り切るようにして、淡々とダルと2人で調べていく。
造りはさすがにしっかりとしていて、フタと本体の間はぴったりと吸い付くようにはまっている。閉じた上を金具でしっかりとねじ留めすると二度と開かないだろう。
「こんだけしっかりフタをしてるってことは、水から引き上げてからフタを開けるってことになるかな」
「そうだな、こんだけしっかりしてるの、水の中で開けるのって難しいよな」
見聞の結果、フタを開けるのは引き上げてから、念の為に水の中でフタが開かないようにさらに上から革のバンドでしっかりと縛ることなども決められた。
「持ち手の輪っか、これをもっとしっかり固定して、綱の先につけた鈎で引っ掛けて引き上げる、でいいか」
「そうだな。どっかで船に使う丈夫な綱を手にいれてこよう。俺たちはいつもカトッティの船具屋で買ってる」
「じゃあそこに行くか」
「そうだな」
「そうだ、この持ち手な、これ、もうちょっと大きいのに付け替えできねえかな。その方が引っ掛けやすい。何しろ冷たい水の中……」
ここまで言って例の夢を思い出したのか一瞬ブルッと身震いしてからトーヤは続けた。
「冷たい水の中のことだからな……手元が狂わないように、確実に引っ掛けられるようにしておきたい」
ダルと2人、あれやこれやと相談して準備が進められていった。
なぜシャンタルと共鳴を起こすとこうなるのかは分かっていないが、厄介なことだと思った。
もしも、何か大事な局面で共鳴を起こし、力を吸われるような状態になったとしたら、いざ本当にシャンタルがトーヤに助けを求め、助けてやろうとしても助けてやれない可能性もある。それ以外の時でも何がどうなっているか分からぬだけに不安ではあった。
「なんで共鳴ってのが起きるとこうなるのか、知りたいが分かる人間はいねえんだろうなあ」
「ん?」
ダルはリル1人が世話役になったこともあり、手間が省けるだろうということと、トーヤが心配なことからその日からトーヤの部屋で過ごすことにした。元々、宮に来た時にはこうしてこの部屋に泊っていたのだから、なんら不自由なことはない。
「いや、キリエさんは言わなかったけどな、多分シャンタルにも何か起きたんだよ。俺はそう思ってる」
実際にトーヤが弾き飛ばしたことでシャンタルが衝撃を受け、さらにマユリアやラーラ様にも影響があったのだが、トーヤがそのことまで知るよしはない。
ダルは時間的にもラーラ様のあの状態が関係があるのではないかとは思っていたが、キリエはそのことまでは話していないので推測の域を出ることはない。
「ってことは、やっぱりトーヤとシャンタルには特別のつながりがあるんだよな」
「認めたくはないが、俺もなんだかそう思う……」
チッと舌打ちしながらトーヤがそう言う。
「だからとりあえず黒い棺桶は見て準備はする。だが決めるのはあいつらだ。その結果次第だ」
「うん、分かってるよ。そんで俺は信じてる、トーヤが助けるってな」
また一つ舌打ちし、トーヤが黙った。
そんな話をしているとリルが呼びに来て2人でキリエの執務室へと向かう。トーヤが寝込んだ翌日のことである。
キリエは2人を前の宮の一室へ連れて行った。そこは家具などはなく、単に物が並べられた部屋であった。
「倉庫か?」
「倉庫ではありません。託宣に関連するものなどを入れてあります」
「まあ倉庫じゃねえか」
「大事なものばかりですので、そういう言い方はふさわしくないとは思いますけどね」
トーヤの言い方に苦笑する。
その部屋の中はさらにいくつかに区切るように簡単な壁が作られていた。そのうちの一つに入る。
「こちらは先代、今のマユリアの託宣に関連したものが入れてある部屋です」
「1人ずつ全部部屋があるのか」
トーヤが驚いて言うが、
「いえ、そういうわけではありません。近年の近しいシャンタルのものです。ここは先代だけ。ラーラ様、先々代やそれ以前の近しい年代の方のものはまた別の部屋になります」
「びっくりした……なんぼほどあるんだと思ったぜ……」
トーヤの言い方にキリエが軽く笑う。
「まさか二千年全員の部屋をそれぞれ置いておくわけにもいきませんでしょ」
「だよなあ」
キリエに案内された部屋の奥、壁際に布をかぶせた箱のような物がある。
「これか……」
「ええ……」
キリエが黙って黒い布をはずすと黒い棺が姿を現した。
それは黒い色をした小さな棺であった。言っていた通り表面に銀色の鳥が飛ぶ意匠が施されてある。
「確かにフェイのと似てるな……」
フェイの棺は白く、表面に青い鳥が飛んでいた。
「青い鳥は瑪瑙、こちらは銀で細工されています」
「模様が反対な気がするが」
「ええ、左右対称になるように造られています」
「やっぱりか……」
トーヤが手を伸ばして棺の表面に触れる。何かを思い出しているようだ。フェイの棺のフタを閉じた後、こうして触った気もしていた。
「造りはどうなってるんだ?フタと本体のつなぎ目とか」
何かを振り切るようにして、淡々とダルと2人で調べていく。
造りはさすがにしっかりとしていて、フタと本体の間はぴったりと吸い付くようにはまっている。閉じた上を金具でしっかりとねじ留めすると二度と開かないだろう。
「こんだけしっかりフタをしてるってことは、水から引き上げてからフタを開けるってことになるかな」
「そうだな、こんだけしっかりしてるの、水の中で開けるのって難しいよな」
見聞の結果、フタを開けるのは引き上げてから、念の為に水の中でフタが開かないようにさらに上から革のバンドでしっかりと縛ることなども決められた。
「持ち手の輪っか、これをもっとしっかり固定して、綱の先につけた鈎で引っ掛けて引き上げる、でいいか」
「そうだな。どっかで船に使う丈夫な綱を手にいれてこよう。俺たちはいつもカトッティの船具屋で買ってる」
「じゃあそこに行くか」
「そうだな」
「そうだ、この持ち手な、これ、もうちょっと大きいのに付け替えできねえかな。その方が引っ掛けやすい。何しろ冷たい水の中……」
ここまで言って例の夢を思い出したのか一瞬ブルッと身震いしてからトーヤは続けた。
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