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第二章 第五節 もう一人のマユリア
25 金縛り
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「なんか、具合悪いんだって?」
心配そうにそう言いながらダルが部屋に入ってきた。
少し離れるようになっていたリルもくっついて入ってきたのは、昨日、冬の海に入ったと聞いて心配するあまりだろう。
「いや、そんな大したことじゃねえ」
トーヤはそう言うが、顔色があまりよくないように見える。
「大丈夫なのか?えらく疲れてるように見えるぞ」
「いや、本当に大丈夫だって」
そう言いながらもソファにぐったりともたれたまま、動こうとしない。
「あの……」
リルがダルの後ろから声を出した。
「ダル様にお聞きしましたが、冬の、それも夜の海に入られたとか。それでお風邪でもめされたのではないですか?」
「海か……」
トーヤがあの夢を思い出すように言う。
「冬の海はだめだよな……水が冷てえし」
「そうですよ」
リルが心配そうな顔をしてミーヤに言った。
「今日は一日休んでいただいた方がいいのではなくて?」
「ええ、そう申し上げたのですが……」
「いや、色々やることも考えることもあるしな、あまり休んでもいられねえ……」
ふうっと息を吐いて言うその姿も、いつものトーヤとは違って生気があまり感じられない。
「……色々やることがあるんだよな?」
ダルが聞いた。
「ああ、なんやかんやな」
「だったら今日は部屋でできることをやろうよ。色々あるなら一つや二つここでできることもあるんじゃねえの?」
「そうですよ、さすがはダル様ですわ!今日は温かいお部屋でごゆっくりなさって、できることをやられるのがよろしいですわ!」
と、ダルの提案とリルの熱烈な後押しでトーヤの部屋でできることを先にやると話が決まった。
「えーと、それじゃあ、申し訳ないんだけど、リルさんとミーヤさんはちょっと出てくれる?しばらくしたらお茶頼みたいんだけど、それまでちょっと大事な話があるので」
「はい、分かりました。では時間を見てまた伺います」
「ありがとう」
リルがダルにしっかり向かってにっこり笑ってからいつものように礼をして出ていった。ミーヤも心配そうにしながら後に続く。
「なんか、リルとうまくやってるじゃねえかよ」
弱々しく、それでもダルをいじるチャンスは逃さない。
「真面目な人だからね。ちゃんと話をしたら分かってくれるようになったし」
「でも昨日は一日中寝かし付けられてたんだろ?」
「あーあれは、海に入ったなんて嘘ついたから仕方なくてさ」
そう言って笑い合う。
「だけど、本当、どうなったんだ?っていうか、言っていいかな?前にもそんなことあったよな?」
「あ?」
「トーヤがいきなりそうやって具合悪くなったこと」
言われて思い出した。
「あった……」
「あの時と同じ顔してるような気がするけど」
「悪い夢を見たからだって思ってたんだが、言われてみりゃ……」
あの時、ダルの訓練をしていてシャンタルがトーヤを見に来た時、あの時もこんな感じで体中から力を奪われたようになったことを思い出した。
「なあ、あの時何があったんだ?あの時は結局何があったのか聞かないままになったけど、今だったら聞いていいか?」
トーヤが困った顔をしたのでダルが慌てたように言う。
「いや、言いたくないならいいんだぜ?でも、なんか思い出して」
「そうじゃないんだよ、言いたくないとかそういうことじゃねえんだ、なんだが……」
実際、どう説明すればいいのかよく分からない。
「あの時、あの状態の俺を見てたのはダルと、ミーヤ、それからルギと、フェイか……」
「それがどうかしたか?」
「他の侍女とか衛士はマユリアとシャンタルしか見てなかったと思うが、おまえらの目には俺はどう見えてたのか気になった」
「どうって……」
ダルが思い出しながら言う。
「とにかく、シャンタルが来られたということで急いで頭を下げて、それでしばらくして頭を上げたらトーヤだけが立っててさ、マユリアが戻るから続けてっておっしゃったのでまた頭を下げて、上げてトーヤが視線に入ったら肩で息してる感じでさ、それでびっくりして声をかけたんだよ」
「そうか」
「よう、何があったんだよ」
「俺にもよく分からん」
「分からんって」
「とにかくな、シャンタルと目が合ったんだよ、そうしたらああなった」
「え、あの距離でか?」
「ああ、マユリアがシャンタルが見てるからここに来たって言うから、本当かよと思ってそっちを見たらああなった」
「なんだよそれ……」
「分からん」
トーヤは思い出したくないという風に首を振った。
「とにかく動けなくなってな、息もできなくて、いわゆる金縛りってやつか?そういう感じになったんだ」
「なんで……」
「分からん。そんでな、その後はおまえらも見てた通りだ、体に力が入らなくなってその後はなんとか部屋に戻ったもののぶっ倒れた。言われてみりゃ今朝と全く同じだ」
トーヤは今日もまだ力が入らない体とあの時の自分の体を重ねてみた。
「あの夢もあいつと、シャンタルと何か関係があるのかな……」
心配そうにそう言いながらダルが部屋に入ってきた。
少し離れるようになっていたリルもくっついて入ってきたのは、昨日、冬の海に入ったと聞いて心配するあまりだろう。
「いや、そんな大したことじゃねえ」
トーヤはそう言うが、顔色があまりよくないように見える。
「大丈夫なのか?えらく疲れてるように見えるぞ」
「いや、本当に大丈夫だって」
そう言いながらもソファにぐったりともたれたまま、動こうとしない。
「あの……」
リルがダルの後ろから声を出した。
「ダル様にお聞きしましたが、冬の、それも夜の海に入られたとか。それでお風邪でもめされたのではないですか?」
「海か……」
トーヤがあの夢を思い出すように言う。
「冬の海はだめだよな……水が冷てえし」
「そうですよ」
リルが心配そうな顔をしてミーヤに言った。
「今日は一日休んでいただいた方がいいのではなくて?」
「ええ、そう申し上げたのですが……」
「いや、色々やることも考えることもあるしな、あまり休んでもいられねえ……」
ふうっと息を吐いて言うその姿も、いつものトーヤとは違って生気があまり感じられない。
「……色々やることがあるんだよな?」
ダルが聞いた。
「ああ、なんやかんやな」
「だったら今日は部屋でできることをやろうよ。色々あるなら一つや二つここでできることもあるんじゃねえの?」
「そうですよ、さすがはダル様ですわ!今日は温かいお部屋でごゆっくりなさって、できることをやられるのがよろしいですわ!」
と、ダルの提案とリルの熱烈な後押しでトーヤの部屋でできることを先にやると話が決まった。
「えーと、それじゃあ、申し訳ないんだけど、リルさんとミーヤさんはちょっと出てくれる?しばらくしたらお茶頼みたいんだけど、それまでちょっと大事な話があるので」
「はい、分かりました。では時間を見てまた伺います」
「ありがとう」
リルがダルにしっかり向かってにっこり笑ってからいつものように礼をして出ていった。ミーヤも心配そうにしながら後に続く。
「なんか、リルとうまくやってるじゃねえかよ」
弱々しく、それでもダルをいじるチャンスは逃さない。
「真面目な人だからね。ちゃんと話をしたら分かってくれるようになったし」
「でも昨日は一日中寝かし付けられてたんだろ?」
「あーあれは、海に入ったなんて嘘ついたから仕方なくてさ」
そう言って笑い合う。
「だけど、本当、どうなったんだ?っていうか、言っていいかな?前にもそんなことあったよな?」
「あ?」
「トーヤがいきなりそうやって具合悪くなったこと」
言われて思い出した。
「あった……」
「あの時と同じ顔してるような気がするけど」
「悪い夢を見たからだって思ってたんだが、言われてみりゃ……」
あの時、ダルの訓練をしていてシャンタルがトーヤを見に来た時、あの時もこんな感じで体中から力を奪われたようになったことを思い出した。
「なあ、あの時何があったんだ?あの時は結局何があったのか聞かないままになったけど、今だったら聞いていいか?」
トーヤが困った顔をしたのでダルが慌てたように言う。
「いや、言いたくないならいいんだぜ?でも、なんか思い出して」
「そうじゃないんだよ、言いたくないとかそういうことじゃねえんだ、なんだが……」
実際、どう説明すればいいのかよく分からない。
「あの時、あの状態の俺を見てたのはダルと、ミーヤ、それからルギと、フェイか……」
「それがどうかしたか?」
「他の侍女とか衛士はマユリアとシャンタルしか見てなかったと思うが、おまえらの目には俺はどう見えてたのか気になった」
「どうって……」
ダルが思い出しながら言う。
「とにかく、シャンタルが来られたということで急いで頭を下げて、それでしばらくして頭を上げたらトーヤだけが立っててさ、マユリアが戻るから続けてっておっしゃったのでまた頭を下げて、上げてトーヤが視線に入ったら肩で息してる感じでさ、それでびっくりして声をかけたんだよ」
「そうか」
「よう、何があったんだよ」
「俺にもよく分からん」
「分からんって」
「とにかくな、シャンタルと目が合ったんだよ、そうしたらああなった」
「え、あの距離でか?」
「ああ、マユリアがシャンタルが見てるからここに来たって言うから、本当かよと思ってそっちを見たらああなった」
「なんだよそれ……」
「分からん」
トーヤは思い出したくないという風に首を振った。
「とにかく動けなくなってな、息もできなくて、いわゆる金縛りってやつか?そういう感じになったんだ」
「なんで……」
「分からん。そんでな、その後はおまえらも見てた通りだ、体に力が入らなくなってその後はなんとか部屋に戻ったもののぶっ倒れた。言われてみりゃ今朝と全く同じだ」
トーヤは今日もまだ力が入らない体とあの時の自分の体を重ねてみた。
「あの夢もあいつと、シャンタルと何か関係があるのかな……」
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