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第二章 第四節 神との契約

10 手順

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「ちょ、ちょっと待てよ、それってシャンタルが死ぬってことか?」
「そういうことです」
「なんでだよ……」
「それもまだ申せません」
「またかよ……」

 今度は舌打ちなしだが不満そうに言う。

「まあいい、話を進めるのが先だ。で?」
「その運命、シャンタルが死すべき運命かどうか、それを知るためにあの手順が必要でした」
「つまり、俺があの道を見つけられなかったらシャンタルは死ぬことになったってことだな?」
「そうです」
「じゃあ見つけたからもういいのか、助かるのかよ」
「いえ、まだそうとは言えません」
「またかよ、いい加減イライラするなあ」
「ごめんなさい」

 マユリアが謝った。その事実にまたみんなが驚く。

「いや、謝れってんじゃねえんだが、まあめんどくせえな」
 
 トーヤがふうっとため息をつく。

「で?」
「今のところは助かる運命に向かっていると分かりました」
「俺のおかげでか」
「そういうことです」
「だったらもっと助かるようにしてやれねえのかよ?もっとなんか方法あるんじゃねえのか?」
「それは……」

 マユリアが口ごもる。

「なんだよ、なんか言いにくそうだな」
「シャンタルには……当代シャンタルには、秘密があります」

 ルギの眉がピクリと動いた。
 以前キリエが言っていた、いつかマユリアはおまえに話すだろうと、そのことだろうか。

「秘密~?なんだよそれ」
「それもまだ……」
「申せねえんだな?いいよいいよ分かったよ。で、それはいつになりゃ話せるんだ?」
次代様じだいさまがお生まれになり、交代の時が、御代みよ代わりが決まりましたら」
「そういやもうすぐ生まれるんだっけか?」
「おそらく1月以内には」
「え、そんなに早くにですか?」

 ミーヤが思わず言った。

「そんなに早くって、普通はそんなに時間がかかるもんなのか?」
「ええ……」
「いいですよ、ミーヤ、話してあげなさい」
「はい……」

 ミーヤがトーヤに話し始める。

「私も初めてのことで他の方から聞いたことばかりですが、いつもは親御様おやごさまが宮に入られるのは数ヶ月前のことが多いようです」
「そんな前から?」
「そうです。中にはご本人がご懐妊かいにんをご存知でない時に宮からの迎えが参ることもあるようです」
「うっそだろ~」
「いえ、記録にあるようです」
「何だよ、それも託宣ってやつなのか、すげえなシャンタル……」
「はい、シャンタルのおっしゃることは事実だけです」
 
 ミーヤが聞いたいつもの手順はこうであった。

 シャンタルが託宣により親御様の指名をする。
 吉日きちじつを待ち選ばれた神官と衛士が親御様をお迎えに出向き宮へと入られる。
 奥宮の侍医じい産婆さんばにより生まれる時期が割り出され、その約一月前に交代のれが国中に出される。
 触れと同時にけがれが持ち込まれないように王都を封鎖する。
 次代様が御誕生になる。
 御誕生の触れが国中に出される。
 約一月後の吉日を交代の日と定める。
 交代の日に儀式を行い御代代わりが行われる。
 翌日マユリアの力が先代に移される。

 細かいことはもっとあるのだが大体がこんな感じらしい。

「ってことは何か、今回に限りそんなギリギリになるまで親御様の指名がなかったってことか」
「いえ……」

 ミーヤが言いにくそうにする。

「なんだよ、何かあるのかよ」
「ミーヤ、構いません」
「はい……親御様の指名はもう少し前、トーヤ様がこの国に来られるより前にあったのですが、その……親御様が姿を消されたのです」
「なんだって?逃げたのか?」
「逃げたのかどうかは分かりませんが、いらっしゃらなくなりました」
「それ、逃げたっつーんだよ。それを見つけ出して連れてくるのに時間がかかったってことか」
「はい」
「なるほどな。しかしよく見つかったなあ、逃げたのに」
「逃げられたとは」
「いや、どう聞いても逃げたんだろう。まあ子ども取り上げられるってので逃げるやつも出てくんだろうな」
「そのような記録はないようです」
「本当かよ」
「はい。シャンタルの親御様になるのは名誉なこと、まさか姿を消されるとは誰も思わなかったようです」
「それもこの国ならではなんだろうなあ」

 はあっとトーヤは一つため息をつく。

「それが普通みたいに言ってるけどよ。俺が知ってる普通だと、多分親は嫌がるぜ、子ども取られるなんてな。ここにいるとついうっかり忘れるんだが、この国は普通じゃねえ」

 言い切るトーヤにルギの瞳が剣呑けんのんな光を浮かべる。

「怒んなって、本当のことだ。俺の国じゃどんな貧乏人だって生まれた子どもを手放すなんてこと悲劇でしかない。俺の親代わりだってそうして売られてきたが親は泣いてたって言ってたな」
「売られて?」
「ああ、もうこうなりゃ言っちまうがな、俺の母親も俺の親代わりも娼婦だ。生きるために子ども売る親だって辛いんだよ」
「娼婦……」
「ああ、そうだよ。客に体売って稼いでそれで食ってた。だから俺は父親なんて誰だかも分かんねえ。多分客の誰かなんだろうけどな」
「そんな……」
「驚いたか?」

 トーヤが苦しそうにミーヤに聞く。ミーヤは何も答えられなかった。
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