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第二章 第二節 青い運命
14 穢れ
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「あんた、聞いてたのか?俺の手をつっこんだらここの水が穢れるっつーてんだよ、そんな水でフェイを助けられるわけねえだろ」
「いいえ、あなたでないとだめです」
「分かんねえやつだな、だめだっつーてるだろうが」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃねえよ!」
トーヤはふと顔を横に振ると思い切ったように言う。
「はっきり言うけどな、俺はもう何人もこの手で殺してんだよ。戦場以外でもな。揉め事の相手とか、殺すまでいかなくとも半死半生まで叩きのめすなんて数え切れねえほどやってきてる。そんな手をこの湖に入れられると思うのか?」
「大丈夫です」
またミーヤがはっきりと言った。
「大丈夫じゃねえっつーてるんだよ!」
「大丈夫です!」
もう一度さらにきっぱりとミーヤが言う。
「トーヤは自分の楽しみのために人を殺したのですか?」
「いや、そんなことはしたことねえと思うが……」
「生きるためですよね?」
「それは、そうだ、と思う……」
「私は信じています、トーヤは穢れてなんていません」
トーヤは驚いてミーヤの目を見た。
「シャンタルが穢れた人を託宣で選ぶはずがありません。あなたは、それはその手で人を殺めたかも知れません。ですがそれは生きるため、それもトーヤの運命だったのです。穢れた場所にいても心が穢れなかったからこそ、シャンタルはあなたを選んだのだと私は信じています」
トーヤは言葉がなかった。
「それに水を汲むように導かれたのはあなたですトーヤ、私は迷ったあなたを導くようにとここに遣わされただけ、だからあなたでないとだめなのです。水を汲んでください」
まだ動けずにいるトーヤの背を押すようにミーヤは続ける。
「さあ、急いで、フェイが待っています。早く!」
はじかれるようにトーヤは湖に近付き、静かに膝をついた。
湖面を見ると自分の顔が映っているのが見えた。
これほどまじまじと自分の顔を見るのは初めてかも知れない。
戸惑って怯える表情が見える。
本当に大丈夫なのか?
俺のこの手をこの水の中に入れても大丈夫なのか?
大丈夫なのか?
「大丈夫ですよ」
後ろからミーヤの声が聞こえる。
「さあ、早く」
これは、ミーヤの声なのか?
後ろからだけではなく前からも聞こえるように思える。
「大丈夫です」
上からも、天からも聞こえる。
トーヤは瓶のフタを取ると思い切って湖に沈めた。
瓶の口からぷくぷくと泡が水面に浮かび上がり、入れ替わるように湖の水が瓶に入っていく。
やがて泡が止まり、瓶の中が聖なる水で満たされたのが分かった。
トーヤは瓶を湖から取り出すと目の前に掲げて見てみた。
普通の水だ。
見た限りは何も変わったところはない。
だが、これがもしかしたらフェイの運命を正してくれるかも知れない。
それから湖を見た。
湖は穢れてはいないように見える。
少なくとも見た目は。
最初に見た時と同じように、もう水面も静まり返り波一つない。
ただキラキラと光を反射しているだけだ。
立ち上がり、フタをして振り返ってミーヤを見る。
微笑んでミーヤが見ている。
「さあ、急ぎましょう」
「分かった」
2人は足早に湖から遠ざかった。
来る時、あれほど遠かった湖から森の出口まではあっと言う間だった。
これぐらいの距離なら森の外から湖が見えるだろうというほど。
だが振り返るともう湖は見えなくなっていた。
トーヤは一度立ち止まると湖の方向にぺこりと頭を下げた。
「さあ、フェイが待っています」
「ああ」
2人は前の宮に向かって走り始めた。
「いいえ、あなたでないとだめです」
「分かんねえやつだな、だめだっつーてるだろうが」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃねえよ!」
トーヤはふと顔を横に振ると思い切ったように言う。
「はっきり言うけどな、俺はもう何人もこの手で殺してんだよ。戦場以外でもな。揉め事の相手とか、殺すまでいかなくとも半死半生まで叩きのめすなんて数え切れねえほどやってきてる。そんな手をこの湖に入れられると思うのか?」
「大丈夫です」
またミーヤがはっきりと言った。
「大丈夫じゃねえっつーてるんだよ!」
「大丈夫です!」
もう一度さらにきっぱりとミーヤが言う。
「トーヤは自分の楽しみのために人を殺したのですか?」
「いや、そんなことはしたことねえと思うが……」
「生きるためですよね?」
「それは、そうだ、と思う……」
「私は信じています、トーヤは穢れてなんていません」
トーヤは驚いてミーヤの目を見た。
「シャンタルが穢れた人を託宣で選ぶはずがありません。あなたは、それはその手で人を殺めたかも知れません。ですがそれは生きるため、それもトーヤの運命だったのです。穢れた場所にいても心が穢れなかったからこそ、シャンタルはあなたを選んだのだと私は信じています」
トーヤは言葉がなかった。
「それに水を汲むように導かれたのはあなたですトーヤ、私は迷ったあなたを導くようにとここに遣わされただけ、だからあなたでないとだめなのです。水を汲んでください」
まだ動けずにいるトーヤの背を押すようにミーヤは続ける。
「さあ、急いで、フェイが待っています。早く!」
はじかれるようにトーヤは湖に近付き、静かに膝をついた。
湖面を見ると自分の顔が映っているのが見えた。
これほどまじまじと自分の顔を見るのは初めてかも知れない。
戸惑って怯える表情が見える。
本当に大丈夫なのか?
俺のこの手をこの水の中に入れても大丈夫なのか?
大丈夫なのか?
「大丈夫ですよ」
後ろからミーヤの声が聞こえる。
「さあ、早く」
これは、ミーヤの声なのか?
後ろからだけではなく前からも聞こえるように思える。
「大丈夫です」
上からも、天からも聞こえる。
トーヤは瓶のフタを取ると思い切って湖に沈めた。
瓶の口からぷくぷくと泡が水面に浮かび上がり、入れ替わるように湖の水が瓶に入っていく。
やがて泡が止まり、瓶の中が聖なる水で満たされたのが分かった。
トーヤは瓶を湖から取り出すと目の前に掲げて見てみた。
普通の水だ。
見た限りは何も変わったところはない。
だが、これがもしかしたらフェイの運命を正してくれるかも知れない。
それから湖を見た。
湖は穢れてはいないように見える。
少なくとも見た目は。
最初に見た時と同じように、もう水面も静まり返り波一つない。
ただキラキラと光を反射しているだけだ。
立ち上がり、フタをして振り返ってミーヤを見る。
微笑んでミーヤが見ている。
「さあ、急ぎましょう」
「分かった」
2人は足早に湖から遠ざかった。
来る時、あれほど遠かった湖から森の出口まではあっと言う間だった。
これぐらいの距離なら森の外から湖が見えるだろうというほど。
だが振り返るともう湖は見えなくなっていた。
トーヤは一度立ち止まると湖の方向にぺこりと頭を下げた。
「さあ、フェイが待っています」
「ああ」
2人は前の宮に向かって走り始めた。
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