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第二章 第一節 再びカースへ
7 秘密の入り口
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そうして相乗り用の鞍を着けた馬でカースへと向かうことになった。
ダルが言ったようにあまりいい道ではないが、馬で移動するにはさほど問題のある道には思えない。以前の大きな馬車道はぐるっと王都を外回りするようなコースになっているので、最短に斜めに突っ切るようなこのコースを使うと確かにかなり早くカースに着けそうだ。
馬は3頭で人数は5人。途中で相乗りのフェイと、ダルとミーヤもお互いに馬を取り換えつつ、トーヤとルギが乗る馬に乗り換えて、思った以上に楽しい道行きとなった。
「そろそろ休憩するかな」
ダルがそう言ってとある丘で馬を止める。
「ではお弁当にしましょうか」
ミーヤがそう言って荷物を広げる準備をする。
特にこれと言ったこともない普通の丘だ。見るべき景色としてはこちらは山腹を通る道なので王都と海が見えるのみである。だが、それでもフェイにはとても楽しかった。
「よう、ちびどうだ、疲れてねえか? 尻が4つに割れたんじゃねえか?」
「……なってません」
そう言うフェイにトーヤが大笑いする。
「なあ、ダル、これでどのぐらいだ? 残りは?」
「そうだなあ、大体半分ぐらいかな」
「だそうだ、がんばれるか?」
「はい!」
「よし、いいお返事だ」
そう言ってフェイの頭をガシガシと撫でる。フェイはうれしかった。
一休みして軽く昼食をとる。宮の料理人が腕をふるってくれた遠足料理は色々な形のパンに色々な物を挟んで手で持って食べられるようにしてあった。心遣いもやはり超一流だ。
昼食後軽く体を動かすなどして、そろそろ出発という時になってダルが言った。
「そんじゃ、今度は俺はトーヤに乗っけてもらおうかな。フェイちゃんはミーヤさんと一緒でいいか?」
「はい」
「おいおい、俺の後ろに野郎かよ、うまくねえな」
「まあそう言うなって」
そう言ってトーヤが乗る馬に近づいてくる。
「よっこらしょっと、そんじゃ頼むぜ」
「おい~」
そう言いながらトーヤには分かっていた。
(もうすぐ例の洞窟の入り口があるんだな)
他の人間、特にルギには知られないように、同乗する後ろからそっとトーヤに教えるつもりだ。
「しゃあねえな~色気ねえけど我慢するか。その代わりに次の交代は早めに頼むぜ?」
「え~」
そう言ってふざけ合いながら馬を歩かせ始めた。
その後からフェイを乗せたミーヤ、ルギの順番で付いてくる。
「おい、ミーヤさんよ、ちび、重たくねえか」
「まあ、失礼ですね。フェイ、怒っていいですよ?」
後ろを振り向いて言うトーヤとミーヤの会話にフェイは返事をせずにクスクスと笑った。
このところトーヤとミーヤの間は会話が少なくなっている。直接話すことも。用事がある時だけ事務的に話をする感じだ。それが、自分を介してではあるがこのようにやりとりしているのもうれしくてたまらなかったのだ。
楽しい道行きはそのまま続いた。
しばらく進むと急激に山がぐいっと南に曲がり、道もそれに沿ってぐいっと曲がっている場所に差し掛かる。
「ここから急に坂道になるから気をつけて」
ダルが後ろを振り向いて言う。
「はい、分かりました」
「分かった」
ミーヤと、その後ろから来るルギが返事をする。
「トーヤもよく気をつけて、俺が乗ってるんだからな」
ダルがそう言って鞍を掴んでいた手を緩め、軽くトーヤを小突いた。
「分かってるよーここから一気に坂を駆け下りろってことだな?」
「違うよ!」
いつものような軽口を叩きながらダルが小突いてきた方向に目を向ける。
山の裾しか見えない。周囲はそこそこ背が高い藪と、雑草が伸びっぱなしの草原だけだ。だが……
ほんのわずか、藪と藪の間にちらっと切れ目らしき物が見える。おそらく、誰かがそこをかき分けて通った道があるのだろう。
(あそこか)
おそらく、そこから例の洞窟に入るのだろう。それがカースまで続いてる、さらにその先のマユリアの海の向こうの崖のさらに向こうへ。
トーヤは周囲をぐるっと見渡した。
特にこれと言って特徴はない。ここだと覚える目印もない。どうやって覚えておくか。
ふと、目を海の方に向ける。
カースからカトッティに向かって遠浅の海は次第に深くなっている。それゆえカトッティでは大きな船を着ける港を作ることができるのだ。カースの遠浅の海ではできない。
その遠浅を分けるように沖に一つ、小さいが島のような物が見える。もしかしたら満潮の時には沈んでしまうかも知れない小さな島と言うよりは盛り上がりだ。
(あれが目印か)
その島らしき盛り上がりのちょうど真北に当たる。それを覚えておけばおおよその目安にはなるだろう。
「さて、そんじゃ一気に坂を駆け下りるか、っと!」
「おい、やめってってー!」
本当にトーヤが馬を飛ばして駆け下りるのでダルがガシッとトーヤにしがみついた。
「わわっ、あぶねー」
「どっちがー!」
急いで手綱を引き締めて馬の足を緩める。
「だーいじょうぶだって、このぐらい」
「トーヤは大丈夫でも後ろもいるからな」
「ああ、そうだっけか。つまんねえな~」
ダルの言葉に今気づいた、という風に後ろを振り向き、
「おーい、大丈夫かー」
と呼びかけると、
「大丈夫かじゃありません、ふざけてたらケガをしますよ」
と、ミーヤに厳しく咎められる。
「叱られちゃったよー」
「ふざけるからだよ」
そう言い合いながら、ちらっと島の方に視線を向けると、ダルも気づいたように軽く頷く。
「わかったわかった、もうやらねえって」
「たのむよー」
「その代わり早めに交代してくれよな、ダルおじさん」
「おじさんじゃねえって」
その会話を耳にしてフェイが軽く声を上げて笑った。
ダルが言ったようにあまりいい道ではないが、馬で移動するにはさほど問題のある道には思えない。以前の大きな馬車道はぐるっと王都を外回りするようなコースになっているので、最短に斜めに突っ切るようなこのコースを使うと確かにかなり早くカースに着けそうだ。
馬は3頭で人数は5人。途中で相乗りのフェイと、ダルとミーヤもお互いに馬を取り換えつつ、トーヤとルギが乗る馬に乗り換えて、思った以上に楽しい道行きとなった。
「そろそろ休憩するかな」
ダルがそう言ってとある丘で馬を止める。
「ではお弁当にしましょうか」
ミーヤがそう言って荷物を広げる準備をする。
特にこれと言ったこともない普通の丘だ。見るべき景色としてはこちらは山腹を通る道なので王都と海が見えるのみである。だが、それでもフェイにはとても楽しかった。
「よう、ちびどうだ、疲れてねえか? 尻が4つに割れたんじゃねえか?」
「……なってません」
そう言うフェイにトーヤが大笑いする。
「なあ、ダル、これでどのぐらいだ? 残りは?」
「そうだなあ、大体半分ぐらいかな」
「だそうだ、がんばれるか?」
「はい!」
「よし、いいお返事だ」
そう言ってフェイの頭をガシガシと撫でる。フェイはうれしかった。
一休みして軽く昼食をとる。宮の料理人が腕をふるってくれた遠足料理は色々な形のパンに色々な物を挟んで手で持って食べられるようにしてあった。心遣いもやはり超一流だ。
昼食後軽く体を動かすなどして、そろそろ出発という時になってダルが言った。
「そんじゃ、今度は俺はトーヤに乗っけてもらおうかな。フェイちゃんはミーヤさんと一緒でいいか?」
「はい」
「おいおい、俺の後ろに野郎かよ、うまくねえな」
「まあそう言うなって」
そう言ってトーヤが乗る馬に近づいてくる。
「よっこらしょっと、そんじゃ頼むぜ」
「おい~」
そう言いながらトーヤには分かっていた。
(もうすぐ例の洞窟の入り口があるんだな)
他の人間、特にルギには知られないように、同乗する後ろからそっとトーヤに教えるつもりだ。
「しゃあねえな~色気ねえけど我慢するか。その代わりに次の交代は早めに頼むぜ?」
「え~」
そう言ってふざけ合いながら馬を歩かせ始めた。
その後からフェイを乗せたミーヤ、ルギの順番で付いてくる。
「おい、ミーヤさんよ、ちび、重たくねえか」
「まあ、失礼ですね。フェイ、怒っていいですよ?」
後ろを振り向いて言うトーヤとミーヤの会話にフェイは返事をせずにクスクスと笑った。
このところトーヤとミーヤの間は会話が少なくなっている。直接話すことも。用事がある時だけ事務的に話をする感じだ。それが、自分を介してではあるがこのようにやりとりしているのもうれしくてたまらなかったのだ。
楽しい道行きはそのまま続いた。
しばらく進むと急激に山がぐいっと南に曲がり、道もそれに沿ってぐいっと曲がっている場所に差し掛かる。
「ここから急に坂道になるから気をつけて」
ダルが後ろを振り向いて言う。
「はい、分かりました」
「分かった」
ミーヤと、その後ろから来るルギが返事をする。
「トーヤもよく気をつけて、俺が乗ってるんだからな」
ダルがそう言って鞍を掴んでいた手を緩め、軽くトーヤを小突いた。
「分かってるよーここから一気に坂を駆け下りろってことだな?」
「違うよ!」
いつものような軽口を叩きながらダルが小突いてきた方向に目を向ける。
山の裾しか見えない。周囲はそこそこ背が高い藪と、雑草が伸びっぱなしの草原だけだ。だが……
ほんのわずか、藪と藪の間にちらっと切れ目らしき物が見える。おそらく、誰かがそこをかき分けて通った道があるのだろう。
(あそこか)
おそらく、そこから例の洞窟に入るのだろう。それがカースまで続いてる、さらにその先のマユリアの海の向こうの崖のさらに向こうへ。
トーヤは周囲をぐるっと見渡した。
特にこれと言って特徴はない。ここだと覚える目印もない。どうやって覚えておくか。
ふと、目を海の方に向ける。
カースからカトッティに向かって遠浅の海は次第に深くなっている。それゆえカトッティでは大きな船を着ける港を作ることができるのだ。カースの遠浅の海ではできない。
その遠浅を分けるように沖に一つ、小さいが島のような物が見える。もしかしたら満潮の時には沈んでしまうかも知れない小さな島と言うよりは盛り上がりだ。
(あれが目印か)
その島らしき盛り上がりのちょうど真北に当たる。それを覚えておけばおおよその目安にはなるだろう。
「さて、そんじゃ一気に坂を駆け下りるか、っと!」
「おい、やめってってー!」
本当にトーヤが馬を飛ばして駆け下りるのでダルがガシッとトーヤにしがみついた。
「わわっ、あぶねー」
「どっちがー!」
急いで手綱を引き締めて馬の足を緩める。
「だーいじょうぶだって、このぐらい」
「トーヤは大丈夫でも後ろもいるからな」
「ああ、そうだっけか。つまんねえな~」
ダルの言葉に今気づいた、という風に後ろを振り向き、
「おーい、大丈夫かー」
と呼びかけると、
「大丈夫かじゃありません、ふざけてたらケガをしますよ」
と、ミーヤに厳しく咎められる。
「叱られちゃったよー」
「ふざけるからだよ」
そう言い合いながら、ちらっと島の方に視線を向けると、ダルも気づいたように軽く頷く。
「わかったわかった、もうやらねえって」
「たのむよー」
「その代わり早めに交代してくれよな、ダルおじさん」
「おじさんじゃねえって」
その会話を耳にしてフェイが軽く声を上げて笑った。
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