61 / 353
第一章 第三節 動き始めた運命
16 最後の一人
しおりを挟む
「俺たちみたいな漁師だけじゃなくさ、獣をとる山猟師や川の魚をとる川漁師でもあるらしいよ。他にも自然から色々いただいてる仕事ではたまにあることだってさ」
「う~ん……俺の方ではそういうのは聞いたことねえけどなあ……」
「そうなのか? こっちでは結構普通にあるんだけどな」
「だったら、こうしてダルが1人だけどっかに行ってる時にはダルんちは2人だけ漁に出てたりするのか?」
「なんでだ?」
「だってな、残りの3人が漁に出てなんかあったら、外にいた1人が生き残ることになるじゃねえかよ。だったらその危険をなくすためにも1人残しておけばなんかあっても1人だけ残るってことにはならねえだろ?」
「ああ、そういうことか。いや、そういうことにはならない。どこにいても一緒だからな」
「意味が分からん」
「漁師だからな、海で命を落とすことも多いけど、他の場所でも一緒なんだ。とにかく同時にってのが大事らしい」
「う~ん……」
トーヤが首をひねる。
「海の神様だから海に返せってのなら分からんこともないけどよ、他の場所でも一緒っての意味分からんな」
「まあ神様のなさることだからね、人間に分からなくても仕方がないよ」
ダルが軽く笑う。
「だからさ、例えば5人が漁師の家族があって、4人がバラバラの場所に行ってそこで命を落とすとするだろ? 理由はバラバラだ、馬車の事故、高いところから落ちる、誰かに刺される、海に飲まれる、理由はなんでもいいんだよ、ただ同じ時にってのが重要なんだ」
「う~む、ますます意味不明だな……そんで、残った人間は漁師をやめて村を出たら助かるんだな?」
「そうだよ」
「それもまた分からんなあ、神様ってのも目をつけたのなら最後までがんばりゃいいのによ、根性のねえ」
トーヤの言葉にダルが声を上げて笑った。
「トーヤは面白いこと言うよなあ。でも出なくて命を取られたら、もっと怖いことになるし、やっぱり村のために出て行ってもらうって面もあるんだとは思うな、俺は」
「もっと怖いこと?」
「うん」
「なんだよそりゃ?」
「それはまた次の家族が目をつけられるってことだよ」
「なんだって?」
「だから残った1人が村に残ってそのまま命を落としたら、また今度別の家族から忌むべき者が出るんだよ」
「ちょ、待てよ!」
トーヤはゾッとした。
「忌むべき者ってのを殺すことができて満足するなら分かるけどよ、なんでそういうことになるんだ?」
「俺もよく分からないんだが、じいさんが言うには忌むべき者が出て完成するんじゃないかってことだったな」
「それじゃあ何か? 目的は最後の1人を作って村を追い出すってことなのか?」
「かも知れない、ってぐらいのことだな。本当のことは誰にも分かんねえ。最後の1人に何かをさせたくてそうやって村を出すってこともあるのかもって、じいさんがそう言ってた」
最後の1人を作るために何人もの人間を犠牲にする
その事実をトーヤは自分の身の上に置き換えて震えた。
「そういやじいさんが、トーヤが忌むべき者なんじゃないかってちょっと心配したって言ってたな」
「なんでだよ!」
「いや、だってさ、1人だけ生き残っただろ?」
まさに今、自分で考えていたことを裏打ちされたようでトーヤは言葉を返せない。
「でもさ、違うって分かってほっとしたってさ」
「分かったって、なんで……」
「だってさ、もう1人船乗ってたんだろ、最初はさ?」
「あ、ああ、そうだな、途中で1人降りた」
「ってことはさ、残ったのはトーヤ1人じゃないってことになるじゃないか」
「なるほど、そうか、言われてみれば」
トーヤはその時はそうしてホッとしてダルとの話を終えた。
その日ダルは村に戻り、その話をトーヤはすっかり忘れてしまっていた。たまたま時間があったのでした四方山話の一つ、そう思っていた。それで終わったはずだった、だが……
「そんでな、シャンタル連れてこっち戻る途中の港でな、例の船を降ろされたやつについて耳にしたんだよ。そしたらそいつ、ちょうど船が沈んだ頃、酔っ払って海に落ちて死んだって」
「ひいいいいい!」
ベルが声を上げる。
「そうなんだよな、最後の1人になっちまったんだよ。忌むべき者だ、俺がな」
「う~ん……俺の方ではそういうのは聞いたことねえけどなあ……」
「そうなのか? こっちでは結構普通にあるんだけどな」
「だったら、こうしてダルが1人だけどっかに行ってる時にはダルんちは2人だけ漁に出てたりするのか?」
「なんでだ?」
「だってな、残りの3人が漁に出てなんかあったら、外にいた1人が生き残ることになるじゃねえかよ。だったらその危険をなくすためにも1人残しておけばなんかあっても1人だけ残るってことにはならねえだろ?」
「ああ、そういうことか。いや、そういうことにはならない。どこにいても一緒だからな」
「意味が分からん」
「漁師だからな、海で命を落とすことも多いけど、他の場所でも一緒なんだ。とにかく同時にってのが大事らしい」
「う~ん……」
トーヤが首をひねる。
「海の神様だから海に返せってのなら分からんこともないけどよ、他の場所でも一緒っての意味分からんな」
「まあ神様のなさることだからね、人間に分からなくても仕方がないよ」
ダルが軽く笑う。
「だからさ、例えば5人が漁師の家族があって、4人がバラバラの場所に行ってそこで命を落とすとするだろ? 理由はバラバラだ、馬車の事故、高いところから落ちる、誰かに刺される、海に飲まれる、理由はなんでもいいんだよ、ただ同じ時にってのが重要なんだ」
「う~む、ますます意味不明だな……そんで、残った人間は漁師をやめて村を出たら助かるんだな?」
「そうだよ」
「それもまた分からんなあ、神様ってのも目をつけたのなら最後までがんばりゃいいのによ、根性のねえ」
トーヤの言葉にダルが声を上げて笑った。
「トーヤは面白いこと言うよなあ。でも出なくて命を取られたら、もっと怖いことになるし、やっぱり村のために出て行ってもらうって面もあるんだとは思うな、俺は」
「もっと怖いこと?」
「うん」
「なんだよそりゃ?」
「それはまた次の家族が目をつけられるってことだよ」
「なんだって?」
「だから残った1人が村に残ってそのまま命を落としたら、また今度別の家族から忌むべき者が出るんだよ」
「ちょ、待てよ!」
トーヤはゾッとした。
「忌むべき者ってのを殺すことができて満足するなら分かるけどよ、なんでそういうことになるんだ?」
「俺もよく分からないんだが、じいさんが言うには忌むべき者が出て完成するんじゃないかってことだったな」
「それじゃあ何か? 目的は最後の1人を作って村を追い出すってことなのか?」
「かも知れない、ってぐらいのことだな。本当のことは誰にも分かんねえ。最後の1人に何かをさせたくてそうやって村を出すってこともあるのかもって、じいさんがそう言ってた」
最後の1人を作るために何人もの人間を犠牲にする
その事実をトーヤは自分の身の上に置き換えて震えた。
「そういやじいさんが、トーヤが忌むべき者なんじゃないかってちょっと心配したって言ってたな」
「なんでだよ!」
「いや、だってさ、1人だけ生き残っただろ?」
まさに今、自分で考えていたことを裏打ちされたようでトーヤは言葉を返せない。
「でもさ、違うって分かってほっとしたってさ」
「分かったって、なんで……」
「だってさ、もう1人船乗ってたんだろ、最初はさ?」
「あ、ああ、そうだな、途中で1人降りた」
「ってことはさ、残ったのはトーヤ1人じゃないってことになるじゃないか」
「なるほど、そうか、言われてみれば」
トーヤはその時はそうしてホッとしてダルとの話を終えた。
その日ダルは村に戻り、その話をトーヤはすっかり忘れてしまっていた。たまたま時間があったのでした四方山話の一つ、そう思っていた。それで終わったはずだった、だが……
「そんでな、シャンタル連れてこっち戻る途中の港でな、例の船を降ろされたやつについて耳にしたんだよ。そしたらそいつ、ちょうど船が沈んだ頃、酔っ払って海に落ちて死んだって」
「ひいいいいい!」
ベルが声を上げる。
「そうなんだよな、最後の1人になっちまったんだよ。忌むべき者だ、俺がな」
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました
ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。
大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。
ー---
全5章、最終話まで執筆済み。
第1章 6歳の聖女
第2章 8歳の大聖女
第3章 12歳の公爵令嬢
第4章 15歳の辺境聖女
第5章 17歳の愛し子
権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。
おまけの後日談投稿します(6/26)。
番外編投稿します(12/30-1/1)。
作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる