31 / 353
第一章 第二節 カースへ
8 アランの推理
しおりを挟む
「助けるって、どうするつもりだ? シャンタルみたいに国から連れ出すのか?」
「場合によっちゃあな」
「そうか……」
アランはう~むと唸りながら、腕を組んで頭を傾げた。
「俺はさ、自分で自分なりに色々と考えてたわけだよ。なんでシャンタルがここにいるのか、とかな。それが、そういうことならちょっと話が変わってくるんだよなあ……なあ、一つだけ確かめときたいことがあるんだが、代々のシャンタルってのは誰が探すんだ?」
「それもシャンタルの託宣だ」
「またか、というかやっぱりか……ってことは、うちらのシャンタルを見つけたのはそのマユリアだよな?」
「そうだな、先代だからな」
「だよなあ」
アランが一拍置いて、思い切ったように言った。
「俺はな、マユリアってのが自分の失態をなかったことにしようとしてトーヤにシャンタルを始末させる腹だったんじゃないかと思ったんだよ」
「ちょ、兄貴、何言い出すんだよ!」
ベルがびっくりして声を上げる。
目はちらっとシャンタルの方を見て慌てて兄に向けた。
「ベルは本当にやさしいね。でも大丈夫だよ、そういう話はもう全部承知してるから。だから何を聞いてもベルが心配するような気持ちにはならないからね」
シャンタルの言葉にベルの顔がまたくしゃっと歪む。
「さっきからね、私の名前が出たり厳しい話になると、ずっとこっちを気にしてくれてるのに気がついてたよ」
「そうだな」
トーヤも重ねて言う。
「だがな、こいつの言うように、もうどれも終わったこと、納得もしてることだからな? いちいちお前が動揺してどうすんだ、え?」
そう言いながらベルの頭を顔以上にくしゃくしゃにする。
「いってえな、トーヤ、離せって、痛くて涙出るだろうが」
「そんじゃ泣け、勝手に泣いとけ」
「るせえよ、泣いてねえよ、とっとと続けろよ」
トーヤがさらに頭をくしゃくしゃにかき混ぜながら言った。
「そんでなんだ、続けろアラン」
「了解」
アランもベルの頭を一つ小突いてから話を続けた。
「代々のシャンタルは女だ、女神様の入れ物だからそれが当然だ。だがこいつは、うちのシャンタルは男だ。それってマユリアが選び損ねた、失敗したってことじゃないのかって思った」
アランがシャンタルを指差してそう言った。
「もしもそうだとしたら十年後、また次のシャンタルを選んでマユリア交代となったらどうだ? チビの頃は女だとごまかすこともできるかも知れねえが、シャンタルが大人になったらそりゃ無理ってもんだろ? なんぼなんでもいつかは男だってことがバレる。だからそれがバレる前に、うまいこと自分の手に入った、どこの馬の骨とも知れねえ流れ者に始末させるつもりだとしたら話の辻褄は合うだろうが」
「話としては合うな」
「だろ? てっきりそういう話で、もう少しで消されるシャンタルをかわいそうに思ったトーヤが連れて逃げた、そういう感じで思ってた、それがなあ……」
またアランはう~んと頭を捻る。
「マユリアを助けに行く、トーヤはそう言うんだよな。トーヤが言うってことは、もちろんシャンタルもそう思ってるってことなんだよな?」
「そうだね」
シャンタルも素直に認めた。
「自分を邪魔にして殺そうってやつをわざわざはるばる海を超えて助けに行く、危ない橋を渡りに行く。そんなことは俺には考えられないんだよ。ってことは、話はそんな簡単なことじゃないってことだよな?」
「まあそうだな」
「としたら、マユリアがシャンタルを助けてくれって言ったって可能性もあるんだが、だったらトーヤが目を覚ました段階でとっとと頼めば簡単だ。わざわざルギなんてやつに見張らせる必要なんかないだろう。ってことはなんかそこにも理由があるんだよな……」
ギシッと音を立て、アランが椅子の背にもたれた。
「単に逃したいだけならいい逃げ道を教えてとっとと逃がすに限る。それをしないのはもしかしたら時期じゃねえのか? その時までトーヤが逃げ出さないように見張らせるとしたら分からんでもない。だがなんでその時まで待つんだ? 今逃がすのとなんか違うのか?」
右手親指を右のこめかみに当て、目をつぶって考える。
「特別な時期を狙うとすると、やっぱりシャンタル交代の時だよな? なんでか交代させたくなかったか、それともできなかった理由があるんだろうきっと。それはなんだ? 交代させて自分が普通の人間に戻ったらもっと逃がすのは難しくなるぞ。マユリアのままなら命令一つでなんとでもなる」
右手を戻して両腕を胸の前で組み直す。
「それをその時期を待ってまでシャンタルのまま逃がす。そうなると、自分がマユリアから人間に戻るってのは可能なのか? どうやって交代するか分からんのでなんとも言えんが、マユリアのままだと自分の体にガタがきて死ぬかも知れないのに、それを承知でシャンタルを逃がす。これもまた俺には理解できん、人間、誰だって自分が一番かわいいもんだからな」
言ってから気付いたようにアランがハッとする。
「あ、人間じゃなく神様だったな、まだ」
「だな」
トーヤがアランの冗談に少しだけ笑う。
ベルにはそこまでの余裕がないのか固まったままひたすら兄の言葉を聞いている。
シャンタルも真顔のままアランの推測を聞いている。
「おまえら、ここ、笑うとこだろ?……」
アランがそう言うが、2人が反応しないので、
「ま、いいか」
と、話を続けた。
「だからまあ、人間でも神様でもいいけどよ、自分の命をかけてまで逃してやるのも分からん。俺だったらとっととシャンタル始末して自分が助かりたいしな。もしも自分の命と引き換えにしてでも逃したいとしても、それでもやっぱりすぐ逃してやる方が楽だろう。なら、交代の時になんかあるんだろうがそれがさっぱり分からねえ。そこまで待って逃したい、そういう何かがあるんだろうきっと。じゃあそれはなんだ?」
「おまえ、結構すごいな」
トーヤが感心する。
「だろ?」
アランが得意そうに言ってにんまりと笑う。
「だがここまでだ、いくら考えてもこの先は分からん。ってことでな、同じところから動けなくなって全く何がなんだか分からなくなってるところだ」
アランはお手上げという風に両手を上げて肩をすくめた。
「場合によっちゃあな」
「そうか……」
アランはう~むと唸りながら、腕を組んで頭を傾げた。
「俺はさ、自分で自分なりに色々と考えてたわけだよ。なんでシャンタルがここにいるのか、とかな。それが、そういうことならちょっと話が変わってくるんだよなあ……なあ、一つだけ確かめときたいことがあるんだが、代々のシャンタルってのは誰が探すんだ?」
「それもシャンタルの託宣だ」
「またか、というかやっぱりか……ってことは、うちらのシャンタルを見つけたのはそのマユリアだよな?」
「そうだな、先代だからな」
「だよなあ」
アランが一拍置いて、思い切ったように言った。
「俺はな、マユリアってのが自分の失態をなかったことにしようとしてトーヤにシャンタルを始末させる腹だったんじゃないかと思ったんだよ」
「ちょ、兄貴、何言い出すんだよ!」
ベルがびっくりして声を上げる。
目はちらっとシャンタルの方を見て慌てて兄に向けた。
「ベルは本当にやさしいね。でも大丈夫だよ、そういう話はもう全部承知してるから。だから何を聞いてもベルが心配するような気持ちにはならないからね」
シャンタルの言葉にベルの顔がまたくしゃっと歪む。
「さっきからね、私の名前が出たり厳しい話になると、ずっとこっちを気にしてくれてるのに気がついてたよ」
「そうだな」
トーヤも重ねて言う。
「だがな、こいつの言うように、もうどれも終わったこと、納得もしてることだからな? いちいちお前が動揺してどうすんだ、え?」
そう言いながらベルの頭を顔以上にくしゃくしゃにする。
「いってえな、トーヤ、離せって、痛くて涙出るだろうが」
「そんじゃ泣け、勝手に泣いとけ」
「るせえよ、泣いてねえよ、とっとと続けろよ」
トーヤがさらに頭をくしゃくしゃにかき混ぜながら言った。
「そんでなんだ、続けろアラン」
「了解」
アランもベルの頭を一つ小突いてから話を続けた。
「代々のシャンタルは女だ、女神様の入れ物だからそれが当然だ。だがこいつは、うちのシャンタルは男だ。それってマユリアが選び損ねた、失敗したってことじゃないのかって思った」
アランがシャンタルを指差してそう言った。
「もしもそうだとしたら十年後、また次のシャンタルを選んでマユリア交代となったらどうだ? チビの頃は女だとごまかすこともできるかも知れねえが、シャンタルが大人になったらそりゃ無理ってもんだろ? なんぼなんでもいつかは男だってことがバレる。だからそれがバレる前に、うまいこと自分の手に入った、どこの馬の骨とも知れねえ流れ者に始末させるつもりだとしたら話の辻褄は合うだろうが」
「話としては合うな」
「だろ? てっきりそういう話で、もう少しで消されるシャンタルをかわいそうに思ったトーヤが連れて逃げた、そういう感じで思ってた、それがなあ……」
またアランはう~んと頭を捻る。
「マユリアを助けに行く、トーヤはそう言うんだよな。トーヤが言うってことは、もちろんシャンタルもそう思ってるってことなんだよな?」
「そうだね」
シャンタルも素直に認めた。
「自分を邪魔にして殺そうってやつをわざわざはるばる海を超えて助けに行く、危ない橋を渡りに行く。そんなことは俺には考えられないんだよ。ってことは、話はそんな簡単なことじゃないってことだよな?」
「まあそうだな」
「としたら、マユリアがシャンタルを助けてくれって言ったって可能性もあるんだが、だったらトーヤが目を覚ました段階でとっとと頼めば簡単だ。わざわざルギなんてやつに見張らせる必要なんかないだろう。ってことはなんかそこにも理由があるんだよな……」
ギシッと音を立て、アランが椅子の背にもたれた。
「単に逃したいだけならいい逃げ道を教えてとっとと逃がすに限る。それをしないのはもしかしたら時期じゃねえのか? その時までトーヤが逃げ出さないように見張らせるとしたら分からんでもない。だがなんでその時まで待つんだ? 今逃がすのとなんか違うのか?」
右手親指を右のこめかみに当て、目をつぶって考える。
「特別な時期を狙うとすると、やっぱりシャンタル交代の時だよな? なんでか交代させたくなかったか、それともできなかった理由があるんだろうきっと。それはなんだ? 交代させて自分が普通の人間に戻ったらもっと逃がすのは難しくなるぞ。マユリアのままなら命令一つでなんとでもなる」
右手を戻して両腕を胸の前で組み直す。
「それをその時期を待ってまでシャンタルのまま逃がす。そうなると、自分がマユリアから人間に戻るってのは可能なのか? どうやって交代するか分からんのでなんとも言えんが、マユリアのままだと自分の体にガタがきて死ぬかも知れないのに、それを承知でシャンタルを逃がす。これもまた俺には理解できん、人間、誰だって自分が一番かわいいもんだからな」
言ってから気付いたようにアランがハッとする。
「あ、人間じゃなく神様だったな、まだ」
「だな」
トーヤがアランの冗談に少しだけ笑う。
ベルにはそこまでの余裕がないのか固まったままひたすら兄の言葉を聞いている。
シャンタルも真顔のままアランの推測を聞いている。
「おまえら、ここ、笑うとこだろ?……」
アランがそう言うが、2人が反応しないので、
「ま、いいか」
と、話を続けた。
「だからまあ、人間でも神様でもいいけどよ、自分の命をかけてまで逃してやるのも分からん。俺だったらとっととシャンタル始末して自分が助かりたいしな。もしも自分の命と引き換えにしてでも逃したいとしても、それでもやっぱりすぐ逃してやる方が楽だろう。なら、交代の時になんかあるんだろうがそれがさっぱり分からねえ。そこまで待って逃したい、そういう何かがあるんだろうきっと。じゃあそれはなんだ?」
「おまえ、結構すごいな」
トーヤが感心する。
「だろ?」
アランが得意そうに言ってにんまりと笑う。
「だがここまでだ、いくら考えてもこの先は分からん。ってことでな、同じところから動けなくなって全く何がなんだか分からなくなってるところだ」
アランはお手上げという風に両手を上げて肩をすくめた。
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる