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第六章 第四節
12 衛士と傭兵
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「それで、一体どうすればいいのでしょう」
「だからなんも変わらんって」
「でも」
「あるとすれば俺らももう一度覚悟を決めるってこったな。例えばルギに斬り捨てられる覚悟とか」
「そんな!」
ミーヤはトーヤがまた冗談を言っている、そう思おうと表情を伺うが、そこにはふざけているような様子が一切見られなかった。
「本当のことなんですね」
「ああ」
「俺もそれだと思いますよ」
アランもトーヤの言葉に添える。さすがにこれ以上のことをトーヤからミーヤに伝えるのは可哀想な気がしたらしい。
「裏で何があったか全部のことは分かりません。ですが見えていることだけを並べてみると、キリエさんは何かを知って警告と断絶のためにミーヤさんにそう言ってきたんだと推測できます。つまり、ルギの剣が向くだろう方向を教えてきた、そう考えるのがいいでしょうね」
ミーヤは真っ青になってアランを見て、次にトーヤに視線を向ける。
「どうしてそんなに平気な顔をしていられるのでしょう」
「いや、別に平気ってわけじゃねえぞ」
トーヤが少し表情を崩して言う。できるだけ柔らかくミーヤに伝えたいと思っているようだ。
「俺だって黙ってやられてるつもりはないからな。八年前だってルギがくっついてくるようになってからずっと、いつやり合うことになるか、そのことを忘れたことは一瞬もなかった。今回も同じことだ」
「まあ、俺らはそういう生活をずっとしてきてますからね。だから平気に見えるだけだと思いますよ。そしてそれはベルやシャンタルも同じです」
そうだった。ミーヤは思い出す。いや、忘れてはいないつもりだが、どうしても現実のこととして受け入れ切れていないという感じか。
「戦場ではずっとそんな感覚だったということですか」
「そうですね」
「気をぬきゃ命取りだからな、常にどこかにずっとそういう意識はある。だから心配するこたねえ」
「そう言われてもそうですかと言えるものではないですよ」
ミーヤが眉を寄せてそう言う。
「そりゃまあそうだが、まああんたにも少し慣れてもらうしかないな。それより気になるのはキリエさんが知ったことだ。一体何をどう知ったのか」
「もしかしたらマユリアの中にいるものの正体を知った可能性もあるな」
「キリエさんのことだ、そのぐらいのことはあるかも知れん」
「知っててなおそっちの道を選ぶってことは、やっぱり思った通りマユリアの中のマユリアかな」
「そうであってもらわん方が、こっちとしても色々やりやすいんだがなあ」
2人の傭兵はミーヤの知らない顔で戦略について話し合いを始めた。
「それからルギの剣は間違いなく俺らに向いてるな。一番知らせたかったのはそれじゃねえかな」
「俺もそんな気がするな」
「ってことはまたやり合うってことか」
トーヤがめんどくさそうにそう言うと、両手を頭の後ろに組んで椅子の背にもたれるようにして天井を見上げた。
「めんどくせえなあ」
「トーヤがそんな嫌がるってことは、結構な遣い手ってことか」
「結構なんてもんじゃねえな、かなりだよ」
「へえ」
ダルの相手をしている時からルギの腕前については分かっていた。あの時、相手をしてやってくれと言ったのには、それを知りたかったからということもある。
「そういや一緒に訓練した時に衛士の一人が言ってたな、隊長はこの国一番の遣い手だって。それで国王も相手をしてくれと頼んできたとか自慢そうだった」
「へえ、そんで相手してやったのか」
「いや、それはどうだっけかな」
「まあどっちでもいいが、そのぐらいの腕だってのは確かに見てても分かったな。だから八年前、ろくに剣もない状態でどうやったら勝てるか考えてたわけだ」
「へえ」
アランはトーヤがそこまで認めているルギの腕に感心する。
「トーヤがそのぐらい言うってのはよっぽどなんだな。そんで、勝てるか?」
「うーん、五分五分ってとこかな」
「それほどか!」
トーヤが自分と五分と言うなどアランは聞いたことがなかった。
いつも、相手がどれほど強くても、
「まあ俺の方が強いけどな」
そう言って、実際にどんな相手と立ち会っても負けることがない。
だがそれは正々堂々との立ち会いとはまた違う。戦場での戦いはそのようなものではない。
負けなければいい、生き延びればいい。トーヤが使う剣はそんな剣だ。
真っ向から立ち会えば負ける相手にも負けなければいいのだ。
「八年前に一回手の内見せちまってるからなあ。今度は同じ手は使えねえ」
「けど、今度は剣も使えるし、それにやるとしたら戦場になるんじゃねえの?」
「まあな。けど油断はできねえ」
「いざとなったら俺も助けるけどさ」
つまりルギ1人にトーヤとアランで対応する、そういうことだ。戦場では卑怯も何もない。とにかく相手を倒せばいいのだから。
「けどなあ、できればルギとはやりたくねえよなあ。もしもマユリアの命令だとしたら、ルギもこっちをやる気でかかってくるかも知れねえし」
八年前、ダルと一緒にシャンタルの黒い棺を沈める準備をしている時、トーヤはルギはマユリアの命がない限り自分の命を奪うことはできないと言った。
「その命があるかも知れねえだけに、めんどくせえよなあ」
本心からのめんどくさいであった。
「だからなんも変わらんって」
「でも」
「あるとすれば俺らももう一度覚悟を決めるってこったな。例えばルギに斬り捨てられる覚悟とか」
「そんな!」
ミーヤはトーヤがまた冗談を言っている、そう思おうと表情を伺うが、そこにはふざけているような様子が一切見られなかった。
「本当のことなんですね」
「ああ」
「俺もそれだと思いますよ」
アランもトーヤの言葉に添える。さすがにこれ以上のことをトーヤからミーヤに伝えるのは可哀想な気がしたらしい。
「裏で何があったか全部のことは分かりません。ですが見えていることだけを並べてみると、キリエさんは何かを知って警告と断絶のためにミーヤさんにそう言ってきたんだと推測できます。つまり、ルギの剣が向くだろう方向を教えてきた、そう考えるのがいいでしょうね」
ミーヤは真っ青になってアランを見て、次にトーヤに視線を向ける。
「どうしてそんなに平気な顔をしていられるのでしょう」
「いや、別に平気ってわけじゃねえぞ」
トーヤが少し表情を崩して言う。できるだけ柔らかくミーヤに伝えたいと思っているようだ。
「俺だって黙ってやられてるつもりはないからな。八年前だってルギがくっついてくるようになってからずっと、いつやり合うことになるか、そのことを忘れたことは一瞬もなかった。今回も同じことだ」
「まあ、俺らはそういう生活をずっとしてきてますからね。だから平気に見えるだけだと思いますよ。そしてそれはベルやシャンタルも同じです」
そうだった。ミーヤは思い出す。いや、忘れてはいないつもりだが、どうしても現実のこととして受け入れ切れていないという感じか。
「戦場ではずっとそんな感覚だったということですか」
「そうですね」
「気をぬきゃ命取りだからな、常にどこかにずっとそういう意識はある。だから心配するこたねえ」
「そう言われてもそうですかと言えるものではないですよ」
ミーヤが眉を寄せてそう言う。
「そりゃまあそうだが、まああんたにも少し慣れてもらうしかないな。それより気になるのはキリエさんが知ったことだ。一体何をどう知ったのか」
「もしかしたらマユリアの中にいるものの正体を知った可能性もあるな」
「キリエさんのことだ、そのぐらいのことはあるかも知れん」
「知っててなおそっちの道を選ぶってことは、やっぱり思った通りマユリアの中のマユリアかな」
「そうであってもらわん方が、こっちとしても色々やりやすいんだがなあ」
2人の傭兵はミーヤの知らない顔で戦略について話し合いを始めた。
「それからルギの剣は間違いなく俺らに向いてるな。一番知らせたかったのはそれじゃねえかな」
「俺もそんな気がするな」
「ってことはまたやり合うってことか」
トーヤがめんどくさそうにそう言うと、両手を頭の後ろに組んで椅子の背にもたれるようにして天井を見上げた。
「めんどくせえなあ」
「トーヤがそんな嫌がるってことは、結構な遣い手ってことか」
「結構なんてもんじゃねえな、かなりだよ」
「へえ」
ダルの相手をしている時からルギの腕前については分かっていた。あの時、相手をしてやってくれと言ったのには、それを知りたかったからということもある。
「そういや一緒に訓練した時に衛士の一人が言ってたな、隊長はこの国一番の遣い手だって。それで国王も相手をしてくれと頼んできたとか自慢そうだった」
「へえ、そんで相手してやったのか」
「いや、それはどうだっけかな」
「まあどっちでもいいが、そのぐらいの腕だってのは確かに見てても分かったな。だから八年前、ろくに剣もない状態でどうやったら勝てるか考えてたわけだ」
「へえ」
アランはトーヤがそこまで認めているルギの腕に感心する。
「トーヤがそのぐらい言うってのはよっぽどなんだな。そんで、勝てるか?」
「うーん、五分五分ってとこかな」
「それほどか!」
トーヤが自分と五分と言うなどアランは聞いたことがなかった。
いつも、相手がどれほど強くても、
「まあ俺の方が強いけどな」
そう言って、実際にどんな相手と立ち会っても負けることがない。
だがそれは正々堂々との立ち会いとはまた違う。戦場での戦いはそのようなものではない。
負けなければいい、生き延びればいい。トーヤが使う剣はそんな剣だ。
真っ向から立ち会えば負ける相手にも負けなければいいのだ。
「八年前に一回手の内見せちまってるからなあ。今度は同じ手は使えねえ」
「けど、今度は剣も使えるし、それにやるとしたら戦場になるんじゃねえの?」
「まあな。けど油断はできねえ」
「いざとなったら俺も助けるけどさ」
つまりルギ1人にトーヤとアランで対応する、そういうことだ。戦場では卑怯も何もない。とにかく相手を倒せばいいのだから。
「けどなあ、できればルギとはやりたくねえよなあ。もしもマユリアの命令だとしたら、ルギもこっちをやる気でかかってくるかも知れねえし」
八年前、ダルと一緒にシャンタルの黒い棺を沈める準備をしている時、トーヤはルギはマユリアの命がない限り自分の命を奪うことはできないと言った。
「その命があるかも知れねえだけに、めんどくせえよなあ」
本心からのめんどくさいであった。
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