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第六章 第三節

21 マユリアの中のマユリア

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「マユリアの中はマユリア……」

 ベルの言葉にトーヤは何かが引っかかった。

「な、なんだよ。そうだろ?」
「ああ、そうだな」
 
 ベルにそう答えながらも、まだトーヤは何かを考えている様子だ。

「なあ、アラン」
「なんだ」
「俺たちは、ちょっとばかり考え違いをしてたかも知れん」
「考え違い?」
「ああ」

 トーヤは深刻な顔でアランにうなずいた。

「一体それはどういうことだ?」
「なあに、簡単なことだ。もうとっくに答えは出ていたかも知れねえってこった。さっきのベルの言葉でそのことに気がついた」

 アランは少しの間考えていたが、思いだしたようにハッとする。

「まさか……」
「おそらくそのまさかだ」
「嘘だろ……」
「俺も嘘だと思いたいがな」
「ちょ、ちょい」

 ベルがトーヤと兄の会話をおろおろしながら止める。

「どういうこったよ、おれが言ったこと? おれ、なんか言ったっけ?」
「ああ言った。さすが童子様だよな、ぽいぽいっとそうやって答えを出しやがる」
「ええー」

 ベルはうーむと腕を組んで考えるが分からないようだ。

「さっきベルが言ったこと……」

 ミーヤが青い顔をして、膝の上で右手と左手をそれぞれギュッと握りしめる。

「とても、怖い言葉だったと思います……」
「ミーヤ様……」
 
 アーダもなんとなく分かったようだ。凍ったような顔で右隣りのミーヤをじっと見つめている。

「そうだ、それだ」
「ちょ、ちょっと、おれだけなんだか分かってねえんだけど!」

 ベルは本当に何気なく口に出しただけだったのだろう。それだけにあまり意識に強く残っていなかったようだ。

「マユリアの中はマユリア」

 シャンタルがいつものように、普通にそう言った。

「え!」

 ベルが飛び上がるように椅子にもたれていた上半身を起こす。

「さっきベルはそう言ったんだよ」
「え! おれ、そんなこと言った? えっと、いや、いや、そういや言ったかも。けど、それがなんで……えっ!」

 ベルは混乱しているが、確かに言われてみれば言った、そんな記憶がある。いや、だけどそれは、本当にそんなことを言ったのか?

「つまりそういうことだ」
「言われてみればそれが一番しっくりくるよな」
「ああ」

 トーヤとアランはそう言ってお互いの判断を確認しあった。

 いつものすり合わせだ。状況を判断し、トーヤとアランが自分たちの判断が同じかどうかを確かめる。

「そうだね、そう考えるのが一番自然だよね」

 シャンタルだ。
 こんな時まで平然と、普通の会話のようにそうつぶやく。だが、では他にどういう反応をすればいいのかと聞かれても、答えることができる者はいないだろう。

「おまえはどう思う」
「お、おれ!?」

 トーヤに聞かれ、ベルが自分を指差したまま、ミーヤとアーダに助けを求めるように視線を送った。
 ミーヤは何も表情を浮かべることなくじっとベルの瞳を見つめ、アーダは困ったように視線を足元に下げてしまった。

「おい、おまえに聞いてんだよ。ミーヤとアーダに聞いてもしょうがねえだろうが」
「いや、だって……」
「いいからどう思うか正直に言ってみろ」

 おろおろするベルにアランが静かに尋ねた。

「マユリアの中はマユリア。なんでそう言った」
「なんでって……」

 なんでだろう。ベルは目をつぶって考えてみる。

「マユリアの中にいるのってどんなやつなんだろう、そう思って、そんで、そういや今はマユリアの中にはマユリアがいるんだなって、なんとなくそう思っただけで……」

 特に考えて発言したわけではない。ただ、ふっとそう思っただけだった。

「そうか」

 トーヤはそう言って黙ると、ふところから何かを取り出した。

 それはあの御祭神にもらった石だった。
 包んでいる布をはずして中身を取り出す。
 特に変化はない。

「特に光ってもねえな」
「そうだな」

 トーヤの手の上で、それはただ静かに留まっている。

「ってことは、マユリアじゃないってことじゃねえの?」

 ベルが恐る恐るそう言う。そうであってほしい、そう思うように。

「そうかも知れん。だが光らないには他の理由があるかもな」
「他の理由って?」
「そうだな。いくつかあるが、まずはおまえが言うように、あの光が言ってるのはマユリアじゃねえって可能性だ」
「うん」

 ベルはその理由であってほしい、そう思いながら返事をした。

「次は、あの場所に集まれないって可能性だ」
「集まれないって?」
「たとえば、ディレンとハリオとダルが船にいるから」
「ああ、なるほど、青い鳥かその石がないと飛べないからか」
「そういうことだ」
「そんじゃ次は」
「分からん」
「は?」
「分からんが、何か理由があるんだろう」
「はあ、相変わらずたよんねえなあ……」

 ベルが肩を大きく上下しながらそう言う。

「とりあえず、全員が一緒に飛べる状態の時にもう一度試してみる。まずはそれからだ」
「そうだな」

 アランも同意する。

「それと同時に、もしもそれがマユリアの中のマユリア、女神マユリアだとしたら、なんでそんなことをするのか、それも考えないとな」
「つまり、なんで女神マユリアが神官長を操って、乗っ取りを考えようとしてるか、だな」
「そうだ」

 トーヤをアランがそうして話を詰めていくのを、残りの4人は黙って見ていた。
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