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第六章 第二節

 7 強さの秘密

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 翌日、奥宮の侍女控室に侍女全員が集められ、キリエから新しい役職についての発表があった。

 取次役を侍女頭の直属とし、その取りまとめ役には他の役目と兼務でフウが就くこと、その下に奥宮担当と前の宮担当を1名ずつおき、奥宮はセルマ、前の宮はミーヤが勤めること。

 聞いた瞬間、小さなざわめきが侍女たちの間に広がった。
 それは本当に小さなものであったが、侍女たちは人前でそのような感情をほとんど出さぬよう、教育が行き届いている。それだけに、その発表にどれほどの衝撃を受けているかが分かるものであった。

 まずはその顔ぶれだ。ほんの少し前まで取次役として侍女頭と同じぐらいの権勢を誇っていたセルマ、それから八年前の「あのミーヤ」に、そして、これがもしかすると一番大きなざわめきの原因ではあったが、変人で通っているフウの3人だ。

 次に「取次役」というその役職。初めてこの役職ができた時、誰もが単に奥宮と前の宮との連絡係、本当に要件を取り次ぐだけの係だと思っていた。それが、気がつけばセルマはまるでもう一人の侍女頭か、シャンタルとマユリアの次の宮の主であるかのように振る舞うようになっていた。
 その取次役が3人とはどういう意味なのか。もしかしたら、3人がこれから宮を取り仕切ると言うのではないか。一部にはそう考えた侍女もいた。

 だが、以前と違い、これからは取次役は侍女頭の直属になるという。つまり、ごく普通の一部署という存在になるわけだ。その仕事内容も、一番最初に取次役ができると聞いた時に思ったように、単なる連絡役に過ぎないようだ。
 
 ということは、「取次役」は「侍女頭」に負けたということなのか?

 一体何があったのかは分からないが、セルマはしばらくの間「謹慎中」であった。その理由を大部分の侍女たちは知らない。
 セルマとミーヤが懲罰房に入れられることになった時、あの謁見の間にいた侍女はセルマ、ミーヤ、そしてリルとアーダだけであった。そしてその誰もがそこで何があったかを話すことはしなかった。
 侍女たちが聞いたのは、しばらくセルマとミーヤが謹慎する、それだけであった。そしてミーヤが一足先に復帰して、夜はセルマと同じ部屋にまた戻っていたこと。今朝までセルマはその部屋で寝起きして、その前では衛士が始終座っていた、それだけだ。

「えー、それでは」

 静かに困惑をしていた侍女たちが、その声にハッとして注目する。

「今、キリエ様がおっしゃったように、取次役取りまとめ役を拝命いたしました。といっても、ほとんどやることもないでしょうが、何かあったら私に連絡をお願いいたします」

 フウだ。フウは続けて仕事の流れを軽くまとめて説明をすると、

「以上です」

 そう言って、報告は終わりとなった。

「それでは、各自自分の持ち場に戻ってください。取次役の3名はこの後で少し話がありますから、兼任の部署には少し遅れると思います。では」

 キリエの言葉で侍女たちは散っていった。

「取次役の3名は私の執務室へ」

 キリエの後にフウ、セルマ、ミーヤの順に並んで付いていく。
 その通り道に受け持ちの部署のある侍女たちが、行列を物珍しそうに、だがこっそりと眺めている。

 セルマはその視線に不愉快になるが、そのことを顔に出すまいと知らぬ顔をした。そして、昨夜ミーヤと話したことを思い出す。

「知らぬ顔をしていればいいと思いますよ」

 取次役の面子については、ミーヤの説明で納得をするしかなくなった。だが、かといってその3人が同じ係と知った他の者たちの反応は、それを考えるだけでますます気が重くなる。

 黙ったままそのことを考えていると、ミーヤがそう言ったのだ。

「そんなにいつまでも、他人のことを見続けていられる人はいません。すぐに慣れます。そうするとあちらも興味を失いますから」

 まるでそんな経験があるようだとセルマは感じ、ふと、思い当たった。

「あなた、もしかして」
「はい、八年前になんやかんやと」

 ミーヤはそう言ってクスッと笑った。

 こともなげにそう言って見せるが、当時は随分とつらかったことだろう。セルマはそう思って胸が痛んだ。それに自分も同じことをして、そのことで共に懲罰房に入れてしまった。

「ごめんなさい」

 今なら分かる。ミーヤがそのような侍女ではないことも、トーヤという、当時、自分にはならず者だとしか思えなかったあの人が、決して侍女をそのように扱う人ではないということも。フェイとの話からそう知った。

「いいえ」

 ミーヤはただ一言だけ、笑顔でそう返し、こう続けた。

「当時、セルマ様からはそのような目で見られなかった。そのことを感謝いたしております」

 八年前、ミーヤはまだ16歳だった。その少女がそんな状況に耐え、乗り越えたのだ。長年、宮で生き、経験も年齢も積んだ自分に耐えて乗り越えられないことではない。

 そしてもう一つ。ミーヤの強さ、それは信頼する人がいるからだ、それも理解できた。決してミーヤはトーヤとそのような穢れた関係ではなかった。だが、互いに深く信頼し合い、強くつながっているのだろう。

 自分は今、ミーヤを信頼している。その子がそう言うのだ、おそらく大丈夫だろう。セルマはそう思って力を抜いた。
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