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第六章 第一部
18 取り引き
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「つまり、もしかしたらその時からマユリア、つーか当時のシャンタルはルギにその剣をやろうと思ってたかも知れねえ、ということか?」
「かも、ってことだな。キリエさんにもそのへんのことは分からんらしい」
聞いてみれば不思議な話ではあった。当時のシャンタル、まだ8歳だったマユリアは、その剣を見て何かを感じたのだろう。その時にその剣の持ち主をルギと認めていたとしたら、いつかは渡すつもりだったとしてもおかしくはない。
「何しろこういうとこだからなあ、何があっても不思議じゃねえ。けど、そうすると、それはえっと二十年前か、その時からずっとこの日まで待ってたってことになるのか?」
「まあ二千年前から見たらそのぐらいの時間、特に屁でもなさそうだけどな」
アランの言葉にトーヤが茶化したように、だが決してただの冗談のようには聞こえない感じでそう言った。
「とりあえず、その剣がおそらくルギのために今日まで宝物庫とやらで眠ってた、それは間違いがなさそうだな。だとすると、それをどうして今、どういう理由で渡したかってことだ」
「どういう理由、って?」
ベルがトーヤに不思議そうに聞いてきた。
「もうすぐ交代だろ? 自分がマユリアのうちに、自分の忠実な家臣に長年のお礼ってので剣を渡したんならなんも問題ない。けどな、もしも、何かと引き換え、たとえばだ、この剣を渡すかわりにこうしてほしい、そういう取り引きがあったとしたら、どうだ?」
「ええー、マユリアがルギにそんなとりひき持ちかけるかなあ」
兄の言葉にベルが不服そうにそう言う。
「おれ、ルギはなんの損得もなくマユリアに仕えてるもんだとばかり思ってたし、そうであってほしいと思ってんだけどなあ。だからマユリアもそのお礼じゃねえの?」
「それだったらいいんだけどな」
トーヤがテーブルに左肘をつき、手であごを支えながらそう言ってから、ハッとして周囲を見渡す。
「ミーヤさんならいないぜ。さっき用事があるって出ていった」
「そ、そうか」
アランにそう言われてトーヤがホッとした顔になるが、一応肘を付くのはやめたようだ。
それにしても、ちょっと周囲を見ただけでミーヤに怒られるのを気にしてるのを気づかれるとは思っていなかっただけに、トーヤはちょっとバツが悪くなった。
すると、
「別に兄貴だけじゃねえからな。俺だって気がついてるから」
「な、なにがだ!」
「トーヤがミーヤさんに怒られるの気にしてるってこと」
直球が来た。
「まあ、いいじゃん。怒られるうちが花とも言うぜ? 何しても相手にしてもらえなくなるよりましだろ」
それはそうなのだが、なんだろう、ベルに言われたことが妙にムカッとくる。
「いてっ!」
やはりベルに1発きめないと落ち着かない。
「まあ、話を戻そう」
アラン隊長出動。
「えっと、トーヤがミーヤさんに怒られるのが、いでっ!」
今度は兄から1発。
「マユリアが何かと引き換えにルギにあの剣を渡した可能性だ」
修正完了した。
「けど、それはマユリアとルギの2人だけの話だろ? どっちも口わりそうにないけどなあ」
ベルが合計2発を受けた頭をさすりながらそう言う。
「マユリアに聞くってのは、まず無理だな。ただでさえ普通の人間は近づけねえってのに、トーヤたちはいないことになってるし」
「そうだな」
「ってことは、ルギに聞くしかねえんだが。これもトーヤだったらいけそうだけど、いないことになってるしな」
「なんで俺だったらいけそうなんだよ」
「聞くだろ?」
「まあ、聞くかも知れんけど、あいつが俺にそういうこと話すと思うか?」
「言いたくなさそうだな」
トーヤとアランがルギを思い出して不愉快そうな顔になる。
「聞けそうな人間いねえかなあ」
「ダルさんだったらそういう話もしそうだな」
「はあっ?」
トーヤが心底驚いた声を上げ、ついでにアゴも上げた。何かを見下げるように視線だけを下げる。
「なんでダルだったらそういう話しそうなんだよ」
「だって、あの2人友達だからな」
「んなはずねえだろ!」
トーヤは心底から認めたくなさそうだ。
「いや、友達だって。俺は本人から聞いたから間違いない」
「本人ってダルからか?」
「いや、ルギ」
トーヤが声もなく驚いているのでアランが続ける。
「俺、一人でこっち戻っただろ? その時に色々あったんだよ。そんで、そういう話になったらそう言ってた」
トーヤは認めたくない事実だったが、とりあえず一度ダルに聞いてもらうことになった。
「聞いてみたよ」
ルギはあっさりと、ダルに話せることを話してくれたらしい。
トーヤは本当にダルがルギと友人関係であると知り、目の玉が飛び出るほど大きく見開いたが、むっつりと黙り込んで、それでもきちんと話を最後まで聞いた。
「ルギが言うには、マユリアはあの剣があったから自分を衛士にしてくれたと言ってたって。それでいつかはルギに渡すものだと思っていたから渡した。ルギもそう聞いたから受け取った、そんな感じらしい」
言葉少ななルギのことだ。何がどうしてどうなって、と細かくは話さなかったようだが、そのことを栄誉に思っていることだけは分かった、とダルが付け加えた。
「かも、ってことだな。キリエさんにもそのへんのことは分からんらしい」
聞いてみれば不思議な話ではあった。当時のシャンタル、まだ8歳だったマユリアは、その剣を見て何かを感じたのだろう。その時にその剣の持ち主をルギと認めていたとしたら、いつかは渡すつもりだったとしてもおかしくはない。
「何しろこういうとこだからなあ、何があっても不思議じゃねえ。けど、そうすると、それはえっと二十年前か、その時からずっとこの日まで待ってたってことになるのか?」
「まあ二千年前から見たらそのぐらいの時間、特に屁でもなさそうだけどな」
アランの言葉にトーヤが茶化したように、だが決してただの冗談のようには聞こえない感じでそう言った。
「とりあえず、その剣がおそらくルギのために今日まで宝物庫とやらで眠ってた、それは間違いがなさそうだな。だとすると、それをどうして今、どういう理由で渡したかってことだ」
「どういう理由、って?」
ベルがトーヤに不思議そうに聞いてきた。
「もうすぐ交代だろ? 自分がマユリアのうちに、自分の忠実な家臣に長年のお礼ってので剣を渡したんならなんも問題ない。けどな、もしも、何かと引き換え、たとえばだ、この剣を渡すかわりにこうしてほしい、そういう取り引きがあったとしたら、どうだ?」
「ええー、マユリアがルギにそんなとりひき持ちかけるかなあ」
兄の言葉にベルが不服そうにそう言う。
「おれ、ルギはなんの損得もなくマユリアに仕えてるもんだとばかり思ってたし、そうであってほしいと思ってんだけどなあ。だからマユリアもそのお礼じゃねえの?」
「それだったらいいんだけどな」
トーヤがテーブルに左肘をつき、手であごを支えながらそう言ってから、ハッとして周囲を見渡す。
「ミーヤさんならいないぜ。さっき用事があるって出ていった」
「そ、そうか」
アランにそう言われてトーヤがホッとした顔になるが、一応肘を付くのはやめたようだ。
それにしても、ちょっと周囲を見ただけでミーヤに怒られるのを気にしてるのを気づかれるとは思っていなかっただけに、トーヤはちょっとバツが悪くなった。
すると、
「別に兄貴だけじゃねえからな。俺だって気がついてるから」
「な、なにがだ!」
「トーヤがミーヤさんに怒られるの気にしてるってこと」
直球が来た。
「まあ、いいじゃん。怒られるうちが花とも言うぜ? 何しても相手にしてもらえなくなるよりましだろ」
それはそうなのだが、なんだろう、ベルに言われたことが妙にムカッとくる。
「いてっ!」
やはりベルに1発きめないと落ち着かない。
「まあ、話を戻そう」
アラン隊長出動。
「えっと、トーヤがミーヤさんに怒られるのが、いでっ!」
今度は兄から1発。
「マユリアが何かと引き換えにルギにあの剣を渡した可能性だ」
修正完了した。
「けど、それはマユリアとルギの2人だけの話だろ? どっちも口わりそうにないけどなあ」
ベルが合計2発を受けた頭をさすりながらそう言う。
「マユリアに聞くってのは、まず無理だな。ただでさえ普通の人間は近づけねえってのに、トーヤたちはいないことになってるし」
「そうだな」
「ってことは、ルギに聞くしかねえんだが。これもトーヤだったらいけそうだけど、いないことになってるしな」
「なんで俺だったらいけそうなんだよ」
「聞くだろ?」
「まあ、聞くかも知れんけど、あいつが俺にそういうこと話すと思うか?」
「言いたくなさそうだな」
トーヤとアランがルギを思い出して不愉快そうな顔になる。
「聞けそうな人間いねえかなあ」
「ダルさんだったらそういう話もしそうだな」
「はあっ?」
トーヤが心底驚いた声を上げ、ついでにアゴも上げた。何かを見下げるように視線だけを下げる。
「なんでダルだったらそういう話しそうなんだよ」
「だって、あの2人友達だからな」
「んなはずねえだろ!」
トーヤは心底から認めたくなさそうだ。
「いや、友達だって。俺は本人から聞いたから間違いない」
「本人ってダルからか?」
「いや、ルギ」
トーヤが声もなく驚いているのでアランが続ける。
「俺、一人でこっち戻っただろ? その時に色々あったんだよ。そんで、そういう話になったらそう言ってた」
トーヤは認めたくない事実だったが、とりあえず一度ダルに聞いてもらうことになった。
「聞いてみたよ」
ルギはあっさりと、ダルに話せることを話してくれたらしい。
トーヤは本当にダルがルギと友人関係であると知り、目の玉が飛び出るほど大きく見開いたが、むっつりと黙り込んで、それでもきちんと話を最後まで聞いた。
「ルギが言うには、マユリアはあの剣があったから自分を衛士にしてくれたと言ってたって。それでいつかはルギに渡すものだと思っていたから渡した。ルギもそう聞いたから受け取った、そんな感じらしい」
言葉少ななルギのことだ。何がどうしてどうなって、と細かくは話さなかったようだが、そのことを栄誉に思っていることだけは分かった、とダルが付け加えた。
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