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第五章 第三部

13 真実暴露

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「ヌオリ様、いかがなさいました」

 キリエが黙り込んだヌオリにもう一度声をかけたが、ヌオリは黙り込んだまま答えない。

「少し落ち着かれたらまたお考えを聞かせてください。ミーヤ」
「はい」
「それまでの間、もう少しおまえが見たことを説明してください」
「はい」

 言われてミーヤは部屋を出たところからの話をもう一度、今度はさらに詳しく説明する。

「朝、私が今過ごしている部屋を出ると、そちらのお二方ふたかたが部屋の前にいらっしゃいました。挨拶をして、今度はもう一つの担当であるアラン様のお部屋へ向かったのですが、お二方も後ろから付いていらっしゃいました。こちらのお部屋に滞在中の方だと伺っておりましたので、お部屋にお帰りになるのだろうと気にしていなかったのですが、アラン様の部屋へ伺おうとした時に声をかけられました」
「なんとおっしゃったのです」
「はい」

 ミーヤはあの時のことはその後の混乱で少し記憶が薄れていたが、よく考えて思い出す。

「思い出しました、私の担当がここと、もう一つの部屋か、そのもう一つの部屋の中にいる者のことで聞きたいことがある、そうおっしゃいました」
「もう一つの部屋、今、おまえが寝泊まりをしている部屋のことですか」
「そうだと思います。それで部屋の前で待っていらっしゃったのかと」
「そうですか。続けなさい」
「はい」

 ミーヤはさらに思い出しながら続ける。ヌオリたちは身を固くして黙ってそれを聞いているだけだ。

「そうおっしゃったのですが、たとえ高貴な方のご命令でも、宮の中でのことをお話することはできません。どうお答えしたものかと困っておりましたら、あちらもそのまま何もおっしゃいません。これはやはり何か御用がおありなのではと、お部屋の担当の侍女を呼びましょうかと申し上げました。そして、ええと」

 ミーヤはどうだったかまた少し考える。

「あ、そうです、担当でなくとも私で済むことでしたら承りますと申し上げましたら、お三人が、用があったら聞いてくれるのかとおっしゃったので、できることならと申し上げました。そうしたら、私があの部屋の男性にしているようなことをやってもらいたい、そうおっしゃったと思います」
「あの部屋の男性? それはどなたのことです」
「いえ、分かりません。それでどなたのことか分からず、私では分からぬことかと、やはり担当の者を呼びに行くと申し上げたのですが、私でないと果たせぬ用だ、そうおっしゃったように記憶しています」
「おまえでないと果たせぬ用? それはなんです」
「いえ、分かりません。あ、そうです、その前に、大丈夫、心配しなくても黙っている、そうもおっしゃいました。それで、あの、お一人が私に手を伸ばしてこられたので、驚いて逃げてしまいました。そうしたらもう一度手を伸ばされたのですが、次の瞬間にいきなり悲鳴を上げて倒れられました」

 キリエは黙ってミーヤの話を聞き終わると、仮面をヌオリたちに向け直した。

「部屋の中の男性とはどの方のことでしょうか。何か誤解をなさっていらっしゃるように思います」

 ヌオリたちは答えない。

「話す必要はないかと思いますが、誤解を解くために申し上げておきます。この者が担当し、今、近くで世話をしている者も同じく侍女です。わけあって保護の必要があるため、同じ部屋で過ごしております」

 キリエの言葉を聞き、ヌオリが小さな声でなにかをぼそりとつぶやいた。

「申し訳ありません、聞き取ることができませんでした。もう一度お願いいたします」

 キリエがそう言うと、ヌオリは意地悪く片頬を上げながら、上目遣いをキリエに向けた。

「嘘を申すな、と言ったのだ」
「嘘? 何が嘘でございましょうか」
「その侍女が戻る部屋にいる者だ、同じく侍女だと? 男であることは分かっている」
「いいえ、侍女です。なぜそのように誤解をなさっていらっしゃるのか」
「では言ってやる」

 ヌオリは勝ち誇ったように顔を上げ、今度は上げたあご越しにキリエを見下げるように視線を下げて続けた。

「その侍女が八年前、託宣の客人という傭兵の世話係となったことは分かっている。つまり、その男に与えられ、情婦となったのだろう。その男が戻ってきたので、また一緒の部屋に入れ、夜の世話をさせている、そういうことだ」

 キリエは表情を変えずにじっとヌオリを見つめている。
 ミーヤはここにきてようやく理由を知り、驚愕のあまり言葉を発することもできなくなっていた。

「まあ、宮としてはそういうことは隠したいのであろう。だがな、そんなことはどこででもあることだ。高貴の者が来た時には、若い女に接待させるということはな。気にすることではない」

 キリエは小さく震えるミーヤの手を握り、ミーヤにだけ分かるぐらいに表情をゆるませた、大丈夫だと伝えるために。

 ヌオリはその様子をどう受け止めたのか、ニヤリと笑うと、

「つまりその侍女はそういう役割の女、ならば、この国のために日々尽くしている我々にも役に立ってもらって何が悪い。まあ、宮としてはそのようなこと公にもできぬであろうし、だから黙っていてやると言ってやったのだがなあ。その心遣いを無にしてこんな大事おおごとにしおって、困ったことだ」
 
 と、言い捨てた。
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