上 下
365 / 488
第五章 第三部

 3 魔法の気配

しおりを挟む
「だが、その神様が負けるようなやつが、この国のどこかにいるってことだよな」
「そういうこったなあ」
 
 笑い合ってたそのままの表情で、アランの言葉にトーヤが答えた。
 ミーヤはとても笑ってなどいられない。

「あの、そのシャンタルが負けるような方というのは、一体どんな方なのでしょう」
「全く分からん」
 
 トーヤがまだ顔だけは笑ったままそういうので、ミーヤは少しムッとした。

「冗談ではないのですよ?」
「ああ、もちろん冗談じゃねえ」
「まあ、そうですね」

 ミーヤの言葉にトーヤだけではなくアランも笑いながらそう言った。

「けど、どんな顔しててもなるようにしかならねえからな」
「そういうことです」

 そう言われてしまうとミーヤはもう何も言えなくなってしまった。

「そうですね、確かに」
「だからまあ、あんたもそんな顔しねえで笑ってくれよ」
「分かりました」

 さすがに自分も笑うことなどできないが、ミーヤも納得するしかない。

「それがどんなやつなのかは分からんが、あの光が恐れてたやつじゃねえかなとは思う」
「俺もそう思ってた」

 トーヤとアランの見解は一致しているらしい。

「もしかしたら、俺らはすでにそいつの手の内にいるのかも知れない」
「そして、そいつはシャンタルが力を使うのを待ってたのかもな」
「えっ、どうしてですか?」
「あの光が言ってただろうが、見つかるって」 

 確かに言っていた。
 あの光が何度も言っていたことだ。

「時がない、自分の力は弱っている、見つかる、そう何回も言ってた。そのために、できるだけ見つからないように、あんな細切れで場ってのが落ち着くまで話せなかった、そう言ってた」
「ああ、そして、恐らく次が最後だとも言ってたな」
「言ってた」
「ってことは、そいつはシャンタルを見つけちまった、てことになるのか」
「そうなるか」
「だとしたら、それはなんでだ?」
「八年前と一緒だとしたら、おそらく、自分があいつの力ってのを取り込むためだろうさ」

 ミーヤはトーヤとアランが話しながら考えをまとめているのをじっと聞いていた。

「シャンタルが力を使ったのは、この国に来て初めてか?」

 アランの問いにトーヤが少し考えるが、

「いや、使ってた。洞窟で灯りを出してた」
「ああ、あれか」
「おそらく、ここから逃げ出してすぐ、あの洞窟を通る時から出してたはずだ」
「そうだな」
「あの、灯りって?」
「ああ、シャンタルが使える魔法の一つで、松明たいまつ代わりに小さい灯りを出せるんだよ」
「そんなことまでできるのですか!」
「いや、こっちの方が対した魔法じゃないです」

 アランがそう説明してくれた。

「これは魔法使いが修行の割りと最初の方に習う魔法らしいです」
「ああ、もうちょっと魔法使いらしいこと習っとけって、あっちの魔法使いのところで習った魔法の一つだな」
「そうなんですか」
「ああ」

 今日初めて魔法というものに触れたミーヤには、驚くことばかりだ。

「その魔法と今日使った魔法が全く一緒かどうかは分からん。だが、その時には何もなかった」
「そういうことだな」
「ってことは、もしかしたらそいつはこの宮の中にいるのかも知れん」
「この宮の中にですか!」

 そんなことがあるのだろうか。

「それも分からん。だが、そういう可能性がある」
「もしも、そいつが灯りの魔法はアルディナの魔法として反応しなかった、いや、できなかったとしたら、宮の外にいる可能性もある。だが、俺は宮の中じゃないかと思う」
「いつものトーヤの勘か?」
「いや、それだけじゃない」

 トーヤはアランとミーヤに「マユリアの海」の沖で経験したことを話した。

「ってことでな、そいつは確かに湖の底で感じたのと同じ気配だったってことだ。そして俺を邪魔だとして排除しようとした」
「排除って」
「殺そうとしたってこった」

 トーヤからはっきりとした言葉を聞いてミーヤは息を飲んだ。

「それにマユリアの気配があったなんて、とても信じられません」

 ミーヤが呆然として首を振るのに、トーヤは洞窟の中でベルに言われたことを思い出していた。

『じゃあ、ミーヤさんでも?』

 思い出して、そのまま封印をした。
 今は心を揺らしている場合ではない。
 そうだ、何もなかったように笑え。

「あのな、相手が誰でも疑ってかからないと本当のことは見えなくなるんだ」

 トーヤはどうしようもない、という表情で少し笑ってそう言う。

「俺は、その後、洞窟でシャンタルとベルと話していて、そいつの姿が見えた気がした」
「それは誰なんだ?」
「それはな」

 トーヤは少しだけ言葉を止めてから、思い切ったように言う。

「マユリアの中にいるやつだ」
「ええっ!」

 さすがにミーヤが大きな声を出し、

「ありえません、そんなこと!」

 と、首を思い切り振って否定する。

「落ち着け」
「ですが!」
「いいから落ち着いて聞いてくれ」

 トーヤはミーヤを落ち着かせ、ゆっくりと続きを口にする。

「俺はマユリアだとは言ってない。マユリアの中にいる誰かだと言ってる」

 そう言われてもミーヤにとってはマユリアはマユリアだ。信じたくない、その気持ちを表すように、言葉もなくふるふると左右に首を振る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

処理中です...