315 / 488
第四章 第四部
19 マユリアの地位
しおりを挟む
「それにはまず、シャンタルとマユリアがいかに我が国の政治の根幹を成しておられるか、それを見せつける必要がございます」
この表現にもマユリアは少しだけ美しい眉を潜めたが、約束通り最後まで聞くために黙って聞いている。
「シャンタルは不可侵の存在、動かざるべき、そして触れざるべき存在です。この神域の中心、全ての事物の中心でありますから」
「そうですね」
マユリアはこの部分には素直にそう答えた。
この国では、この神域ではそれはあえてそう言う必要もない真実である。
「シャンタルこそがこの世界の中心です」
神官長がさらに言葉を重ねる。
「ですから、シャンタルには今のまま、聖なる存在として宮に君臨し続けていただかなければなりません」
「そうですね」
マユリアはそう言ってから、
「では、神官長の申す何らかの方策に必要なのは、今、わたくしがおる、このマユリアという存在に対して、そういうことなのですね」
マユリアは自分個人ではなく、代々引き継がれるこの「マユリア」という役職のことであろうと推測し、確認をする。
「さようでございます」
また神官長が恭しく頭を下げた。
「いちいち頭を下げなくてもよろしい。話を進めてください」
「はい、承知いたしました」
そう言ってつい神官長が頭を一つ下げ、
「申し訳ありません。続けさせていただきます」
と、今度は頭を上げたまま続ける。
「はい、そうです。あなた様お一人のことではございません。これまでの代々のマユリア、そしてこれからの代々のマユリア、そのお方たち、内なる女神マユリアを引き継がれるこの世の女神マユリア、そのお方のことでございます」
神官長は念には念を入れるかのように、かなり持って回った面倒な説明を口にした。
「分かりました。わたくし個人ではなく、代々のマユリア全ての方に関わると言うのなら、わたくしもその代々の代表として伺いましょう」
マユリアも間違いがないようにそう付け加えた。
「ありがとうございます。はい、その代々のマユリアが、政治の根幹におられるということ、それを目で見て分かる形にするのでございます」
「先ほど、あなたが口にしていた言葉――」
マユリアが神官長に目を向けながら、確認するように続きを口にした。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻、と」
「はい」
「もしかして、それがその方策だと言うのですか?」
「その通りでございます」
神官長が自信たっぷりにそう答え、マユリアは黙り込む。
マユリアは神官長をしばらく黙って見ていたが、
「何故、それがマユリアが政治に関わっているということになるのです」
「はい、お答えいたします」
神官長は、先ほど礼はいらぬと言われたにもかかわらず、堂々とそれこそが大事なのだと言わんばかりに丁寧に頭を下げた。
「マユリアが政治に関わること。それを見える形にするためには、それが唯一の方法だと思います」
「意味がよく分かりません」
マユリアが軽く首を左右に振る。
「何故、マユリアが国王と婚姻することが政治に関わることになるのです」
「それはマユリアに王族におなりいただくためです」
マユリアは何も言わず黙ってそのまま神官長の次の言葉を待っている。
「マユリアの地位とはなんでしょう?」
マユリアは、以前、ラーラ様に申し上げた言葉を心の中で思い出していた。
『シャンタルに次ぐ地位、国王と同列』
そう、この国ではマユリアの地位はそれほどまでに高い。
「国王陛下と同列。いえ、そうではありません。この国においては、国王陛下こそがマユリアと同列、なのでございます」
神官長の言う通りであった。
この国では何においてもシャンタルが、女神が中心である。
つまり、正確にはシャンタルの次がマユリア、そして国王がそのマユリアと同じとみなされている、ということになる。
基準はシャンタル、そのシャンタルから見て次がマユリアで、国王が人の頂点としてその神と同列とみなされているということだ。
「そのシャンタルに次ぐ地位のお方に、一歩だけ人の世界に歩み寄っていただきたい。そのための方法が婚姻です」
「分かりません」
マユリアがまた軽く首を振る。
「分かりませんか?」
「ええ」
「では、お聞きいたします。それ以外にマユリアが女神のまま、王族の一員になる方法がございますでしょうか?」
「女神のまま王族の一員に?」
「さようでございます」
「分かりません」
「では、ご説明させていただきます」
マユリアは、神官長がさっき自ら言っていたように、荒唐無稽であり、ルギがそう感じたというのを当然であろうと思ったが、約束は約束である。とりあえず最後まで黙って聞くことにした。そうすることで、神官長の本意や、他に何か目的があるのなら、それが何であるか知りたいと考えていた。
「よろしいですか?」
「ええ」
神官長はマユリアが何かを考えていたことから、一度そうして確かめてから話を始めた。
「女神シャンタルに仕える侍女の女神マユリア、その女神がシャンタリオ国王と婚姻という絆でつながり、王家の一員になる。そうすることで初めて、そのような国の者たちはマユリアの地位がどれほど高いかを知ることになるのです」
この表現にもマユリアは少しだけ美しい眉を潜めたが、約束通り最後まで聞くために黙って聞いている。
「シャンタルは不可侵の存在、動かざるべき、そして触れざるべき存在です。この神域の中心、全ての事物の中心でありますから」
「そうですね」
マユリアはこの部分には素直にそう答えた。
この国では、この神域ではそれはあえてそう言う必要もない真実である。
「シャンタルこそがこの世界の中心です」
神官長がさらに言葉を重ねる。
「ですから、シャンタルには今のまま、聖なる存在として宮に君臨し続けていただかなければなりません」
「そうですね」
マユリアはそう言ってから、
「では、神官長の申す何らかの方策に必要なのは、今、わたくしがおる、このマユリアという存在に対して、そういうことなのですね」
マユリアは自分個人ではなく、代々引き継がれるこの「マユリア」という役職のことであろうと推測し、確認をする。
「さようでございます」
また神官長が恭しく頭を下げた。
「いちいち頭を下げなくてもよろしい。話を進めてください」
「はい、承知いたしました」
そう言ってつい神官長が頭を一つ下げ、
「申し訳ありません。続けさせていただきます」
と、今度は頭を上げたまま続ける。
「はい、そうです。あなた様お一人のことではございません。これまでの代々のマユリア、そしてこれからの代々のマユリア、そのお方たち、内なる女神マユリアを引き継がれるこの世の女神マユリア、そのお方のことでございます」
神官長は念には念を入れるかのように、かなり持って回った面倒な説明を口にした。
「分かりました。わたくし個人ではなく、代々のマユリア全ての方に関わると言うのなら、わたくしもその代々の代表として伺いましょう」
マユリアも間違いがないようにそう付け加えた。
「ありがとうございます。はい、その代々のマユリアが、政治の根幹におられるということ、それを目で見て分かる形にするのでございます」
「先ほど、あなたが口にしていた言葉――」
マユリアが神官長に目を向けながら、確認するように続きを口にした。
「女神マユリアとシャンタリオ国王の婚姻、と」
「はい」
「もしかして、それがその方策だと言うのですか?」
「その通りでございます」
神官長が自信たっぷりにそう答え、マユリアは黙り込む。
マユリアは神官長をしばらく黙って見ていたが、
「何故、それがマユリアが政治に関わっているということになるのです」
「はい、お答えいたします」
神官長は、先ほど礼はいらぬと言われたにもかかわらず、堂々とそれこそが大事なのだと言わんばかりに丁寧に頭を下げた。
「マユリアが政治に関わること。それを見える形にするためには、それが唯一の方法だと思います」
「意味がよく分かりません」
マユリアが軽く首を左右に振る。
「何故、マユリアが国王と婚姻することが政治に関わることになるのです」
「それはマユリアに王族におなりいただくためです」
マユリアは何も言わず黙ってそのまま神官長の次の言葉を待っている。
「マユリアの地位とはなんでしょう?」
マユリアは、以前、ラーラ様に申し上げた言葉を心の中で思い出していた。
『シャンタルに次ぐ地位、国王と同列』
そう、この国ではマユリアの地位はそれほどまでに高い。
「国王陛下と同列。いえ、そうではありません。この国においては、国王陛下こそがマユリアと同列、なのでございます」
神官長の言う通りであった。
この国では何においてもシャンタルが、女神が中心である。
つまり、正確にはシャンタルの次がマユリア、そして国王がそのマユリアと同じとみなされている、ということになる。
基準はシャンタル、そのシャンタルから見て次がマユリアで、国王が人の頂点としてその神と同列とみなされているということだ。
「そのシャンタルに次ぐ地位のお方に、一歩だけ人の世界に歩み寄っていただきたい。そのための方法が婚姻です」
「分かりません」
マユリアがまた軽く首を振る。
「分かりませんか?」
「ええ」
「では、お聞きいたします。それ以外にマユリアが女神のまま、王族の一員になる方法がございますでしょうか?」
「女神のまま王族の一員に?」
「さようでございます」
「分かりません」
「では、ご説明させていただきます」
マユリアは、神官長がさっき自ら言っていたように、荒唐無稽であり、ルギがそう感じたというのを当然であろうと思ったが、約束は約束である。とりあえず最後まで黙って聞くことにした。そうすることで、神官長の本意や、他に何か目的があるのなら、それが何であるか知りたいと考えていた。
「よろしいですか?」
「ええ」
神官長はマユリアが何かを考えていたことから、一度そうして確かめてから話を始めた。
「女神シャンタルに仕える侍女の女神マユリア、その女神がシャンタリオ国王と婚姻という絆でつながり、王家の一員になる。そうすることで初めて、そのような国の者たちはマユリアの地位がどれほど高いかを知ることになるのです」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
悲恋を気取った侯爵夫人の末路
三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。
順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。
悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──?
カクヨムにも公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる