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第三章 第四部 女神の秘密
10 白羽の矢
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そうして無事に月虹隊から侍女頭への報告は終わり、月虹隊の2名が担当の侍女に連れられて退室しようとした時、
「ミーヤは2人を案内したら私の執務室へ来てください」
と、侍女頭が侍女に声をかけた。
侍女頭の執務室は月虹兵たちが戻る待機室とは逆方向、隊長の私室から奥宮の方へ行かねばならないので、
「あ、私たちでしたら自分で戻れますから、それじゃあミーヤさんはこのまま残ってください」
と月虹隊隊長が気をつかって言うと、
「いえ、私の役目ですから」
と、担当侍女は申し出を丁寧に断り、侍女頭もそれを止めずに3人を見送った。
「本当にお硬いなあ、ミーヤもキリエ様も」
「でもそれが役目ですから」
廊下に出てダルが苦笑いするのにミーヤが少し笑いながらそう答えた。
アーリンはやっと侍女頭の呪縛から解かれて脱力しながら、そんな2人を見ながら後に付いて月虹兵の待機室にやっとたどり着いた。
そして侍女はもう一度逆方向へと戻り、侍女頭の執務室を訪ねる。
「失礼いたします」
ミーヤが取り次ぎの当番侍女に連れられて中に入り、当番侍女が部屋から去ると、
「そこへお座りなさい」
侍女頭がキリエの顔に戻ってそう言って座らせる。
テーブルの上にはいつものお茶といつもの焼き菓子。
時々こうしてキリエとお茶の時間をするのは、ミーヤの憩いの一時でもあった。
「なんだかこうしてゆっくり話をするのも久しぶりな気がしますね」
「はい」
本当はそれほど前ではなかったような気もするが、ここのところ色々あり過ぎて、もう何年か前の出来事のようにも思える。
「ですが、こうして来てもらったのは、本当はまだ仕事の続きだったのです」
「そうなのですか」
「でもおまえと2人、私も少し息抜きをしたくなりました。なんでしょう、あの予備兵の様子ときたら」
「まあ」
キリエがふうっと呆れたように息を吐きながら言うのを聞き、思わずミーヤも笑う。
「任命の日にはアーダ様が付いて下さっていましたので、私も今日初めてお会いしました」
「そうなのですか」
「ええ、ですからまず宮へ来たことに緊張をし、他の侍女たちともほとんど会わぬうちに侍女頭のキリエ様と面会なのですから、それは緊張もなさると思います」
「気をつかわずともいいのですよ。まあ、長年そのように見られるように私が努力してきた結果だと思いましょう」
キリエのちょっとすねたような言い方にまたミーヤが笑う。
本当に祖母と孫のような2人の様子、他の侍女たちが見たらどれほど驚くことだろう。
だがキリエにとっても、ミーヤと、そして今は以前より会う機会が減ったリルとの時間は、自分でも思っていなかったほど落ち着ける一時となっていたのは間違いがない。
お茶とお菓子で少し安らいだ時間の後、
「一休みしましたし、では仕事の話に戻りましょうか」
と、キリエがらしくもなく、少し嫌そうにも聞こえる言い方をするのにまたミーヤは笑ったが、
「はい、それでは承ります」
と、こちらも侍女の顔に戻る。
「さきほどの噂の話です」
いきなり厳しい話題だ。
「ダルとももう少し詳しく話したかったのですが、あの者がおりましたからね。また後ほどおまえから内容を伝えてください」
「はい、分かりました」
アーリンがいる前ではそこまでの話ができず、こういう形を取ったらしい。
「前の噂をダルが持ってきた時にはアランとディレン船長にも話を伺いました。ですが、今はハリオ殿とアーダもいることですし、話をしにくくなりましたね」
「はい」
ハリオとアーダが色々知っていることをまだキリエには話せない。あの光があそこに呼ばれた者以外には話すなと言っている今は。
「今、一番動きを取れるのはダルです。ですが、そのダルがその噂をばらまいているだろう男性に顔を知られているということは、そのことについてだけは動きにくいということになります」
「はい」
「あのアーリンという予備兵に調べてもらうのがいいのでしょうが、まだ経験も浅く、そして私の前に出ただけであのようになる者一人をその任につけるのは不安しかありません」
「確かにそうですね」
「もう一人、誰か適当な者をつけて一緒に動いてもらえばいいのでしょうが、事が事だけに誰でもよいというわけにはいきません。ダルに相談してもう少し街の噂を集めてもらいたいのですが」
キリエの言い分はよく分かった。
アーリンがたまたまだが相手と作ったつながりを活かしたいが、任せるには確かに不安だ。誰かしっかりした信用できる人を付けられればいいのだが。
「あ」
ミーヤには2人の顔が浮かんだ。
「どうしました」
「いえ、適任の人が浮かんだのですが」
「トーヤは無理でしょう。おそらくカースあたりにいるのだろうとは考えていますが」
その通りであるが、ミーヤにはそうだとは言えない。
「あの、1人はおっしゃる通りにトーヤだったのですが、もう1人、そのトーヤの影武者を務めた方が今、この宮にいらっしゃいます」
キリエにも誰かが分かった。
「あの方なら見た目はこの国の者と変わりませんし、ディレン船長が片腕と頼りになさっておられます。お任せできるのではないかと」
「なるほど、一考の余地はありますね」
どうやらハリオに白羽の矢が立ったようだ。
「ミーヤは2人を案内したら私の執務室へ来てください」
と、侍女頭が侍女に声をかけた。
侍女頭の執務室は月虹兵たちが戻る待機室とは逆方向、隊長の私室から奥宮の方へ行かねばならないので、
「あ、私たちでしたら自分で戻れますから、それじゃあミーヤさんはこのまま残ってください」
と月虹隊隊長が気をつかって言うと、
「いえ、私の役目ですから」
と、担当侍女は申し出を丁寧に断り、侍女頭もそれを止めずに3人を見送った。
「本当にお硬いなあ、ミーヤもキリエ様も」
「でもそれが役目ですから」
廊下に出てダルが苦笑いするのにミーヤが少し笑いながらそう答えた。
アーリンはやっと侍女頭の呪縛から解かれて脱力しながら、そんな2人を見ながら後に付いて月虹兵の待機室にやっとたどり着いた。
そして侍女はもう一度逆方向へと戻り、侍女頭の執務室を訪ねる。
「失礼いたします」
ミーヤが取り次ぎの当番侍女に連れられて中に入り、当番侍女が部屋から去ると、
「そこへお座りなさい」
侍女頭がキリエの顔に戻ってそう言って座らせる。
テーブルの上にはいつものお茶といつもの焼き菓子。
時々こうしてキリエとお茶の時間をするのは、ミーヤの憩いの一時でもあった。
「なんだかこうしてゆっくり話をするのも久しぶりな気がしますね」
「はい」
本当はそれほど前ではなかったような気もするが、ここのところ色々あり過ぎて、もう何年か前の出来事のようにも思える。
「ですが、こうして来てもらったのは、本当はまだ仕事の続きだったのです」
「そうなのですか」
「でもおまえと2人、私も少し息抜きをしたくなりました。なんでしょう、あの予備兵の様子ときたら」
「まあ」
キリエがふうっと呆れたように息を吐きながら言うのを聞き、思わずミーヤも笑う。
「任命の日にはアーダ様が付いて下さっていましたので、私も今日初めてお会いしました」
「そうなのですか」
「ええ、ですからまず宮へ来たことに緊張をし、他の侍女たちともほとんど会わぬうちに侍女頭のキリエ様と面会なのですから、それは緊張もなさると思います」
「気をつかわずともいいのですよ。まあ、長年そのように見られるように私が努力してきた結果だと思いましょう」
キリエのちょっとすねたような言い方にまたミーヤが笑う。
本当に祖母と孫のような2人の様子、他の侍女たちが見たらどれほど驚くことだろう。
だがキリエにとっても、ミーヤと、そして今は以前より会う機会が減ったリルとの時間は、自分でも思っていなかったほど落ち着ける一時となっていたのは間違いがない。
お茶とお菓子で少し安らいだ時間の後、
「一休みしましたし、では仕事の話に戻りましょうか」
と、キリエがらしくもなく、少し嫌そうにも聞こえる言い方をするのにまたミーヤは笑ったが、
「はい、それでは承ります」
と、こちらも侍女の顔に戻る。
「さきほどの噂の話です」
いきなり厳しい話題だ。
「ダルとももう少し詳しく話したかったのですが、あの者がおりましたからね。また後ほどおまえから内容を伝えてください」
「はい、分かりました」
アーリンがいる前ではそこまでの話ができず、こういう形を取ったらしい。
「前の噂をダルが持ってきた時にはアランとディレン船長にも話を伺いました。ですが、今はハリオ殿とアーダもいることですし、話をしにくくなりましたね」
「はい」
ハリオとアーダが色々知っていることをまだキリエには話せない。あの光があそこに呼ばれた者以外には話すなと言っている今は。
「今、一番動きを取れるのはダルです。ですが、そのダルがその噂をばらまいているだろう男性に顔を知られているということは、そのことについてだけは動きにくいということになります」
「はい」
「あのアーリンという予備兵に調べてもらうのがいいのでしょうが、まだ経験も浅く、そして私の前に出ただけであのようになる者一人をその任につけるのは不安しかありません」
「確かにそうですね」
「もう一人、誰か適当な者をつけて一緒に動いてもらえばいいのでしょうが、事が事だけに誰でもよいというわけにはいきません。ダルに相談してもう少し街の噂を集めてもらいたいのですが」
キリエの言い分はよく分かった。
アーリンがたまたまだが相手と作ったつながりを活かしたいが、任せるには確かに不安だ。誰かしっかりした信用できる人を付けられればいいのだが。
「あ」
ミーヤには2人の顔が浮かんだ。
「どうしました」
「いえ、適任の人が浮かんだのですが」
「トーヤは無理でしょう。おそらくカースあたりにいるのだろうとは考えていますが」
その通りであるが、ミーヤにはそうだとは言えない。
「あの、1人はおっしゃる通りにトーヤだったのですが、もう1人、そのトーヤの影武者を務めた方が今、この宮にいらっしゃいます」
キリエにも誰かが分かった。
「あの方なら見た目はこの国の者と変わりませんし、ディレン船長が片腕と頼りになさっておられます。お任せできるのではないかと」
「なるほど、一考の余地はありますね」
どうやらハリオに白羽の矢が立ったようだ。
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