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第三章 第四部 女神の秘密

 9 噂の目的

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「アーリン?」
 
 黙ったままのアーリンにダルが話をうながすようにするが、

「あ、あ、あの、あ、俺……」

 と、言葉にならない。まるで魔女に睨まれた生贄のように恐れおののいてるような感じだ。

「す、すみません!」

 と、あまりの様子にさすがにダルも慌てるが、キリエの方は、

「ゆっくりと落ち着いて話すように」

 と全く動じることがない。まあ、長年の間にこういう反応には慣れているのだろう。

 アーリンはダルに渡された陶器のカップでお茶を一口飲み、少し落ち着いたようで、やっと話を始める。

「あ、あの、僕、いや、俺、あの私がですね」

 まだやや声が裏返っているが、どうにか話しはできているようだ。

「た、隊長に言われて街の人たちに話を聞いてきましたところ、さっき隊長が言ったようにああいうことをですね」

 敬語も何もめちゃくちゃな話し方ではあるが、キリエは表情を変えずに聞いている。

「あの、聞きまして、その」
「その聞いたことの部分をどう聞いたか言ってください」
「はい!」

 アーリンは言われてしゅっと背筋を伸ばした。

「私が話をしている人たちに聞いたところ、王宮から前王様がいなくなったのではなく、新しい国王様が亡き者にしたのだ。それを隠すためにいなくなったと嘘の話を流しているのだ、そういう話でした!」

 しっかりと受け答えはしたものの、ダルがした報告とさほど内容に変わりはなかった。

「それは聞きました。その噂はどこから出たものか、誰がそのような話をしていたのか、他に分かることはなかったのですか」
「はい!」

 お返事だけはいい。

「アーリン落ち着いて。俺に話してくれたことを言えばいいだけだから」
「はい!」

 さすがにダルが助け舟を出す。

「まず、私が聞いた相手ですが、見たことのある男でした」
「なんですって?」
「はい!」

 キリエが何か言うと「はい!」としか答えられないのかのようだ。

「あの、前に隊長に宮へ連れていけとからんでいた男でした。あの時は私は離れた場所からその事を見てましたので、私が隊長の連れだとは気がついていなかったみたいです。聞いた話だがと周囲の人にそういうことを言っていましたが、誰かが誰に聞いたと言ったところ、知り合いに王宮の衛士がいる、その男が言っていたと言っていました」

 一息にやっとそう言い終えると、ようやく肩の力が抜けてきたのか、少し顔つきが元に戻った。

「そうなのですか?」

 キリエがダルに確認する。

「いえ、それが、私がその話を聞いて話の輪に入ろうとしたら、どうもこちらに気がついたようで、いきなりいなくなってしまったとか。なので私は確認はしておりません」

 キリエがほとんど表情なくダルに視線を向ける。

 ダルもミーヤももう長い間のつきあいで、なんとなくキリエの言いたいことが分かった気がした。もちろん、アーリンには相変わらず冷たい鉄のようにしか見えてはいなかったが。

「では、その噂は以前の噂の出どころと同じ可能性が高い、そういうことですね」
「おそらくは」

 やはり思った通りのことだった、キリエもそう思ったようだ。

「前の噂は元国王陛下のせいで天変地異が起きている、なぜなら国王の即位を天がお認めになられていないからだ、そういう話でしたね」
「はい」
「そして今回は実の父を亡き者にしたらしいという噂。これは、どう受け止めればいいと思いますか」
「はい」

 ダルがキリエをしっかりと見ながら答える。

「前に私に詰め寄ってきた時に言っていたのは、そのことを伝えたいから宮へ連れて行け、ということでした。ですが、今回は逃げました。もしも目的が同じなら、私を見つけたらやはり同じような要求をしてくると思うのですが、そうではなかった。ということは、内容は似たようなものでも、その目的は違うのかと」
「そうですね」

 2人の結論は同じだったようだ。

「他に何か分かったことはなかったですか」
「は、はい!」

 アーリンがまた元気に返事をしてキリエの質問に答える。

「わ、私が本当のことかと聞いたところ、間違いない、王宮が封鎖されているのがその証拠だと。そして宮も封鎖しているが、それは王宮が宮に本当のことを知られないようにそう命じたのだ、そう言っていました」
「王宮からのめいで宮が封鎖しているとその者は申したのですね」
「はい!」

 アーリンの答えにキリエが顔をしかめる。アーリンには分からなかったかも知れないが、ダルとミーヤにはそれが分かった。

 ダルは一昨日おととい宮に来て初めて封鎖のことを知った。だが、その理由についてはミーヤたちに聞くまで知らなかった。警護隊隊長のルギも、理由は話さずに当番の衛士に命じてダルを通しただけで、特に理由は話さなかった。
 ということは、一般の人間が神殿に行こうとして門前払いされたとしても、その封鎖の理由が王宮からのものだと知ることはないはずだ。

「アーリン」
「は、はい!」
「よく調べてくれました、これからも月虹隊の一員として務めに励んでください、頼みましたよ」
「は、はい! ありがとうございます!」

 アーリンは鋼鉄の侍女頭にほめてもらったことで恐縮し、まるでダルのように深く深く、床につきそうなほどおじぎをした。
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