上 下
213 / 488
第三章 第四部 女神の秘密

 6 月虹隊長より侍女頭へ 

しおりを挟む
「ってことになったし、そんじゃ話続けてくれ」

 トーヤがそう言うと、光が、

『先ほどの衝撃しょうげきで場が揺らいでいます。まだ少しの間は大丈夫でしょうが、今日はここまでにいたしましょう』

 と言った。

「そうか」

 トーヤも大人しくそう言う。

『ここでのことは、この場にいる者だけのことに。他の者には他言無用です』

 光はそう言うとゆらりと揺らぐ。

「そんじゃそっちは頼むな!」

 急いでそう言うトーヤに、

「ええ、分かりました」
 
 ミーヤが急いでそう答えると、その言葉の向こうにトーヤの姿も揺らいで消えた。

 気がつけば元の部屋の中、今、ミーヤの腕の中には倒れるように身を預けているアーダがいた。

「アーダ様」

 まだ呆然としてるアーダにミーヤが声をかけた。

「あ、はい」

 アーダはさっき見た褐色の肌に流れる美しい銀の髪の持ち主、エリス様と呼ばれていたその人を見た衝撃からまだ立ち直れないでいるようだった。

「本当なら今すぐにも説明してさしあげないといけないのは分かっているのですが、私とダルはすぐにキリエ様のところに行った方がいいと思います」
「え?」
「さっき、あの声がおっしゃっていたこと、あそこでのことはあそこに呼ばれた者だけのことに、と。あの言葉が気にかかります」

 本当なら認めたくはないことではあったが、自分の感情でだけ動くわけにはいかないとミーヤは覚悟をしていた。

「あまり長く、この部屋にこの顔ぶれでいない方がいいと思います」
「なるほど、分かりました」

 アランがすぐに理解する。

「アーダさんとハリオさんは何も知らない、そうした方がいい、そういうことですね」
「はい。上の方たちには知られぬ方がいいかと思いました」
「なるほど」
 
 ディレンも理解したようだ。

「ダル、行きましょう。アランと船長はできる範囲でお二人にお話を。そしてアーダ様」

 ミーヤはまだ視線が泳いでいるアーダの手をしっかりと握り、

「しっかりなさってください。そして、キリエ様とルギ隊長と、それから」

 そこまで言うと、もう一度覚悟を決めたようにこう口にした。

「マユリアとラーラ様にも、アーダ様が今度のことに関わっていることを絶対に知られないようになさってください、お願いいたします」

 そう言い置いてダルと共に部屋を出ていった。

「ダル、町で聞いた噂をキリエ様に報告するために宮に来たと。そしてアランの部屋には外から来た船長とハリオ様がいらっしゃるので様子を見に来た、そういうことに」
「分かった」

 ダルもミーヤの言ったことを理解している。

「キリエ様には月虹隊隊長としての報告に行く」
「ええ」

 2人が早足で侍女頭の執務室へ向かい、当番の侍女に取り次ぎを頼むと、それほど待たずにキリエの執務室へと通された。

「お忙しいところを失礼いたします」

 ミーヤがそう言い、2人が揃って頭を下げる。

「どうしました」

 キリエが自分も立ったまま、2人に頭を上げるようにだけとだけ言って尋ねる。

「はい、ダル隊長がここ数日宮へお入りになれなかったということなのですが、その間、町で聞いた噂をご報告に上がったとこのことでご一緒させていただきました」

 今は公式の場である。
 月虹兵付きの侍女が侍女頭に月虹隊隊長の用向きを伝えに来た。
 キリエもミーヤも、そしてダルもその立場をよく分かっている。

「報告ですか。では、少し落ち着いて聞きましょう」

 キリエはそう言って当番の侍女にお茶の用意をさせ、そこでようやく2人に椅子を勧め、自分も上座に腰をかけた。
 少しして当番の侍女が持ってきたお茶と茶菓子を置いて下がる。

「報告を」
「はい」

 侍女頭にうながされ、月虹隊隊長が報告を始める。

一昨日いっさくじつの午後、宮へ参ったところ、いきなり宮は封鎖だと言われて入ることができませんでした。理由を聞いても警護の当番の衛士は何も言えぬとそれしか言いません。仕方なく王都へ戻り、何かあったのではと色々と調べてみたのですが、その時には街は平穏で、何も異常はありませんでした。そして昨日、もう一度宮へ参りましたがやはり入れてもらえず、もう一度また王都を見て回った時に、こんな噂を耳にしました」
「どのような噂です」
「はい」

 ダルが一呼吸置いてから言葉を続ける。

「それが、前王陛下が王宮よりお姿を消された、そのような噂でした」

 キリエは表情を変えず、黙ってダルの言葉を聞いている。

「以前、街では国王陛下が無理やり前国王陛下をご譲位に追い込み、そのために天変地異が起こっている、天がお怒りだ、そういう噂が流れていました。そして月虹隊にはそのことを宮へ届けてほしい、そんな投書なげぶみがたくさん届いている、そう報告をいたしました。そのことともしかしたら関係があるのではないか、そう考え、本日参りましたところ、警護隊のルギ隊長にやっと入れてもらうことができました。そして、宮では王宮に不審者が忍び込んだ、それを理由に封鎖を行っていると侍女ミーヤから聞きました。もしや、王宮が探していらっしゃるというのは、前国王陛下ではないのでしょうか」

 ダルの質問に侍女頭は何も言わず、黙ったままだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

わたしは不要だと、仰いましたね

ごろごろみかん。
恋愛
十七年、全てを擲って国民のため、国のために尽くしてきた。何ができるか、何が出来ないか。出来ないものを実現させるためにはどうすればいいのか。 試行錯誤しながらも政治に生きた彼女に突きつけられたのは「王太子妃に相応しくない」という婚約破棄の宣言だった。わたしに足りないものは何だったのだろう? 国のために全てを差し出した彼女に残されたものは何も無い。それなら、生きている意味も── 生きるよすがを失った彼女に声をかけたのは、悪名高い公爵子息。 「きみ、このままでいいの?このまま捨てられて終わりなんて、悔しくない?」 もちろん悔しい。 だけどそれ以上に、裏切られたショックの方が大きい。愛がなくても、信頼はあると思っていた。 「きみに足りないものを教えてあげようか」 男は笑った。 ☆ 国を変えたい、という気持ちは変わらない。 王太子妃の椅子が使えないのであれば、実力行使するしか──ありませんよね。 *以前掲載していたもののリメイク

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...