209 / 488
第三章 第四部 女神の秘密
2 魂の器
しおりを挟む
『そのためにも話さなければなりません。今から半世紀ほど前にわたくしが感じた異変のことを』
「分かった、そんじゃとりあえず聞く。けど、とっととやってくれ」
『分かりました』
トーヤもそのまま黙り、光が一度瞬いて話を続ける。
『新しいシャンタルが誕生した後、いつもは次のシャンタル、次代様と呼ばれる赤子を宿す母の存在を感じます。ですが、その時にはその存在を一切感じませんでした』
「なんだと?」
思わずトーヤがそう言うが、
「悪い、黙るから続けてくれ」
そう言って光に譲る。
『二千年続く時の中で初めてのことでした。それまでも次の母、親御様と呼ばれる候補の者の存在を感じる感覚が薄くなっているようには感じておりましたが、それでも常に何名かはおり、その中から次の魂の種にふさわしい者を選ぶことができてはおりました。それが、数代に渡り、1名か2名しか感じることができません。それまでも世情に合わせてか、増えたり減ったりはしておりましたので、また増える時もあるだろうと思っておりましたが、その時には一つもその影が見えませんでした。そのことにわたくしはとても焦りを感じたのです』
聞いている者たちにはあまりよく分からないことではあるが、声が言う「焦り」に少しばかり緊張が走る。
『そして、次のシャンタルが誕生せねばならぬ時が近づいてきても、やはり何も現れない。これは、シャンタルを受け取る者を宿す力が弱くなっているからであろう、それを認めぬわけにはいかなくなりました』
沈黙の中、静かに光だけが流れ続ける。
『魂の種は神の国にあり、そこから人の世に降りてくる時を待っております。その中から次のシャンタルにふさわしい種を選び、宿るにふさわしい肉体を宿す母を選ぶ。そうしていつも次のシャンタルは誕生していたのです。それがいつまで待っても宿るべき母の存在が見えてはこない、種が降りるべき先が見えないのです』
「なんか、よくわっかんねえ!」
ついにたまりかねたベルの口癖が出る。
「おい、黙れって」
「だってよ、兄貴、こんなの分かりました、そうですかって聞いてられる話じゃねえぜ!」
「いや、それはそうだが」
確かに妹をなだめるアランにしても、どう受け止めていいのか分からない話ではある。
「なあ、あんた」
さすがにトーヤが口をはさむ。
「このバカにも分かるように、もうちょい分かりやすく説明してやってくれねえかな、頼む」
「誰がバカだよ! そんじゃトーヤは分かってんのかよ!」
「いや、俺もよく分からん。だからもう一度説明してくれって言ってんだよ。三度目がなくて済むように、おまえにも分かるようにな」
「むうっ!」
ベルがあからさまに不満の意を表すが、トーヤが自分もよく分からないことを認めたことと、確かに分かるように言ってもらった方がいいと思ったことからそのまま黙る。
「つまりあれですか」
ディレンが落ち着いた声で光に尋ねる。
「いつもだったら新しいシャンタルが産まれたら次に産まれてくるシャンタルが待機してるはずなのに、その時にはいつまで経っても次のシャンタルが産まれる気配がないので次の準備ができなかった、そういうことですか」
『その通りです』
光がディレンに答える。
「そのままほっといたらその時産まれたシャンタルで最後になってたかも知れない、そういうことですな」
『その通りです』
ディレンの言葉と光の答えに全員がざわめいた。
「あっさり言うなよな、それって大変なことじゃねえか」
トーヤが皮肉そうに少し笑いながらそう言う。
『その通りです』
「けど、今はまた次代様が控えてるよな。だから、結局その時は乗り切れたってことでいいんだな?」
『その通りです』
「それ、どうやって乗り切った」
トーヤの言葉に光は一瞬だけ弱く瞬いたが、
『それを今から話さねばなりません』
そう言って、また話を続ける。
『ディレンが申した通り、そのままではその時のシャンタルが最後のシャンタルになってしまう、そのような事態でした』
「最後のシャンタル」という単語にみながあらためて危機感を覚える。
『わたくしたちは考えました。いかにしてこの危機を乗り越えるかを。そして一つの結論を出しました。魂の種を受け取るべき清らかな器を用意することを。その器に魂の種を入れ、新しいシャンタルを誕生させることを』
驚くような話であった。
「器ってなあ、なんだよ!」
思わずベルがそう言って立ち上がる。
「器って、いれものってことだよな? なんだか聞き捨てならねえ言い方じゃんか!」
ベルはこの三年を共に過ごした仲間のシャンタル、宮で出会ったラーラ様とマユリア、そして当代シャンタルのことを考えると、怒らずにはいられなかった。
「それって人のことだろが! それをいれものだあ? おれの仲間やその家族をいれもの扱いすんなよな!!」
「おい、黙れ」
トーヤがそう言っていきり立つベルをなだめるが、
「でもな、俺もこの馬鹿と一緒だ、あんまりいただけた言い方じゃねえよな」
「あやまれよ!」
ベルが涙を浮かべて光に抗議する。
『ごめんなさい』
驚いたことに光が素直に謝罪をした。
「分かった、そんじゃとりあえず聞く。けど、とっととやってくれ」
『分かりました』
トーヤもそのまま黙り、光が一度瞬いて話を続ける。
『新しいシャンタルが誕生した後、いつもは次のシャンタル、次代様と呼ばれる赤子を宿す母の存在を感じます。ですが、その時にはその存在を一切感じませんでした』
「なんだと?」
思わずトーヤがそう言うが、
「悪い、黙るから続けてくれ」
そう言って光に譲る。
『二千年続く時の中で初めてのことでした。それまでも次の母、親御様と呼ばれる候補の者の存在を感じる感覚が薄くなっているようには感じておりましたが、それでも常に何名かはおり、その中から次の魂の種にふさわしい者を選ぶことができてはおりました。それが、数代に渡り、1名か2名しか感じることができません。それまでも世情に合わせてか、増えたり減ったりはしておりましたので、また増える時もあるだろうと思っておりましたが、その時には一つもその影が見えませんでした。そのことにわたくしはとても焦りを感じたのです』
聞いている者たちにはあまりよく分からないことではあるが、声が言う「焦り」に少しばかり緊張が走る。
『そして、次のシャンタルが誕生せねばならぬ時が近づいてきても、やはり何も現れない。これは、シャンタルを受け取る者を宿す力が弱くなっているからであろう、それを認めぬわけにはいかなくなりました』
沈黙の中、静かに光だけが流れ続ける。
『魂の種は神の国にあり、そこから人の世に降りてくる時を待っております。その中から次のシャンタルにふさわしい種を選び、宿るにふさわしい肉体を宿す母を選ぶ。そうしていつも次のシャンタルは誕生していたのです。それがいつまで待っても宿るべき母の存在が見えてはこない、種が降りるべき先が見えないのです』
「なんか、よくわっかんねえ!」
ついにたまりかねたベルの口癖が出る。
「おい、黙れって」
「だってよ、兄貴、こんなの分かりました、そうですかって聞いてられる話じゃねえぜ!」
「いや、それはそうだが」
確かに妹をなだめるアランにしても、どう受け止めていいのか分からない話ではある。
「なあ、あんた」
さすがにトーヤが口をはさむ。
「このバカにも分かるように、もうちょい分かりやすく説明してやってくれねえかな、頼む」
「誰がバカだよ! そんじゃトーヤは分かってんのかよ!」
「いや、俺もよく分からん。だからもう一度説明してくれって言ってんだよ。三度目がなくて済むように、おまえにも分かるようにな」
「むうっ!」
ベルがあからさまに不満の意を表すが、トーヤが自分もよく分からないことを認めたことと、確かに分かるように言ってもらった方がいいと思ったことからそのまま黙る。
「つまりあれですか」
ディレンが落ち着いた声で光に尋ねる。
「いつもだったら新しいシャンタルが産まれたら次に産まれてくるシャンタルが待機してるはずなのに、その時にはいつまで経っても次のシャンタルが産まれる気配がないので次の準備ができなかった、そういうことですか」
『その通りです』
光がディレンに答える。
「そのままほっといたらその時産まれたシャンタルで最後になってたかも知れない、そういうことですな」
『その通りです』
ディレンの言葉と光の答えに全員がざわめいた。
「あっさり言うなよな、それって大変なことじゃねえか」
トーヤが皮肉そうに少し笑いながらそう言う。
『その通りです』
「けど、今はまた次代様が控えてるよな。だから、結局その時は乗り切れたってことでいいんだな?」
『その通りです』
「それ、どうやって乗り切った」
トーヤの言葉に光は一瞬だけ弱く瞬いたが、
『それを今から話さねばなりません』
そう言って、また話を続ける。
『ディレンが申した通り、そのままではその時のシャンタルが最後のシャンタルになってしまう、そのような事態でした』
「最後のシャンタル」という単語にみながあらためて危機感を覚える。
『わたくしたちは考えました。いかにしてこの危機を乗り越えるかを。そして一つの結論を出しました。魂の種を受け取るべき清らかな器を用意することを。その器に魂の種を入れ、新しいシャンタルを誕生させることを』
驚くような話であった。
「器ってなあ、なんだよ!」
思わずベルがそう言って立ち上がる。
「器って、いれものってことだよな? なんだか聞き捨てならねえ言い方じゃんか!」
ベルはこの三年を共に過ごした仲間のシャンタル、宮で出会ったラーラ様とマユリア、そして当代シャンタルのことを考えると、怒らずにはいられなかった。
「それって人のことだろが! それをいれものだあ? おれの仲間やその家族をいれもの扱いすんなよな!!」
「おい、黙れ」
トーヤがそう言っていきり立つベルをなだめるが、
「でもな、俺もこの馬鹿と一緒だ、あんまりいただけた言い方じゃねえよな」
「あやまれよ!」
ベルが涙を浮かべて光に抗議する。
『ごめんなさい』
驚いたことに光が素直に謝罪をした。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる