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第三章 第三部 政争の裏側
19 疑問
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「確か、前の王様は冬の宮ってところじゃないかって話でしたよね」
「うん、そうじゃないか、ぐらいだけどね」
「じゃあ、そこから神殿か宮に抜け道がある可能性はないですか?」
「さすがにそこまでは分からないけど、もしもあったとしたら、逃げられて困る人をそんなもののある部屋に入れるかなあ」
「ですよね」
ダルの返事にアランもそう答える。
「それに、もしもそんな抜け道があるなら、もっと早くにとっとと逃げ出してるような気もします」
「だよねえ」
アランもダルも同じ意見で、聞いている他の者もやはり同じように考えているようだった。
「ということは、その噂が嘘なのかな」
「それにしてはあっちこっちで言われてたけど」
「やり口は一緒なんですよね」
新国王がいかに素晴らしい後継者で、あの方が王様になったらどれだけ良い国になるかと流されていた噂、新国王が父王をやめさせて天が怒り天変地異が起きているという噂、そして今回のこれだ。
「同じ一味がやったことと考えると、始まりの皇太子素晴らしいから見て、神官長が裏で糸を引いてるって考えるのが自然なんだけど、それにしては内容が真逆だしなあ」
「他にもあったよ」
ダルが思い出すように言う。
「ほら、エリス様ご一行を襲った犯人を知ってるってやつ」
「ああ、ありましたね、そういや」
確かにあった。月虹隊に持ち込まれた投書のことだ。
「あれも方向性は一緒なんですが、文にして届けるってのが新鮮ですよね」
「新鮮」
アランの言葉にダルが思わず笑う。
「ってことは、それまでは噂を流していただけが、あの投書を見習って天変地異の手紙ってのを考えついたとも考えられるのか」
「ああ、なるほど」
どちらも宮とつながりの深い月虹隊を動かそうとしてのことだと思われた。
「エリス様にキリエさん事件の罪をなすりつけようとした手紙だったから、あれはセルマが誰かにやらせたと俺は思ってるんすけどね」
「セルマ」という単語にアーダが少しビクッと体をこわばらせ、それに気づいたミーヤがそっと両肩に手を置いた。それで少し力が抜けたようだ。
「エリス様たちに注目させて、宮にそんな問題を持ち込んだキリエさんに責任とらせてやめさせて、そんでとっととセルマを侍女頭にしてしまおう、そういう方向じゃなかったのかなって」
「なんでそんなことする必要あったんだろうね。交代が終わったら嫌でもキリエ様は引退なさってたと思うよ」
「そうなんですよね。つまり、そんだけ焦ってたってことかなと」
「焦ってた?」
「ええ。エリス様ご一行が現れなかったら、静かにそれを待ってたかも知れない。そこになんだか分からないけど妙なのがやってきたもんで、自分たちの計画を邪魔されたくなくて、そんでとっとと追い出すか、もしくはそれを利用してキリエさんを追い落とす方向に舵を切り直した」
「なるほど」
「まあ、相手が手強くて、結果的にセルマの方が捕まってしまったわけですが」
「手強いって、それ、自分で言う?」
ダルがアランの言い方に笑う。
「いやいや、だって考えてもみてくださいよ。相手は死神トーヤにその弟子の俺、それにエリス様とうちの妹ですからね」
「まあねえ」
「あの」
それまで黙っていたハリオが口を開く。
「なんですか」
「そもそも、エリス様ってどういう方なんですか?」
「え?」
「本当に中の国の奥様なんですか?」
「えっと」
アランがどう言おうかと少し考える。
ハリオとアーダにはまだエリス様の正体を話してはいない。そこまで話していいのかどうかも分からない。
「私も知りたいです」
アーダが続けて言う。
「あの、エリス様って、もしかして男性ではないのですか? あの時、トーヤ様やベルと一緒におられたマントの方、あの方がエリス様ですよね? その、お声が男性だった気がして……」
『もしかしたら、あの香もじゃない?』
あの時、たった一言だがシャンタルがこう言ったのを、アーダはしっかりと聞いて覚えていた。
「あの方はどなたなのでしょう? トーヤ様は顔を知られているから隠しているというお話でしたけど、それはエリス様のご素性を知らせないため、そのためだとお聞きしました。エリス様が無事にご主人と再会できたら、その後でトーヤ様が宮へあらためて事情をお話になる予定だと」
そうだ。アーダとハリオにはそう説明してあった。それで納得してもらっていたのに、あのことがあって不思議な空間に飛ばされ、アーダはそのことに疑問を持ったようだ。当然だろう。
「もしもエリス様が男性なら、あのお話は本当ではないということになると思います。それとも、中の国では男性が高貴な方の奥様になるという風習があるのでしょうか?」
「いや、さすがにそれはないな」
アランが少し冗談めかして言うと、アーダが真面目に続ける。
「ということは、やはりエリス様は男性で、ご主人を追いかけてこの国に来られたということも、怖い方に襲われたということも、本当の話ではないということになるのですね?」
「ごめんなさい」
アーダがアランの方を向いていた顔を声の主に振り向ける。
「本当のことは話せなかったのです。言えぬことには沈黙を守るしかできなくて」
ミーヤが八年前マユリアたちが口にした言葉を口にした。
「うん、そうじゃないか、ぐらいだけどね」
「じゃあ、そこから神殿か宮に抜け道がある可能性はないですか?」
「さすがにそこまでは分からないけど、もしもあったとしたら、逃げられて困る人をそんなもののある部屋に入れるかなあ」
「ですよね」
ダルの返事にアランもそう答える。
「それに、もしもそんな抜け道があるなら、もっと早くにとっとと逃げ出してるような気もします」
「だよねえ」
アランもダルも同じ意見で、聞いている他の者もやはり同じように考えているようだった。
「ということは、その噂が嘘なのかな」
「それにしてはあっちこっちで言われてたけど」
「やり口は一緒なんですよね」
新国王がいかに素晴らしい後継者で、あの方が王様になったらどれだけ良い国になるかと流されていた噂、新国王が父王をやめさせて天が怒り天変地異が起きているという噂、そして今回のこれだ。
「同じ一味がやったことと考えると、始まりの皇太子素晴らしいから見て、神官長が裏で糸を引いてるって考えるのが自然なんだけど、それにしては内容が真逆だしなあ」
「他にもあったよ」
ダルが思い出すように言う。
「ほら、エリス様ご一行を襲った犯人を知ってるってやつ」
「ああ、ありましたね、そういや」
確かにあった。月虹隊に持ち込まれた投書のことだ。
「あれも方向性は一緒なんですが、文にして届けるってのが新鮮ですよね」
「新鮮」
アランの言葉にダルが思わず笑う。
「ってことは、それまでは噂を流していただけが、あの投書を見習って天変地異の手紙ってのを考えついたとも考えられるのか」
「ああ、なるほど」
どちらも宮とつながりの深い月虹隊を動かそうとしてのことだと思われた。
「エリス様にキリエさん事件の罪をなすりつけようとした手紙だったから、あれはセルマが誰かにやらせたと俺は思ってるんすけどね」
「セルマ」という単語にアーダが少しビクッと体をこわばらせ、それに気づいたミーヤがそっと両肩に手を置いた。それで少し力が抜けたようだ。
「エリス様たちに注目させて、宮にそんな問題を持ち込んだキリエさんに責任とらせてやめさせて、そんでとっととセルマを侍女頭にしてしまおう、そういう方向じゃなかったのかなって」
「なんでそんなことする必要あったんだろうね。交代が終わったら嫌でもキリエ様は引退なさってたと思うよ」
「そうなんですよね。つまり、そんだけ焦ってたってことかなと」
「焦ってた?」
「ええ。エリス様ご一行が現れなかったら、静かにそれを待ってたかも知れない。そこになんだか分からないけど妙なのがやってきたもんで、自分たちの計画を邪魔されたくなくて、そんでとっとと追い出すか、もしくはそれを利用してキリエさんを追い落とす方向に舵を切り直した」
「なるほど」
「まあ、相手が手強くて、結果的にセルマの方が捕まってしまったわけですが」
「手強いって、それ、自分で言う?」
ダルがアランの言い方に笑う。
「いやいや、だって考えてもみてくださいよ。相手は死神トーヤにその弟子の俺、それにエリス様とうちの妹ですからね」
「まあねえ」
「あの」
それまで黙っていたハリオが口を開く。
「なんですか」
「そもそも、エリス様ってどういう方なんですか?」
「え?」
「本当に中の国の奥様なんですか?」
「えっと」
アランがどう言おうかと少し考える。
ハリオとアーダにはまだエリス様の正体を話してはいない。そこまで話していいのかどうかも分からない。
「私も知りたいです」
アーダが続けて言う。
「あの、エリス様って、もしかして男性ではないのですか? あの時、トーヤ様やベルと一緒におられたマントの方、あの方がエリス様ですよね? その、お声が男性だった気がして……」
『もしかしたら、あの香もじゃない?』
あの時、たった一言だがシャンタルがこう言ったのを、アーダはしっかりと聞いて覚えていた。
「あの方はどなたなのでしょう? トーヤ様は顔を知られているから隠しているというお話でしたけど、それはエリス様のご素性を知らせないため、そのためだとお聞きしました。エリス様が無事にご主人と再会できたら、その後でトーヤ様が宮へあらためて事情をお話になる予定だと」
そうだ。アーダとハリオにはそう説明してあった。それで納得してもらっていたのに、あのことがあって不思議な空間に飛ばされ、アーダはそのことに疑問を持ったようだ。当然だろう。
「もしもエリス様が男性なら、あのお話は本当ではないということになると思います。それとも、中の国では男性が高貴な方の奥様になるという風習があるのでしょうか?」
「いや、さすがにそれはないな」
アランが少し冗談めかして言うと、アーダが真面目に続ける。
「ということは、やはりエリス様は男性で、ご主人を追いかけてこの国に来られたということも、怖い方に襲われたということも、本当の話ではないということになるのですね?」
「ごめんなさい」
アーダがアランの方を向いていた顔を声の主に振り向ける。
「本当のことは話せなかったのです。言えぬことには沈黙を守るしかできなくて」
ミーヤが八年前マユリアたちが口にした言葉を口にした。
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