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第三章 第ニ部 助け手の秘密
12 トーヤを肴にお茶を
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ダルがリルのところへ「アベルの青い小鳥」を届けに行っている頃、ミーヤは自分の担当のアランたちの部屋にいた。
アーダと共にこの部屋の世話係をするについて、何か要望がないかをディレン、アラン、ハリオに聞くためであった。
「いや、特にないですね」
「そうだな」
「俺もないです」
アランもディレンもハリオもそう言う。
「では、こちらで話をして色々と決めさせていただきますね。その上でご不自由などございましたら、また声をおかけください」
ミーヤがそう言うと3人ともそれでいいとうなずく。
「そんな堅苦しいことより、ミーヤさん」
「はい?」
「ちょっと色々聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんでしょうか」
「もちろんトーヤの話ですよ」
アランがいたずらっぽくそう言う。
「そうだな、あいつがここでどんな風だったか色々と聞きたいよな」
「でしょ?」
アランの提案にディレンも乗ってくる。
「あの、トーヤさんってルークさんですよね」
「船の上ではルギだったな」
「え?」
ミーヤがその名を聞いて驚く。
「こっち来る前にトーヤから色々聞いてたんですが、それで」
そこまで言って珍しくアランが吹き出した。
「それな」
ディレンが笑いながら顛末を話し、ミーヤもそれを聞いて思わず吹き出した。
「それは、きっとすごく嫌がったのでしょうね」
「ああ、だけど手形がその名前だったんでな、ルギさんって呼ばれる度にいやいや返事してたよ」
「まあ」
なんとも愉快な話だった。
「俺たちは知らなかったですからねえ。けど船長も人が悪いや」
ハリオが申し訳無さそうにそう言って、それでも少しばかり笑った。
その横でアーダだけが少し困ったように黙っている。
それはそうだろう、アーダにとっては「ルギ」とはマユリア直属のシャンタル宮警護隊隊長の名であるというだけのことで、トーヤのことも、もちろんルギとトーヤの関わりのこともほとんど知らないことなのだ。
「アーダ様」
ミーヤがアーダに声をかける。
「ごめんなさいね、アーダ様はほとんど知らない人のことを。でもこれから少し関わりができるかも知れないのだし、色々とご説明させていただきますね」
「いえ、いえ」
アーダがミーヤの心遣いに申し訳無さそうに首を振る。
「2人とも、今特にやることがないのなら、少しゆっくり座って、トーヤのことを肴にして、一緒にお茶でも飲みませんか」
アランの提案に従って、小さなお茶会のように話すことになった。
ミーヤとアーダはお茶とお菓子の用意をし、自分たちも相伴する形でテーブルを共にする。
「まず、トーヤがこの国に来た時のことからお話しいたしますね」
ミーヤが話せる範囲でトーヤが嵐に流されてただ一人カースに流れ着いたこと、託宣により「助け手」として宮の客人になったことなどを話していった。
「そして八年前、先代が湖にお帰りになる前に、月虹隊のダル隊長と一緒に務めでこの宮を出ていきました。ダル隊長は一足先に帰っていらっしゃいましたが、トーヤはそれから先日まで、ずっとどこにいて何をしているのか、この国の者で知る者はいなかったのです」
「そうだったのですね」
アーダと、そして「ルギ」と名乗っていた時からしか知らないハリオも、おおまかな流れを知ることとなった。
「そして三年前、戦場で死にかけてた俺を助けるためにベルが誰かを探しに行って、それで呼んできてくれたのがトーヤと、エリス様だったというわけです。そうして今回の事件が起こり、トーヤが多少こちらの事情に明るいということから、一緒にエリス様をお連れすることになったんです」
「そうだったのか」
アーダもハリオも、これでトーヤとアランたちの関わりをなんとなく知ることとなった。
「それでトーヤ様は、ご自分のことを知られるとエリス様のことも知られる可能性があると、あのように身分も顔も隠していらっしゃったわけなんですね」
「そういうこと」
ミーヤはもう語るだけのことは語ってしまった。これ以上八年前のことを話し続けるのはあまり得策とは言えない、そう判断したアランがここから先はエリス様がらみのことに、と誘導するように話を続ける。
(侍女って人は嘘をついちゃいけないって言うからな。これ以上ミーヤさんに負担はかけられない)
ミーヤもアランのそんな気持ちを汲んで、後はアランに任せることにしてくれたようだった。
「それで、エリス様のご主人からは、何か連絡とかはあったんですか?」
ハリオがアランに聞く。確かにハリオからするとそこが一番気になる点だろう。
「いえ、今は封鎖に入ってしまったし、しばらくは連絡取るとか無理でしょう」
「あ、そうだった」
「襲ってきた一味はおそらくリュセルスの中に残っているでしょうから、それでエリス様たちは逃げ出してもう宮にはいない、そういう風に仕組んだですよ。ハリオさんには何も言わなくて本当に申し訳なかったと思っています。でも、そういうのって、いっそ知らない方がうまくいくというものなので。本当にすみませんでした」
「いやいや、確かにそんなこと聞いてたら、俺、あがっちまってバレてたかも知れない。そりゃその方がよかったってもんですよ」
ハリオが得心したという風に笑った。
アーダと共にこの部屋の世話係をするについて、何か要望がないかをディレン、アラン、ハリオに聞くためであった。
「いや、特にないですね」
「そうだな」
「俺もないです」
アランもディレンもハリオもそう言う。
「では、こちらで話をして色々と決めさせていただきますね。その上でご不自由などございましたら、また声をおかけください」
ミーヤがそう言うと3人ともそれでいいとうなずく。
「そんな堅苦しいことより、ミーヤさん」
「はい?」
「ちょっと色々聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんでしょうか」
「もちろんトーヤの話ですよ」
アランがいたずらっぽくそう言う。
「そうだな、あいつがここでどんな風だったか色々と聞きたいよな」
「でしょ?」
アランの提案にディレンも乗ってくる。
「あの、トーヤさんってルークさんですよね」
「船の上ではルギだったな」
「え?」
ミーヤがその名を聞いて驚く。
「こっち来る前にトーヤから色々聞いてたんですが、それで」
そこまで言って珍しくアランが吹き出した。
「それな」
ディレンが笑いながら顛末を話し、ミーヤもそれを聞いて思わず吹き出した。
「それは、きっとすごく嫌がったのでしょうね」
「ああ、だけど手形がその名前だったんでな、ルギさんって呼ばれる度にいやいや返事してたよ」
「まあ」
なんとも愉快な話だった。
「俺たちは知らなかったですからねえ。けど船長も人が悪いや」
ハリオが申し訳無さそうにそう言って、それでも少しばかり笑った。
その横でアーダだけが少し困ったように黙っている。
それはそうだろう、アーダにとっては「ルギ」とはマユリア直属のシャンタル宮警護隊隊長の名であるというだけのことで、トーヤのことも、もちろんルギとトーヤの関わりのこともほとんど知らないことなのだ。
「アーダ様」
ミーヤがアーダに声をかける。
「ごめんなさいね、アーダ様はほとんど知らない人のことを。でもこれから少し関わりができるかも知れないのだし、色々とご説明させていただきますね」
「いえ、いえ」
アーダがミーヤの心遣いに申し訳無さそうに首を振る。
「2人とも、今特にやることがないのなら、少しゆっくり座って、トーヤのことを肴にして、一緒にお茶でも飲みませんか」
アランの提案に従って、小さなお茶会のように話すことになった。
ミーヤとアーダはお茶とお菓子の用意をし、自分たちも相伴する形でテーブルを共にする。
「まず、トーヤがこの国に来た時のことからお話しいたしますね」
ミーヤが話せる範囲でトーヤが嵐に流されてただ一人カースに流れ着いたこと、託宣により「助け手」として宮の客人になったことなどを話していった。
「そして八年前、先代が湖にお帰りになる前に、月虹隊のダル隊長と一緒に務めでこの宮を出ていきました。ダル隊長は一足先に帰っていらっしゃいましたが、トーヤはそれから先日まで、ずっとどこにいて何をしているのか、この国の者で知る者はいなかったのです」
「そうだったのですね」
アーダと、そして「ルギ」と名乗っていた時からしか知らないハリオも、おおまかな流れを知ることとなった。
「そして三年前、戦場で死にかけてた俺を助けるためにベルが誰かを探しに行って、それで呼んできてくれたのがトーヤと、エリス様だったというわけです。そうして今回の事件が起こり、トーヤが多少こちらの事情に明るいということから、一緒にエリス様をお連れすることになったんです」
「そうだったのか」
アーダもハリオも、これでトーヤとアランたちの関わりをなんとなく知ることとなった。
「それでトーヤ様は、ご自分のことを知られるとエリス様のことも知られる可能性があると、あのように身分も顔も隠していらっしゃったわけなんですね」
「そういうこと」
ミーヤはもう語るだけのことは語ってしまった。これ以上八年前のことを話し続けるのはあまり得策とは言えない、そう判断したアランがここから先はエリス様がらみのことに、と誘導するように話を続ける。
(侍女って人は嘘をついちゃいけないって言うからな。これ以上ミーヤさんに負担はかけられない)
ミーヤもアランのそんな気持ちを汲んで、後はアランに任せることにしてくれたようだった。
「それで、エリス様のご主人からは、何か連絡とかはあったんですか?」
ハリオがアランに聞く。確かにハリオからするとそこが一番気になる点だろう。
「いえ、今は封鎖に入ってしまったし、しばらくは連絡取るとか無理でしょう」
「あ、そうだった」
「襲ってきた一味はおそらくリュセルスの中に残っているでしょうから、それでエリス様たちは逃げ出してもう宮にはいない、そういう風に仕組んだですよ。ハリオさんには何も言わなくて本当に申し訳なかったと思っています。でも、そういうのって、いっそ知らない方がうまくいくというものなので。本当にすみませんでした」
「いやいや、確かにそんなこと聞いてたら、俺、あがっちまってバレてたかも知れない。そりゃその方がよかったってもんですよ」
ハリオが得心したという風に笑った。
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