172 / 488
第三章 第ニ部 助け手の秘密
8 復帰と再会
しおりを挟む
「……そうですか」
真正面からそう言い切るキリエに、セルマも一言だけそう言って口をつぐんだ。
「ではミーヤ、行きますよ」
「は、はい」
そのままキリエに連れられてミーヤはセルマと過ごしていた部屋を出た。
出る時にちらりとセルマを見たら、少しだけ心細そうな顔になっているような気がした。
キリエもミーヤも一言も話さず歩き、侍女頭の執務室へと入った。
「お座りなさい」
「はい」
キリエに示された椅子にミーヤは静かに座る。
「ご苦労さまでしたね」
「あの、いえ、はい……」
「どれなのですか」
ミーヤの返事にキリエがそう言って少し笑ったので、ミーヤもやっと少し力を抜くことができた。
「アランが戻ってきました」
「はい」
「おそらく、今おまえが一番知りたいだろうことから話しますが、残りの3名は今もどこにいるかは分かりません」
「はい」
「それから、今度のことはマユリアの命です」
「え?」
「本当によく聞き返すようになりましたね」
「あ、あの、いえ、すみません」
ミーヤが恐縮するとまたキリエが笑い、少しばかりからかわれたのだと理解する。
「マユリアが、交代までに形をつけるようにとおっしゃったので、嘘をつくことになりました」
キリエが「嘘をついた」と発言したことにミーヤは心底から驚いたが、同時に「マユリアの命」なのだと理解する。
侍女にとって一番重い罪の一つが「嘘をつくこと」だ。そしてその罪を犯してでも守らねばならないことが「シャンタルの命」であり「マユリアの命」だと侍女ならばみな理解をしている。
「セルマが言っていた通りです。私への阻害はなかった。それゆえにご一行への疑いもなく、疑いがなければおまえへの容疑もないことになる」
「はい、分かりました」
「ですが、本当はご一行はおられません。なので事情を理解しているおまえとアーダの2人が引き続きご一行の世話役として、宮の一室にいるかのように振る舞ってもらいます」
「はい」
「そしてセルマのことですが、おまえといるとやや安定しているように見られるので、引き続き相手を頼みます」
「はい」
「アランとディレン船長、それから船員のハリオ殿の世話役もおまえとアーダの2人ということになっていますが、もちろんアーダもハリオ殿も事情を何も知りません。うまくやってください」
「はい」
「色々と申し訳ないことだとは分かっていますが、お願いしましたよ」
「はい、分かりました」
そうしてミーヤはキリエからいくつかの注意事項を聞き、その足でアーダがいるアランたちの部屋付き侍女の控室へと足を向けた。
「ミーヤ様!」
アーダが目に涙をいっぱい浮かべ、ミーヤにしがみつくようにして再会を喜ぶ。
「アーダ様、心配をかけました、ごめんなさい」
「いえ、いえ、いいえ、ミーヤ様には何も悪いことなんてありませんもの」
「ありがとうございます」
「おつらい目に合っていらっしゃいませんでしたか?」
「ええ、反対にゆっくり休ませていただきました、ほら、こんなに元気」
「よかった」
そう言いながらまだアーダが涙ぐむ。
「また元通りに同じ仕事の係です。よろしくお願いいたしますね」
「はい、こちらこそ」
アーダに案内されてアランたちがいる部屋へミーヤが挨拶をしに行く。
「この度、アーダと共にこの部屋の世話係を申し付けられました」
ミーヤがそう言って頭を下げると、
「待ってました」
アランが自分たちが開放された上はそうなるのではないかと予感していたように、ニヤッと笑いながらミーヤを出迎えた。
「元気そうでよかった」
ディレンもニッコリと笑いながらそう言う。
「あの、よろしくお願いします」
ミーヤとは初対面のハリオが焦ったようにそう挨拶をした。
「あ、こいつはハリオ、私の船の若い衆です」
「はい、よろしく」
「よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げるミーヤに、ハリオは気恥ずかしそうに頭をかきながら、何度も小さく頭を上げ下げしていた。
「ミーヤさんは八年前にトーヤの世話係だった人なんですよ」
「え、トーヤさんの?」
アランにそう言われてハリオが驚く。
「はい、そうなんです」
「そうなんですか。って、なんか、まだよくそのへんの話がよく分かってないんですよ、俺」
ハリオが小さくハッと息を吐き、肩を少しばかり落とした。
「こいつに説明してることはですな、ルークが本当はトーヤというやつだということ、それから八年前にここにいたこと、エリス様をこちらに案内するのに名前と顔を隠す必要があったこと、なんかです」
「はい、今でもびっくりです」
「それと、トーヤが顔を知られてはいけないからと、こいつに代理を頼んだことで、こいつもこちらに留め置かれるようになりました」
「そうなんです」
「俺が、そのあたり、適当に作ってこいつに吹き込んでたもんで、こいつに迷惑をかけました。なので、ミーヤさんも優しくしてやってくれるとうれしいです」
「そんなそんな船長、いやいや、そんな」
慌てて両手をぶんぶんと振るハリオに、ミーヤが、
「私も知っていて本当のことは言わずに黙っていました。ご迷惑をかけた一人になると思います。その分も心を込めてお世話させていただきます」
そう言って頭を下げたので、ハリオがますます恐縮した。
真正面からそう言い切るキリエに、セルマも一言だけそう言って口をつぐんだ。
「ではミーヤ、行きますよ」
「は、はい」
そのままキリエに連れられてミーヤはセルマと過ごしていた部屋を出た。
出る時にちらりとセルマを見たら、少しだけ心細そうな顔になっているような気がした。
キリエもミーヤも一言も話さず歩き、侍女頭の執務室へと入った。
「お座りなさい」
「はい」
キリエに示された椅子にミーヤは静かに座る。
「ご苦労さまでしたね」
「あの、いえ、はい……」
「どれなのですか」
ミーヤの返事にキリエがそう言って少し笑ったので、ミーヤもやっと少し力を抜くことができた。
「アランが戻ってきました」
「はい」
「おそらく、今おまえが一番知りたいだろうことから話しますが、残りの3名は今もどこにいるかは分かりません」
「はい」
「それから、今度のことはマユリアの命です」
「え?」
「本当によく聞き返すようになりましたね」
「あ、あの、いえ、すみません」
ミーヤが恐縮するとまたキリエが笑い、少しばかりからかわれたのだと理解する。
「マユリアが、交代までに形をつけるようにとおっしゃったので、嘘をつくことになりました」
キリエが「嘘をついた」と発言したことにミーヤは心底から驚いたが、同時に「マユリアの命」なのだと理解する。
侍女にとって一番重い罪の一つが「嘘をつくこと」だ。そしてその罪を犯してでも守らねばならないことが「シャンタルの命」であり「マユリアの命」だと侍女ならばみな理解をしている。
「セルマが言っていた通りです。私への阻害はなかった。それゆえにご一行への疑いもなく、疑いがなければおまえへの容疑もないことになる」
「はい、分かりました」
「ですが、本当はご一行はおられません。なので事情を理解しているおまえとアーダの2人が引き続きご一行の世話役として、宮の一室にいるかのように振る舞ってもらいます」
「はい」
「そしてセルマのことですが、おまえといるとやや安定しているように見られるので、引き続き相手を頼みます」
「はい」
「アランとディレン船長、それから船員のハリオ殿の世話役もおまえとアーダの2人ということになっていますが、もちろんアーダもハリオ殿も事情を何も知りません。うまくやってください」
「はい」
「色々と申し訳ないことだとは分かっていますが、お願いしましたよ」
「はい、分かりました」
そうしてミーヤはキリエからいくつかの注意事項を聞き、その足でアーダがいるアランたちの部屋付き侍女の控室へと足を向けた。
「ミーヤ様!」
アーダが目に涙をいっぱい浮かべ、ミーヤにしがみつくようにして再会を喜ぶ。
「アーダ様、心配をかけました、ごめんなさい」
「いえ、いえ、いいえ、ミーヤ様には何も悪いことなんてありませんもの」
「ありがとうございます」
「おつらい目に合っていらっしゃいませんでしたか?」
「ええ、反対にゆっくり休ませていただきました、ほら、こんなに元気」
「よかった」
そう言いながらまだアーダが涙ぐむ。
「また元通りに同じ仕事の係です。よろしくお願いいたしますね」
「はい、こちらこそ」
アーダに案内されてアランたちがいる部屋へミーヤが挨拶をしに行く。
「この度、アーダと共にこの部屋の世話係を申し付けられました」
ミーヤがそう言って頭を下げると、
「待ってました」
アランが自分たちが開放された上はそうなるのではないかと予感していたように、ニヤッと笑いながらミーヤを出迎えた。
「元気そうでよかった」
ディレンもニッコリと笑いながらそう言う。
「あの、よろしくお願いします」
ミーヤとは初対面のハリオが焦ったようにそう挨拶をした。
「あ、こいつはハリオ、私の船の若い衆です」
「はい、よろしく」
「よろしくお願いいたします」
丁寧に頭を下げるミーヤに、ハリオは気恥ずかしそうに頭をかきながら、何度も小さく頭を上げ下げしていた。
「ミーヤさんは八年前にトーヤの世話係だった人なんですよ」
「え、トーヤさんの?」
アランにそう言われてハリオが驚く。
「はい、そうなんです」
「そうなんですか。って、なんか、まだよくそのへんの話がよく分かってないんですよ、俺」
ハリオが小さくハッと息を吐き、肩を少しばかり落とした。
「こいつに説明してることはですな、ルークが本当はトーヤというやつだということ、それから八年前にここにいたこと、エリス様をこちらに案内するのに名前と顔を隠す必要があったこと、なんかです」
「はい、今でもびっくりです」
「それと、トーヤが顔を知られてはいけないからと、こいつに代理を頼んだことで、こいつもこちらに留め置かれるようになりました」
「そうなんです」
「俺が、そのあたり、適当に作ってこいつに吹き込んでたもんで、こいつに迷惑をかけました。なので、ミーヤさんも優しくしてやってくれるとうれしいです」
「そんなそんな船長、いやいや、そんな」
慌てて両手をぶんぶんと振るハリオに、ミーヤが、
「私も知っていて本当のことは言わずに黙っていました。ご迷惑をかけた一人になると思います。その分も心を込めてお世話させていただきます」
そう言って頭を下げたので、ハリオがますます恐縮した。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる