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第三章 第一部 カースより始まる

 4 意見を聞ける者

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 キリエは黙って手の中の紙をパラパラとめくって見ていたが、

「その可能性もあるのでしょうね」

 と、静かに言った。

「一通二通ならば個人的な意見で済むでしょう。ですが、この分量は明らかになにかの意図がある、もしくは何者かの指示の元での集団の行動のように見えます」
「はい、俺もそう思います」
「でも、あの事と関係があるとしても、目的の方向が違うようです。前国王の復権を訴えるというのは矛盾しているように思えます」

 キリエに害をなしたのは神官長、セルマで間違いがないだろう。
 だが、神官長は新国王派、あの反乱にも手を貸している。
 前国王に復権してもらっては困る人間であることは明白だ。
 
「はい、俺もそう思いました」」
「ですが、目的が何にしろ、宮へなんらかの圧力をかけようとしているのは間違いはないでしょう」
「はい」
「一体誰がなんのために」
「それが分かりません」

 キリエとダルが黙って顔を見合わせる。

「ルギにも聞いてみましょう」
「ええ」

 そうして二人で警護隊隊長室へと足を運んだ。

 ルギは黙って二人の話を聞き、黙ってしばらく何かを考えているようだった。

「私にも正直、これがどのようなことは分かりません。ですが、意見を聞ける者ならいるやも知れません」
「意見を聞ける者ですか」
「はい」
「もしかして」
「はい」
「え、え、誰? なんのこと?」

 ダル一人が心当たりがなくそう聞く。

「行きましょう」

 ルギが一言そう言い、黙ってキリエも後に続く。ダルも急いでその後に続いた。

 到着したのはアランたちが入れられている客室であった。

「ここって?」
「開けろ」

 ダルの質問には答えず、ルギが衛士に命じてアランの部屋を開けさせる。

「それから隣のディレン船長もこちらの部屋へ」
「ええっ!」

 ダルが室内にいる人物を見て、隣室に入れられている人の名前を聞いて驚く。
 ダルが宮を出された後で二人は拘束されたのだから、ここに入れられているとは知らなかった。

「狭い部屋ですが急ぎますので」

 そう言ってルギがキリエに椅子を進める。

「あの、これ一体……」

 やはりアランも途方に暮れている。
 何しろお茶会、食事会がなくなった今、人が来るのは衛士が聞き取りにか、食事を持ってきてくれる時だけだと思っていたからだ。

 ダルとアランが互いに困った顔でいるところへ、今度は隣室からディレンも連れてこられ、尚一層どうしていいのやら分からなくなるが、さすにがディレンは年の功なのか、特に表情を変えることもなく、それでも視線を部屋の中のメンバーに順々に移したのが分かった。
 
 ルギはディレンを連れて来た衛士を外に出すと、中から鍵をかけ、誰も入れないようにした。

「あの~、これ、一体どういう?」

 アランがたまりかねて口を開く。

「事情はダルから」
「え、俺?」

 ルギに水を向けられてダルが驚くが、

「ええ、お願いします」

 キリエにもそう言われ、観念したように大きく息を一つ吐いた。

「とりあえず、長くなるかも知れないから、みんなテーブルに集まって座ってくれるとやりやすいかも」
 
 ここはアランが入れられていた客室だ。
 二人部屋らしくベッドが二つあり、小さなテーブルが1つと訪問客用も合わせて椅子が4脚置いてある。

「ここはアランの部屋だからアランはベッドでよろしく」
「あ、分かりました」

 二つ並ぶベッドの扉側にアランが座り、ベッド側に先程一足先に座ったキリエ、隣にルギ、向かいのベッド側にディレンが座り、最後にそちらの扉側にダルが座った。

「まずはこれを見てほしいんだけど」

 そう言って持ってきた書類の束を二つに分け、アランとディレンに渡した。
 2人がそれをパラパラとめくって一通り目を通す。

「これは一体?」
「月虹隊に届けられた民の声です」

 ディレンの質問にダルが答える。

「すごい量だな」
「まだまだあるよ、それは今日届いた分だけ」
「え、そんなに?」

 アランの質問にダルが答える。

「うん、日に日に増えてるみたい」
「これがですか」
「同じ人が出してるってことは?」
「それはあると思うけど、でも字も違うし全部ではないだろうね」

 届けられる文には記名する義務はない。
 そもそも自然発生的に生まれたお願いの文だ。それでも内容によってはどこの誰かを書いてあることもある。要望を伝えるだけならそれだけを、何か答えを得たい時には住まいと名前が書いてあることが多い。大体が半々というところか。
 当然、今回の文は大部分が無記名であった。

「国王を退位させ前国王にお戻りいただきたい。そのことを宮から王宮にお伝えいただきたい」

 ディレンが声を出して1枚を読む。

「つまり、前国王派を支持する民がこれを月虹隊に投げ入れているということですか?」
「多分」

 ダルがディレンにそう答える。

「それで、どうしてこれを私とアランに?」
「えっとですね」

 ダルは一瞬そう言って考えたが、

「どう考えたらいいのか分からなくて。船長とアランなら、何か分かるんじゃないかと」

 と、正直に答えた。

「あ~」

 アランが納得したという声を上げ、

「なるほど」

 と、ディレンも答える。

「トーヤとも話してました、この国ではそういうことがなかなか起きないだろうって」
「ええ、そういうことです」

 キリエが静かに答える。
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