上 下
143 / 488
第二章 第三部 女神の国

19 友達と特別

しおりを挟む
「じゃあ握手はシャンタルが任期を終えて人に戻られた時に、ということで」
「ええ」

 そうしてアランはシャンタルと友達になる約束をした。

「でも、お茶会やお食事会ではなくて、どうやってお話しすればいいのかしら」
「呼んでくれればいいです」
「え?」
「シャンタルが用事があるとか、話したいとか、そう思った時に呼んでくれたら。俺もそうします。でも用があったり時間が合わない時、たとえばもうすぐシャンタルはお昼寝の時間ですよね、そういう時はまた今度で」
「それでいいの!?」
「呼んでいただけて、俺が行ける時には行きますよ」
「ええ、ええ、分かりました」

 シャンタルは自分が話したい時に声をかけるだけでアランに会えると思うと、それがうれしくてたまらなかった。

「ただ、これは言っておかないといけないけど、俺はエリス様の護衛で、そして今はルギ隊長やダル隊長のお手伝いもしています」
「え?」
「その仕事がある時は無理ですから、また今度ということもあります。それは分かっておいてください」
「え、そうなの?」

 いつでも自分が呼べば来てくれると思っていたので、小さなシャンタルはちょっとがっかりとする。

「友達ですからね。お互いに無理はいけない」
「そうね、分かりました」

 そうは言うものの、目に見て分かるほどにがっかりしている。

「手紙はどうでしょう」

 ディレンが横から提案する。

「お手紙?」
「ええ。私は船であっちこっちに行きますから、よく頼まれるんです。遠くにいる家族や友達に手紙を届けてほしいって。だから、会えない時は手紙を書いて届けてはどうでしょうか」
「お手紙を……」

 シャンタルの頬がゆるんでうれしそうな表情になる。

「楽しそうです! それに、お手紙だったら、後で聞いておけばよかったと思ったことも書けますよね」
「そうですね。何か聞きたいのに忘れてたことがあったんですか?」
「あったと思うんですが、後になったら忘れてしまって」
「ああ、あるある」

 ディレンが聞いて笑う。

「それなら余計に手紙はいいかも知れないですね。お互いに時間ができた時に読めて負担も少ないし、何回も読める」
「そうですね、何回も読めますね!」
「じゃあ決まりだ」

 そうしてシャンタルとアランは手紙のやり取りをすることを約束した。

「でも、俺、字が下手なので笑わないでくださいよ」
「笑いません」
「約束ですよ」
「ええ、約束します」

 シャンタルが楽しそうにクスクスと笑い、アランもハハハハと笑って答える。
 そうして次の約束はせずにアランとディレンは謁見の間から出た。

「何を企んでる」
「え?」
「昨日、気をつけてもらいたいと言ったはずだが」
「ああ」
 
 確かに昨日、ルギに釘を刺された。

「毎日お茶会と食事会の方がよかったですかね?」

 アランがからかうような口調で言うと、ルギがギロリと睨みつける。

「別に何も企んでなんかいませんよ。言った通りにお茶会やお食事会にご招待されるお客様じゃなく、友達になりましょうってだけです」
「特別とはなんだ」
「だから友達ですってば」
「友達が特別なのか」
「違いますか? ってか、ルギ隊長は友達っているんですか?」

 アランがいかにもこいつは友達いなさそうだ、みたいに聞く。

「いる」
「え?」

 聞いたものの思わぬ返事が返ってきて驚いた。

「いるんですか?」
「いては悪いか」
「いや、悪くはないけど、いや、びっくりした」

 まさかいるとは思わなかった。
 そして、いたとしてもこんなにすんなり認めるとは思わなかった。
 
「えっと、その友達とちょっと飲みに行ったりとか、そんなことするんすか?」
「するな」

 なんと、本当の友達のようだともう一度アランはびっくりする。

「なんだ」
「いや」

 思わずじっと見つめると、ルギが少し視線を動かしてアランを見る。

 この人の友達になる。そんなことできる人間がいるのか? 
 よっぽど人のいい……
 と、そこまで考えて、ふと、ルギと同郷のある男の顔が浮かんだ。

「あー」

 続きは口に出さない。
 確かにあの人ならこの人の友達もやれそうだな。そう納得する。

「なるほど」
「なんだ」
「いや、隊長に友達がいるって聞いたら嫌がりそうな人間が浮かんだもんで」

 にやりと笑ってそう言うと、ルギも少し嫌そうな顔で視線を外した。
 
 そうして今日も、アランとディレンは別々の部屋に戻って別々に尋問を受ける。
 アランはボーナムに、ディレンはゼトに。
 
 ルギはその二部屋ふたへや隣、ミーヤとセルマが入っている部屋の扉を叩き、鍵を開けて中に入った。

「侍女ミーヤ、聞きたいことがある」

 そう言ってミーヤ一人を部屋から連れ出した。

 懲罰房にいる時には、何度か警護隊隊長室へ呼ばれて話を聞かれていた。
 ルギと副隊長のボーナム、第一警護隊長のゼト、それから数名の衛士がいる場で当たり障りのないことを聞かれ、答えられる範囲で答えていた。
 だがセルマと二人部屋に移ってからは初めてのことだ。移動の原因となった水音のことが落ち着くまで様子を見られていたのかも知れない。ミーヤはそう思った。
 
 今回もそのつもりでいたが、連れて行かれた先は思わぬ部屋だった。

 あの時、毎日のように通い詰めていたマユリアの客室。 
 先代の心を開かせるために不思議なお茶会が開かれ続けたあの部屋であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

さよなら私の愛しい人

ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。 ※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます! ※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

悲恋を気取った侯爵夫人の末路

三木谷夜宵
ファンタジー
侯爵夫人のプリシアは、貴族令嬢と騎士の悲恋を描いた有名なロマンス小説のモデルとして持て囃されていた。 順風満帆だった彼女の人生は、ある日突然に終わりを告げる。 悲恋のヒロインを気取っていた彼女が犯した過ちとは──? カクヨムにも公開してます。

処理中です...