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第二章 第二部 揺れる故郷

19 エリス様の過去

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『マユリアがその身を捧げてくれたことで次のシャンタルが誕生しただけではなく、他にも影響がありました』

 光が続ける。

『ラーラが次代様として産まれてすぐ、次の親御様とその夫の姿が見えました。それは、とても清らかでけがれない男女の姿でした』

「マユリア、今のマユリアの両親か」

 トーヤが少し何かを考えるようにそう言う。

『その通りです』

「つまりマユリアが、って、ややこしいな、今言うのは女神のマユリア、あんたの侍女のマユリアのことな。その元女神様の体がラーラ様って人間になったおかげで、次のシャンタルの親を見つけられたってことだな」

『その通りです』

「そんで無事にマユリア、今度のは宮に今いる俺らがよく知る当代マユリアな。そのマユリアが無事に生まれた、でいいのか?」

 トーヤが内にある感情を出さぬように淡々とそう聞いた。

『トーヤは気にいらぬ言い方でしょうが、そうとも言えますし、そうではないとも言えます』

「いや、そのへんはそんで構わねえよ」
 
 意外なトーヤの言葉であった。

「ちょい色々知っちまってるからな。だからまあ、そこは置いとく。そんでいい」

『分かりました』

 このやり取りに、なんらかの思うところがあるような表情と、全くわけが分からない表情になる者の2つに分かれたが、光はトーヤの言葉に感謝するように瞬き、話を続けた。

『ラーラがシャンタルの座を降りてマユリアとなり、新しいシャンタル、今のマユリアが誕生しました。清らかで穢れのないその両親から生まれ、今も宮にあるあのマユリアが』

「無事、交代はできた、そういうこったな」

『その通りです』

 今度の「無事」には光は素直にそうだと認める。

「じゃあ次だ。その次はいよいよ、ちょいと問題ありありの『黒のシャンタル』の誕生になるが、これもまあ、一応無事にご誕生にはなった、そんでいいよな」

『ええ』

 光が短く答える。

「さて、それから十年後、今から八年前だが、まあえらいことがあったよな。それについては、どのへんまで話していいもんだ?」

 光が少し迷うように時間を置きながら、それでもゆっくりと波動を送ってくる。

『色々と、話してしまわねばならないでしょう』

「ああ、そうしてもらった方がこっちは楽だな。あっちに隠し、こっちに隠しってのは本当にやりにくい」
「そうよね」

 当時、色々と隠されていたリルが、トーヤにかぶせるようにそう言ってくる。

「こうして集まっている人にはみんな、同じ条件の話をして知っていただいた方が楽だと思います」
「相変わらずあんたすげえな、リル!」

 正体不明の不思議な光にさえもズバリと自分の考えをぶつけるリルに、思わずトーヤも驚いてそう言ってしまう。

「いえ、本当のことよ。知る人もつらいだろうけど、知らされない人もつらいのよ。これは私だから、あの時のことを後で知った私だからこそ言えることだわ」
「そうだな」

 リルだからこそ、リルだけが感じた気持ちだからこそ、リルにしか言えないこと。確かにそうであった。

「ってことだからな、それぞれ、宮の方はアーダとハリオにミーヤたちが話をしといてくれ。こっちは俺が――」

 そこまで言ってからトーヤがそれでも少しだけ考えるようにしてから、

「ダルの家族には話をしておくから」
「えっ!」
「ええっ!」

 アーダとハリオが驚いてダルを見る。

「ええと、そうなんだ」

 ダルが困ったように、申し訳無さそうに2人に言う。

「トーヤがいるとこ、俺の実家なんだ。カースの」
「そうだったのですか」
「えっと、カースって?」

 アーダはさすがに知っている地名だが、ハリオは聞いたこともない。

「まあ、そのへんも一緒に後で説明頼む。今は話を進めねえとな」
「ええ、分かりました」

 トーヤの声にミーヤが答え、2人の目が一瞬だけ合った。

「で、これも言っちまった方がいいんだよな、エリス様のことも」

 トーヤが光に視線を移して言う。

 もうすでにこの場のほとんどの者は知っているが、アーダとハリオには予想もつかない。
 自然に2人の目が、生成りのマントをかぶった人の後ろ姿に注がれる。

 光は何も言わず静かに光るばかり。

「そうだね」
 
 マントの人がそう言うと、静かに立ち上がり、するりとマントを取った。

「あ……」
「え?」

 アーダはその国でその容貌の方といえば一人しか浮かばないある方の名が頭に浮かび、ハリオは「中の国の方」として想像していたのとは全く違う姿の人が現れたので、2人共言葉が出ない。

「はじめまして、シャンタルです」

 流れる絹のようにきらめく銀の髪、つややかな褐色の肌。
 年の頃は十代半ばというところだろうか、見た目では性別は分からない。
 ただ、その声からおそらく男性であろうとの推測はつく。

「え、あの、でも、なぜ……」

 アーダが混乱して座り込んでしまいそうになったのをミーヤが支えた。

「アーダ様、また後ほど説明をさせていただきます。今は、ただ、あのようなかたなのだとだけ、受けとめて差し上げてください」

 ミーヤに体を預けながら、アーダがミーヤの顔をやっとのように見つめる。

「お願いいたします」

 ミーヤの言葉に無言でやっとアーダがうなずいたのを見届けたように、

「ハリオもまた後でな」

 と、ディレンがまた一言だけハリオに伝えた。
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