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第一章 第三部 光と闇

15 変容実験 

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「へ? トーヤの夢?」

 アランが目をパチクリとする。

「多分、今トーヤが見てる夢だよ」
「え、こんな時間にか? おまえじゃあるまいし、トーヤが昼寝してるってのか?」
「多分……」

 トーヤは今シャンタル宮にいる。
 一体侵入して何をどうしているかは分からないが、のんびり昼寝などしているとはとても思えない。

「一体何があったんだ」
「分からない」

 シャンタルが目をつぶり、ふるふると首を振る。

「だけど、多分共鳴だよ」
「共鳴?」
「うん、トーヤが見ている夢を送ってきたんだと思う」
「って、トーヤもおまえみたいなことできるようになったってことか!」

 と、言ってから、アランが突然シャンタルの向かい側のベッドにドサッと腰を下ろした。

 思い出したのだ、ある出来事を。
 あの実験台になった時のことを。

「分からない」

 シャンタルはそんなアランの様子には全く構わず、もう一度そう言う。

「分からない、何があったのか。分かるのはルークが死んだということだけ」
「え!?」
「トーヤがそれを見てる」
「って、おい……」

 もう何が何だか分からない。

「ルークが、板をつかんだまま海に沈んでる。トーヤもその板を持ってたけど手を放した」
「おい、それって、まさか、もしかしたら」
「うん……」

 シャンタルがアランを見て頷く。

「船が沈んだ時の夢を見てるんだと思うよ」
「って、それって」
「うん」

 もしもそのトーヤが見ている夢の人物、あの嵐で命を落とした男がルークという名であるのなら、トーヤが名乗った「ルーク」という名前、それにどんな因縁があったというのか。アランは愕然とした。

「とにかくこれだけではよく分からないから、トーヤが帰ってくるのを待つしかないね」
「トーヤ、大丈夫なのかよ……一体何があったんだ?」

 考えてもどうすることもできない。
 宮へ様子を伺いに行くわけにもいかない。
 アランとシャンタルは顔を見合わせ、だまって頷き合うしかできずにいた。



 トーヤたちがそうして動き出した頃、宮の中でも動きがあった。

「う~ん、これでいいとは思うのですが、何しろやってみたこともありませんし、これがそういう品であるとは今回初めて知りましたもので」

 オーサ商会会長アロ、リルの父親はそう言って申し訳無さそうに頭を下げる。

「いえ、会長に無理をお願いしておりますのはこちらですから」

 シャンタル宮警護隊長のルギもそう言って丁寧に頭を下げた。

 例の焼けば色が変わるアルディナ渡りの陶器、いよいよそれを火にべる時を迎えていた。

 何がどうなるかは分からない。ことによると青い香炉のようにならない可能性もある。
 そのために前もって細かく記録を取っておく必要があり、その準備にも時間がかかった。

「会長には長らく宮に留め置くようなことになり、大変申し訳無いことだとマユリアからも礼と詫びをとのことでした」

 侍女頭のキリエがそう伝えると、

「あの、あの、マユリアが! いや、そんなもったいない」

 アロは目を白黒、頭を上げ下げしてどこに身を置いていいものか分からないようになる。

「あの、あの、大変申し訳のないことで。私ごときにそんな……」

 最後には涙目になって頭を下げ続ける。

「アロ殿、頭をお上げください。どうぞそれまでに」

 キリエに冷静な声でそう言われ、やっと自分を取り戻したようだ。

 そもそもが大商会の会長とはいえど一介の商人に過ぎぬ身、それが娘が侍女として宮に上がったとはいえ、それも応募で選ばれたのではなくツテを辿って行儀見習いとしてやっと入れただけのこと。それが、エリス様のおかげで女神と直接お目にかかる機会を得、お言葉をいただくなどという身に余る光栄に恵まれただけで一生の宝と思っていたものの、今度はそのようなお言葉まで。

「はい、シャンタルとマユリアの御為にもぜひとも良い結果を得なければなりません」

 身を引き締めてそう言う。

「ぜひともそのように」

 キリエも静かにアロに頭を下げる。

「では始めましょうか」
「はい」

 ここはアロが案内された客殿にある客室である。実験が終わるまではこの部屋に滞在するようにと言われ、その時にも足が立たぬほどに光栄に感じたものだが、この部屋には必要な物があった。

「この暖炉なら、アルディナの高位の方のご自宅にある物と変わることはないでしょう」

 キリエがそう判断してアロを通したのは、エリス様御一行が最初に滞在していた客殿で2番目の部屋であった。アロが及び腰になるのも無理はあるまい。

「お話を伺ってからできるだけのことは調べましたが、何しろこれという確証はございません。そして陶器も現在はこの花瓶一つだけ、どうぞ良き結果を得られますように……」

 アロがそう言いながら暖炉の灰に花瓶を埋め、上からまきを足す。

「これで一昼夜とのことですが、最後には高位の方がご自分の手でということでしたので、ゆったりと時間をお過ごしになられたのではないかと思います。しばらく何もせず見ておくしかないでしょうな」
「ではその間、アロ殿にお茶を」

 キリエが侍女に命じてお茶の用意をさせる。

「明日のこの時刻までごゆっくりお過ごしください。またご用がございましたらお呼びください」

 そう言ってキリエ以下侍女たちは退室していった。
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