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第一章 第三部 光と闇
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「あんたの言い方聞いてると、まるで俺が自分からここに来てこんなめんどくせえことに巻き込まれてるように聞こえるんだが」
戸惑いながらトーヤがそう言うと、
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
聞いてトーヤがため息をつく。
「何聞いても結局それかよ……」
八年前もそうだった。
「あれか、例の『時が満ちる』まではなんも教えてもらえねえってやつか?」
光が今までで一番華やかに揺れた。
「そうだってことね、はいはい……」
もう何も言う気がなくなってきた。
「あのよぉ」
なんとなく出している声まで情けなくなっていると自分でも気がつく。
「だからさあ、だったらなんで俺はここにいるわけ? 会いたかったんだろ? ってことは、来てほしかったんだろ? んで、聞きたいことがあるだろうって言うから言ったらそれな」
もう一度大きくため息をつく。
「どうしろってんだよ、え?」
『今日はこのぐらいにしましょうか』
「え?」
『また考えがまとまったらお出でなさい』
「え、あ、え、ちょ!」
トーヤは抗議しようとしたが、気がつけばあっという間に御祭神前に立っていた。
もしかしてと思ってもう一度キラキラ光る石に触れてみたが、ただの石の顔をして何も起こらなかった。
『また考えがまとまったらお出でなさい』
そう言っていたのを思い出し、仕方なく正殿から出て行くと、案内してくれた神官二人が少し離れた廊下で立っているのが見えた。
さすがに正殿のすぐ前にいるのは遠慮していたらしいが、「お父上」が出てこられたらすぐに案内できるようにと待機していたらしい。
「もうよろしいのですか?」
「はい、ありがとうございます」
と、トーヤは小さな声でぼそぼそと答える。
「あの、またお邪魔してもよろしいでしょうか」
「それはもちろん」
「ありがとうございます」
「お父上」はゆっくり丁寧に神官たちに向かって頭を下げた。
「お参りさせていただけて心が穏やかになりました。ご迷惑でしょうがまたこれからもお願いいたします」
「それはよろしゅうございました」
神官たちは笑顔になるとそう言った。
「次はいつ頃お迎えにあがればよろしいでしょう?」
「他にも神殿にお参りなさりたい方もいらっしゃるでしょうし、明日でも明後日でも、ゆっくりと一人にしていただける時間ならいつでも構いません。勝手を申しますが、どうぞよろしくお願いいたします」
神官二人は「お父上」の腰の低い丁寧な態度に感銘を受けたようだった。
「承知いたしました。できるだけごゆっくりお時間をお取りできる時にご案内いたします」
「ありがとうございます」
神殿から連絡をして客殿の客室係の侍女に迎えに来てもらい、「お父上」は自室へと戻っていった。
トーヤは侍女を見送ると、うっとおしいマントを取り、ソファに腰掛けた。
後は夕食の時間まで一人にしておいてほしいと要望してある、それまでゆっくりと考え事ができるだろう。
考えることはたくさんあった。聞きたいこともたくさんあった。
「とりあえず何が聞きたいかまとめて今度の機会に聞いてみることだな」
それから……
「俺が自分の意思でここに来て、そんでこんな厄介なことになってるって言ってたよな」
どう考えてもそんな覚えはない。
「まったく、冗談じゃねえぜ」
トーヤはぶつぶつと文句を言う。
「せっかく人があっちで気楽に好き勝手暮らしてたって言うのによ、こっち来る船に乗って嵐に遭ったばっかりにこんな理不尽な目にあってんだよ。それを俺の意思だあ? はあ? 勝手に言ってろっての」
そう言いながらもこうも思う。
「けどまあ、船に乗るって決めたのは俺だよな。そのこと言ってんのか?」
言われてみればその点だけはそうだなと思い直す。
もしも、あちらのミーヤが死んだ後も同じように変わらぬ生活をしていたとしたら、戦場で走り回っていたとしたら、こんな不思議な経験はしなかったのかも知れない。
「ってことはだ、まあそこだけは認めなきゃいけねえってことになるか……」
う~んと首を捻りながら考えることを続ける。
「そうとも言えるしそうではないとも言える、か……船に乗って『シャンタルの神域』に来るって決めたのは俺だ、そこはそうだって言えるってことになるか。んで、そうではないと言えるってのはどこのことだよ」
そうではない部分、トーヤがそうしようと思わなかった部分を探す。
「さすがに嵐で海に放り出される、ってのは俺の意思とは言わねえだろう。誰がそんなことになりたいって思うよ、なあ」
誰にともなく話しかける。
「いや、いたな。ディレンは俺に嵐の海に放り込まれて死にたいって思ったって言ってたな。でもまあ、あれは言ってみりゃヤケクソでそう思っただけのことで、結局はそうはならなかったしな。普通だったらそんなこと考えたりしねえだろう。俺もやっぱりそんなこと考えたことはねえ。ってことは、嵐で死にそうになってカースに流れ着いた、ここの部分はあいつの仕業なのか?」
なんとなくそう思う。
「助け手が現れるって託宣があったって言うぐらいだから、まあそこはそうなるか」
トーヤはとりあえず、この国に来てからのことを順番に考えていくことにした。
神殿に行ったことで思わぬ方向に道が開けた気がする。
戸惑いながらトーヤがそう言うと、
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
聞いてトーヤがため息をつく。
「何聞いても結局それかよ……」
八年前もそうだった。
「あれか、例の『時が満ちる』まではなんも教えてもらえねえってやつか?」
光が今までで一番華やかに揺れた。
「そうだってことね、はいはい……」
もう何も言う気がなくなってきた。
「あのよぉ」
なんとなく出している声まで情けなくなっていると自分でも気がつく。
「だからさあ、だったらなんで俺はここにいるわけ? 会いたかったんだろ? ってことは、来てほしかったんだろ? んで、聞きたいことがあるだろうって言うから言ったらそれな」
もう一度大きくため息をつく。
「どうしろってんだよ、え?」
『今日はこのぐらいにしましょうか』
「え?」
『また考えがまとまったらお出でなさい』
「え、あ、え、ちょ!」
トーヤは抗議しようとしたが、気がつけばあっという間に御祭神前に立っていた。
もしかしてと思ってもう一度キラキラ光る石に触れてみたが、ただの石の顔をして何も起こらなかった。
『また考えがまとまったらお出でなさい』
そう言っていたのを思い出し、仕方なく正殿から出て行くと、案内してくれた神官二人が少し離れた廊下で立っているのが見えた。
さすがに正殿のすぐ前にいるのは遠慮していたらしいが、「お父上」が出てこられたらすぐに案内できるようにと待機していたらしい。
「もうよろしいのですか?」
「はい、ありがとうございます」
と、トーヤは小さな声でぼそぼそと答える。
「あの、またお邪魔してもよろしいでしょうか」
「それはもちろん」
「ありがとうございます」
「お父上」はゆっくり丁寧に神官たちに向かって頭を下げた。
「お参りさせていただけて心が穏やかになりました。ご迷惑でしょうがまたこれからもお願いいたします」
「それはよろしゅうございました」
神官たちは笑顔になるとそう言った。
「次はいつ頃お迎えにあがればよろしいでしょう?」
「他にも神殿にお参りなさりたい方もいらっしゃるでしょうし、明日でも明後日でも、ゆっくりと一人にしていただける時間ならいつでも構いません。勝手を申しますが、どうぞよろしくお願いいたします」
神官二人は「お父上」の腰の低い丁寧な態度に感銘を受けたようだった。
「承知いたしました。できるだけごゆっくりお時間をお取りできる時にご案内いたします」
「ありがとうございます」
神殿から連絡をして客殿の客室係の侍女に迎えに来てもらい、「お父上」は自室へと戻っていった。
トーヤは侍女を見送ると、うっとおしいマントを取り、ソファに腰掛けた。
後は夕食の時間まで一人にしておいてほしいと要望してある、それまでゆっくりと考え事ができるだろう。
考えることはたくさんあった。聞きたいこともたくさんあった。
「とりあえず何が聞きたいかまとめて今度の機会に聞いてみることだな」
それから……
「俺が自分の意思でここに来て、そんでこんな厄介なことになってるって言ってたよな」
どう考えてもそんな覚えはない。
「まったく、冗談じゃねえぜ」
トーヤはぶつぶつと文句を言う。
「せっかく人があっちで気楽に好き勝手暮らしてたって言うのによ、こっち来る船に乗って嵐に遭ったばっかりにこんな理不尽な目にあってんだよ。それを俺の意思だあ? はあ? 勝手に言ってろっての」
そう言いながらもこうも思う。
「けどまあ、船に乗るって決めたのは俺だよな。そのこと言ってんのか?」
言われてみればその点だけはそうだなと思い直す。
もしも、あちらのミーヤが死んだ後も同じように変わらぬ生活をしていたとしたら、戦場で走り回っていたとしたら、こんな不思議な経験はしなかったのかも知れない。
「ってことはだ、まあそこだけは認めなきゃいけねえってことになるか……」
う~んと首を捻りながら考えることを続ける。
「そうとも言えるしそうではないとも言える、か……船に乗って『シャンタルの神域』に来るって決めたのは俺だ、そこはそうだって言えるってことになるか。んで、そうではないと言えるってのはどこのことだよ」
そうではない部分、トーヤがそうしようと思わなかった部分を探す。
「さすがに嵐で海に放り出される、ってのは俺の意思とは言わねえだろう。誰がそんなことになりたいって思うよ、なあ」
誰にともなく話しかける。
「いや、いたな。ディレンは俺に嵐の海に放り込まれて死にたいって思ったって言ってたな。でもまあ、あれは言ってみりゃヤケクソでそう思っただけのことで、結局はそうはならなかったしな。普通だったらそんなこと考えたりしねえだろう。俺もやっぱりそんなこと考えたことはねえ。ってことは、嵐で死にそうになってカースに流れ着いた、ここの部分はあいつの仕業なのか?」
なんとなくそう思う。
「助け手が現れるって託宣があったって言うぐらいだから、まあそこはそうなるか」
トーヤはとりあえず、この国に来てからのことを順番に考えていくことにした。
神殿に行ったことで思わぬ方向に道が開けた気がする。
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